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第四章 少年期・学園入学編:冒険者登録試験

<Side:アルト>


冒険者ギルド学術都市支部の裏手。

そこには演習場のような広いスペースがあった。


「はあ…でも、良かった。」


アルトは息をつく。


「何が良いのよ?

まだ登録は出来てないじゃない。」


グレアが言うことも尤もだ。

試験を受けることになっただけで、

まだ登録には至っていない。


「ああ、いや…

最悪、冒険者登録しないで魔物を討伐しに行くかとか考えてたからね…

まだ登録できる可能性があって良かったってだけだよ。」


「あ、そっか…

言われてみれば、別に冒険者登録しなくても、

魔物とは戦えるものね。

…あれ?じゃあ、なんで登録しようとしてるのよ?」


「討伐した魔物の素材を買い取ってくれたり、

討伐依頼とかなら報酬も出るからね。

僕としても、無意味で無目的な殺生はしたくないし、

登録した方がメリット多いから、登録したかったんだよ。」


アルトは別にグレアと冒険者になることを想定していたわけではないのだが、

師であるステラのようにいつか冒険者になる可能性もあるかも、と

三ヶ月の旅の間にキャラバンの護衛の冒険者たちから情報を集めていた。

それが思いがけず活きる形となったのだ。


「へえ…そういうことだったのね。

にしても…アルトって意外と色々考えてるのね。」


「むぅ、意外と…ってなにさ?」


まるで何も考えてないと思われているなんて心外だ。

そう言わんばかりにアルトはむくれる。


「普段、あんまりそういうの感じられないじゃない?

でも、会話のところどころでは知性は感じてたし、

アルトって実は、頭は良いわよね。」


「そんな…えへへ…止めてよ。

褒めてもなにも出ないよ?」


そうは言いつつも、褒められ嬉しそうにするアルト。

だが、途中であることに気づいた。


「…ん?『頭は』?」


「性格は悪い…いや、別にそうでもないわね。

この場合は狡賢い?

というより、悪知恵が働くという感じかしら?

今の話でも抜け道にも気づいていたし、

人をからかう時も無駄に知恵が回るし。」


「うっ…中々にひどい言い草だけど、

あんまり否定できないのが辛いところだよ…」


ひどい言い草ではあるものの、

間違ってもいないので、

アルトは強くは否定できなかった。


「そう思うなら、直しなさいよね…

にしても、遅いわね?

試験とやらはまだなのかしら…?」


「(あ、そうだ…試験…

でも…聞いた限りでは冒険者登録に試験なんてなかったはずなんだけどなぁ…?

俺が聞き洩らしただけか…?)」


アルトが首を傾げていると…


「いやあ、すまんすまん。

遅くなった。」


ギルドマスターの男は大きな箱を抱え、現れた。


「ええと…その箱は?」


「ん?ああ、これか?

いやな…試験をするとは言ったものの、

何を使うか聞いてなかったもんでな…

適当に持って来たんだよ。」


男の言葉通り、

その箱の中には模擬戦用の多種多様な武器が入っていた。


「試験は…模擬戦。

相手は…俺。

お前ら二人ともが戦闘不能…

もしくはギブアップを宣言した時点で試験は終了。

それまでに俺に一撃でも入れられたら、合格だ。

…ってうぉ!?」


男が試験内容を開示したその瞬間、グレアは躍りかかった。


「わかりやすくていいわね!

そういうのの方が私は好きよ!」


「おいおい、いきなりか…

まあいい。

坊主も好きな得物でかかってきな。」


グレアの振るう拳を捌きながら、

男はアルトに話しかける。


「ええ?…二対一になりますけど…」


「ガキンチョ相手だ。

別に構わんさ。」


「余裕ぶってんじゃ…ないわよ!」


グレアの攻撃は激しさを増す。

だが、男にはまるで届いていない。


「(!…あの人…強い。

グレアを子供扱い…っていや、まだ子供か。

ともかく、あのグレアを全く歯牙にもかけてないなんて…)」


グレアは無意識でも闘気を纏い始めている。

純粋な剣技では天神流中級相当の認可ではあるものの、

その戦力は上級剣士にも匹敵している。


にもかかわらず、男はこともなげに捌いていた。


冒険者ギルドのギルドマスターは全員がそうというわけではないが、

引退した元冒険者が務めていることも多く、

この学術都市の冒険者ギルドもその例に洩れない。


男の引退前の冒険者としての等級は…銀級。


引退したとはいえ、

その実力は伊達ではなかった。


「グレア!」


アルトはグレアに模擬戦用の剣を投げ渡す。


「相手は…強い!

一人で突っ込まないで!

連携しよう!」


アルトは自身も剣を手に取り、

グレアに連携を提案する。


「私だけで…十分よ!」


だが、グレアは聞く耳を持とうとしない。


「ん?…こりゃ天神流?

嬢ちゃんは剣士だったのか?

殴りかかってきたから、

てっきり違うもんだと思っていたが…」


そう言いつつ、

グレアの剣が振るわれるのに合わせて、男も抜剣する。


「ふん!

