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第三章 少年期・家庭教師編:新たなる旅路

<Side:アルト>


「どういうことです…?」


アルトはいきなりの言葉に戸惑いを隠せないまま…

ゲオルギスの言葉の真意を問う。


「アルトは…学園に行くつもりなんだろ?」


「ええ…その予定ですが…

それが何か…?」


元々、アルトが家庭教師の仕事を始めたのは学園に行くためだが…

なぜ今そんなことを…?とアルトは不思議そうな顔をする。


「グレアも一緒に学園につれていってやってくれないか?ってことさ。」


「…!

そういうことですか…」


この世界において、

学校と呼ばれる機関は複数あれど、

学園と呼ばれるものは一つしか存在しない。


かつて、大小様々な国々が出資し、

作り上げられた大陸最高峰の研究・教育機関。


どの国にも属さず、

どの国の権力の影響も受けない治外法権の地。


学術都市 アレフ。

そこに存在するのが…通称『学園』だ。


彼の地であれば、たとえ侯爵という大貴族でもおいそれと手出しは出来なくなる。

それが狙いだった。


「僕としてはグレアが望むのであれば、

一緒に学園に行くのは構わないのですが…

家庭教師の仕事は二年って約束でしたよね…?」


グレアと学園に行くこと。

それ自体は別にアルトとしても、吝かではない。

だが、家庭教師の仕事の任期は二年で

…まだ一年程度しか経っていないのだ。


「まあ、こんなことになるのは想定外だったからな…

今の進捗はどんなもんなんだ?」


「ええと…読み書き・算術に関しては、ほぼ完了していて、

魔術基礎知識はまだちょっと触れるか触れないかぐらいです。」


元々、二年という期間はかなり余裕を持たせた期間で、

スムーズに進行しており、

教える予定の内容の六~七割はもう既に教え終わっている。


しかし、だからといって中途半端でやめるのもどうなのか…とアルトは思っていた。


「…そうだな。

読み書き・算術が出来るなら問題はないし、

魔術基礎知識はもういい。

あとは…グレア次第だな。

しばらく待っててくれ。」


そう言って、

ゲオルギスは部屋から出て行き、

しばらくして、グレアを連れて戻ってきた。


「アルトと学園ってやつにいくんでしょ?

いいわ!一緒に行ってあげる!」


応接室に入ってきたグレアは妙に乗り気で

そんなふうに言った。


「にしても…グレアと一緒じゃないと嫌だなんて…

そんなに私と一緒が良いのね!

寂しがりなんだから!」


「(ゲオルギスさん…グレアになんて言ったんだ?)」


まあ、たしかに離れ離れになるのは寂しいと

内心では思ってはいたものの…

少なくとも、そんなことは言っていない。


どうにも認識の齟齬を感じたアルトは

ゲオルギスに疑いの視線を向ける。


「よし…じゃあ、これからは学園に行く前提で話を進めるぞ。」


ゲオルギスはそんな視線は柳に風とばかりに受け流し、

本題へと入っていった。



学園に行くという話が決まった数日後、

アルトとグレアはゲルダの街の門の前にいた。


「グレア、どうしたの?」


ぼうっと街の方を眺めるグレアを見て、

アルトが声をかける。


「いや…ここを離れるのか…と考えると、

なかなか感慨深くて…」


「ああ、なるほどね…

ここにいたのは一年くらいだけど、

僕もそう思うよ…」


そう。

グレアの言うように二人は

今日、この街を離れ…学園に向けて出発する。


数日前に行くことが決まったばかりなのに

なぜそんなに急に?とも思うが、

ゴルディアス侯爵家に動きを悟らせないために

早々に行動することになったのだ。


「二人とも…もうそろそろ終わるから戻っておいで!」


そう二人を呼んだのは恰幅のいい…

いかにも商人といった装いの男。


男の名はザスティン。

ゲオルギスの旧友で商会を営んでいる人物だ。


なぜ二人がそんな人物と一緒なのかというと、

学園方面には彼と…彼らと共に向かうからだ。


元々は護衛として伯爵家の抱える騎士団が随伴する予定であったが、

騎士団を引き連れ、大々的に移動をすると、動きがバレてしまう。


そこで一つの策を弄した。

木を隠すなら森の中。

人を隠すなら人ごみの中ということで、

大人数に紛れることにしたのだ。


その結果、ゲオルギスが懇意にしている商会…

ザスティンが率いる商会のキャラバンに

同行する形で移動することになったのだ。


「はーい、行きまーす!」


アルトが返事をし、

ふとグレアの方を向くと、

グレアは不思議そうな顔をしていた。


「…あの人ってたしか叔父様の知り合いなのよね?」


「うん、そう聞いてるよ?」


ゲオルギスの仲介で事前に顔合わせもしているし、

それは間違いない。

グレア自身もその場にはいたので、わかっているはずなのだが…

どうやら気になっているのはそこではないらしい。


「剣王と商人って接点なさそうだけど…どうやったら知り合うのかしらね?」


剣術の使い手と商売人。

そこにはたしかに一見、なんの共通点も見いだせない。


「さあ?

