表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/81

第二章 少年期・初めての友達編:屋敷での日常(二)

<Side:アルト>


そんなこんなで一ヶ月は思いのほか、あっという間に過ぎていき、

アルトは一ヶ月ぶりにいつもの木の下でフィリアと遊んでいた。


「アルト?ホントに大丈夫?」


フィリアがアルトの体を心配し、声をかける。


「大丈夫!元気ピンピンだよ!」


アルトはケラケラと笑いながら答える。


外出できない一ヶ月の間に

アルトの元気は有り余るほどに溜まっていた。


「ならいいけど…しんどかったらいつでも言ってね?」


「(心配してくれるのはありがたいけど、心配性だなあ…)

りょーかい。

フィリアはわかんないとこあったら聞いてね~」


そう言いつつ、アルトはフィリアに屋敷から持ってきた『魔導教典』をわたす。


フィリアは賢く、屋敷に通っていた

たった一ヶ月の間に簡単な読み書きはほぼマスターしており、

今日からは本人の希望もあって魔術の勉強もスタートすることになったのだ。


「(俺なんかもっとかかったのに…。)」


アルトの時とは違って、

付きっ切りで教えてくれる相手(アルト)がいたのもあるかもしれないが、

それにしてもフィリアの呑み込みは早かった。


「?…アルトは何するの?」


『魔導教典』を受け取りつつも、

フィリアはそう言った。


「俺?

俺はちょーっと体力不足を感じたし、

身体を動かそうかなーっと。」


「そうなんだ…?」


若干不思議そうにしつつも、

フィリアは『魔導教典』を片手に木陰に向かった。


「(さて…

久しぶりに思いっきり身体を動かすとしようか!)」



「ねえ…アルト…ここなんだけど…ってアルト何してるの?」


わからないところがあったのかフィリアが聞きにきた。

だが、アルトが変なことをしているように見えたらしく不思議そうな顔をしていた。


「何って…腕立て伏せだよ。」


アルトがしていたのは至って普通の筋トレだ。

子供の時に筋肉を付けすぎると、背が伸びないなんて言われているが、

あれは迷信だったはずだ。


むしろ適度に運動することは身体にいいとされている。


前世でもアルトは筋トレが好きだった。

筋トレは努力が如実に現れ、

部位にもよるが、頑張った成果がわかりやすいからだ。


身体を動かす意味でも久々にやってみることにしたのだが…


「腕立て伏せ…?」


フィリアはあまりピンと来ていない様子だった。

フィリアが知らないだけかもしれないが、

もしかすると…この世界には腕立て伏せという言葉がないのか…

もしくはそういう概念自体がないのかもしれない。


「身体を鍛えるトレーニングの一種だよ。

一緒にやるかい?」


「ううん…私はいいかな…

それより…」


トレーニーの勧誘はにべもなく断られ、

「ここがわからないの…。」と言いながら、

フィリアは魔導教典の一部分を指さす。


「ああ…そこはね…」



フィリアはまだそこまでスムーズには読めないらしく、

ところどころ読めないところもあったので、

日が暮れる頃になっても、

結構な厚みのある『魔導教典』はまだ読み切れなかった。

(むしろ、一日で読むようなものではない。)


