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第三章 少年期・家庭教師編:三大剣術

<Side:アルト>


数日後、

アルトとグレアは領主邸の庭に集まっていた。


「にしても…叔父様、こんなところに集めて何の用なのかしらね…?」


「さあ…?

それは僕にはわかりませんよ…」


二人はグレアの言葉通り、ゲオルギスによって集められていた。

…正確には呼び出されたのはグレアだけだったが、

休日ということで自室でゆっくりしていたアルトを

「アルトも暇でしょ?」と問答無用でグレアが引っ張ってきたのだ。

(アルトは暇じゃないと答えたが、そのへんはガン無視された。)


「(まあ、別に暇だったんだけどさ…)」


しかし、連れてこられたはいいものの、用件がまったくわからない。


呼び出し…ということは

最近は丸くなったと思っていたが、

グレアがまた何かやらかしたのかもしれない。

それで一人で怒られるのが嫌だったから、

道連れ的な感じで連れて来られたのだとアルトは推測した。


「(いや、何をやらかしたのかは知らんが、別に庇うつもりはないぞ…?)」


そんなことを考えているうちに一人の男が庭へ現れた。


「あれ?アルトもいるのか?

まあいいが…」


その男はアルトがこの場にいることに一瞬驚いたような反応をしていたが…

驚いたのはむしろアルトの方だった。


「(…ふ…不審者過ぎる…)」


その男は目元を覆う妙な仮面を付け、

かなり派手な服を着ており…良く言えば、奇抜。悪く言えば不審者。

そんな悪い方の意味でかなり目立つ装いになっていた。


まだ昼間だからいいものの、

深夜に目撃したら、

余裕で通報物である。


「…ええと、ゲオルギスさん…ですよね?…そのダ…いや、見慣れない恰好は…?」


思わず本音が口から零れそうになりつつも、

取り繕いアルトは小声で問いかける。


そう…この奇怪な恰好をした男はゲオルギス・ゲルナンド。

ゲルナンド領を治める伯爵であり、この屋敷の主でもある。

そして、二人を…正確にはグレアをこの場に呼んだ張本人だ。


「ん?…この格好か?

グレアに剣術を教えてやろうと思ったんだが、

いやー…さんざん教えないといった手前な…

俺が直接教えるのもあれだし…ってことでな。」


どうやらそういうことらしい。


散々断っていた手前、そのまま教えるのも…ということで

趣向を変えて来たようだった。


「(いやでも…やっぱりそのファッションはないな。)」


しばらくすると見慣れてくるかと思ったが、

何回見てもやっぱりダサ…奇抜だった。


「…ようするに、グレアには正体を隠して剣術を教えようっていう感じですかね?」


放っておくとファッションにばかり意識が向くので、なんとか話を戻す。


「ああ、そういうことだ。

この格好の時はそうだな…ナナシとでも呼んでくれ。」


ゲオルギス…もとい、ナナシはそう言った。


「(…名無し?

偽名にしてはあからさますぎないか…?

まあ、俺が名乗るわけでもないし…別に何でも構わないけど…)」


色々と引っかかるところはあったものの…

そんな感じで剣術指導は始まることになった。



グレアへの剣術指導だということでアルトは部屋に戻ろうとしていた。

しかし、グレアが呼び止める。


「どこに行くのよ?」


「…?

剣術指導でしょう?

僕は部屋に…」


そう言いつつアルトは再び背を向けようとするが、

その襟首をグレアが掴んだ。


「ぐうぇ…!?」


「何言ってんのよ。アンタもやるのよ?」


襟首をつかんだまま、グレアはそう言った。


「…は!?」


だが、アルトは魔術士だ。

身体を鍛える一環でバルトから体術を教わっていたものの、

基本的にそこは変わらない。


「お…僕は魔術士ですよ!?」


「ふん!だからなんなのよ?

魔術士だからって剣術を学ばない理由にはならないわ。」


グレアはさも当然のように言い放つ。


「(まあ…それはそうなのだが…)」


グレアの言い分にも一理ある。


実際、アルトは魔術士でありながら、

バルトから体術も学んでいた。


魔術士であること=剣術を学ばないことではない。


「一応、僕も家庭教師として伯爵家に雇われている立場なので…」


だが、アルトは建前もあり…固辞しようとする。

しかし…


「だったら何よ?

別にいいじゃない!

