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第二章 少年期・初めての友達編:七歳

<Side:アルト>


あっという間に二年という月日が流れ、アルトは七歳になった。


七歳になったからといって、アルト自身はそこまで変わっていない。

せいぜい身長が十数センチ伸びたくらいだ。

(まあ、伸びたと言っても、未だにフィリアに背は負けているのだが。)


魔術も発想力の限界なのか

かなり行き詰まりを感じていた。


「(どうにかしたいんだけどなあ…)」


そうは思いつつも、どうにもならない。

そんなもどかしい日々が続いていた。


だが…アルトの周りでは大きく変わったことはいくつかある。


まずはフィリア。


彼女はメキメキと実力をつけ、

七大属性魔術と治癒魔術と結界魔術をそれぞれ超級まで習得した。


『魔眼』を宿していることから魔術の適正は高いとは思っていたが、

まさかここまでとは思わなかった。

(自分のことを棚上げにして何を言っているんだという話ではあるが。)


さらに彼女は無詠唱魔術を習得している。

しかし、そこまで無詠唱は得意でもないらしい。


七大属性の超級魔術と中級以上の結界魔術以外の魔術は無詠唱で扱えるようなのだが、

その二つに関しては彼女的に魔法陣を繋げるのがどうにも難しいらしく、

無詠唱では発動できないらしい。


そして…『魔眼』だが…

これに関してはアルトには扱い方がわからないので何も進展していない。


こればっかしは『魔眼』を持っている人物に聞くしかないだろう。


「(ステラ先生…元気にしてるかな?…)」


アルトが久しく会っていない自身の師に思いを馳せていると、

フィリアが心配したかのように声をかけた。


「アル、どうしたの?…

なんか変だよ?」


フィリアは最近、バルトたちと同じように

アルトのことを愛称のアルで呼ぶようになっていた。


「ほっとけよ、そいつが変なのはいつものことだろ…」


「誰が変だ!…お前も大概だろ!」


いらない茶々をいれたのは…

青色…というより紺色の髪をした少年。


「(ディエスのやつ…ホント不愛想だし、可愛げのかけらもねえな…)」


名前はディエス。

いつも仏頂面でぶっきらぼうな少年だ。


「誰が不愛想だ。

そもそも、お前に可愛げなんか感じられても困るっつーの。」


どうやら、アルトはいつの間にか心の声が漏れていたらしい。


ディエスとは二年前…殴り合った仲だ。

なんでそんなやつと一緒にいるんだ?とは今でもアルト自身も思っている。


「(人生って何があるかわからんもんだよな…

俺の場合、特に。)」


殴り合ったあの一件以降、この木の下でフィリアと遊んでいると、

他の奴らは遠巻きに見ているだけで干渉はしてこなかったのだが、

ディエスだけはなぜかちょくちょく絡んできていた。


時は少し前にさかのぼる。



以前は髪が短かったフィリアはちょっとずつ髪を伸ばしていた。


女の子が髪型を変えるときは心境の変化があった時と相場は決まっている。

何かあったのか気になり、理由を聞いてみたアルトだったが、

「ふふ…ナイショ!」とはぐらかされていた。


そこにいつものように絡んできたディエス。


「なんだぁ?…

髪なんか伸ばして女みてえなナリしやがって…」


「(からかっているつもりか?…

コイツは何を…あ)」


アルトはディエスの勘違いに気が付いた。


「フィリアはれっきとした女の子だよ。」


「お、女ぁ!?…」


それを聞いたディエスは目を白黒させる。


「…誰かさんと同じようなことやってるね。」


「誰だろうね…」


いつかの光景と重なったが、

そんなことは知らない。


『こんな可愛い子を男の子と見間違えるなんて

一体、どこのどいつでしょうね…。』


『フハハ…語るに落ちたな!』


『なに!?まさかこれは孔明の罠!?』


「アルト…一人で何やってるの?」


「いや、なんでも。」


アルトが一人で寸劇をしている間に…

ディエスが正気に戻った。


「…お前、名前なんて言うんだ?」


「僕はアルト!」


「お前じゃねえよ!

