第四章 少年期・学園入学編:どの世界にも社畜っているんだなぁ…()
<Side:アルト>
学園を見学した翌日。
「(さすがにずっと勉強はあれだよなあ…)」
学園の入学試験は半年後。
ジルから聞いた限りでは、試験自体の難易度はそれほどでもない。
無論、試験に向けて勉強しないわけではないが、
さすがに半年間ずっと続ける必要はないだろうという結論に
アルトは至った。
そんなわけで望外に得たおよそ半年もの時間。
その使い方について、アルトはグレアと話し合うことにした。
「…というわけなんだけど、
グレアはどうしたい?
僕は別に勉強でも良いんだけど…
でも、それじゃグレアは嫌だろ?」
アルト自身は勉強はそこまで嫌いではない。
むしろ、どちらかと言えば好きな方だ。
転生以降、知識欲が強まっているのもあり、
勉強続きでも正直、苦ではない。
だが、グレアはそうではなかった。
「嫌ね。
そうなるくらいなら死んだ方がマシよ。」
グレアはどちらかと言えば、勉強嫌いだ。
より正確に言えば、
興味の向かないことに対するやる気が著しく低いのだが…
そんなグレアにとって、
勉強漬けというのはかなり酷だった。
それはアルトにもわかっていたが…
「…死んだ方がマシなんて言わないでよ。
たとえ冗談でも。」
グレアの言葉にアルトは悲しげな表情を浮かべ、そう口にする。
数カ月前の凶行を目の当たりにしたアルトからすれば、
冗談でも洒落でもなかった。
「…私が悪かったわよ。
だからそんな顔…」
アルトの表情の変化で自身の過ちに気づいた
グレアはバツが悪そうにしつつも、
謝罪を口にする。
「そんな顔ってどんな顔?
例えば…こんな顔?」
「ぷっ…あはは!
なんでいきなり変顔するのよ!?」
空気が重くなったのを感じたアルトはおどけ始め、
それを見たグレアはこらえられずに噴き出す。
「もしくは…こう?」
「違っ…あはは!」
アルトは無駄にバリエーションの多い変顔を披露する。
その様は…さながら百面相。
「じゃあ…こっち?」
「やめ…あはは!…
って…もういい加減に…」
グレアは笑いをこらえられず、腹を抱える。
だが…その肩は小刻みに震えていた。
「わかった!これだ!」
「…やめろって言ってんでしょうが!」
「あべしっ!?」
調子に乗り過ぎたアルトは殴られた。
…
「…で、どうする?」
顔を赤くした(物理)アルトが問いかける。
「どうするって言われても…」
未だにバツが悪いのか…グレアにしては珍しく言い淀む。
「(んー、どうしよっかなー…
って…あ、そうだ。)」
アルトはあることを思いついた。
「グレア、提案なんだけどさ…」
「!…いいわねそれ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルトの提案を受け、
二人は学術都市内のとある施設を訪れていた。
「ほえー…ここが…」
「初めて見たわね…」
その施設の名は…冒険者ギルド。
世界各地に支部を持つその施設は
この学術都市にも支部を持っていた。
「…とりあえず、入るわよ。
昨日みたいにうだうだやられたらめんどくさいからね。」
「な!?…
うだうだ!?…
しかも、めんどくさいって!?」
グレアの思わぬ口撃に面食らいつつ、
アルトは反論しようとする。
「…あれ!?
ちょっ!…待ってよグレア!」
だが、グレアはそんなアルトを置いて、
さっさと中に入っており、
慌ててアルトはその後を追いかけた。
…
アルトは慌ててギルドの中に入った。
しかし、冒険者ギルド内は思いの外…閑散としていた。
「あれ?…
思ったより…ガラ…」
アルトが思ったことをそのまま口にしかけた時…
「ふふ…たしかにそう見えるわよね。」
「…!」
ギルド内にいた女性がアルトに微笑みながら話しかけた。
「ここのギルドは他のギルドと違って、
登録してる冒険者は学園の生徒さんも多くてね。
今日は授業もある日だし、ちょうど絶妙な時間帯なのよね。」
女性はそんなふうに話す。
学術都市自体が特殊な都市であることもあり、
冒険者ギルドの様相も他の都市の冒険者ギルドとは少し異なっているらしい。
「へえ…そうなんですね…
って…お姉さんは…」
アルトは相槌を打ちつつも、
いきなり見知らぬ女性に話しかけられ、少々困惑気味に尋ねる。
「私はこのギルドの職員のシーラ。
気軽にシーラお姉ちゃんって呼んでね。」
「え?…お、お姉ちゃん?…って、あ!
