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第二章 少年期・初めての友達編:ゲルナンド伯爵

<Side:アルト>


「紹介するわね。彼がゲオルギスで、彼女がリザ。」


屋敷に帰ってきたテレーゼが二人を紹介する。


「は、はあ…初めまして。」


アルトは困惑気味に返す。

目の前にいるゲオルギスはボコボコだ。

その下手人はアルトのすぐ側にいる女…テレーゼである。


玄関のところで騒がしくしていたところを…バルト共々、ボコボコにされたのである。


「(あの父さんが…ボコボコって…母さんは何者だよ…)」


以前にも一度大暴れしていたのは見たことがある。

しかし、バルトは曲がりなりにも…『格闘王』と呼ばれる人物なのだが…


「初めまして…ではないんだけどね。

紹介のあった通り、私はリザ。

にしても…しばらく見ない間に随分と育ったわね。

もうあの二人よりしっかりしてるんじゃないかしら?」


リザはゲオルギスと呼ばれた男と漫才のようなやり取りをしていた

さっきまでとは違った優しい表情でアルトに話しかける。

まるで面識でもあるかのように。


「(…?)」


アルトには転生してから…あの日、屋敷で目覚めた時からの記憶はほぼ全て残っている。


ましてや、リオス村は小さな村で、

出会う人の数もそう多くはないこともあり…

さすがに会ったことがあれば覚えていないはずはないのだが…

アルトには目の前の…リザと名乗る女性と会った記憶はなかった。


アルトが胡乱気な顔をしていると…リザは笑いながら言う。


「実は…私たちとは前にも会ったことはあるのよ。

もっとも、アルトは生まれたばっかりだったし覚えてないだろうけどね。」


どうやら、アルトが屋敷で目覚めたあの時よりも…

さらに前にリザとは顔を合わせていたらしい。


いくら記憶力が良くとも…そこまで戻られたら、

さすがにわかるはずもない。


「ええと…そろそろ本題に入らない?」


話が逸れて行っているのを見て、

テレーゼが軌道修正に入る。


「ああそうね…私たちはあなたを迎えに来たのよアルト。」


「迎えに…ですか?」


なんのこと?と言わんばかりの顔で…アルトは首を傾げる。


「ええ、バルトから頼まれた件でね…」


「(バルトから…というと、もしかして…例の件だろうか?)」


アルトがそう考えていた時…

ゲオルギスと呼ばれていた男は口を開いた。


「そのためにはお前の力を見せてもらうぞ…アルト。」


ボコボコにされた顔のまま…

ゲオルギスはキメ顔でそう言った。



「アルト!お前凄いな!

てか…どうやったんだ?…これ?

その年でこんなこと出来るやつ他にはいねえよ!

というか、魔術士の中でもこんなこと出来るやつの方が少ないだろ!?」


ゲオルギスは興奮しているのか口調が乱れていた。

さっきまでは威厳ある風だったのに…台無しである。

(まあ、ボコボコにされてる段階で威厳もくそもないが。)