お前のことは知ってるんだよ!」


この時はまだ、アルトはディエスの名前を知らなかった。


だが、一方的に知られてるのもそれはそれで癪だったので…

名乗らせることにした。


「こらこら、人に名前を聞くときは…まずは自分からでしょ?」


「…たしかにそうか。

俺はディエス。で、お前は?…」


「…フィ…フィリア…」


フィリアはその時はまだディエスに対して、苦手意識があったのか

若干声が上ずっていた。


「フィフィリア?…

なんか変わった名前だな…

それはまあいい。

なんにせよ、あの時は悪かった。」


ディエスは謝った。

どうして絡んでくるのかとも思っていたが…

どうやら、ディエスはフィリアに謝る機会をうかがっていたらしい。


だが…


「フィフィリアって誰?…

この子の名前はフィリアだよ?」


ディエスは意外と天然だった。


「…そうなのか?」


「…プッ…アハハッ!」


フィリアが耐え切れずに笑った。


「笑うなよ…」


「ギャーハッハッハー!」


「お前はわざとだろ!?」



色々あって殴り合いにこそ発展したものの、

意外とディエスはそこまで悪い奴でもなく、

いつの間にかアルトたちは三人で過ごすことが増えていた。


「そういえばさ、ディエス。」


「なんだよ。」


「なんであの時、喧嘩になったんだっけ?」


アルトには一応、フィリアを護るっていう大義名分?があったが、

ディエスがなんで喧嘩をふっかけてきたのかイマイチわかっていなかった。


「そりゃ、お前が煽ったからだろ?」


「別に煽ってないけどなぁ…」


少なくとも、アルト自身にはそんなことをした記憶はない。


「変に丁寧な口調に…って上げだしたらキリがねえし、

はっきりと言葉には出来ねえけど、

結局のところ、あん時はお前の存在がムカついたんだよ。」


ドストレートにディスられた。

さすがにちょっと傷つくぞ…と思ったアルトだったが、

慌ててディエスがフォローするかのように言った。


「あ、今は別にそんなこと思っちゃいないぞ?

さんざんお前のスゲーところも見たしな…。」


「(スゲーところ?…

というと…魔術のことだろうか?)」


最近は三人で遊ぶことがほとんどで、

アルトがフィリアに魔術を教えている時にも、

ディエスも一緒にいることが多い。

見本を見せたりするのでそれのことだろうか?…

と、思ったが…


「こんなチビがあんな根性見せるなんて思いもしなかったしな…」


思っていた回答とは違い、かなりの根性論だった。


感覚的には殴り合った不良同士が仲良くなるといったあの感じだろうか。

というか…今ではかなり仲良くなっているので、感じというかまさしくそれか。


「(俺は不良じゃないけど、我ながら思う。

男って…単純だな…)」


喧嘩して仲良くなるなんてヤンキー漫画のフィクションの話だと思っていたのだが、

そんなこともあるらしい。


アルトにとって、友人と呼べるのは未だにこの二人だけ。

だが、友人関係は狭く深く…量より質が大事なのだ。


「(べ、別に…友達ができなくて悲しんでなんていないんだからね!?)」



友人関係はそんなものだが、

他に変わったところで言えば、家族。


双子の妹たち…イブとウルは三歳になり、

すくすくと育っていた。


二人は双子の割にはあまり似ていない。

双子の姉の方…イブは母親譲りの亜麻色の髪と瞳だが、

双子の妹の方…ウルは父親譲りの、つまりアルトとも同じダークブラウンの髪と瞳をしている。

その他にも細かいパーツはところどころ違うし、

二卵性双生児ってやつなのだろう。


「(ま、どっちにしろ可愛い妹には変わりはないけどさ。)」


そんなことを考えていると、

コンコン。と部屋がノックされ、

返事をすると、ギルバートが入ってきた。


「アルト様。

フィリア殿とディエス殿が屋敷の前にお見えになっております。」


「フィリアとディエスが?…」


今日は特に遊ぶ約束とかもしてなかったが、

まあいつも約束して遊んでいるわけではない。

アルトの方からフィリアの家やディエスの家に誘いに行くこともあった。


「どうしたんだろ?…」



「アル!

行商人さんが来てるんだって!