だが…


「あともうちょっと…もうちょっとだから…」


あと少し、もう少しと言って読むのを止めようとしなかった。


「貸してあげるから、家でゆっくり読みなよ。

わからないところがあったら、

また遊ぶときにでも聞いてくれたらいいしさ。」


「いいの?」


「いいよいいよ。

別に俺は読まないし、

読み終わったら返してくれれば…」


「ありがとう!」


眩しい位の良い笑顔をフィリアは浮かべる。


「(フィリアはそんなに本を読むのが好きなのかな…?)」


そんなことを考えつつ、

二人は帰路についた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


屋敷に帰ってきた後、

アルトはバルトの部屋を訪ねていた。


「父さん…俺に体術を教えてください!」


バルト・パトライアス…通称:『格闘王』

彼はこの大陸一の体術のエキスパートである。

そんな人物が身近にいるのだ。

教わらなければ、損というものだ。


だが…


「別に教えるのは構わんが…

お前は魔術士だろ…?」


構わないと言いつつ、バルトは渋っている様子だった。


「(魔術士だから…なんなんだろうか)」


この世界には魔女の弾劾的な感じで、

魔術士を嫌う風潮でもあるのだろうか。


一瞬そう思ったアルトだったが、

テレーゼやステラも含め、

魔術士も周りには結構いるし、

魔術がわりと生活に根付いているので、

さすがにそういうわけではないだろう。


「この間の件で…自分の力不足を感じまして…

何かあった時に…後悔したくないんです。

大切な人たちを護れるように…そのために強くなりたいんです。」


先日の一件で深刻な体力不足や運動不足を感じたアルトは

身体を鍛える一環で体術を教わろうとしていた。


「(それに…もう二度と後悔しないために

俺は全力で生きると決めたんだ。)」


欲張りかもしれないが、

出来ることは全部やっておきたい…

いや、全部やる。

アルトはそれぐらいの気概でいた。


「いや…そうじゃなくてな。

アル…お前、魔術士だから闘気纏えないだろ?」


強い気概を感じるアルトの眼差しに

若干気圧された様子をしつつもバルトが言った。


「(闘気?魔力じゃなくて?なにそれ美味しいの?)」


聞きなれない単語に

アルトがきょとんとした表情をしていると、

バルトが続ける。


「魔術士や治癒術士などの術士が魔力を扱うように、

格闘家や剣士などの戦士は闘気を扱って戦う。

だが…魔力を扱うものには闘気は扱えないんだ。」


バルトからもたらされたその情報は

アルトにとっては目から鱗の衝撃の事実だった。


七大属性魔術や治癒魔術、結界魔術など

魔術には様々な種類があるが、

どれを扱う者でも、

術士である以上、闘気というのは扱えないのだという。


バルト曰く、闘気というのは身体強化の一種のようなもので、

あくまでその度合いには個人差はあるものらしい。

だがそれでも、闘気を扱える一般的な戦士で、

「一度の踏み込みで数十メートル進み、百メートルをほんの数瞬で駆け抜ける。」

「数十~数百メートル先の小さな虫を視認する。」

「身体を鉄のように固くする。」

などなど使い方は様々ではあるが、

どれもとても人間とは思えないような芸当が出来るらしい。


「(もしかして、ギルバートの無茶苦茶な動体視力とかはそれか!?)」


結構長い間、謎だった執事のおかしな身体能力の原因が

思いがけないところで判明した。

そりゃ勝てないわけだ…。と納得していると…


「(ん…?

でも、ならこんなとこで執事なんかしてんだ…?)」


謎が解けたと思ったら、また新たな謎が生まれた。

あの執事は本当に謎だらけだ。


「(それはまあいい…

問題は俺には闘気を扱えないってとこなんだよな…

なんてこった…パンナコッタ…)」


術士である以上、否応なくアルトは闘気を扱えない。


魔術を学びたいと言ったのは自分自身だし、

その選択自体は後悔していないものの…

闘気を扱えないというのは結構なディスアドバンテージに感じられた。


若干、アルトが気落ちしていると、

バルトが励ますように言った。


「まあ、闘気なしでもある程度の実力まではなれる。

お前は向上心もあるしな…。

だが…俺は厳しいぞ?」


「…!…はい!」


「よし、付いてこい。」


「(…え、今から?)」



バルトの後を追いかけて、たどり着いたのは屋敷の地下(・・)


「(この家…地下なんてものあったのか…)」


アルトが知らなかったのも無理はない。


この地下へは屋敷の中からは直接行けない。

屋敷の庭に一度出てからでないと、

入れないつくりになっていた。


「驚いたか?

