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第一章 幼年期編:『魔導教典』さんの嘘つきいい!…

<Side:アルト>


翌日、アルトは昨日と同じように部屋に桶を持ってきてもらい、

魔法の練習をしていた。


「(なにが生まれ持った魔力量は変わらないだ…

大噓じゃねえか!…)」


そう。

昨日は五回で魔力切れを起こしていたが、

今日は五回使い終わっても、魔力切れを起こしていなかったのだ。


追加で五回。合計で十回【(ウォーター)】を唱えたところで、

ようやく魔力切れの症状が出てきた。


「(昨日は五回で、今日は十回…

これは…二倍になってるってこと?…

いや、まだわかんないな…そこは要検証か。だけど…)」


昨日はほんのり絶望したが、

明るい兆しの見えたアルトは不敵な笑みを浮かべていた。



アルトが初めて魔法を使った日から一週間近くが経過し、

あの日以降、魔法の検証を進め…わかったことが一つある。


それは、『魔導教典』に書いてあった「生まれ持った魔力量はほぼ変動しない。」

というのはほぼ確実に誤った説であるということだった。



まず一日目、アルトには水属性の初級魔法【(ウォーター)】はたったの五回しか使えなかった。


だが、それが二日目には二倍の十回、三日目にはさらに二倍の二十回となっていき…

使える回数はどんどん増えていた。


これほど使える回数が大きく変われば…

誰の目にも魔力量が変動しているのは明らかではあったのだが、

アルトにはある疑問が浮かんだ。


「(でも、流石に…

そんな根本的なところから間違ってるわけあるか?…)」


『魔導教典』は曲がりなりにも魔術の指南書として扱われる書物である。

にもかかわらず、そんなにも間違っているものか?…と。


あーでもない、こーでもないと、

思考を巡らせ…

最終的にアルトは…とある仮説を立てた。


それは…「成長段階では魔力を使うと魔力量は増大するが、

それ以降ではほとんど変動しなくなる。」というもの。


要するに、

よく言われる「幼児期などに運動をすると身長が伸びる。」などというのと同じように、

魔力量も増大するのではないかという仮説である。


「(うん…

この仮説ならあんまり矛盾がないな。

どこまで合ってるかはわかんないけど…

とりあえず、要検証か。)」


そして、仮説を立てたアルトは…

魔法の検証と共にその仮説の実証も並行して行うことにした。


その一環として、

四日目は意図的に回数を減らし、十回で打ち止めにすることにしてみた。

すると…五日目には五十回使えるようになっていた。


どうやら単なる倍々ゲームではなく、

使った回数分…消費した魔力の分、増加しているようで、

六日目…つまり昨日の時点で百回。

計算が正しければ、一週間経った今ではなんと二百回も使えるようになっていることになるのだ。


立てた仮説がどこまで合っているのかはわからないものの…

アルトの魔力量は魔法を使えば使うほど、メキメキ増えている。

これだけは揺らぎようのない事実だった。



魔力量が増えるのは別に悪いことでも何でもない。

むしろ、良いことだ。

だが、それはそれとして…問題があった。


「(うーん…このままだと、迷惑が掛かり過ぎるな…)」


魔法の練習に使っている桶は魔法を十回も唱えれば、だいたいいっぱいになる。

そうなれば、桶の水を捨てて、空の桶に替えてもらわなければならない。

昨日の時点ですら、何回も入れ替えてもらう羽目になっており…

これからもその回数が増えていくのは想像に難くなく、

このままだと使用人たちに負担がかかり過ぎるのだ。


「というわけで、違うことをしようかな…と思ったんだけど…」


とはいえ、アルトは魔法に夢中になっており…

アルトには魔法の検証を止めるという選択肢はなく、

あったのは以下の三つの選択肢だけだった。


・他の七大属性の初級魔法を練習する。


アルトとしても…

正直、やりたいところではあったのだが、

これは室内ではできないので、却下。