一体、何をしたのかというと…


力を見たい。ということなので…

アルトは魔術を目の前で実際に使ってみせたのだ。


だが、屋敷の側ということもあり…

あまり大規模で危険な魔術は使えない。

そういうわけでアルトが使ったのは自作の魔術。


端的に言えば、魔法陣を複数組み合わせることにより…

複雑な造形物を作り出す魔術だ。


メインとなる土魔術の魔法陣に

造形の項目だけを設定した補助の魔法陣を複数組み合わせることにより、

ゲオルギスを模した一分の一スケールの土製人形…

要は等身大のフィギュアのようなものを作り出したのだ。


「(喜んでくれてるのはいいんだが…この魔術、欠陥まみれなんだよな…)」


まず一から作っているのでかなり時間がかかる。

人型のベースとなる型を作ってあるので完全に一からではないが…

細かい造形なんかで最低でも三十分はかかる。


しかも、人形はただの土から出来ているため…耐久性にも難がある。

あんまり強く触ると…


「俺の首がぁ!?」


あんな風に折れてしまう。

せっかく作ってもすぐに壊れたら悲しいので、

アルトは耐久性を何とかして上げたいのだが…

今のところいい案は浮かばない。


「へえ…かなりの魔力が籠っていたように見えたけど、

意外と脆いのねえ…中がそこまで詰まってないのかしら?」


首の折れた人形を悲しげに見つめるゲオルギスをちらりと見ながら、

テレーゼが言う。


「(!…そうだ…密度だ…)」


脆い原因は…密度の低さ。

密度を上げるには…圧縮すればいい。


「(ええと…)」


魔法陣を魔力で無理矢理小さく圧縮する。

試しに使ったのは初級の土魔術。

本来はそれなりの大きさの土塊を作り出す魔術だが

作り出されたのは小さな土塊。


「(…カチカチだ。)」


魔術の圧縮。


思いもよらないところで、

最近は行き詰っていた魔術の新しい可能性に気づけた。


「(じゃあ…さっき使った人形の魔術を…)」


サイズが丁度良くなるように色々調整し、

アルトは圧縮していく。


「(これをこうして…あれをああして…よし、こんなもんか…)」


出来たものは…

先ほどのものに比べるとかなり小さい。


が…その硬さは段違いだった。


「ゲオルギスさん。これどうぞ。」


「あ…ああ…って…ん?

…またなんか作ってくれたのか!?

これは…ってちっこい俺!?」


アルトが渡したのはおよそ十分の一スケールのゲオルギス人形。


さっきの等身大人形を作った時も…

ゲオルギスは少年のように目を輝かせていた。

アルトはそのままにしとくのもあまりにも可哀そうで…見ていられなかったのだ。


「ありがとう!!」


アルトお手製のフィギュアを受け取ったゲオルギスは屈託のない笑顔で笑う。


「(欲を言えば、色を塗りたかったんだけど…

絵具とか見たことないしな…)」


正直なところ、土の茶色一色で…見た目は寂しい。


色が付いていないのもあるが、

素人が作ったものということもあり、

正直、前世のフィギュアに比べるとクオリティは雲泥の差だ。


だが…それでも、ゲオルギスは大喜びだった。


「さっきのよりは頑丈ですけど、

あんまり強く触ると壊れちゃいますんで気を付けてくださいね…」


先ほどの等身大人形に比べると、耐久力は桁違いだが…

それでも雑に扱うと壊れてもおかしくはない。

アルトは浮かれているゲオルギスに注意を促す。


「ああ!わかった!」


「(対して出来の良いものでもないけど、

まああれだけ喜んでくれてるなら…まあいいか。)」


「さっきも思っていたが、一体どうやって作っているんだ?…」


一連のやりとりを見ていたリザが不思議そうな顔をしながら…

アルトに尋ねる。


「ええとそれはですね…かくかくしかじか。」


「そうか…かくかくしかじかか…」


かくかくしかじかでは…無論、通じるわけはない。

初対面…ではないが、

ほぼ初対面の相手なのだから当然ではある。


(初対面でなくても通じないだろうというツッコミはおいておく。)


