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第四章 少年期・学園入学編:屁理屈でも理屈は理屈

<Side:アルト>


「ごほん…気を取り直して…」


セグムントは再び襟を正す。

(なお、魔術塗料はそう簡単に落ちないので、

顔は未だに落書きまみれのままである。)


そして…


「試験の話だな。

まずは…すまなかった。

さすがに最後の方はやり過ぎだったと

自分でも思うが…

あの時はついやっちまってな。」


セグムントはアルトとグレアの二人に向かい、

謝罪を口にする。


「いえ…

僕の方もついムキになってしまいましたし…

そこはお互い様です。」


アルトは端から相手に手加減など期待していなかった。


むしろ、謝罪を口にされたことで、

自分は手加減すべき相手だと思われているという事実と、

そう思われている自身の不甲斐なさを実感し、

アルトは暗い表情で唇を噛む。


「そうか?

まあ、なんにせよ悪かったよ。

それで、試験の結果の話なんだが…」


セグムントはアルトの表情の変化には気づかず、

試験の結果について話をしようとする。


しかし…


「もういいわよ!

結果なんてどうせわかってるんだし、聞きたくない!

アルト!…帰るわよ!」


涙目になりながら、

グレアはアルトの腕を引き、そう叫ぶ。


「グ、グレア…?」


グレアとアルトは知り合ってまだ一年と少し。

だが、共に過ごした時間は短くとも、

その密度は高く、

他の誰も気づかなくとも、

グレアは…グレアだけはアルトの表情の細かな変化にも気づいていた。


先の試験でグレア自身もプライドをへし折られ、

傷ついてはいたものの、

それ以上に沈んだ表情のアルトが見ていられなかったのだ。


「おいおい…待てよ嬢ちゃん。

どうしたんだいきなり?

もしかして、なんか気に障ることでも言ったか?

だったらすまねえが…」


「そうよ、グレアちゃん。

ギルド長はちょくちょく気に障ることを言うかもしれないけれど、

悪気があるわけじゃないから…」


セグムントたちからすると、

グレアがいきなり帰ると言い出したようにしか見えておらず、

二人は慌てて制止する。


「そ、そうだよ…

いきなりどうしたの?…」


アルトもグレアのいきなりの行動に驚いたような表情で、

意図を測ろうとする。

その行動がまさか自分に起因しているともつゆ知らず。


「…」


アルトの問いにグレアは押し黙り…


「な、なんでもないわよ!」


本当のことを言うのが気恥ずかしかったのか、

グレアは慌てて誤魔化した。


「なんでもなくはないと思うんだけど…?」


グレアの不審な様子にアルトは首を傾げ…

その顔を覗き込む。


「…なんで目を逸らすのさ?」


だが、グレアは目が合った瞬間、

プイと視線を逸らしてしまう。


「…まあ、なんだ。

嬢ちゃんにも言いたくねえこともあるかもしれねえし、

そんな無理に聞き出さなくてもいいんじゃねえか?

それより…だ。

嬢ちゃんも早く帰りてえみてえだし、

試験の話をとっとと済ませちまおう。」


セグムントはグレアに助け舟を出そうとする。

だが、さすがにグレアの行動の意図まで理解しているはずもなく…


「だから…それはもういいって言ってるじゃない!

言われなくてもわかってるわよ!…不合格なのくらい!」


その言葉を耳にしたグレアは再び叫ぶ。


「(あー…グレアって無駄なこと嫌いだもんなぁ…

いきなり帰るって言いだして何かと思ったけど、

わかりきった結果をわざわざ聞くなんて、

時間の無駄だって言いたいのね。)」


実際のところ、それも間違ってはいないのだが…

若干、ズレた方向の結論へとアルトは着地する。


アルトがこれ以上の口論になる前に二人を仲裁しようとしかけた…その時。


「ん?…不合格なんて誰がいつ言ったんだ?…

試験は合格だぞ?」


セグムントは首を傾げながら、

事も無げにそう言った。


「「え?」」


アルトとグレアは揃って、間の抜けた声を出す。


呆気に取られる二人を置いて、

セグムントはさらに続ける。


「そもそも、俺は試験の合格条件を言いはしたが…

別に負けたら不合格とは一言も言ってないはずだぞ?」


ただの屁理屈のようではあるが…

セグムントが口にしたのは合格条件と終了条件だけで、

たしかに不合格条件は一切口にしていなかった。


「…そもそも、合格条件なんて言ってたかしら?

聞き覚えないわよ。」


「それはグレアがちゃんと聞かずに飛びかかったからじゃ…

でも、不合格の条件はたしかに言ってなかったような…言ってたような…」


試験開始前のことを思い出すかのように、

二人はヒソヒソと小声で話す。


「つうか…そもそも、普段は登録に試験なんてないしな。」


「は!?」


「あら…?

言っちゃうんですか?」


セグムントの告げた真実にグレアは素っ頓狂な声を上げる。


「あ、やっぱりそうですよね?…

知り合いの冒険者から聞いていた話と違ったので、

変だなぁ…とは思ってたんですけど…」


「ど、どど…どういうことよ!?

というか…アルトは気づいてたの!?

ならもっと早く言いなさいよ!?」


自分とは違い、

かなりあっさりとした反応のアルトに、

グレアは詰め寄る。


「あ、いや…他人から聞いた話だし、

聞いていた情報が間違ってる可能性もあったから、

言わなかっただけで…

騙してたとか隠してたとかじゃないから…

だから、そんなに詰め寄らないで!?」


「…いいや、許さないわよ!?

おかげで恥ずかしい思いをしたじゃない!」


顔を真っ赤にしたグレアは

アルトの肩を掴み、激しく揺さぶる。


「ぎゃあ!?

そんなにぶんぶん振らないで!?

首が取れる!?」


「そんな簡単に取れるわけないでしょ!?

第一、取れたところでアンタなら魔術で治せるでしょ!?」


「ただの比喩だし、無理だからね!?

(…まあ、試したことないからわかんないけど。)」


半ば冗談ではあったが、

グレアはアルトならそれくらい出来るだろうと過信している節がある。


口では無理と言いつつも、

アルトも実際にやったことなんてないので、

もしかしたら出来るかも?…なんて、内心では考えていた。


(そもそも首が取れるなんて経験があってたまるかという話ではある。)


「元気だなぁ…」


そんな二人の様子を眺めていたセグムントは呟く。


「…ギルド長、なんかじじ臭いですよ。」


「じじ臭い!?

俺はまだそんな年じゃねえよ!?

だいたい、シーラも俺と年そんな変わんな…ヒッ!?」


シーラの口撃にセグムントは思わず口にしかけ…

たまらず悲鳴を上げる。


「なにか…言いましたか?…」


口調こそ普段とは変わらないものの…

そこには般若がいた。


「いえ、なにも。」


セグムントは慌ててなかったことにし、目を逸らす。


「うふ…うふふ…うふふふ…」


「怖えよ!?」


シーラは笑い声をあげるが…

その顔は全く笑っていなかった。


だが、さっきまでの重く暗い雰囲気がまるで嘘かと思うほどに…

部屋の中は騒々しくなっていた。

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