ていうか、雇われている立場っていうなら私の言うこと聞きなさいよ!」


アルトは別にグレアに雇われているわけではないが…

なんにせよ、グレアは思いのほか頑固だった。


「(…なんでそんなに俺に剣術させたがるんだ?

別に俺がいなくても剣術は出来るだろ…)」


元々は呼ばれてもいなかったし、

いなくても別にどうにかなるはずだ。


自分にこだわる理由がイマイチわからず困惑したアルトは

ナナシに助けを求めるように目で訴える。


「アハハ…俺…あ、いや…私としてはどちらでも構わないよ。」


ナナシは別人として振る舞おうとしているからか、

口調がいかんせん安定していないし、

求めている反応はそれじゃない。


「ゲオ…じゃないや…ナナシさん。

そうではなくて…教わるにしてもお金とか道具もないですし…」


アルトは自分にこの世界基準のまともな金銭感覚がないのはよく理解していた。

だが、ゲオルギスはかなりの剣の腕だ。

そんな人物に教わるともなれば、とんでもない金額になるかもしれない。


それだけが理由ではないが…

一応、学園に行くための資金稼ぎで家庭教師の仕事をしているのに、

下手すりゃそれ以上の金額が飛びかねないのはさすがに困る。


それゆえにアルトは断ろうとしていたが…


「何を気にしているのかと思えばそういうことか…お金はいらないし、道具はウチにある。

グレアに教えるついでだから、別に気にしなくていいよ?

本当に嫌なら部屋に戻っても構わないけど…」


「(けど…?)」


「…強くなりたいんだろ?」


あまり乗り気ではない様子のアルトに、

最後の方は囁くようにゲオルギスは言った。


「(ん?

そんなこと言ったことあったっけ…?

