第四章 少年期・学園入学編:知らない天井だぁ…(様式美)
なかなか更新できず、
久々の更新になりすみません…
<Side:アルト>
「んん…はっ!?」
アルトは跳ねるように飛び起きる。
そして、目にしたのは見知らぬ白い天井。
「知らない天井だ…って言ってる場合か!」
つい、条件反射的に口から零れた言葉に自身でツッコミを入れながら、
アルトは周囲を見渡す。
「(ここ…どこだ…?
てか…試験はどうなったんだ…?)」
アルトは意識を失う直前のことを思い返してはみたものの、
この場所で目覚めるまでの意識を失っていた間の記憶は当然…あるわけもない。
「(グレアもいないし…って…
まさか…グレアに何かあったんじゃ…!)」
アルトの思考は時を経るごとに加速度的に、
どんどんと悪い方へと傾いていく。
アルトが今にも部屋から飛び出しそうになっていた…その時。
ガチャリ。
部屋の扉が開いた。
「あら?…もう目が覚めてたのね。」
現れたのは冒険者ギルドの職員であるシーラ。
「ええと、シーラさん…ここは…?
それにグレアは…?」
まだ今日知り合ったばかりとは言え、
見知った人物が現れたことで、
アルトも多少は落ち着きを取り戻したのか、
シーラにそう尋ねる。
「ここはギルドの中にある仮眠室の一つよ。
それと…グレアちゃんなら隣の仮眠室で横になってるわ。」
アルトの問いにシーラはそう答える。
「そうですか…」
シーラの言葉にアルトはほっと息をつく。
だが、それでもそわそわと…
どこか落ち着かなそうに視線を散らしていた。
そんなアルトの様子を見たシーラはくすくすと笑う。
「ふふ…そんなにグレアちゃんのことが心配?」
「…そんなふうに見えますか?」
シーラの言葉に揶揄われていると感じたのか、
アルトはムッとした表情を浮かべ、聞き返す。
「あ…いや、別に揶揄ってるとかそういうのじゃないのよ?
ただ、そんなにグレアちゃんのこと思ってるんだなぁ…って、
ちょっと微笑ましくなっただけで…」
アルトの表情を見て、慌ててシーラは言い直す。
「ああ…すみません。
でも…そうですね。
しばらくずっと一緒にいましたし、
いないと違和感があるかもしれません。」
「姉弟仲が良いのね…
って…あら?
たしか、アルト君が二月生まれでグレアちゃんが八月生まれだったわよね?
なのに同い年で姉弟…しかも髪や瞳の色も…」
アルトとグレアのやり取りなどから、
シーラは二人が姉弟だと勘違いしていた。
だが、途中で妙な点に気づき、
もしや、いらぬことに口を挟んでしまったのでは…と、
シーラは顔を曇らせる。
「え?
あ、ええと…そもそも前提が違ってて…
僕とグレアは兄妹じゃないですよ?」
アルトは慌てて否定する。
「あら?違うの?
なら…二人はどういう関係なの?」
姉弟でないとなれば、
当然、シーラにとっては二人の関係性が謎になる。
「(どういう関係…難しいな…
今は家庭教師でもないし…
友達…ではあるけど、ただの友達でもないし…)」
アルトは改めて考えてみたものの、
関係を形容する丁度いい言葉が見つからなかった。
「うーん…兄妹じゃないとは言いましたけど、
ある意味、家族みたいなもんですかね…」
「ご、ごめんなさいね。
言いづらいことを聞いたみたいで…」
アルトが言い淀んだこともあり、
二人に複雑な事情があるのだと察したシーラはそれ以上、深くは詮索しなかった。
「…」
「…」
絶妙に気まずい沈黙が部屋を包む。
「…グレアは隣の部屋でしたよね?」
「!…ええ!」
沈黙を破ったのはアルト。
シーラも気まずい空気に耐えられなくなったのか、
アルトの確認に食い気味に答える。
「行ってきても…」
「もちろん、構わないわ。
アルト君も起きたし、私も…
って、あら?」
シーラはそう言いつつ、
部屋から出ようとし…
扉の前に立っている人物に気づいた。
「ん?…あ、グレア!」
「アルト…」
その人物…グレアは部屋の中にいたアルトと目が合うなり…
「ごめん…負けぢゃったぁぁ…」
ポロポロと涙を流し始めた。
…
「どう?