ここは秘密の部屋みたいなもんだからな…」


秘密の部屋と聞くと、

某有名な魔法使いの小説を思い出すが、

別にここには大きい蛇はいない。


ただのだだっ広い空間が広がっているだけだ。


「俺がいないときでもこの部屋は使っていい。

俺がいるときは…体術の稽古はここでつけてやる。

ぐだぐだ言っててもなんだし…さ、始めようか。」



「いてて…もうちょっと手加減してくれよな…」


体術にも投・打…色々あるが、

まずは投。


基本中の基本である受け身を身をもって覚えるために

あの後、アルトはバルトに

さんざん投げられ…転がされまくった。


おかげでアルトの身体はズキズキと鈍い痛みに苛まれていた。


若干ぼやきながら…アルトは自身に治癒魔術をかける。


治癒魔術は怪我は治せる。

だが、疲労までは消えない。


昼間にしていた筋トレの疲労とさっきの体術の修業で

体力はもう限界だった。


ベッドに倒れこんだアルトは泥のように眠った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:バルト>


「護れるように…か。」


バルトはアルトの言葉を思い出していた。


「いつの間にか一丁前のこと言うようになったなぁ…」


子供の成長は早いというが、

あの子は特に早かったような気がする。


「俺も…いつまでも…引きずってちゃ…いけねえよな…」


そんな言葉が口から零れた。


「ふふ…あなたのことも私が守ってあげるわよ?」


バルトの呟きを聞いていたのか、

微笑を浮かべながらテレーゼが物陰から現れた。


「なんだ聞いてたのか…。

ま、いらねえよ。俺は大丈夫さ。」


「どうかしら…?

あなた案外弱いとこあるからね。」


「ハハッ…強くは否定出来ねえな。」


そんなことを言いながら、

しばらく二人は笑いあっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:アルト>


翌日。


「アルト…これありがとう。」


「ん?もう読み終わったのか?」


フィリアは『魔導教典』をアルトに返した。

昨日の今日でもう一通り読み終わったらしい。


別に一、二週間ぐらいなら借りっぱなしでも気にしないのに…。と思ったが、

フィリア曰く「こんなの借りっぱなしになんて出来ないよ…」とのことだった。


「でも…一通り読んだんだけど、

アルトの使ってた泥の魔術って載ってた?」


「ん…?

載ってるじゃないか。」


「え…?…いや、載ってないよ…?」


「ほら。これとこれ。

組み合わせて使うんだよ。」


「???」


言ってる意味がわからないみたいな顔をされたが…まあいい。


「まあおいおいわかるさ。

一通り読めたなら、実際に使ってみようか。」


「うん!」


「はいこれ持って~。」


そういってアルトはあるものを手渡した。


「なに…これ?」


アルトが渡したのはワンドのような短めの杖。


「これは杖だよ。魔術の発動具の一つで、

魔術を発動する補助をしてくれたり、消費魔力を軽減してくれたりするんだ。」


この杖はステラから一人前の証としてもらったもので、

発動補助の方はあまり実感がなかったが、

消費魔力に関しては体感で一~二割ほど軽減してくれる破格仕様のものだ。


しかし、発動補助も消費魔力の軽減もアルトの使う無詠唱魔術とは相性が悪く、

どうにも上手く扱えなくて部屋で眠りっぱなし…宝の持ち腐れになっていた。


だが、今回に限っては使うのはアルトではない。


初心者のフィリアが使うのには丁度いいかと思い、

わざわざ引っ張り出してきたというわけだ。


「でも…私に出来るかなぁ…?