・水属性の中級魔法を練習する。


若干、信憑性の下がった『魔導教典』ではあるが、

この本には七大属性の各属性の初級~上級までの魔法について書いてある。


『魔導教典』によると、水属性の初級魔法【(ウォーター)】の消費魔力を一とした場合、

他の属性の初級魔法も同じように、消費魔力は一となる。

そして、中級魔法の消費魔力は十。初級魔法の十倍である。

つまり、初級魔法を十回分使える魔力があるなら、

中級魔法を一回分使える魔力があるということになる。


アルトは現時点で、数値に換算すると、

初級魔法二百回分…つまり、中級魔法二十回分相当の魔力はあることになる。

だが、他の属性の初級も終わっていないのに中級に行くのもなぁ…

という感じではあったため、これも却下。


・水属性の初級魔法の練度を上げる。


これも『魔導教典』に書いてあったことで、あまり一般的ではないらしいが、

魔法の練度が高い熟練の魔法使いは詠唱を短くする『詠唱省略』や

詠唱無しで魔法を発動する『無詠唱』なんて技術が扱えるらしい。


実のところ…アルトは『詠唱省略』にはほとんど成功していた。

何回も詠唱を繰り返しているうちに、途中で噛んでしまうことも時々あったが、

詠唱を半分近く飛ばしても、そのまま魔法を発動することができていた。


「(言語の件もそうだが…どういうことだ?…

詠唱ってなんなんだ?…)」


アルトは魔法を学び始めてまだたったの一週間。

熟練もくそもないはずなので、

『魔導教典』の信憑性は下がる一方である。

(…まあ、変な癖がついてない初心者の方が呑み込みが良いみたいなこともあるのかもしれないが。)


「…よし決めた!

『詠唱省略』もほとんど出来てたし、

その先の『無詠唱』ってやつを練習してみようかな!」


事実上、一択ではあったものの、

アルトは三つ目の選択肢…

水属性の初級魔法の練度を上げる。という方向に舵を切った。


『無詠唱』とは…その名の通り、詠唱を行わず魔法を発動する高等技術である。

詠唱を行わないということ。

それはつまり、詠唱によって行われていた魔法発動のプロセスを全て自力で行うことを意味する。


当然、アルトは知る由もないが、

プロセスを一部簡略化するだけの『詠唱省略』とは比較にならないほど、

『無詠唱』というのは難易度の高い技術である。


「ええと…こういう感じかな…」


アルトは魔法を発動する際の感覚を再現していく。

もう何十回・何百回と繰り返した魔法であり、

その感覚は身体が覚えている。


だが…


「…?…あれ?…

なんか留まってる?

…なんでだ?」


本来ならそのまま流れていくはずの水は…

なぜか手元にそのまま留まり続けており、

どんどんと膨らんでいた。


「???

どういうことだ?

とりあえず…ってあれ?

これ…どうやって止めるんだ?」


これまで魔法を使っていた時は勝手に止まっていたため、

アルトは止め方を理解しておらず、

思わず思考停止する。


だが、それが良くなかった。


水球はその間にもどんどんアルトの魔力を吸い、

大きくなっていた。


「…どうしよどうしよ!?

これはヤバ…がばっ…」


抵抗もむなしくアルトは水に飲み込まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:ギルバート>


メイドのニナが執務室に駆け込んできた時、

ギルバートは書類仕事をしていた。


書類仕事はそこまで得意ではないギルバートであったが、

使用人たちを統括する立場上、

やらなくてはならない仕事というのも多々あった。


「何事なのだ?…まったく騒々し…」


少し呆れた様子で何事かとニナに問おうとする

ギルバートであったが…


「ギ、ギル…バー…ア…が…お、おぼ…」


気が動転しているのか、ニナはうまく言葉にできておらず、

何が言いたいのかさっぱり伝わらない。


「落ち着きなさい。いったいなに…」


ギルバートはニナを諫めようとするが…

それを遮ってニナが続ける。


「落ち着いている場合じゃないんですよ!!