ちょっとは落ち着いた?」
泣きじゃくるままでは話もままならず、
アルトはしばらくグレアを宥め続けていた。
「うん…ひぐっ…
でも、ごめん…私のせいで…
ぐすっ…試験ダメだった…」
グレアは未だ若干の嗚咽が混じりつつも、
謝罪を口にする。
「(ああ、なるほど。
あのグレアが珍しく泣き出したから何事かと思ったけど、
よっぽど悔しかったんだな…)」
涙が出るほど悔しさを噛みしめる。
それはそれだけ…本気で勝利を勝ち取ろうと、取り組んでいたことの証。
だが、アルトはそうではない。
負けたこと自体は悔しくはありつつも、
涙を流すほどではなかった。
「(負けたのが誰のせいかって言えば、俺のせいだ…
勝ちを確信して油断したこと。
相手の実力を読み違えたこと。
自分のこだわりで魔術を目眩まし以外に使わなかったこと。
他にも色々あるが、総じて言えるのが…俺はたかが試験って甘く見てた。
それが一番の原因だ。)」
アルトは今回の敗因をそう結論付け…
ゴッ。
自身の頬を殴りつけた。
「!?
何やってるのよ!?」
グレアからすれば、
何の脈絡もなく、
いきなり自分を殴りつけたようにしか見えず、驚愕する。
「(何がたかが試験だ…
もう二度と後悔しないために全力で生きるんじゃなかったのか!
なのに手を抜いて…挙句の果てにグレアを泣かせて…
何がしたいんだよ…!)」
しかし、そうは言いつつも、
アルトとて別に手を抜いていたわけではない。
策を練ったり…
己に課した縛りの抜け道を講じたり…と、
その縛りの中では最大限…紛うことなき全力ではあったのだが…
「悪いのは俺だよ…
グレアは悪くない。」
「アルトが悪いわけないじゃない!
私が一度倒されてもアルトは耐えててくれた!
同じように私が耐えなきゃいけなかったの!」
「いや、俺が…」
「いや、私が…」
お互いが自分の方が悪い。
そう言いあっていると…
「んー…誰が悪いかって言うなら…大人げなく子供たちを打ちのめした
どこかの誰かさんじゃないかしら?」
「「!」」
そう口にしたのは…シーラ。
そして、その後ろにはもう一人。
「それはその通りだし間違ってないけど、
そう言われると、どうもすみませんとしか言えないだろ!」
シーラの遠回しな誹りに、
ギルド長である男…セグムントは苦い表情をしながら、言い返す。
シーラはグレアがこの部屋を訪れた時点で入れ替わるように、
セグムントを呼びに行っていた。
「自覚があるなら、反省してくださいねー…
それより、ギルド長お願いします。」
「…ああ。
ごほん、試験の話だが…」
セグムントが襟を正し、
話し始めようとしたその時…
「ぶっ!?」
アルトはいきなり噴き出した。
「おいおい坊主…さすがに失礼だぞ?
人の顔を見て噴き出すなよ…」
目が合った瞬間、噴き出したアルトをセグムントは諫める。
「いや、真面目な雰囲気でそれは笑うなっていう方が無茶でしょう!?」
だが、普段は丁寧なアルトらしからず、
逆ギレ気味にそう言い返す。
「アルト?…一体、何が…
ぷっ…!?」
そんなアルトの視線の先を追って…
それを目にしたグレアも笑いを堪えられず噴き出した。
「?…ちょっと待て。」
セグムントは二人の様子に違和感を覚え…
そして、側で小刻みに震えている部下の姿に気づいた。
「シーラお前、何をニヤニヤして…」
「…ふっ…ふふっ…」
シーラは笑いを堪えながら、
セグムントにあるものを手渡す。
「?…手鏡か?
