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第三章 少年期・家庭教師編:駆け抜けてボブスレー

<Side:アルト>


翌日。

陽が昇り始めた頃…


街道を半透明な流線形の物体が凄まじい速度で移動していた。


「ちょっと!しっかりしなさいよ!

ぶつかるじゃない!」


「いや!前がほぼ見えないんだって!」


その中には二人の子供…グレアとアルトが前後に並んで乗っていた。


半透明な物体は…魔法陣を書き換え、変形させた結界だ。

形状だけで言えば、ボブスレー…というやつだろうか。


アルトは昨日の着地時の反省を活かし、

結界の中に入っていても魔術を使えるように…

魔術を少し改良していた。

具体的には魔力を結界の外に出せるよう、小さな穴を開けたのだ。


風魔術を推進力にして進むことで、

アルトとグレアの二人は

とんでもないスピードで移動をしていた。


「(さすがに大丈夫だとは思うが…

追手が来ないとも言い切れない…)」


さすがにあの高さから落ちた子供が生きているなんて

考えるはずもないだろうとも思ったのだが…

懸念は考えれば考えるほどに大きくなっていた。


それ故に、なるべく速くゲルダの街に戻ろうというのが

アルトの考えだった。


そんなことを考えていると…


「アルト!右よ!」


グレアからの指示が飛ぶ。


この流線形の結界…

もとい、乗り物はアルトの魔術を推進力にしている都合上、

アルトは身体を半分、進行方向とは反対方向に向けていた。

前方に座っているグレアの案内を頼りつつ、

アルトは操縦していた。


「(にしても…かなり揺れるな…うぷ…)」


揺れの原因は自身の魔術だが、

ひどい揺れによって若干気持ち悪くなっていたアルトであった。



「アルト!見えて来たわ!

ゲルダの街よ!」


爆速で移動すること数時間。

どうやらゲルダの街が見えて来たらしい。

だが…


「…うん…そだね…」


そう返事をしたアルトの顔は青を越えて真っ白になっており…

完全にグロッキーだった。


「しっかりしなさいよ…アルト。

操縦しているのはアンタだし、

止められるのもアンタだけなのよ!?」


「(止める…?…あ。)」


アルトは何かを思い出したような顔をし、

グレアの方を向いた。


「グレアさん、これどうやって止めるんです?」


なぜかアルトは敬語でグレアに問いかける。


「…?…アンタが作ったんだし、アンタなら止めれるはず…

…ってまさか!?」


アルトの様子を訝しみつつ、

途中まで言ったところで

何かに気づいたようにグレアの表情が一変する。


この乗り物にはハンドルは存在しない。

アルトの風魔術で方向調整や加速をしていた。

そして、ハンドルが存在しなければ、

ブレーキなんていうものも、もちろん存在しない。


そして、構造と配置の都合上…後方にしか魔術を作り出せない。

より正確に言えば、前方に作れないこともないのだが、

高速で移動している現状ではどう考えても無理だ。


それはつまり…この乗り物はブレーキの壊れた(まあ、端から存在しないのだが。)