ア、アルト様が!…へ、部屋で!」


「はぁ…部屋で…なんです?」


ギルバートは軽く頭を抱えた。

本来なら執事長という立場である以上、

ギルバートはニナの上司に当たる。


上司の言葉を遮るのはあまり褒められた行動ではないのだが、

そんなことを言っていても話は進まない。


その件は一旦、置いておいて、

ギルバートは続きを話すように促した。


「お、溺れています!」


ニナが言い終わるよりも早く…一陣の風が吹き抜けた。


「は、はや…」


ギルバートは既に執務室を飛び出していた。



屋敷内を風が吹き抜ける。


「お前たち!どきなさい!!」


ギルバートがアルトの部屋の前にたどり着いた時、

物音を聞いた使用人たちが集まって、人だかりができていた。


執事長であるギルバートの登場に、一瞬にして人だかりが割れる。

まるでかの有名なモーセの海割りのように。


そのままの勢いでアルトの部屋に突入したギルバート。

その目に飛び込んできたのはアルトが巨大な水の塊に取り込まれ、

もがいている光景であった。


「誰か状況の説明を!」


ギルバートは使用人たちに問うも、誰もわからないと首を横に振る。


「(進捗はわからないが、アルト様はここ数日、魔術の修練をされていた…

状況から判断するに、魔術が暴走しているのだろう。

しかし、これほどの規模になるものか!?…

まだ学び始めて一週間やそこらの子供の魔術だぞ!?…)」


ここ数日のアルトの行動を思い返し、

何が起こったのかギルバートは推測する。


「(いや、悩んでいる暇はない!…)」


せいぜい初級魔術が使えるかどうか程度のはずだ。

こんな馬鹿げた規模になるわけがない。

そうは思いつつも、実際にこうなっている現状を前に

一旦、思考を放棄したギルバートはアルトの救出へと舵を切る。


「剣を持ってきておきなさい!」


ギルバートは使用人たちに剣を持ってくるように指示を出しつつ、

自らは水球に手刀を振り下ろした。


ギルバートの手刀は驚くことに、

水球を切り裂いた。

だが…


「(…やはり…ダメか…)」


水球はあっという間に元の形に戻ってしまった。


「(硬くはない…

切り裂くこと自体は容易にできる…)」


その間にも水の塊は膨張を続けており、

部屋の天井や壁を突き破っていた。


「ギルバート様!!剣を!」


使用人たちによって、剣が届けられる。


しかし、剣は届いたものの、依然として状況は厳しい。


切ったところですぐに元に戻ってしまうのだ。


「(魔術の核を壊せば、魔術は崩れる…

だが、今回の場合それはアルト様だ。傷つけるわけにはいかない…)」


魔術を使える者自体はこの場にも何人かはいる。

だが、練度の低い魔術では剣と同様にアルトを傷つけてしまう恐れがある。


高位の魔術士がいれば…。


この場に…テレーゼさえいれば、話は別だったが、

奇しくも不在であった。


正直なところ、手詰まりに近い。


「(近くのギルドか騎士団に…いや、ダメだ。到底間に合わない。

アルト様には申し訳ないが…多少の怪我はやむを得…)」


ギルバートが剣を抜きかけた

その時、その女は現れた。


「「「!!!!」」」


使用人たちの間に戦慄が奔る。

その女は音もなく現れた。

一体どこから現れたのか。

その瞬間まで誰もその女の存在に気が付いていなかった。


「…魔術が暴走している…可哀そうに…苦しいでしょう…」


そう言いながら、女は今もなお

膨張を続けている水の塊に触れた。


水球は一瞬にして崩れた。

制御を失った水が雨のように降り注ぐ。

壁に開いた穴などからもどんどん水が流れていく。


だが、残されたアルトは意識がなく、

そのまま床へ倒れこんでいく。


「おっと。危ない。」


それを女は受け止めた。


その女の髪は水に濡れ、陽の光を浴び、

より美しく銀色に輝いていた。


「…アルト様を救出してくれたことには感謝する。だが…貴様は何者だ。」


ギルバートが険しい顔つきで誰何する。


「少々お待ちを。

念のため、治癒魔術などをかけますので。」


それを意に介した様子もなく、

女はアルトに魔術をかける。


「…」


その間も、ギルバートは女に睨みを利かせていた。



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