これがなん…」
手渡されたのは手鏡。
しかし、セグムントはそんなものを渡された意味がわからず、
クルクルと回し…
そこに映った自分の顔を見て、
何かに気づいた。
「おい…なんか書いて…『私は…加減知らずの…バカです』だって!?
しかも、ご丁寧に妙な落書きまで!」
セグムントの顔はまるで正月の羽根つきで負けたかの如く、
落書きで埋め尽くされていた。
「おい、シーラてめえ!
いつの間にこんな…」
「ふふ、さっき治癒魔術をかけてた時にちょちょいと。」
セグムントは試験中、特に傷らしい傷は負っていなかったが、
アルトの『閃光弾』をもろに食らったこともあり、
試験終了後、念のため治癒魔術を扱えるシーラから治療を受けていた。
(ちなみに、気を失っていたアルトとグレアを治療したのもシーラである。)
ただ、治療をするだけで終わるはずだったのだが、
試験の顛末を聞いたシーラは呆れ…
ちょっとした罰をセグムントに与えることにしたのだ。
「くそ…き、消えねえ!?」
セグムントはなんとか擦って消そうとするが…一向に消えない。
「…ってこれ…魔術塗料じゃねえか!?」
セグムントの顔の落書きに用いられたのは、『魔術塗料』と呼ばれる魔力を含む特殊な塗料。
それは本来、詠唱とは異なる方法の魔術…刻印による魔術発動に用いられるもの。
そして、この塗料は塗料に含まれる魔力の影響か、
一度、肌や衣類などにつくと中々落ちない。
さながら油性のマジックの如く。
「あれ高えんだぞ!?
こんなしょうもない悪戯に使うなよ!?」
「それくらい知ってますよ。
このギルドの経理は私が担当してるんですから。
ですが、使用頻度もそこまで高くないものですからね…
使用期限切れ間近のものがあったんですよ。」
シーラはセグムントの言葉に悪びれもせず、
ムッとした顔で堂々と言い返す。
塗料に含まれる魔力は術士の放出した魔力ほどの速度ではないものの、
似たように少しづつ霧散してしまい、
その効能は薄れていく。
それゆえに、魔術塗料にはある程度の使用期限が存在する。
「なるほど、なら良いか…
って、いや別に良くないが!?
一応、備品だぞ!?」
一瞬、納得しつつも、
セグムントは思い直す。
「(…ツッコむとこそこなのか?)」
普通は落書きの方に怒るだろうに、
値段の話だったり、備品の話だったりで…
セグムントの怒りのポイントは微妙にズレていた。
「安心してください。
ちゃんと買い取って使いましたよ。」
「まあ、なら…
いや良くはないんだけどね。
良くはないんだけど…
まあいいか。それより…」
セグムントは溜飲が下がったのか、
そろそろ話の本筋に戻ろうとする。
だが…
「…ギルドマスターの名義で。」
「おぃぃぃ!?
何やってんの!?
てか、普通に犯罪じゃねえか!?」
シーラの言葉がさすがに聞き捨てならず、
セグムントはたまらず叫ぶ。
「ふふ…バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。」
「いや、バレてんだよ!?
今、自白してただろ!?」
どこかの宇宙人のようなことを言うシーラに
セグムントは思わずツッコむ。
「まあ、冗談です。
…一部を除き。」
「どこを除いたの!?
むしろ、どれかマジなの!?
え?…無視?…
シーラ!?…シーラさん!?」
シーラはスンとした顔でスルーし、
セグムントの悲鳴のような叫びだけがギルド内に木霊していた。




