幕間:あれからの日々(二)
<Side:フィリア>
アルトがリオス村を発ち、
およそ一年の月日が流れた頃、
フィリアたちはバルトに再び呼び出された。
「(あれ?…変だなぁ…
今日はお手伝いの日じゃないはずだけど…)」
フィリアたちは仕事という名目でパトライアス邸の手伝いをしているが、
それは毎日ではない。
しかしそれでも、フィリアたちは呼び出さなくても、
パトライアス邸を訪れる。
フィリアたちに何か用事があるのなら…その時に済ませればいい。
にもかかわらず、バルトはフィリアたちを呼び出した。
そのことに違和感を感じ、
怪訝そうにしつつも…
フィリアはパトライアス邸へと足を運んだ。
…
「悪いね、いきなり呼び出して。
二人に取り急ぎ話しておきたいことが出来てしまってね…」
バルトはそう前置くと、話を切り出す。
「アルトたちの方で何らかのアクシデントがあったみたいで…
学園行きが前倒しになったらしい。」
「「え!?」」
ゲオルギスから届いた手紙。
そこに記されていた情報をフィリアとディエスに共有するため…
バルトは急遽、二人を集めたのだ。
「ど、どういうことですか!?…
アクシデントって…アルは無事なんですか!?」
いきなり告げられた思いもよらない言葉に、
フィリアはバルトに慌てて詰め寄る。
しかし…
「すまないね。
今の段階では情報が不足していて…
詳しいことはこちらにもよくわからない。
手紙の文面的に…恐らく無事ではあるんだろうけどね。」
バルトにも手紙に記されている以上のことはわからず、
困ったような表情を浮かべる。
正確には…バルトはある程度の予測は立てれていたのだが、
不確かな推論で必要以上に心配させるべきではないと判断したため、
あえて口にしなかった。
「詳しいことはこれから調べるけれど、
アルの学園行きが前倒しになるとなれば、
二人の学園行きも早まることになるかもしれない。」
この時点ではまだその可能性があるというだけではあったものの、
バルトはなんとかアルトたち三人が揃って学園へ行けるように…と、
フィリアたちの学園行きも早めることも視野に入れていた。
「わ、私たちもですか!?…
で、でも…お仕事はまだ一年しかしてないのに…」
「仕事の方はもう構わないさ。
…言い出してるのはこっちだしね。
一年間、二人ともよく働いてくれたし、十分だよ。」
二年という期間は元々、アルトたちが十歳の年に揃って学園に行けるように…と、
バルトが設定しただけであって…そこに拘りがあるわけではない。
そのため、前倒しにしてしまっても大きな問題はないのだ。
…あくまでバルト個人としては。
「うーん…
俺は別にいいんだけど…
うちは母ちゃんがなんて言うか…」
いきなり予定を一年も前倒すともなれば、
学園に行く当事者である二人やその家族にとっては当然大きな問題である。
「もちろん、親御さんにはこちらから話を通しておくよ。
あくまで可能性の話だから…
今はまだすぐにどうこうするっていうわけじゃないけど、
とりあえず一応、心づもりだけしておいてほしい。
と、だけ伝えておきたかったんだ。」
二人はバルトの言葉に頷いた。
…
そして、およそ半年後。
「いやぁ…あんなでけえのが空を飛ぶなんて…
今でも信じられねえよ。
あんなの…初めて乗ったし。」
「あはは…私も乗ったのは初めてだよ。
リオス村にいた頃じゃ、
飛んでるのを見るのも滅多になかったもんね。」
結局、二人の学園行きは前倒されることになり、
フィリアたちの姿は学術都市にあった。
「でも、一週間はさすがに長かったなぁ…
走ったらもっと早かったんじゃねえか?」
「いや、そんなわけないからね!?
走るのとは比べ物にならないくらい飛空艇は速いんだよ!?
サザーランド王国からはかなり距離があるのに、
たった一週間で着いてるし、
人の足だと下手すれば年単位の時間がかかるよ!?」
「え!?