剣王といっても、ゲオルギスさんも貴族だし、

何かしらの機会はあるんじゃない?」


「そうかしら…?」


そのへんの貴族関連のことはグレアの方が知っていそうなものなのだが、

しばらくグレアは不思議そうな顔をしていた。



門での時間のかかる手続きが終わり、

アルトたちは馬車に乗りこもうとする。


「(バイバイ…ゲルダの街…

またいつか…あ!)」


心の中で一年と少しを過ごしたこの街に別れを告げていると、

アルトはふとあるものに気づく。


「グレア!…あれ!」


アルトは隣にいたグレアに声をかけ、ある方向を指さす。


「あれ…?

あれって何よ…?」


いきなり言われて、

なんのことかイマイチわからない様子で

グレアはアルトの指さす方向を目で追っていく。


「…叔父様たち…見送りには来れないって言ってたくせに…」


グレアはアルトの指さしたものに気づき、笑みがこぼれる。


アルトが指さしていたのはこの街で一番目立つ場所。


このゲルダの街で一番目立つのは街の中央に位置する領主邸の屋敷。

ついさっきまで二人も過ごしていたその屋敷の頂上から…

なにか大きな横断幕のような布がたなびいていた。


その布には…


『いってらっしゃい。

学園でも頑張れ!

二人とも元気でね。』


『アルト、グレア。

ここはお前たちの帰る家だ。

困ったらいつでも帰ってこい。

だから気負わず行ってこい。元気でな。』


ゲオルギスたちからのメッセージが大きく書いてあった。


「行くからには…頑張らないとな。」


「ええ、そうね…」


ゲオルギスたちはあんな風に言ってくれてはいるが、

事情が事情なだけにそう簡単にこの街には戻ってこれないだろう。


アルトたちは決意を新たに道を進み始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:ゲオルギス>


「行ったか…」


ゲオルギスは領主邸の窓から外を眺め…そう呟いた。


「ふふ…やっぱり、寂しいのかしら?」


リザはゲオルギスをからかうように言う。


「ああ、そうだな…」


「あら?今回は否定しないのね…

普段なら否定するのに…」


ゲオルギスの反応はリザの想定と違い、

随分と素直なものだった。


リザとゲオルギスの付き合いはかなり長い。

いつものゲオルギスであれば、

寂しくない。と強がっていたであろう場面なのだが、

いつにも増して素直な様子のゲオルギスにリザは驚いていた。


「俺にもたまには素直な時くらいある。

少なくともあと一年くらいは一緒に暮らすもんだと思ってたからな…

おかげで剣術の稽古をつけてやるのも中途半端になっちまったし。」


時間が取れるときはなるべく二人に稽古をつけていたゲオルギスであったが、

その頻度もあまり多くはなく、十分に教えてやれなかったな…と

少し悔やんでいた。


「いろいろあったし、そればっかりは仕方ないわ。

言っても仕方ないし…今の私たちに出来ることをやればいいのよ。」


「ま…その通りなんだけどな。

やることはいっぱいあるし、

これからは忙しくなる。

切り替えて…気張んねーとな。」


そんなことを言いながら、

ゲオルギスはパシッと自分の頬を両手で叩いた。


「グレア…アルト…二人とも…頑張れよ…」


ゲオルギスの小さな呟きは風に乗って消えて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:バルト>


アルトたちがゲルダの街を発った頃、

リオス村で暮らすバルトの元には一通の手紙が届いていた。


手紙の差出人はゲオルギス・ゲルナンド。

バルトの古くからの友人だ。


そして、バルトの息子であるアルトはその友人の元で暮らしている。

いや、暮らしていた。


「そうか…学園に…」


手紙の内容は近況報告。

そして、アルトとゲオルギスの姪のグレアが学園に向かう旨が記されていた。

しかし、あることに気づく。


「(ん…?…いや…妙だな…

学園に行くのはあと一年は先だったはずだ…)」


アルトは元々、学園に向かう予定ではあった。

だが、それは家庭教師としての仕事を二年間、務めてから…

アルトが十歳になってからという話だった。


アルトがゲオルギスのところに行ってから、

まだ一年ほどしか経っておらず、

元々の予定とは大幅に異なっていた。


「(なにかがあった…そういうことなのか…)」


手紙に記されてはいなかったが、

ゲオルギスたちの周りで何かがあったのだとバルトは察した。


「(だとしたら…なにがあった…?

いや…ゲオの奴がいたなら、だいたいのことはどうにかなるはずだ。

となると…貴族絡みか?)」


貴族絡みでつい最近あった大きな出来事と言えば、

ゲオルギスの実家である侯爵家の当主の代替わり。

しかし、ゲオルギスは不自然なほどその件に触れていなかった。


「(おそらく、それ絡みなんだろうが…

判断するには情報が足りねえな…)」


情報が足りないと言いつつも…

自身の推測のみでほぼ正解にたどり着いているあたり、

さすがと言うべきか。


「(アルは大丈夫だろうか…?

あいつ…意外と繊細だからな…)」


久しく会っていない才気溢れる我が子に思いを馳せつつ、

バルトは手紙を手に部屋を出て行った。

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