第四章 少年期・学園入学編:学園へ行こっ!
<Side:アルト>
深夜、アルトは目覚めた。
「…ん…んん…
やば…晩御飯…
結局、俺も寝てた…の…か…」
色々言っていたくせに
アルトは結局、寝落ちした。
そして、目が覚めたアルトは…思考停止した。
「(え?どういう状況?)」
アルトはそもそも寝るつもりはなかった。
それゆえにベッドの中には入っていなかったのだが、
ベッドのそばに腰かけていた。
その状態で寝落ちしたことで
アルトはベッドにもたれかかるような体勢になっていたのだが、
そこになぜかグレアが引っ付いて寝ていた。
「(ベッド広いのになんでだ…?
寒かったのか?)」
今は七月。
季節的にはほぼ夏なのだが、
夜は意外と冷える。
もしかすると、グレアも寒かったのかもしれない。
「(…あれ?)」
ふと、アルトはあることに気づく。
「(ぬ、抜けねえ…)」
アルトの右手はグレアの下敷きになってしまっていた。
どうにかして抜けないかと試行錯誤していたアルトだったが…
「ん…んんっ…」
アルトの動きに反応したのかグレアが声を出す。
だが、なぜか妙に艶っぽい。
「(…寝言か?
起きたなら起きたでよかったんだけど…
わざと起こすのもな…
下手に動かしたら、起こしちゃうし…弱ったな。)」
正確な時間はわからないが、
時間も時間だろうし、
アルトはグレアをわざわざ起こす気はなかった。
だが、起こさないようにしようとすると、
身動きがとれないというジレンマに板挟みになっていた。
「(気持ちよさそうに寝てるな…
前にも似たようなこと思ったような気がするけど、
グレアって寝てるとき『は』可愛いんだよな。)」
どんな暴君も寝ている時くらいはなりを潜める。
アルトの眼には年齢相応のあどけない少女の姿が映っていた。
「(…あの時、止められてなかったら…
いや、あの時だけじゃない。
分岐点は色々あった。
何かが違えば、この顔も見れてなかったんだよな…)」
もしあの時、止められなければ…
もしあの時、出会っていなければ…
そんな想像をし、
アルトは途端に恐ろしく…そして、悲しくなった。
「生きててくれて…ありがとう。」
アルトの呟きは静かな部屋に消えていき、
残ったのは少女の微かな寝息だけだった。
…
翌朝。
「…ふぁ…おはよう…
って…なんでそんなとこで寝てるのよ…?」
「別に…起きてるよ?」
誰のせいだよ?と口に出そうになるのをぐっとこらえ、
アルトは寝起きのグレアにそう返す。
アルトはあれ以降、結局寝るに寝れず…
おかげで寝不足だった。
「あれ?なんだ、起きてたの?
まだベッドで横になってたらいいのに…身体痛くないの?」
どうやらグレアは独り言のつもりだったらしく、
返事があったのに驚きつつも、
アルトに声をかける。
「…まあ、色々あったんだよ。」
気にしてくれている相手に言い募る気にもなれず、
アルトは適当にぼかした。
「ふーん?
…で、アルト。
今日は何するの?」
「一旦、学園を尋ねてみるつもりだよ。
グレアもどんなところか気になるでしょ?」
「そうね。」
今日の方針が決まり、
二人はそれぞれ準備を始めた。
…
「お、やっと起きて来たか二人とも!
一応、晩飯の時にも起こしには行ったんだが、
気持ちよさそうに寝てたもんだから起こしづらくてな!」
冒険者の一人は笑って言う。
「あ!そうだったんですね!
お手間をおかけしてすみません。」
「気にすんな気にすんな!
それより、長い時間食ってねえし腹減ったろ?
おおーい、旦那ぁ!
二人にメニューを!」
…
朝食を終えた二人は宿を出て、
一路、学園を目指す。
「…私、学術都市って学園しかないのかと思ってたのだけれど、
意外と色々あるのね。」
街並みを眺めながら、グレアは呟く。
「はは…たしかに。
まあでも、考えてみればそりゃそうだって感じだよね。
学園だけじゃ生活するのに困るし。」
当然と言えば当然だが、
教育機関である学園だけで生活は成り立たない。
学園が(地理的にも経済的にも)
この都市の中心にあるのは間違いないが、
それだけではないのだ。
「…お、ここか。」
十数分歩いたところで二人は目的地に辿り着いた。
のだが…
「…これ中に入っていいのかな?」
「?…別に入っていいでしょ。」
「いやでも…勝手に入ったら怒られるかも…」
「誰によ…?
だいたい入っちゃダメならそう書いてあるでしょ。」
直前になってまごつきだしたアルトに
グレアは呆れた表情を浮かべる。
「君たち…学園になにか用かな?」
入口のところで騒がしくしていたからか…
中から一人の青年が現れ、二人に声をかけた。
「(か、輝いている…)」
その青年はキラキラしていた。
もちろん、比喩的な表現で、
実際に光を発しているわけではないのだが、
そう見紛う程の光のオーラを発しているようにアルトには見えていた。
「…?
あれ…?