魔力?っていうのがイマイチわかっていなくて…」


フィリアは杖を握ったまま、自信なさげに言う。


「あはは…最初は皆、そうだよ。」


今では普通に魔術を使っているアルトも

初めはそうだった。


「でもそうだな…これは僕のイメージなんだけど…

全身を巡る血液を一点…この場合は杖を持つ手に集める…

そういうイメージならわかりやすいかな?」


アルトが初めに魔術を使った時のイメージを

そのままフィリアに伝える。


だが、フィリアは未だに自信なさげにしていた。


「まずは僕が見本を見せるからよく見てて。」



七大属性の初級魔術を一通り見本として見せた後、

まずは一番危険度の低い水魔術から実際に使ってみてもらった。

のだが…


「(俺、一回目は失敗したのに…)」


アルトは若干へこんでいた。

だが、へこむのも無理はない。


なんと、フィリアは一回目の魔術から見事に成功したのだ。


フィリアが優秀なのか杖の補助が案外有用なのか

あるいはその両方かはわからないが、

なんにせよ魔術はしっかりと発動した。


「どう?…初めての魔術は?」


「うーん…水!って感じだね!」


アルトは感想を聞いたつもりだったのだが、

フィリアは目の前にできた水たまりでぴしゃぴしゃと遊びながら、

笑いながら答えた。


「あはは、そりゃ水の魔術だからね…

体調的にはどう…?」


「んー、一瞬身体から力が抜けるような感覚があったけど、

まだ全然元気かな…?」


もし体調的にあれなら、いったん切り上げてもいいかなと思ったうえでの確認だったのだが、

フィリアはまだまだいけるしやりたいってことだったので

他の属性の魔術も試しに使ってもらうことにした。



「うーん…なるほど…?」


以前、ステラの言っていた言葉の意味がよく分かった。


フィリアの魔術は

属性によって魔術の完成までの時間や魔術の規模が明らかに異なっており、

かなりのムラがあった。


ばらつき具合的に、

フィリアは土属性が得意で、炎属性が苦手。

その他は満遍なくといったところなのだろう。


「フィリア…もしかして、炎が怖い?」


魔術はこれまでの暮らしなどに影響を受け、

得意・不得意が現れたりする。


もしかすると、家が燃えたとか

なにか炎とか火が苦手になるようなことがあったのかな?と思い、聞いてみたが…


「ううん、特に怖くはないよ…?」


フィリアは首を横に振った。


「(うーん、トラウマなんかで苦手になったりするらしいから

もしかして…と思ったんだけど…)」


推測が外れたアルトが考え込んでいると、

フィリアが思い出したかのように切り出した。


「あ…でもそういえば、小さい時に、

私が暖炉の火に触ろうとしたみたいで、

お母さんがかばって火傷しちゃったことがあるの…

それからはあんまり火に近づかなくなったかな…」


「そうなのか…」


どうやらそういうことらしく、

フィリアは無意識的に炎に対する苦手意識が出来ているのかもしれない。


「…よし、じゃあ次は魔術の感覚をつかむためにも、もう何回か魔術を試してみようか。」


「うん!」



アルトが初めて魔術を使った時はたった五回くらいで

魔力切れを起こしたが、

フィリアは初級魔術をだいたい五十回くらい使ったところで

初めて魔力切れを起こした。


「(そんなに違うのか…?

いや、まあ条件は違うところも多いが…)」


杖もあったし、年齢も違ったが、

およそ十倍だ。

さすがは『魔眼』の持ち主といったところだろうか。


「ごめんね…アルト…おぶってもらっちゃって…」


「いいよいいよ。気にしないで。

家に着いたら起こしてあげるから寝ててもいいよ?」


フィリアはアルトの背に背負われ帰路についていた。

久しく感じていないが、魔力切れの倦怠感はかなりのものだった。

喋ることも本当はつらいはずだ。


初めからこうなることも想定していたし、

自分のトレーニングにもなるからこれくらい全然かまわないのだが…

アルトには別の気になるところがあった。


「(にしてもフィリア軽いな…ちゃんと飯食ってるのか?)」


フィリアは身長的にはアルトとはさほど大差はない

(むしろフィリアの方が背が高い)のだが…

それにしてはかなり軽く感じていた。


「(いっぱい食べて元気に育てよ…?)」


そんなまるで親みたいなことを考えながら、

アルトはフィリアを家まで送っていったのであった。



フィリアを家に送っても、

まだお昼ごろで時間があったので、

送ったあとはいつもの木の下で自身のトレーニングに充てていた。


魔術と体術。

どっちもというのはちょっと欲張りかもしれないが、

頑張ると決めたのだ。


「とりあえず…まずは走り込みから…」


アルトは走り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