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第三章 少年期・家庭教師編:手加減や容赦は期待するだけ無駄無駄ァ!

<Side:アルト>


ナナシ(と名乗るゲオルギス)から天神流のことや三大剣術のことを軽く教わった後、

剣術修業は再開された。


されたのだが…


「グレア?…どうしたの?」


なぜかグレアが若干むくれていた。

口には出していないが、明らかに不服そうだった。


「(俺のせいか…?)」


中断前までは機嫌はよさそうだったのに、

再開された途端、不機嫌そうになっていた。


もしや、自分が原因なのでは?と思い、

アルトが小声で話しかける。


「…基本なんて地味なのはいいから、もっと派手なのがいいわ。」


どうやらそういうことではなく、

ただ単にお嬢様はもっと派手なのがお好みだったらしい。


「(忘れてたけど、グレアも貴族だもんな…)」


ほぼ忘れかけていたが、グレアも一応は貴族の子女だ。

貴族=華やかな派手好きみたいなイメージはあるが、

グレアもその例に漏れていなかったらしい。


「(よく考えたら、ゲオルギスさんも…)」


グレアに限らず、

ゲオルギスも変装するのにわざわざあんな派手な恰好を選んでいたし、

もしかしたら、この一族が特別にそうなのかもしれない。


「(まあ、派手というか…ダサ…って駄目だ!)」


せっかくいい感じに忘れかけていたのに、

このままではまた服装に意識が取られてしまう。


「…うーん…でも、何事も基礎って大事だと思いますよ?」


未だにナナシの奇妙な服装に意識は取られつつも、

アルトはなんとか話を戻す。


「…アルトの言う通りだ。

何事も基礎を疎かにすると立ち行かなくなるからね。」


小声で会話していたのだが、

どうやら聞こえていたようで、

ナナシはアルトの発言を首肯した。


「だけど…そうだね…派手なの…

アルト。私に向かって適当に魔術を放ってくれるかい?」


ナナシはいきなり、とんでもない提案をする。


「ええ…?…それはさすがに…」


当然、アルトは渋る。


「嫌なのかい?」


「魔術は誰かを傷つけるために習ったのではないので…」


誘拐事件の時は自分たちの身を守るために

仕方なく、誘拐犯たちに向けて使っていたが、

その使用方法は本人的にはあまり好ましくなかった。


「傷つきはしないだろうけど…

まあ、アルトが嫌ならしょうがないか…

でも、いざというときに振るえない力なんてのはなんの意味もないからね。

積極的に誰かを害せとは言わないけど、

何かを守るためには何かを切り捨て、傷つける覚悟も必要だよ。」


「…?