見に行こうよ!」


フィリアが言うには…

どうやら村に行商人が来ているらしい。


村にも雑貨屋などはあるが、

それだけでは生活必需品は揃わない。

時折、こうしてやってくる行商人がこの村の生活に密接しているのだ。


「(ちょくちょく来ているのは知ってたけど…

実際に見たことはないし…たまには行ってみるのもいいか。)」


アルトはフィリアの誘いに応えることにした。



アルトたちが村の広場まで来ると…

何台かの行商のものと思われる馬車が止まっていた。


「(へー…こんな感じなんだなあ…)」


アルトは行商というもの初めて見たが、

感覚的にはお祭りの時の屋台やキャンピングカーみたいな感じが近いだろう。


商人によって品物の種類も値段も様々だった。


アルトたちが暮らすこの国…サザーランド王国では

ランドという貨幣単位が用いられ、

六種類の通貨が使われている。


通貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の六種類。

交換比率は以下の通りで、


銅貨十枚=大銅貨一枚。大銅貨十枚=銀貨一枚。

銀貨十枚=大銀貨一枚。大銀貨十枚=金貨一枚。

金貨十枚=大金貨一枚。


十進法となっている。


銅貨一枚=一ランドで、

一ランドは日本円換算でだいたい十円くらいだ。

大金貨ともなれば、一枚でおよそ百万円相当にもなる。


「(まあ、そこまで行くと…

さすがに使いにくいだろうけど…)」


一瞬、思考は脇に逸れたものの…

どんな品物があるか気になり、

アルトたちは行商を見て回ることにした。


「どこから見て回る?」


「俺はどこからでもいいぜ。

お前らと違って商品のこと書いてあっても読めねえし、

算術も出来ねえしな。」


この世界で物を買うときは字が読めて、

算術ができる人と一緒でないと…

ちょろまかされるなんてこともよくあることらしい。


前世は現代日本で暮らしていたアルトにとって、

到底、信じられない感覚ではあるが…騙される方が悪い。

というスタンスなのだ。


「(算術ねえ…)」


算術というものの…それは術というほどでもない。

ただの四則演算だ。

所詮は小学校レベルの算数なので中学・高校レベルの数学を

学んでいたアルトにとっては簡単なものだった。


フィリアも教えれば、わりとすぐに出来るようになっていたし、

別に難しくはないのだが、識字率の低さなども相まって、

商いを生業にしている者を除けば、

貴族や王族でも扱えない者もざらにいるのがこの世界の現状だった。


「やっぱ、教えた方がよかったんじゃん。」


「うっせ。」


アルトの小言にディエスはぶっきらぼうに返す。


自分でも言っていた通り、ディエスは読み書きも算術もできない。

どちらも「使えないよりは使えた方が絶対いいって!」と

何度かアルトが教えようとしたのだが、

その度に「商人にはならねえし、めんどくせえからいらねえ。」とつっぱねているのだ。


「はあ…

まあ、僕もどこからでもいいし…

フィリアはなにかみたいものでもある?」


呆れた様子でやれやれと首を振りつつ、

アルトはフィリアに尋ねる。


「あ、じゃあ…小物とか見てみたいかも…

お金持ってきてないからホントに見るだけだけど…」


フィリアはそう言うが、

別にアルトもお金は持ってきていない。

というかそもそもお金自体持っていない。


前世で子供の時といえば、お小遣いを握りしめて駄菓子屋に行くのが定番だったが、

もちろんこの世界にそんなものはない。


村ではお金を使う機会もほとんどないし、

お小遣いなんかももらう必要がなかったのだ。


「僕もお金は持ってないし、気にしなくてもいいんじゃない?

ウィンドーショッピングってやつだよ。」


「ウィン…なんて?」


アルトの言葉にフィリアが不思議そうな顔をする。


「あー…ごめんごめん。

ええと…買わずにただ見て回るって感じかな。」


ただの冷やかしもいいとこだが、別にいいだろう。


「じゃあ、フィリアの希望通り…小物から見て回ろうか。」


「おう。」


「うん!」



一通り見て回り…アルトはある行商人の店に目が止まる。


「(うん?…あれは…)」


そこには一冊の本が置いてあった。


「(ええと…なんの本だ?…)」


本の表紙には『解毒魔術』と書いてある。


解毒魔術…

文字通りの意味であれば、毒を解除するための魔術なのだろう。


「(ちょっと気になるが…)」


未知の魔術だ。

気にはなるものの、あいにくアルトはお金を持っていない。

しかし、気にはなるので値段を見てみる。


「(ええといくらだ?…

一…十…百…千…

ってええ!?)」


値札に書いてあったのは百万ランド…

つまりは大金貨一枚分…日本円換算にしておよそ百万円相当にもなる。


「(た、たけえ…)」


本一冊に百万円。

この本が高いだけなのかどうかはわからないが、

さすがに高すぎる気もする。


「すいません…この本って…」


「ああ…その本?

仕入れたはいいものの、高過ぎてなかなか売れないから、

一種の客寄せに…ってこんなこと子供に言ってもわからないか…。」


どうやら、しばらく売れていないらしいが…

客引きになるような目玉商品らしい。


「いえ、だいたいわかります。

それより…本ってみんなこんなに高いんですか?」


「おや?…君、その年でもう字が読めるのかい?…

そうだねえ…それが魔導書ということもあるけど、

魔導書だと最低でもこれくらいはするし、

それ以外の安い本でも金貨一枚はするんじゃないかな?…」


アルトが三歳の誕生日にもらった魔導教典も魔導書の一種だ。

その他にも三冊の本をもらっているので、

全部合わせると…安く見積もっても、百三十万円相当かそれ以上。


「(…子供へのプレゼントにしては金かけ過ぎじゃね?)」


アルトはこの世界の一般的な家庭の一年の稼ぎが年に金貨十枚ほどだと…

ステラから聞いていた。


自分の家が変なのはうすうす感じてはいたが、

これはどう考えても、絶対おかしい。


「(ていうか…そんな高いものをリクエストしてたのか…俺は…)」


価値観がどうにも前世に引っ張られていたようで…

アルトはなんだか途轍もなく申し訳なさがわいてきていた。


「アル?…

なんか顔白いよ?…大丈夫?」


急に黙り込んだアルトを心配し、

フィリアは声をかけるが、

故障した機械のように…アルトはうんともすんとも言わない。


「(百万…ミリオン…ミリ○ネア…ミリ○ンゴッド…)」


別に体調が悪いとかそういうわけではなく…

ただ単にアルトは前世では小市民であったため、

意図せずとんでもない散財をしていたことを知り、

強く衝撃を受けていただけであった。


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