第四章 少年期・学園入学編:意外と似た者同士な二人
<Side:セグムント>
アルトたちに試験結果を伝えたセグムントたちは
一旦、部屋を後にした。
「…本当に合格で良かったんですか?」
シーラはセグムントに問いかける。
「何が言いたい?」
「あの子たちにはさすがに早いんじゃないか…って。
それに…わざわざ試験までしたのに…」
試験を課すと決めたのも、
試験官を務めたのも、
この冒険者ギルドのギルド長であるセグムントであり、
その成否はセグムント個人の判断に委ねられている。
だが、シーラは未だにアルトたちの登録に難色を示していた。
「まあ…元々、無いような試験だしな。
だが、そこまで大きな問題はないと思うぞ?」
「…そう…ですか…
ギルド長がそう判断したのなら、
間違いないとは思いますが…」
しかし、この件に関して、
シーラはなんの決定権も持っていない。
決定権を握るのは…
ギルド長であるセグムントただ一人。
それ故にシーラは苦い表情を浮かべつつも、引き下がろうとする。
だが、続くセグムントの言葉でその表情は一変する。
「俺が言えた義理じゃねえが…さすがに子供だからって甘く見過ぎだぞ?
あんな実力のやつらの登録を拒否してちゃ、
ここの冒険者のほとんどが登録できなくなるっての。」
「…!?」
シーラは治療の際に、
セグムントから伝聞する形で、
試験の大まかなあらましに関しては聞いていたものの、
その詳細までは把握していなかった。
アルトたちはセグムントに敗北したとはいえ…
セグムントは元銀級の冒険者。
そんなセグムントにそこまで言わせるアルトたちの実力。
それを耳にしたシーラの表情は驚愕の色に染まる。
「少なく見積もっても翠…いや、蒼くらいの力量はあると思うぜ?」
アルトたちはこれから登録するのでランクは当然、一番下の白。
だが、セグムントの見立てでは…
それよりも少なくとも二~三ランクは上の実力を持っているというのだ。
「それほどですか!?…
あんなに可愛らし…ゲフンゲフン…
たしかに子供だと思っていた節もありますが…見かけによらないものですね。」
「ま、そういうこった。
だが、嬢ちゃんは人の話聞かねえし…
坊主は性格悪いしで、
精神的にはちょっと未熟なんだがな。」
アルトたちの実力こそ評価しつつも、
セグムントは試験を通し、その欠点がいくつか見えていた。
だが…
「グレアちゃんは話聞いてくれますし、
アルト君は性格悪くないですよ?
接し方が悪いんじゃないですか?」
シーラと接していた時には二人ともそんな素振りは見せておらず、
セグムントの接し方が悪いのだと、
シーラはバッサリと切り捨てる。
「というか、こんなふうに陰口叩いてるギルド長の方が
よっぽど精神的に未熟なんじゃないですか?」
「言葉の火力高過ぎねえか!?
しまいにゃ泣くぞ!?」
…
<Side:アルト>
「くうぅ…あの男、何度思い返しても腹が立つわ!
なにが『お嬢ちゃんは…もうちょっと人の話を聞いた方が…良いかも。』よ!」
グレアが早く帰りたいのだと誤解したままの
セグムントとシーラによって、
あれよあれよという間に冒険者登録は終わった。
だが、その頃にはすっかり日は傾いており、
今日のところは一旦、宿に帰ることになったのだが…その帰り道。
グレアは思い出したかのように怒りがこみあげていた。
「あはは…グレアはいつも話聞かな…」
思わず口にしかけたアルトをグレアはギロリと睨みつける。
「…そもそも大した意味ないのに、
なんでわざわざ試験なんてやったのよって話じゃない!」
都合が悪くなったのかグレアは話を逸らす。
「…意味がないかどうかはともかくとして、
シーラさん曰く、ただ心配してくれてただけらしいよ?
良くも悪くも冒険者って自己責任なとこが多いからね。」
冒険者は自由だ。
ただし、自由には責任が伴う。
時に、命などの重い代価を以て支払うことになるほどの…
たかだか八歳の子供が背負うには、あまりにも酷な責任が。
シーラたちはそういったことも危惧し、
あのような行動に出たのだが…
「…余計なお世話よ。
大して知りもしない相手に心配される筋合いはないわ。」
グレアにはその想いはまったく届いておらず、そう吐き捨てる。
「たしかにそうかもしれないけどさぁ…」
相変わらずな傍若無人さにアルトは若干呆れつつも…
その表情には喜色が混じる。
「(試験の時のこと…
あんまり引きずってないみたいで良かった…
結果聞くまでかなり気にしてたし…)」
自分自身もかなり気にしていたことは棚に上げ、
アルトはグレアがいつも通りの快活さを取り戻していることに、
正直なところ…ほっとしていた。
アルトがそんなことを考えていると…
グレアはピタリと足を止める。
「アルト。」
「な、なに?…」
いきなり自身の方へと向き直ったグレアに戸惑いつつも、
アルトは返事をする。
「私…強くなるわ。
もう二度と誰にも負けないくらい…
アルトにも負けないくらい。」
強い眼差しで…グレアはそう宣言した。
「(…!
グレアはやっぱり凄い。
常に前に進むことを考えて…後悔してばっかで後ろ向きなどっかの誰かとは違うな。)」
アルトにはグレアのその姿勢はとても眩しく見え…自嘲気な笑みを浮かべる。
「(てか、俺に負けないくらいって言ってたけど、
元々、負け越してるんだけどな…)」
学術都市までの旅の道中や学術都市に到着してからも、
二人はしばしば剣術の手合わせをしているのだが…
その勝負ではアルトは以前から変わらず負け越している。
しかも、グレアは根っからの負けず嫌いだ。
今日の敗北を糧に…もっと強くなるであろう。
「(…負けたくないな。)」
二人の性格は全然違う。
だが、アルトも大概、負けず嫌いで…意外と似た者同士なのだ。
でなければ、とっくの前に手合わせをしなくなっているであろうし、
なんなら、グレアと出会ってすらいないだろう。
「僕も強くなるよ。
誰にも…グレアにも負けないくらい。」
アルトはグレアを真っ直ぐに見つめ返し、
そう宣言した。
「!…ふふ。
良い度胸ね。
なら、私はさらにそれより強くなるわ!」
「じゃあ、僕はさらにそれより強くなるよ。」
「真似しないで!」
「グレアこそ!」
イタチごっこのような言い合いを続け、
二人はじっと睨み合い…
「「ぷっ…あはは…」」
堪えきれずに噴き出した。
二人の笑い声は静かな街に響いており…
その後には夕日に当てられた二人の影だけが伸びていた。




