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第三章 少年期・家庭教師編:誘拐

<Side:アルト>


何かに揺られるような振動でアルトは目を覚ました。


「(…?…ここは…どこだ…?)」


真っ先に目に入ったのは見知らぬ天井。


まだゲルダの街に来て一ヶ月も経ってないので、

割り当てられた部屋の天井も見慣れているわけではないが、

それにしても、初めて見る天井だった。


「(知らない天井だ…とでも言えばいい…ぐべ!)」


アルトはしょうもないことを考えながら立ち上がろうとし…

そのまま顔面から床にダイブした。


「ふぃふぇえ!…ふぁんへ…っふぇふぃふぁふぁふぇふぇふ!?

(いてえ!…なんで…って縛られてる!?)」


今の今まで気づかなかったが、

アルトは口に猿轡のようなものを噛まされ、

両手は後ろ手に縛られており、両足も縛られていた。


その事実に気づいた時、アルトは意識を失う前のことを思い出した。


「(そういえば…人攫いみたいなやつらに遭って…

後ろから来た三人目に不意打ち食らったんだっけ…)」


言われてみれば、後頭部がほんのり痛い気がする。

それよりも顔面の方が痛いからあまりわからないのだが。


アルトは一旦、治癒魔術を自身にかける。

そして、あたりを見回す。


アルトがいる部屋はちょっと狭めのワンルームくらいの広さなのだが、

少し作りが特殊だった。


出入口らしき扉との間には鉄格子のようなもの…というか鉄格子だ。

それに区切られていた。


「(ここは牢屋かなにかか…?)」


アルトには牢屋に入れられるような覚えもないし、

牢屋に入れられるようなことをした記憶もないのだが、

今、アルトがいるのはまぎれもなく檻の中だった。


「(あれ…ん?)」


アルトの近くに麻袋が転がっており、

その麻袋には見覚えがあった。


「(もしかして…あれの中身はグレアか?)」


麻袋は若干膨らんでいて、

丁度、子供一人分くらいの大きさだった。


おそらくグレアが詰め込まれていたものと同じものだと思われるので、

中身は十中八九、グレアだろう。


「(ははーん。

だいたい状況が読めてきた。

あのグレアを攫おうとした人攫いに俺も攫われたんだ。

…え?ヤバくね?)」


冷静に考えれば、なかなか…いや、かなりヤバい状況になっている。


どれくらいの時間意識を失っていたかもわからないが、

アルトに土地勘はほぼない。

ゲルダの街の中でも自身はないが、

もし…ゲルダの街から出ていたとしたら、

帰れる自信が全くなくなってくる。

脱出するのであれば、早急にしなくては。


「(とりあえず…)」


最低出力の炎魔術を使い、

手と足の縄を焼き切り、猿轡を外す。


「(あっつ…)」


さすがに見えないと制御が難しく、

アルトはちょっと加減をミスって両手を火傷してしまった。

が、これも治癒魔術で治す。


「さて…」


アルトが麻袋の中身を確認すると、

やはり中に入れられていたのはグレアだった。


グレアはボロボロで意識がなく…

口には猿轡を噛まされ、手足をアルトと同じように縛られたうえで、麻袋の中に入れられていた。

ここまでするなら、わざわざ麻袋に入れんでも…と思うのだが、

この狂暴お嬢様相手ならこれくらいで丁度いいのかもしれない。


「(…治癒魔術くらいかけてやるか)」


アルトははっきり言ってこの暴力系お嬢様のことは嫌いだが、

女の子がボロボロになっているのをほったらかしにするほど鬼畜でもなかった。


「(一応は雇い主…いや、よく考えればまだ雇われてはいないか。

何も教え始めれてもないし。)」


嫌いな相手を治療する口実を作るために、

色々と考えていると引っかかる部分があったが、

まあそこは今はいい。


どっちにしても、グレアはゲオルギスの従姉妹だし、

ここに置いていく選択肢はアルトにはなかった。


アルトはグレアに治癒魔術をかけ…猿轡を外した。


「お嬢様…起きてください。」


グレアの身体を揺らしながら…声をかける。

すると、パチリと目を開いた。


「お嬢様、何者かが…」


アルトが状況を説明しようとするが、

その前にグレアが叫んだ。


「誰よ!?この私をこんな目に遭わせるなんていい度胸ね!

ぶちのめしてあげるわ!」


頭が痛くなるほどの大きな声だった。


「(おいおい…そんなことしたら…)」


ドカドカと誰かが近づいてくる音が聞こえる。


アルトはとっさに自分がつけられていた猿轡と縄で縛られているふりをする。


「るっせえぞ!クソガキ!」


そう怒鳴りながら入ってきたのは人攫いの一人。

さっき(と言っても、アルトが意識を失う前だが…)見た服装とは違い、

若干小奇麗な装いになっていた。


「私をこんな目に遭わせたのはアンタね!?

この縄ほどきなさ…って臭!?…

アンタ臭いわ!」


いくら小奇麗にしていても、

貴族の縁者であるグレアにとっては

耐えがたい匂いだったらしく、

グレアはそう言い放つ。


「(ちょ…いくら臭くてもこの状況で口に出したら…)」


沸点の低そうなこの男が

この後にどんな行動を取るかは火を見るより明らかだった。


「…近寄んない…ぐうぇ…」


「うるせえんだよ!クソガキ!」


人攫いの男は顔を赤くして、グレアを執拗に何度も何度も殴り、蹴りつける。


「…!…おい、止めろって!