別に剣士が殴っちゃいけないなんてルールはないわ!」


「ははっ…ちげえねえ。」


グレアの剣速はかなり早い。

それこそ、これまで何度も剣を合わせてきたアルトですら、

段々と捌けなくなってきているほどに。


しかし、男はなおも平然とグレアの振るう剣を捌いていた。


「(恐らくだが…あの人も闘気を…)」


闘気で強化できるのは身体能力全般。

それには動体視力や反射神経なども含まれる。


無意識でも闘気を纏うグレアを子供扱いしている時点で、

十中八九、闘気を扱えるのだろうとアルトは推測した。


「グレア、突っ込むだけじゃ駄目だ!

受け流されてる!

一旦引いて、僕と合わせよう!」


「アルトは黙ってなさい!」


「そうだぞ…試験官である俺が良いって言ったんだ。

協力しなきゃ…損だぞ?」


「うるさい!」


グレアにもプライドがあった。


叔父である、天神流『剣王』ゲルナンド・ゲオルギス。

彼直伝の剣術。


なんでも出来て、頭も回るアルトに唯一勝てる剣術。


自分が…唯一誇れるもの。


それがこんなくたびれた姿の男に負けるはずがない。

そう信じたかったのだ。


「…そろそろ、三分か。」


「三分がどうしたってのよ!?」


「嬢ちゃん、気づいてるかい?

俺ぁ…受け流すだけで…

一切、反撃してないんだぜ。」


「…!

グレア、駄目だ!…下がれ!!」


アルトは警鐘を鳴らすが…

グレアの振るう剣は男に振り下ろされる。


「…『逆捩』」


ぬるり…


剣は滑るようにして、地面へと落ちて行き、

そして、ガラ空きになった胴へ鋭い一撃が叩き込まれた。


「あぐっ…!?」


「グレアっ!?」


グレアは地面へと倒れこむ。


「安心しろ坊主…殺しちゃいねえさ。

ただ…もしかすると、骨の何本かはいっちまってるかもしれねえがな。」


「…そこまでする必要があったんですか。」


アルトはキッと男を睨みつける。


「この嬢ちゃんは言って聞くようなタマじゃねえだろ?」


「まあ、それはそうですが…」


グレアはアルトの話を聞いてくれはする。

だが、必ずしも言う通りにしてくれるわけではない。


でなければ、

今頃、グレアは地に伏していないだろう。


「それにしても、坊主。

さっきも見てるだけでかかってこなかったし、

そんな勇気もねえのか?

女の陰に隠れてみっともねえな。」


男はアルトを煽る。


「んん…?

来ないのか?」


「僕がビビりのチキンなのは

まあ、別に間違ってもないですしね…

確証はありませんが…

さっきのは恐らく…海神流の技でしょう?

そうやって挑発して僕が飛び込んでくるのを待っている。

違いますか?」


「…驚いたな。

まさかそこまで看破していたとは…なかなか、冷静だな。」


男は子供相手だと甘く見ていた。

しかし、その子供相手に目論見を容易く看破され、目を丸くする。


「そんな聡い坊主には、

早々にギブアップするのをお勧めするが…どうだ?」


「もちろん…お断りです。」


「はあ…坊主も坊主で言って聞くようなタイプではないのな。」


やれやれと男は首を振る。


「ところで、グレアが早々に殴りかかってしまったんで、

聞きそびれてしまいましたが…

試験の終了条件は二人ともが戦闘不能、

もしくはギブアップの宣言…だけですか?」


試験がなし崩し的に始まったことで聞きそびれてしまったことを

アルトは男に確認する。


「…ああ、それがどうした?」


「いえ、ただの確認です。

ですが…」


そう言いつつ、アルトは構えを解いた。


「?…

何をするつもりだ?」


アルトの行動の意図がわからず、

男は困惑する。


「何も。

ただ、グレアの意識が戻るのを待つだけですよ。」


明言された終了条件は戦闘不能、

もしくはギブアップのみ。

そこに時間は含まれていない。


アルトがとった選択は待ち。

時間を一切、考慮しない選択肢である。


「んあ!?…

言葉狩りか…?

にしても…それはマズい。

またシーラにどやされちまう…」


落ち着きはらうアルトとは対照的に男は焦り始めていた。


ギルドマスターである男は、

そのサボり癖のせいで仕事が溜まりに溜まっており…

試験に割かれる時間が延びれば延びるほど、

仕事に追い詰められることになる。


「て、提案なんだが…

制限時間は三十分てことに…」


「あれ?

一度言ったことをそんな簡単に翻すんですか?

大人なのに…?

男なのに…?」


アルトは男を煽る。

まるで、意趣返しだと言わんばかりに悪い笑みを浮かべながら。


「坊主お前…絶対、性格悪いだろ!?

だがわかった…男に二言はねえ。

でもな…俺も攻撃しないとは言ってないんだぜ!?」


そう口にした男はアルトに飛びかかった。

<裏話>


ゲオルギスはわざわざ変装してアルトたちに剣術を教えていましたが、

実はグレアには最初からバレていました。


ですが、何か理由があるんだろうと

グレアは深く追求せず、そのままにしていました。


そうなると、ゲオルギスが恥ずかしい恰好をした意味とは…?

(本人が恥ずかしいとは思っていないところが唯一の救いか?)

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