いや、確かに強くはなりたいけど…。)」


格好の胡散臭さもあるのかもしれないが、

言った覚えのない内心を言い当てられ、

アルトには若干の猜疑の色が浮かぶ。


「あはは…本人からは口止めされてたんだけど…実は、バルトから頼まれてたんだよ。

アルトに剣術を教えてやってほしいってね。

教える時間もとれなそうだったし、色々あって一度は断ったんだけど…

グレアに教えるなら丁度いい機会かなって思ってね。

個人的にはグレアの練習相手として付き合ってくれると助かるんだけど…どうかな?」


アルトが不信がっているのが伝わったのか、

ゲオルギスは笑ってそんなふうに言った。


「(いや、たしかに父さんには言ったわ。

あれを覚えてて、わざわざ根回ししてくれてたのか…)」


バルトはそんなところまで考えて、この家庭教師の仕事を手配してくれていたらしい。


「(こりゃ、足を向けて寝れねえなあ…方角とかわかんねえけど。)」


色々考えはしたものの…ここまで言って、やってくれているのだ。

せっかくだし、教えてもらおう。という結論に至った。


「…よろしくお願いします。」


「アハハ、こちらこそ。」


そんなこんなでアルトも一緒に剣術を教えてもらえることになった。


「(休日に部屋から引きずり出されてホントはちょっとめんどくさかったんだけど…

こうなるんだったら、まあ悪くはなかったか…?)」


休日に連れ出されたことで望外に喜ばしい結果になった。


魔術に体術に剣術に…とどんどん増えて、ちょっと欲張りかもしれない。

だが…全力で生きると決めたんだ。

自分に限界なんて決めず、目いっぱいやったらいいさ。



「九百九十八ッ…九百九十九ッ…千ッ!…」


数え終えた直後、アルトは地面に倒れこんだ。


「(…ハア…ハア…いきなり素振り千回は腕取れるって…)」


練習用の木剣を渡され、

まずは剣術の基礎となる素振りから始まったのだが、

これがなかなか…いや、かなりキツかった。


「なによ…だらしないわね…」


グレアは呆れ気味にポツリと零す。


グレアも隣で同じ量の素振りをしていたはずなのだが、

アルトがバテバテになっているのとは対照的に

けろっとした顔をしていた。


「(はあ…はあ…

アイツ…体力お化けかよ…?)」


アルトもバルトから体術を習っていたのもあり、

普通の子供に比べれば体力はあるほうではあるのだが、

それでもバテバテになっていた。


だが、グレアは平然とした顔でほとんど疲労の色が見えない。

お前の体力は底なしか!?と言いたくなるのも無理はなかった。


「あはは…アルトの剣の振り方には無駄が多いね…

だから、バテるんだよ…」


ナナシは笑いながら、言った。


「(ま、まあ…俺は剣を振ったの初めてだしぃ…?)」


言い訳がましいが、

前世を含めても、別に剣道とかをやっていたわけでもないし、

修学旅行のお土産で木刀に触れたことがあるくらいで、

剣自体、握ったのは初めてだったのだ。


無駄が多くても仕方ないはずだ。と、アルトは思っていた。


「グレアは…さすがだね。

初めて剣を握ったにしては、

無駄が少なかったし、かなりセンスあるよ。」


ナナシはグレアにも笑いながら言ったが、

グレアはこくんと軽く頷いただけで口は開かない。


グレアはどうやらナナシとの距離感をつかみかねているらしく、

借りてきた猫みたいにおとなしくなっている。


まあそれでも、満更でもなさそうな表情はしているので、

褒められて嬉しいのは嬉しいのだろう。


「(…ってか、グレアも初めて剣を握ったのかよ!?)」


アルトが驚くのにも訳がある。


アルトは自分自身が剣を振りながらも、

ちょくちょく隣でグレアが剣を振っているのを見ていたのだが、

グレアはこれまでの荒っぽさには似つかわしくないほど…

かなり綺麗に剣を振っていた。


あれだけ見れば、とても初心者だとは思えなかったのだが、

よく考えれば、そもそもこれまでは剣術を教えてもらえていなかったのだ。

剣を握ったことがないのは当然だった。


「(これが才能ってやつなのか…?

いや、なんでも才能って言葉で片付けんのは良くねえよな…

グレアも俺の知らねえところで努力してたのかもしれねえし…)」


二人とも同い年で、

どちらもまだスタート地点に立ったばかりのはずなのだが、

その差は歴然で、まるで月とすっぽんだった。



アルトはあまりのセンスの差に軽く打ちのめされつつも、

しばらくの休憩の後、剣術指導は次の行程に移ろうとしていた。


「準備運動はここまでにして…ここからが本番だ。

これから私が教えるのは三大剣術の一つ。

天神流。その基本的な型…ってどうした、アルト?」


ナナシは剣術の実際の型の演習に移ろうとしたが、

ぽかんとした表情のアルトを見て話を止める。


「え、えーと…

三大剣術や天神流ってなんですか…?」


目の前にいるナナシ…もといゲオルギスが

その天神流の剣王だというのは聞いたことがあったが、

そもそも三大剣術や天神流ってものについて詳しく知らなかった。


「え!?…アンタ、三大剣術を知らないの!?」


アルトの言葉に、グレアが驚いた様子で言った。


「(そんなに驚くことか?)」


アルトは逆にグレアの驚き具合に驚いていた。


「…まあ、アルトは魔術士だからね。

知らなくても無理はないよ。」


ナナシはそう言いつつ、話し始めた。



三大剣術。

それは三大流派ともいわれる剣術の流派の総称であり、

その名は世界的に広く知れ渡っている。


三大流派は天神流・海神流・地神流の三つの流派からなり、

その三つの流派のうち、

もっとも攻めに重きを置いたのが天神流という流派である。


そして、この三大剣術は七大魔術などと同様に、

初級・中級・上級・超級・聖級・王級・帝級・神級の位階分けが存在する。

超級までは各流派の初級剣士、中級剣士、上級剣士、超級剣士と呼ばれ、

聖級以上は各流派の剣聖、剣王、剣帝、剣神と呼ばれる。

(魔術士はどの位階でも、○級~魔術士と呼ばれる。※○には位階、~には属性が入る。)


剣術は魔術と同様に上級となることで一人前とされる。

一生かけても、上級止まりの剣士も多くいる中で、

ナナシ…もとい、ゲオルギスは天神流の『剣王』。

若くして、天神流の中でも上から三番目の位階の称号を持つ屈指の強者であった。


「(そんな相手に教えてもらえるのかよ…)」


これまでもアルトはバルトには体術を、

ステラやテレーゼには魔術を教わってきた。


彼らも実力者ではあるのだが、

いかんせん、アルトはその実力を図りきれていなかった。


しかし、ゲオルギスは彼らとは違い、

実際にその力の一端を目の当たりにする機会があり、

強さを示す指標として、

彼の持つ称号はとてもわかりやすかった。


先ほどまでは同世代であるグレアとの差に打ちひしがれていたが、

今ではアルトの闘志は燃え上がっていた。

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