暴走列車のような状態ということ。


「僕にも止められませんね。」


アルトは止まる時のことを全く想定していなかった。


「アルトのアホ!バカ!オタンコナス!」


グレアの罵るボキャブラリーは貧困だ。

まるで小学生…まあ、年齢的にはそれぐらいなので別におかしくはないのだが。


「(オタンコナスなんてのはきょうび聞かねえなあ…)」


たしか、出来損ないのナス…的な意味だったはずだが、

そもそも、この世界ではナスを見たことがない。


存在しないのかまだ見たことがないだけなのかはわからないが、

存在しても野菜の名前も違うこともちょくちょくあるのに…

どんな言葉があって、どんな言葉がないのか

アルトにはイマイチわからなくなっていた。


「にしても…」


「え!?もしかして止める方法思いついたの?」


グレアは慌てつつも、何とか止めれないか思案しているようだったが、

何か言いかけたアルトに期待を寄せるような視線を向ける。


「オタンコナスって…ププ…ぶげ…」


緊迫感もなく暢気に思い出し笑いをしていたアルトは

グレアに無言で殴られたのであった。



「まったく…ひどい目にあったわ…」


「そうですね…」


止める手段がないと思ったものの、

よく考えれば、動力はアルトの風魔術だ。

ただ単に風魔術で加速するのを止めればいいだけだということに

アルトは途中で気づいた。


風魔術による加速を止めたことで徐々に減速していき、

なんとか街の手前ギリギリ(まあ、街を覆う外壁に若干ぶつけ…こすってしまったのだが)で

停止することに成功し、二人とも大きな怪我はせずに済んだ。


「あの…グレアさん…ちょっと肩を貸してくれませんかね…」


アルトは未だにグロッキー状態が続いており、

グレアに助けを求める。


しかし…


「…知らない。

自業自得だわ…。」


さっきのことを根に持っているのか、

グレアは知らんぷりをした。


それでも、アルトを置いて行くつもりはないようで、

近くで腕を組んで待っていた。


「…もう大丈夫なの?」


「ええまあ…まだちょっと気持ち悪いですが、

だいぶマシにはなりました。

休むのは戻ってからでも出来ますしね…」


しばらく休んで多少はマシになったので、

二人はゲルダの街に入ることにした。


街の入り口で門番らしき人に身分証を求められて一瞬困ったが、

一緒にいたグレアに気づいたらしく、

ちょっとした騒動が起きたが、顔パスで通してもらえた。


どうやら、アルトとグレアが姿を消してから丸一日近くが経っており、

行方不明扱いで捜索隊が組織されていたところだったらしい。


「(良かった…行き違いにならなくて…)」


二人の帰還を受け、

門にいた門番さんが送ってくれるなんて話も出たのだが、

街の入り口から領主邸までは子供の足でも十数分もあれば着く。

仕事の邪魔をしても悪いので、固辞した。


だが、それは断るべきではなかった。


きっと、街に着いたことで…すっかり安心しきっていたのだ。

二人が攫われたのは…街の中だったというのに。


「…グレ…ア…?」


しばらく歩き。

ふと振り向いた時には、

アルトの視界にグレアの姿はなかった。


街に入る前の騒動でグレアは怒っていたのか

アルトから少し離れた後ろの方を歩いていた。

だが…間違っても見失うわけはない。

たかが数瞬、目を離しただけだ。


にもかかわらず、グレアの姿は消えていた。


「(まさか!?)」


すぐ近くには…路地があった。


慌てて…アルトは駆ける。


「んんん!」


「おとなしくしやがれ!」

「まさか本当に生きてやがるとはな…」


グレアが昨日の人攫いたちに裏路地に引きずり込まれていくのが見えた。


まさかこんな白昼堂々…そうは思いつつも、


「待てッ!」


アルトは未だ本調子とは程遠い身体に鞭を打ち、後を追いかけた。



グレアが抵抗を続けているのか人攫いたちの逃走はそれほど早くなく、

徐々に距離が詰まっていた。


「(この距離なら!)」


アルトは逃げる人攫いたちの前方に魔術で土壁を作り出した。


「なんだこれは!?」

「奴だ!船にも乗っていた奴の仕業だ!」


逃走の足を止め、人攫いたちはアルトに向き直った。


「(二人…もう一人はいないのか…?)」


二の轍は踏まない。

後方にも警戒しつつ、アルトは制圧するために魔術を行使しようとする。


だが…


「おい!ガキィッ!

その魔術を止めろぉ…

このガキがどうなってもいいのかぁ…?」


子供相手に人質とは…

なかなか見下げた良い根性をしている。


「一度発動した魔術は途中では止められないんですが…」


「おい、あんな風に言ってるが本当か?」

「ああ。それは確かだが…」


まあそれは一般的(・・・)には…だ。


アルトにとってはもちろん嘘だ。

やろうと思えば、消すことくらいは簡単だ。

発動しないように魔法陣を書き換えればいいだけなのだから。


アルトは魔力で抑え込み…いわば、いつでも発動できるような状態でストックしていた。


「じゃあ、空にでも放っとけ!」


「らじゃー」


アルトは気の抜けた返事と共に魔術を空へと向けて放った。


ぽひゅーん。


そんな間抜けな音と共に空に向かって飛んで行った魔術は…

ある程度の高さまで上がった時…爆ぜた(・・・)。

すさまじい爆音と共に。


発動した魔術は炎・光の混成魔術。


アルトは保持していた魔法陣を書き換え、

疑似的な閃光弾のような魔術を発動したのだった。


だが、この魔術は見た目こそ派手なものの、

そこまでの威力はない。

さすがに市街地ではそんなバカでかい威力の魔術は使えないのだ。


「(これで諦めて撤退してくれたらいいんだが…)」


アルトはそう思っていたが、

物事はそう上手くはいかない。


アルトの放った魔術は相手に驚きこそ与えたものの…

戦意は依然として衰えてはおらず…


「ちっ…お前はそのガキを抑えとけ!俺がやる!

所詮、相手は魔術士!しかもガキ!

この距離なら俺らの間合いだ!」


人攫いの一人が抜剣し、アルトに迫る。


昨日、グレアをボコボコにし、

アルトにも蹴りを入れたアイツだ。


だが、アルトは既にそれを見越して魔術を構築していた。


「(遅い!)」


いくらこの距離が剣士の間合いでも、

先んじて魔術を用意していたアルトの方が早い。


「【風撃(ウィンドインパクト)】!!」


中級風魔術:【風撃(ウィンドインパクト)】…その名の通り、不定形の風の塊をぶつけるだけのシンプルな魔術。

だが…アルトの手によって、威力は通常のそれとはまったく異なっていた。


「がは…」


アルトに対面していた人攫いは壁にめりこみ…気絶した。


「(やべっ…!