「あ…ええと、無詠唱魔術で…」


アルトは今度こそちゃんと説明した。


「へえ…無詠唱で何かやっていたのはわかったけど…

何をやっているのかまでは全然わからなかったや…

魔術はそれなりに使えるつもりだったけれど、自信なくすなぁ…

魔術ってあんなこともできるのか…」


「えっへん…アルは天才なのよ。」


なぜかテレーゼがどや顔を披露しているが、

リザがスルーしたので、アルトもスルーした。


「じゃあ…魔術の腕は確認できたし…

そろそろ行こうか。」


大喜びしていたゲオルギスは戻ってくるなり、

そう言った。


「え?行くって…どこに?」


「もちろん、俺の…ゲルナンド伯爵家の屋敷さ。」


ゲオルギス・ゲルナンド。

それがアルトの目の前にいる男のフルネームであり…

ゲルナンド家…現当主のゲルナンド伯爵。

アルトたちが暮らすゲルナンド領を治める領主の名であった。



仕事はゲオルギス…いや、伯爵と呼んだ方がいいだろうか?…

ともかく、彼の屋敷…つまりは領主の屋敷で行うらしい。


「(…領主って…あの人が?)」


アルトはゲオルギスの少年みたいな一面しか見ていないこともあり…

正直、違和感しかない。


「(父さんと同じで…普段は違うのか?)」


アルトはバルトのあんな様子を初めて見た。

普段はどっちかっていうと、落ち着いた大人…って感じだし、

ゲオルギスも普段は違うのかもしれない。


「(だとしても…急じゃね?)」


アルトを迎えに来たと話していたが、

もう屋敷に向かうらしい。


なんでそんなに急ぐのかとも思ったが、

ゲオルギスは領主なだけあって忙しいらしく、

そう長い間は遊んでもいられないらしい。


仕事の期間はそれなりに長い。

しばらくの別れになるのでフィリアたちに挨拶しときたかったのだが…

そうもいかないらしい。


「(てか…挨拶くらい出来る時間あったよな…)」


魔術でフィギュアを作っていた時間やゲオルギスたちが騒いでいた時間があれば、

正直、挨拶くらいは出来た気がする。


「(まあでも…しゃあないか。)」


時間が足りなくなった一因はアルトにもないとも言えず…

あまり、文句は言ってられない。


アルトは妹たちや屋敷のみんなに挨拶できただけ…マシだと思うことにした。


「(バイバイ…みんな。

しばらく…お別れだ。)」


そんなことを考えながら、

支度を済ませたアルトは馬車に乗り込もうとした…そんな時。


「アル!」


どこから聞きつけたのか…フィリアが馬車に向かって駆けて来ていた。


「ゲオルギスさん!」


「ああ、いいぞ。行ってこい。」


「(察しが良くて助かる!…)」


アルトは馬車から跳ねるようにして、飛び下りた。



「アル…どこかに行っちゃうの?」


フィリアは悲しげに…

今にも泣き出しそうな顔で言う。


「…」


捨てられた小動物のような…

そんな顔をされると…

アルトも何も言えなくなった。


「…どこにも行かないでよ…私…アルトがいなきゃ…」


フィリアはアルトに縋りつき…泣きだした。


最近はあんまり泣かなくなっていたこともあり、

アルトはフィリアが強くなったと勝手に思っていた。

それこそ、以前はイジメられていたディエス相手でも仲良くできるほどに。


だが、人間というのは根っこの部分はそう簡単には変わらない。

フィリアはただ、弱さを見せないように…隠すようになっていただけだったのだ。


「…」


アルトには、泣きじゃくるフィリアの姿が…

いつぞやの自分の姿に重なって見えた。


「フィリア…別に今生の別れじゃないんだ。

もう二度と会えないわけじゃないし…また会えるよ。

今は少しだけ…お別れするだけさ。

だから…そうだね。

フィリア…手を出して。」


「…?…これは…でも…

アルの大切な…」


アルトが渡したのは杖。

アルトにとっては大切な師からの贈り物だった。


「そう…大事なものだけど…だからこそフィリアに持っててほしい。

この杖が…きっとまた引き合わせてくれるよ。」


自分との繋がりをそこまで大事にしてくれるフィリアになら…

託してもいいとアルトは思った。


「(正直なところ、俺が持ってても持て余すしね。)」


おずおずと杖を受け取ったフィリアは

潤んだ瞳でアルトを見つめる。


「…ありがとう…」


「…」


アルトは無言でフィリアの頭を撫でた。


「…ちょ…アル…恥ずかしいよ…」


フィリアが恥ずかしがったので、

アルトは撫でるのをやめたが…


「…あっ…」


自分が恥ずかしがってやめさせたわりに、

フィリアはちょっと物惜しげな顔をする。


「じゃあいってくるよ…またね、フィリア。」


「…うん。いってらっしゃい。」


フィリアは溢れだしそうになる涙を堪え…

旅立つアルトを笑って見送った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの子…アルトのガールフレンドか?

ヒュー…なかなかアルトも隅に置けないねえ…」


ゲオルギスが揶揄うように言う。


「そんなんじゃないです…ただの幼馴染ですよ。」


だが…アルトの声には先ほどまでと比べ…

明らかに元気がなく…その声はほのかに震えていた。


アルトにとって、

フィリアはこの世界で出来た初めての友達で…幼馴染だ。


ほとんど毎日のように一緒にいた相手としばらく離れることになる。

それはアルトにとっても…悲しくないわけはなかった。


「泣いてもいいんだぞ?…」


「…いいえ、泣きませんよ。

僕の選択ですからね。」


「…そうか。アルト…お前は強いな。」


それからしばらくは馬車の走る音以外は何の音もなく…

馬車の中は静寂に包まれていた。



しばらく馬車に揺られ…

アルトが口を開いた。


「そういえば、ゲオルギスさんって父さんとどういう関係なんですか?」


テレーゼとリザはわかりやすく友人。

という感じだったのだが、

いかんせんバルトとゲオルギスの関係性をアルトはつかめずにいた。


「ん?バルトか?

そうだなぁ…同じ道場で競い合ったライバル…は言い過ぎか。

まあ、ただの腐れ縁だよ。」


道場というと…バルトは『格闘王』らしいし、

おそらく体術の道場かなにかだろう。


手紙のやり取りをしている…的な話は聞いていたので、

仲はそこまで悪くはなさそうだとはアルトは思っていたが、

どうやらそういう関係だったらしい。


「(口喧嘩はしてたが、喧嘩するほどなんとやらってやつか。)」


アルトはその後もしばらく、

ゲオルギスと他愛もない話を続けながら…

馬車で揺られ続けていた。

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