あれ、そんなに速かったのか!?
てか、ここ…そんなに遠いのか!?」
フィリアたちはサザーランド王国から飛空艇に乗り、
学術都市に来ていた。
その所要時間はおよそ一週間。
陸路で数ヶ月かけて学術都市まで来たアルトが聞けば、
驚いてひっくり返るほどの速度だ。
「え!?って…ギルバートさんが教えてくれたでしょ?
試験の勉強と一緒に。」
「…そうだっけ?」
「(…はあ。
この調子だと試験の方も怪しそう…
ここまで来て、試験に落ちました。ってなったら、
笑い事じゃ済まないよ…)」
フィリアはディエスの様子に頭を抱える。
この半年間、勉強嫌いのディエスも
試験の対策として、勉強することになったのだが…
読み書きなどの基礎を初め、
かなり詰め込むことになった結果、
その成果はあまり期待できなかった。
「(でもまあ、試験まではまだ数ヶ月は時間があるし…
私が教えれば…
いや、私も他人に教えれるほどじゃないけど…)」
フィリアは自己評価は高くなかったが、
この時既に、試験では問題なく高得点を取れるほどで…
十二分に他人に教えれる状況ではあった。
「(そうだ!…アルを探そう!…
きっと、アルなら上手く教えてくれる!…)」
フィリアは名案を思い付いたと思ったが…
「(でも、この都市のどこかにいるはずなんだけど…
こう広いと…見つけようがないよね…)」
さすがに、手がかりもなしに広大な学術都市内で一人の人物を探すのはかなり困難だった。
「(仕方ない…
こうなったら私が頑張るしか…
最悪、ディエスを引きずってでも勉強させよう…)」
「?…なんか、寒気が…」
フィリアの気合いを感じ取ったのか、
ディエスは悪寒を感じる。
「なに言ってるの?
夏なんだから寒いわけ…
むしろ、暑いくらいでしょ?」
「うーん?…そうなんだけど…
まあ、いいや。
それより…アルの父ちゃんはなんで早々に帰っちまったんだ?」
そう。
実は二人の引率として、
バルトは学術都市まで来ていた。
だが、バルトは学術都市に着き、
二人の宿泊する宿を手配すると、
早々に二人に別れを告げ、
乗ってきたのとは別の飛空艇に乗り込み、
とんぼ返りをしていた。
「一日ぐらいゆっくりしたらいいのによ…」
「きっとバルトさんも忙しいんだよ。
お手伝いに行ってた時も…
勉強を教えてもらってた時も…
あんまり会わなかったし。
そんな中でも私たちのためについて来てくれたんだよ。」
フィリアはバルトが何をしているかは知らずとも…
その多忙さは知っていた。
にもかかわらず、
バルトは片道一週間。
往復で二週間の旅路に同行してくれた。
「(バルトさんもアルに会いたかっただろうに…残念だなぁ。
私たちはアルとは学園に行ったらきっと会えるだろうけど…)」
それもひとえに二人のため…
いや、愛する息子のためだった。
「(アルに会ったら、話したいことがいっぱいあるなぁ…
アルだけに。…なんてね。)」
アルトとの再会の時が近づき、
フィリアは若干、浮かれ気味だった。
「?…フィリア、どうしたんだ?」
「ううん、なんでも。
それより…ディエス、試験まではみっちり勉強してもらうからね!」
「うぇ!?…なんでいきなりそうなんだよ!?
そもそも…合格率は高いらしいし、大丈夫だろ!?
勉強はもうこりごりだって!」
「だーめ!
合格率が高いとは言ったって、
確実に受かるわけじゃないし、
ここまで来て、試験に落ちたなんてなったら目も当てられないじゃん!」
「や!」
「め!」
出会った当初からすれば考えられないほどの言い合いをする二人の声が
学術都市内に響いていた。
投稿遅くなりすみません…
夏の暑さ故か、体調崩し気味でして…
予定より遅くはなりましたが、
今度こそ次回から新章です。