ええと…はい、そうですね?」


「まあ、辛口なことは言ったけど、

その優しい精神性自体は個人的には好ましくは思うよ。」


「(ゲオルギスさん…なんか勘違いしてね?)」


アルトの場合、敬愛する師から学んだ魔術を特別視しているだけであって、

誰も傷つけたくないなんてそんな高尚な理由は持ち合わせてはいない。


第一、そこまで高尚ならディエスと殴り合うこともなかっただろうし、

グレアにやり返してボコボコにされることもなく、

誘拐犯たちと交戦することもなかっただろう。


「ゲ…じゃないや、ナナ…」


「でも、そうなるとどうしようか…っとそうだ。

二人とも少し待ってなさい。」


アルトはナナシの勘違いを解こうと声をかけようとするが、

ナナシは何かを思いついたようで屋敷の方へ向かって行ってしまった。


「…まあ、いいか。」



しばらくして、ナナシは何かを手に屋敷から戻ってきた。


「グレアはまだむくれてるのか…」


戻ってきたナナシは未だにむくれ続けているグレアを見て、ポツリと零す。


「…まあいいか。

グレア、アルト。よく見ておきなさい。」


ナナシが手にしていたのは打ち込み稽古用であろう巻き藁のようなもの。

それをセッティングした後、

ナナシは木剣を手に取り…

軽く腰を落として、低く構えた。


「(?…なんだ…?…てか、遠くね…?)」


ナナシはその巻き藁らしきものに向き直ってはいるのだが、

その距離はかなり開いている。

おそらく十メートルくらいはあるだろう。

とてもではないが、剣が届く距離ではない。


そんなことを考えているうちに、

ゆっくりとナナシの手が動いた。


「天神流…『飛燕』」


バキバキと何かが割れるような音が鳴り、あたりに土煙が舞う。


「(…なんだ…?…何が起きたんだ…?)」


ナナシが何かをしたのだろうというのはわかったが…

何が起こったのかまでは土煙の影響もあり、

アルトはよくわからずにいた。


「「…!?」」


土煙が治まった後、広がっていたその光景に

アルトとグレアは驚きを隠せないでいた。


「(…真っ二つ…)」


巻き藁は綺麗に二つに分かたれていた。


巻き藁には人体と同じくらいの硬さがあると言われており、

それほどの硬さの物体を木剣で両断しているのも、

十二分に妙ではあるのだが、

それとは別にもう一つ…奇妙なことがあった。


巻き藁を真っ二つにした張本人であるはずの

ナナシは構えたその場から文字通り、一歩も動いていなかった。


「(…もしかして…斬撃が…飛んだのか…!?)」


アルト自身はその軌跡を目で追うことすらできなかったし、

途中からは土煙で視界が遮られていた。


故に正確なことはわからなかったものの、

残された痕跡…いや、逆だ。

ナナシと巻き藁の間になんの痕跡もなかったことから

アルトはそう推測した。


そして、その後のナナシの言葉が答え合わせとなる。


「これは天神流の奥義の一つ。『飛燕』。

所謂…『飛ぶ斬撃』さ。」


アルトの推測は的を射ており、

ナナシの斬撃はまるで空を飛ぶ燕が如く、

空を飛び、巻き藁を両断したのだ。


「ちゃんと基礎を積めば、こんなことやもっと派手なことも出来るようになる。

何事もそうだが、目に見える華々しい派手なものが全てではない。

目に見えない泥臭い地道で地味なものの積み重ねの上にあるということを理解しなくてならないよ。」


グレアに諭すようにナナシはそんなふうに言った。

言ったのだが…


「(良いことを言ってるんだけど…どうしよう…格好のせいで全然、頭に入ってこない…)」


言っていることも理解しているし、

その通りだとも思うのだが…

言っている本人の見た目が派手過ぎて、

全く頭に入ってこなかった。


「(まあ、グレアに諭すためとしては大成功だったのかな…?)」


アルトはイマイチ頭に入ってきていなかったが、

グレアは納得したようで、こくこくと頷いていた。



その後は基本的な型を一通り学び、

何度か型の練習を重ね、

軽めの打ち込み稽古として、

アルトとグレアで一対一の模擬戦をすることになった。


しかし…


「…」


アルトは庭の隅で三角座りをし、

地面に「の」の字を描いていた。


このへこみ具合を見れば、

言うまでもなくわかるだろうが、

アルトはグレアに負けた。

しかし、ただ負けただけならアルトもここまではへこまない。


今回やった模擬戦は剣道のように細かいルールではなく、

ただ単に相手の身体に先に一撃入れると一本。

それの三本先取の単純明快なルールであったのだが、

アルトは…一本も取れずにストレート負けを喫していた。


「(…いいもん。俺、魔術士だし…うう…)」


勝てはしなくても一矢報いることくらいは出来ると思っていたこともあり、

アルトは完全に拗ねてしまっていた。


「うーん…アルトは型の時までは全然普通だったんだけど、

なぜか打ち合いになった途端に腰が引けてしまっているね…。」


ナナシがそう分析する。


「(腰が引けてる…?…)」


アルトに自覚はなかったが、

無意識のうちにそうなっていたらしい。

これまで、グレアには散々酷い目に遭わされたし、

もしかすると、そのトラウマが残っているのかもしれない。


「ふん!弱虫ね!みっともないわ!」


グレアがは鼻を鳴らしながら、アルトの頭をベシベシと木剣で叩く。


「いや、アルトは魔術士だからね…

無理もないし、少し臆病なくらいが丁度いいさ。」


その様子を見たナナシは苦笑いを浮かべ、

アルトのフォローをする。


「…なら、いいわ!」


「(全然良くねえし…普通にいてえんだけど…)」


コテンパンに打ち負かされた後であまり強くは言えなかったが、

言われっぱなしもやられっぱなしもちょっと癪だった。


「グレア…もう一回!」


アルトは再びの模擬戦を提案する。


「…!…いい度胸ね!

またコテンパンにしてあげるわ!」


グレアはウキウキで勝負に乗ってきた。


「(よっし、いっちょやってやんぜ!)」


改善するべきところも知れたし、次は負けん。と

アルトは息巻いていた。



「よっしゃあああ!」


アルトは雄叫びを上げた。


「まぐれよ!今のはまぐれ!