死んじまうぞ!」


騒ぎを聞きつけたもう一人の人攫いが止めるまで

その暴行は続いた。


「クソが!」


イラつき混じりの男は

去り際についでとばかりにアルトを蹴りつけ、去って行った。


「(ぐっ…!?)」


もう一人の人攫いは不思議そうな顔をしながら呟く。


「にしても…麻袋にいれてたし、猿轡してたはずなんだけどな。

なんかの拍子で外れたのか…?…それとも、誰かが外したのか?」


「(ギク…)」


もう一人の人攫いは首を傾げつつも、

そのまま去って行った。


「(ふう…)」


一瞬バレるかとヒヤヒヤしたが、

アルトに意識はむいていなかったらしい。


「(さて…)」


「…かひゅー…かひゅー…」


グレアはさっきよりも重症だった。

血まみれで骨も折れているかもしれないし、

もしかすると内臓も傷ついているかもしれない。


さすがにほっておくわけにはいかないので、

アルトはグレアに治癒魔術をかけた。


「…ちょっと…まだ…痛い…わよ…」


グレアが蚊の鳴くようなか細い声で言った。


「全部治したらまた大声を出すでしょう?

さっきは僕も蹴られちゃって痛かったんですからね?」


…そう。

アルトは意図的に治癒魔術を調整していた。


さすがにもう蹴られるのは御免だったのだ。


「…出さない…から…治し…なさいよ…」


「(本当かなぁ…?)」


この暴力系お嬢様にはそこまでの信頼はない。

むしろ、あの日頃の蛮行で信頼があるほうがおかしいだろう。


「(まあでも…一度痛い目を見て、さすがに学んだだろう。

ボロボロの女の子相手に意地悪する趣味もないし、

さっさと治してあげるか…)」


アルトはグレアのことを嫌いと言いつつも、

なんだかんだ言って、優しいというか…甘かった。

間違っても、あれだけボコボコにされた相手にする対応ではない。


「…よし…もう痛くないわね…」


グレアは身体の痛みが消えたのに気づき、

そう口にするが、

もう既にその声がデカかった。


「しぃー!」


慌てながら、アルトはグレアを静かにさせようとする。


「うっさいわね!指図すんじゃないわよ!

ていうかさっさとこの縄も解きなさいよ!」


アルトは読み違えた。


どんな獣でも一度痛い目を見れば学習するが…

彼女はそうではなかったらしい。


あまりの大声に人攫いの連中が気づいたのだろう、

ドカドカと大きな足音が聞こえる。


「(こうなったら…もう仕方ないか…)」


「そうですか…

そんなに僕の言うことを聞きたくないのであれば、

もう知りません。

勝手にしてください。さようなら。」


ドゴン。

背後の壁を魔術で壊しながら、アルトは言った。


「待ちなさい!私も行くわ!連れて行きなさい!」


「嫌です。

言うことを聞けない貴方を連れていくつもりはありません。」


話も聞かない暴力的なグレアを連れて逃げるなんて、

アルトにとっては、ただの足枷でしかない。


「…な!?…置いてくなんて嘘よね…」


背後からそんな声と人攫いたちの怒号が聞こえるが、アルトは無視して去ろうとする。


「いや!ごめんなさい!謝るから助けて!

言うことも聞くから!」


人攫いの怒号にさっきの痛みを思い出し、

よっぽど切迫したのかグレアの声に泣きが混じる。


「(気の強いお嬢様の泣き顔なんてのはちょっとそそられるものがあるけど…

ってそんなことを言ってる場合じゃない。)」


一人だけ暢気に思考を脱線させていたが、

そんなに悠長にしている時間はない。


「(…しょうがないな。まったく…)

…言いましたからね…約束ですよ。」


アルトは縛られたままのグレアを担ぎ上げ、

人攫いたちとの間に土魔術で壁を作る。


「な、なんだこりゃ!?いきなり壁が!?」

「これは…魔術!?

だとしたら…気を付けろ!相当な手練れだぞ!」



「動かないでくださいね。」


アルトはグレアを担いで走りながら、

自分の縄を切った時のように炎魔術でグレアの縄を焼き切る。


「あ…ありがとう。」


「縄は切ったので、ここからは自分で走ってください。」


「アンタ、意外と優しくないわね!?」


グレアが叫ぶように言うが、アルトはスルーする。


「(身長差的に抱えて走るのは疲れるんだよ。

グレアの方が俺よりもちょっと…ほんのちょっとだけ背が高いからな。)」


実際のところ、グレアの方が五~十㎝くらい背が高いのだが、

それをちょっとと言ってしまうのはだいぶ厚かましい気もするが、

そもそも、今はそんなことを言ってる場合ではない。


アルトは壁を破れば外に出ると考えていたのだが、

もう既に二つか三つほど、

壁をぶち抜いているのに、

壁の向こうには別の部屋。

その向こうにはまた別の部屋とずっと続いていた。


ここがどこかは未だにわからないが、

体感ではこの建物はかなりの広さがあることになる。


「(ま…いいか。

全部ぶち抜いていけば、いつか外に出るだろ。)」


アルトは思ったよりも…脳筋だった。



いくつかの部屋の壁をぶち抜いて…

ようやく壁はなくなった。


しかし、アルトはいきなり立ち止まる。


「!…ちょ…いきなり止まらないでよ!

危ないじゃない!」


後ろを追走していたグレアは

危うく激突しそうになり、

アルトに非難めいた眼差しを向ける。


だが、アルトはそれどころではなかった。


「(道が…ねえ…)」


今まで進んできたところも別に道ではなかったのに、

何を今更。といった感じだが…

壁をぶち抜いて出てきたその先には、

道どころか…なにもなかった。


見えるのは…雲一つない夜空。


無論、別に空を見上げたわけではない。

壁をぶち抜いた先に…この景色があったのだ。


それが意味するのは…つまり…


「(…空を…飛んでいるのか!?)」


アルトたちは意識を失っている間に…

空飛ぶ船に乗せられていた。


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