もしかして、天神語が通じない…?」
青年は反応がないことに戸惑った様子でポツリと呟く。
「あ、ええと…すみません。
見学をしたいんですけど…」
「あ、良かった通じてた…
なるほど。見学希望だね…
ちょっと…待っててね。」
そう言って、青年は学園の中に入っていき…
しばらくして再び二人の前に戻ってきた。
「はい、これ。
見学中はこれを首から下げておいてね。」
そう言って青年は二人にパスケースのようなものを手渡す。
「これは…?」
「迷子防止の魔導具さ。
一応、学園内は担当…まあ、僕がついて案内するけど、
ここ広いからはぐれないようにってね。
あとは防犯的な役割もあるけど…まあ、こっちは気にしなくていいよ。
それじゃあ…案内するからついて来て!」
二人は青年の案内の元、学園内を見学することになった。
…
「(この人…めっちゃ喋るな…
いやまあ、沈黙で気まずくなるよりはましだけどさ…)」
青年は思いの外、お喋りで…学園の案内中、ほとんどずっと喋っていた。
アルトは気後れしつつも、
しっかりと受け答えはするので、
青年の話の照準がアルト一人に集中しており、
若干、辟易していた。
(いうまでもないが、人見知りのグレアさんは地蔵と化していた。)
「そういえば君たちはどこから来たんだい?」
「あ、ええと…サザーランド王国から…」
「へえ!君たちもサザーランドから…
遠かっただろう?
大変だったんじゃないかい?」
「ええまあ…
って『も』?」
青年の言葉に引っ掛かりを覚えたアルトは聞き返す。
「実は僕もサザーランド出身なんだ。
こんなところでまさか同郷の子たちに会えるなんて…」
感慨深そうに青年は答える。
「え!そうだったんですか…
ええと…あれ?
すみません。お名前…」
「ってああ…ごめんごめん。
そういえば…
自己紹介してなかったね。
僕はジル。見てわかる通り…この学園の生徒だよ。」
自身の制服の襟を正しつつ、
青年…ジルは名乗った。
「ということは…先輩ですね。
勿論、僕たちが試験に合格したらの話ですけど…」
「あはは…試験はまあ、そこまでの難易度でもないから気にしないで大丈夫だと思うよ。
それこそ特待でも狙わない限りね。
でも…試験受けるには絶妙にタイミング悪くないかい?」
「え?」
ジルが言うには学園の入学試験は
六月と十二月の年に二回。
半期ごとに行われるらしい。
アルトは前世の感覚でそういう試験はてっきり年明けに行われるものだと思っていたが、
六月…つまり先月にも試験は行われていたらしい。
「(まじかぁ…
いやまあ、別に入学は急がないからいいんだけどね…)」
そうは思いつつも、
間が悪いなあ…とアルトは感じずにはいられなかった。
だが、この世界にはインターネットのような便利な情報収集手段はない。
急遽、学園に向かうことになったのもあり、
いかんせん情報収集が足りていないのは仕方のないことであろう。
「(試験の難易度がそこまで高くないらしいのだけは救いだけど…)」
アルトがそんなことを考えていると…
「ええと…その…
もしよければ…君たちの名前も教えてくれないかな?」
ポリポリと頬を掻きながら、
少し困ったような顔でジルは言う。
「…あ!…すみません。
自己紹介遅れました。
僕はアルトで…彼女がグレアです。」
「…」
慌ててアルトは自己紹介をする。
しかし、ジルも名乗らなかったのもあり、
グレアの事情もあって、
アルトはあえて姓は名乗らなかった。
「アルト君とグレアちゃんか…
良い名前だね!」
そう言って、ジルはにこりと微笑む。
「(い、イケメンだ…)」
困ったような少し憂いを帯びた顔も
勿論、格好良かったのだが、
微笑んでいるジルはキラキラ感と言い、
容姿なども相まって、
まるでどこかの国の王子様のようだった。
…
学園内の見学が一通り終わり、
アルトたちは再び学園の入り口に戻ってきた。
「まだしばらく先にはなるだろうけど、
折角、会えた同郷の子たちだ…
君たちが入学してくるのを楽しみにしておくよ!」
別れ際、そう言ってジルは大きく手を振った。
「(ちょっと…いや、かなりよく喋る人だったけど、
なんだかんだいい人だったな…)」
アルトがそう振り返っていると…
グレアが大きく息を吐いた。
「…ふう。
やっといなくなったわね…
あの男、喋り過ぎなのよ。」
「こらこら、せっかく案内してくれたんだから、
そんなふうに言わない。
まあ、僕もちょっと喋り過ぎだとは思ってたけどさ…」
あまりにもな言い草に
アルトはグレアを咎めようとする。
「なによ?
アルトも思ってたんじゃない。
案内自体はありがたかったけれど…
聞いてもないことを延々と喋られても困るのよ。」
「あはは…」
正直なところ自分自身も同じようなことを思っていた手前、
アルトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
○学園について。
基本的に五年制。
六月と十二月の年二回。
半期ごとに入学試験が行われている。
国籍・種族は問わず、
幅広く門扉は開かれている。
(種族的な問題もあり、年齢制限なども特になし。
ただし、人族であれば十歳以上での入学が推奨される。)
四つの科に分かれており、
それぞれ、学術科・芸術科・武術科・魔術科。
科ごとに分けられてはいるものの、
授業は生徒それぞれが選択できるシステムで
別の科の授業も受けることが出来る。