職員さんだったんですね…すみません、失礼しました。」
その女性…シーラの言葉にアルトは困惑の色を強めながらも、
自身の非礼を詫びる。
しかし…
「お姉ちゃん…お姉ちゃん…」
シーラはそう呟き…
ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、
トリップしていた
「(な、なんだこの人?…
なんかそこはかとなくアレな感じが…)」
そんな気配を感じつつも、
アルトは様子のおかしいシーラを心配する。
「え、ええと…シーラさん…
大丈夫ですか?…」
「ハッ!…いけないいけない。
それで、今日はどうしたのかしら…?
なにかの依頼かしら…?」
アルトの呼びかけで自分の世界から戻ってきた
シーラが取り繕いつつ、
用件を尋ねる。
「あ、その…冒険者登録っていうのをお願いしたくて…」
そう…アルトとグレアの二人が
この場所を訪れたのは冒険者登録を行う為だった。
「ぼ、冒険者登録!?
でも…君には少し…いや、かなり早いと思うんだけど?…」
シーラは驚きつつも、やんわりと制止する。
学園の入学と同様、冒険者登録には年齢上の制限はないため、
二人が登録すること自体には問題はない。
しかし、冒険者という仕事は時に危険も伴う。
危険度は依頼によって異なるものの、
場合によっては命を落とすこともあり得る。
そんな仕事にまだ若い…いや、幼いと言っていいほどの子供が就こうとしている。
正直、ギルドの職員としては矛盾した行動ではあるのだが、
シーラ個人としては道義上、あまり勧めたくはなかった。
「そうだぞ…ガキンチョ。
お前にはまだ早いさ。」
そんなシーラの言葉に同調するようにギルドの奥から現れた男は言った。
「ギルドマスター…」
「(ギルドマスター…ってことはここのトップか!?
でも、なんか…)」
アルトが詰まるのも無理はない。
奥から現れた男…ギルドマスターと呼ばれたその男は
かなりくたびれた姿をしていた。
さながら、ブラックな企業に勤めるサラリーマンが如く。
「って…そうじゃない。
出てくる暇があるなら、仕事してください。」
だが、シーラはそんな様子を気にも留めずに押し返そうとする。
「(鬼か…?この人…)」
シーラは気心が知れているが故か…
アルトに対する態度とは打って変わって、
男に対してかなり手厳しい態度を取る。
「ええー…
ちょっとぐらい休憩してもいいじゃん?
その…ほら、息抜きだよ。
だから…えっと…その…ごめんなさい。
俺が悪かったんで…そんな怖い顔はヤメテクダサイ…」
アルトの側からは見えなかったものの、
シーラは凄い形相になっており、
男はどもりながらも、慌てて謝罪を口にする。
「いつもそんなこと言ってすぐサボるじゃないですか。
私、わかってるんですからね。」
「す、すんません…
これが終わったら真面目に仕事しますんで…」
男は腰低くペコペコしており…
もはや上司と部下の立場が逆転していた。
「いつも真面目にしてくださいよ…
はあ…わかりました。
でも、いい加減にしないとギルドマスター
クビになっちゃいますからね…?
本部からもせっつかれてるんですから、
ホント…気を付けてくださいよ。」
「ん?…ちょっと待って。マジ?
その話、俺聞いてないんだけど。
てかなんでシーラが知ってて、
俺が知らないんだ?
俺、一応ギルドマスターだよね?
ねえええ!?」
男は問いかけるが、シーラはスルーする。
「あ…あ…あんまりだぁぁぁ!?」
男はどこかへ走り去っていき、
男の悲壮な叫びだけが静かなギルド内に木霊する。
その姿は実に…哀れだった。
「よし。
邪魔者はどっかに行ったわね。
さて…話の続きをしましょうか。」
「(お…おう…
なんというか…その…お疲れ様です。)」
一応、このギルドの長ではあるはずなのだが、
かなりぞんざいで…世知辛い社畜のような扱いを受ける彼にアルトは同情を禁じえなかった。