威力高すぎたか…?)」


昨日の仕返しにしては威力が違い過ぎて、

威力の加減ミスったか…なんてアルトは一瞬、思考が脇に逸れた。

その隙を見逃さなかったのか…

グレアを捕らえていたはずのもう一人の人攫いが抜剣し肉薄していた。


「(あれ!?グレアは…!?)」


グレアはお腹を押さえ、地面に倒れこんでいた。


何をされたのかはわからないが、

ぴくぴくと動いてはいるので、

意識はあるのだろう。


「魔術を使う隙は与え…」

「…対策…済みだ!」


アルトは振り下ろされる剣の側面を叩き、ぬるりと受け流す。

そして、返す拳で顎を打ち抜く。

打ち抜きながら、


「(そういえば俺もグレアにやられたなあ…)」


なんて今はあまり関係ないことを考えていると…


「アル…トッ!…後…ろっ!」


グレアは焦ったように声をなんとか絞り出した。


だが、その声が届いた時には既に…

潜んでいた三人目がアルトの背後へと迫っていた。


「(知ってるさ…昨日やられたんだ。)」


あの時は三人目の存在に気づかず、

意識を刈り取られてしまったが、

今回はもう一人仲間がいることはわかっていた。

だから…アルトは備えていた。


「【風撃(ウィンドインパクト)】」

「な!?馬鹿な!?…」


アルトは振り返りもせずに三人目を打ち抜き、

相手は驚愕に満ちた表情で吹き飛ばされていく。


しかし、驚くのも無理はない。


本来なら、魔術というのは一度に発動できるのは一つの魔術のみ。

一度魔術を発動すれば、次の魔術を構築するまで少なくとも数秒のインターバルは発生する。

その隙をついて攻撃したはずが、

発動できるはずのない魔術によって、逆に吹き飛ばされたのだ。


アルトがしたのは至って単純。

魔術を一つ保持した状態で、さらにもう一つ魔術を構築したのだ。


その名も…【並行(パラレル)詠唱(キャスト)二重(デュアル)魔術(マジック)】。


アルト自身が今はまだ慣れていないのもあり、

低い位階の…しかも、同じ魔術同士でしか

発動できないという欠点はあるものの、

その効果は絶大な…高等技術であった。



「…すごい…」


グレアはそう呟きつつ、

未だに痛む身体を引きずって、

アルトの方にゆっくりと近づいていく。


アルトは普段、魔術を趣味レベルでしか使わないが、

こと戦闘において、

魔術を解禁したその力は並の大人を優に超えていた。


グレアにとって、その強さは衝撃的だった。


「(…ふう、なんとかなった…)」


アルトはふっ…と一息つき、グレアの方を向き直る。


三人とも倒した。

そう思い込み、二人は油断してしまっていた。


…平時の体調であれば、

アルトの拳は確実に相手の意識を刈り取っていただろう。


しかし…アルトは本調子ではなく…拳には十分な力が籠っていなかった。

それでも…脳を揺さぶり、動けなくする程度の威力はあった。

だが、意識ははっきりと残っていたのだ。


「くそ…がっ!…」


意識の残っていた二人目の人攫いは

思うように身体は動かないにも関わらず…剣を()げた。


「(…?…はっ!?…そんなんありか…!?)」


あまりにもやぶれかぶれで…予測不能。


アルトは物音で投擲自体には気付いた。

だが…グレアは気付いていない。


日頃の鍛錬により、アルトの魔術の構築速度はかなり速い。

たった三秒。それだけあれば、

何らかの魔術を発動し防ぐことが出来ただろう。


しかし…


「(魔術は…ダメだ!もう間に合わない!)」


グレアは人攫いとアルトを結ぶ直線上にいる。

アルトより人攫いの近くにいるグレアに

剣が直撃するのに三秒もかからない。


魔術が発動する前に、グレアに剣が到達してしまう。


「(…俺は…また……え?…)」


なぜか無意識のうちに頭に浮かんだ言葉。

だが、今はそれどころではない。


「グレア!」

「え!?なに?」


一瞬、思考にノイズが混じりながらも、

とっさにアルトはグレアに駆け寄り…覆いかぶさった。


「(…致命傷は避けろよ…俺!)」


致命傷でなければ治せる。

アルトは痛みを覚悟し…眼を閉じた。


五秒…


十秒…


時間は静かに流れる。


しかし、訪れるはずの痛みは、

経っても一向に訪れなかった。


「(んん?…あれ…?)」


訪れるはずなのに訪れない痛み。

不思議に思ったアルトは恐る恐る瞼を開いた。


投げられたはずの剣はなぜか地面に落ちており…

その側には、ここ数日で見慣れた男が立っていた。


「やあ、アルト。グレア。

心配したけど…二人とも元気なようで良かったよ。

とりあえず…おかえり。よく帰って来たね。」


その男の名はゲオルギス・ゲルナンド。

グレアの叔父で、

この街、ゲルダの街を領都とする

ゲルナンド領の領主を務めるゲルナンド伯爵家の当主である。


そんなゲオルギスは剣を片手に立っており、

その姿は…なんだか妙に様になっていた。

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