もう一回よ!」


グレアは悔しそうに地団駄を踏みながら、

次の試合に移ろうとする。


そう。アルトは再戦でなんとか一本をもぎ取ったのだ。


喜び方的にはまるで三本先取したかのようだが、

グレアに二本先取されてからの一本なので、

負けにリーチがかかっている状況だ。


それでも、先ほどは手も足も出ずストレート負けした相手から

一本もぎ取れたことは大きかった。


「(このまま連取してやるぜ!)」


アルトはわかりやすく調子に乗っていた。



「…」


アルトは再び庭の隅で三角座りをし、

地面に「の」の字を描いていた。


あの後、あっさりと一本取られ、

三対一で負けてしまった。


「ふふん!

ちょっと驚いたけど、さっきのはやっぱりまぐれだったようね!」


グレアは腕を組み、鼻高々だ。


勝者と敗者でわかりやすく…

そのテンションに差が産まれていた。


「もしかすると…アルトにはあまり天神流はあってないのかもしれないね。」


何度かアルトとグレアの模擬戦を見た

ナナシがそう言う。


「そうですね…どうせ僕には剣術の才能はないですからね…」


それは自分自身が良くわかっている。

そう言わんばかりにアルトはいじけていた。


「いや、そうじゃなくてね。

アルトは魔術士だからなのかはわからないけど、

相手の動きを見るのに徹して…

受けに回っていることが多かった。

唯一、取れた一本もグレアの剣を受け流してのカウンターだったしね。」


さらにナナシは続ける。


「天神流は先の先を取る剣術だし、

アルトと天神流は相性が悪そうだ…っていうことさ。

アルトに才能がないとかそういう話ではないよ。」


天神流は基本的に攻めの剣術であるがゆえに、

受けに回りがちなアルトとは相性が悪い。

そういう話だった。


「どちらかと言うと、アルトには海神流や地神流…

他の三大剣術の方があっているんじゃないかな。」


ナナシはそう言った。



天神流に攻めの剣術という特性があったように、

他の三大剣術にもそれぞれ特徴がある。


まずは海神流。

後の先を取る剣術で、カウンター主体の剣術だ。

海神流の剣士相手に不用意に攻め入れば、反撃の餌食となってしまう。


そして、地神流。

後の先…むしろ、後の後と言った方が正しいほど、

受けに特化した守りの剣術だ。


三大剣術にはそれぞれ相性があって、

攻めの天神流は攻撃に合わせて反撃してくるカウンターの海神流とは相性が悪い。

カウンターの海神流はそもそも攻めてこない守りの地神流と相性が悪い。

守りの地神流は激しく攻めてくる攻めの天神流と相性が悪い。

といった感じで三竦みの関係になっている。


「一応、確認なんだけど…アルトは剣術を学ぶのは初めてなんだよね?」


なにか気になるところがあったのかナナシは

アルトにそう問いかける。


「(あれ…?…その辺のことは聞いてないのか?)」


てっきり、その辺のこともバルトから聞いていると

アルトは思っていたのだが、

どうやらそこまでは聞いていなかったらしい。


「ええ…父様に体術を教わったりはしていましたが…

基本的には魔術ばっかりですね…」


「!…ああ、なるほど…」


ナナシは相槌を打ち、

どこか納得したような顔をしている。


「(…?)」


ナナシは納得した様子だったが、

今度は逆にアルトが頭に?が浮かんでいた。


「いや、なんでもないよ。

にしても…困ったね。

海神流や地神流の方が合っているとは言ったものの、

私は天神流の剣士だし…教えてあげれないんだよなぁ…。」


ナナシはポリポリと頭を掻きながら、言う。


ナナシ…もとい、ゲオルギスは『天神流の』剣王だ。

海神流や地神流を教えれないのは当然ではある。


「いえ、天神流を教えていただけるだけで

とてもありがたいですよ。

そもそも…僕はあくまでおまけですし、あまり気にしないでください。」


そもそも、アルトは剣術を学びに来ているわけではない。

意図せず学べる機会を貰えただけでもありがたいのだ。

文句など言いようもない。


「(ま、他の流派に関しては、

機会があった時に…ってことで。)」


海神流や地神流というのにも興味がないわけではないが、

今は一旦、置いておくことにした。


「…すまないね。

知り合いに教えられる者がいればよかったんだけど…

あまり他流派との交流は多くなくてね。

まあだが…そのぶん、しっかりと天神流は叩きこんであげるよ!」


「…お…押忍!」


ナナシの言葉には妙なやる気が籠っており…

その圧に気圧されたアルトは微妙に上ずった返事をする。


「!…あまり聞き馴染みはないけど…

中々、気合いを感じるいい返事だ!

…グレア!…続きをやるよ!」


アルトのその返事が気に入ったのか、

ナナシは上機嫌な様子を見せながら、

剣術稽古は続いた。

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