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第二章 少年期・初めての友達編:五歳

<Side:アルト>


アルトは五歳になった。


この世界では前世とは異なり、十五歳で成人となるのだが、

五歳、十歳、十五歳の五歳ごとの節目の年に大きなお祝いをするらしく、

屋敷全体で大きなパーティーが開かれた。


そこでアルトは料理長のフレディから聞いて初めて知ったのだが、

どうやらこの世界では毎年誕生日を祝う習慣というのはないらしい。

しかし、その割にはなぜか毎年バルトとテレーゼはプレゼントをくれていた。


三歳以前はもらっていない(というか、もらっても困るだろう。)が、

三歳の時にはアルトが「魔法を教えて欲しい」と言っていたからか、

魔導教典と魔術の家庭教師としてステラを雇ってくれていた。


四歳の時、つまり去年は一冊の本。

アルトは魔導教典を読み漁っていたので読書好きだと思われていたのか、

『龍の王と天空の城』というファンタジー小説みたいな本を贈られた。


「(天空の城ってどこのラ○ュタだよとは思ったんだけど…

読んでみると意外と面白かったんだよな。)」


そして、今年は逆にリクエストしていた。

去年のように小説的なものでも良かったのだが、

アルトには欲しいものがあったのだ。

(リクエストした時のアルトはまだプレゼントが

毎年貰えるものだと思っていたので、

思い返すと…だいぶがめつい奴みたいになってしまったが。)


アルトがリクエストしたのは植生だったり歴史だったりで…

何かしらこの世界のことを知れる本だ。


ステラや両親、それに使用人たちも、

ちょこちょこ教えてくれてはいたが、

アルトは未だにこの世界のことを知らなすぎる。


精神的にはまあともかく…

肉体的にはまだまだ子供であるため、

そこまで急ぐ必要はないのかもしれないが…

アルトにはどうしても急ぎたい理由があった。


「(もう「あれ?俺、また何かやっちゃいました?」みたいなことは

やってたまるか!)」


アルトはこれまでにも魔術のことや種族のことなど、

知らず知らずのうちに非常識なことをしている。


本人的には常識的でありたいと思いつつも、

結果的に非常識になってしまっているのは、

偏にこの世界のことを知らないのが原因だ。と、そうアルトは考えていた。


(実際のところ、

アルトの行動が全般的に非常識なので、

知っているかどうかが問題ではないような気もするのだが。)



「「アル!誕生日おめでとう!」」


祝いの言葉と共に両親から綺麗な包みに入ったプレゼントが贈られる。


「ありがとうございます!

父様!母様!

開けてもいいですか?」


「ええ、もうアルのものだから、

開けて構わないわよ。」


アルトの言葉に…テレーゼが微笑を浮かべながら、頷く。


「(おおっ…)」


アルトがいそいそと包みを開くと…中には二冊の本が入っていた。


それぞれ、植物図鑑のようなものと歴史書のようなもので、

アルト自身は例えばの例を挙げたつもりだったのだが、

リクエスト通りのものだった。


「(やっぱ壮観だな…

この世界の本はなんかやたら豪華な装丁で…

コレクター心がくすぐられるからか、

なんか集めたくなるんだよな。)」


アルトがそんなことを考えていると…


「にしても…アルは勉強熱心ね~。

その年でそんなのを欲しがるなんてかなり変わっているわよ?

うりゃっ!」


そう言いながら、テレーゼはアルトの身体をくすぐった。


「ちょ!?…

母様!くすぐった…

あひゃ…あひゃ…」


意識外からのくすぐり攻撃で…

避けることも抵抗することも難しく、

アルトは身をよじることしかできず…

テレーゼが満足するまでくすぐり攻撃はしばらく続いた。


「(…ふう。

やっと解放された…

前世の時は、ボールとかゲームとか貰ってたけど…

やっぱり、普通の子供ならオモチャなんかを頼むところなのかなぁ?)」


自分でもそうは思いつつも、

文明レベル的にそこまで発展しているわけでもなさそうだし、

そんなレベルのオモチャを今更貰っても反応に困る。

なら、実用的なものを貰った方がよっぽど建設的だろう。

と、アルトは結論付ける。


「まあ…なんだ。

向上心があるのはいいことだが、時には遊ぶのも大切だぞ?…

父さんがお前くらいの年の時は遊び惚けていたしな。」


テレーゼとの一連のやり取りを見ていた

バルトは若干の苦笑いを浮かべながらそう口にする。


「(暗に子供らしくないって言われてんのか?…

まあそりゃ、俺は普通の子供ではないしな…

というか…普通、親ってのは勉強しなさいって言ってくるもんだと思ってたんだが、

まさか遊んでなくて、苦言を呈されるとは…)」


バルトの全く予想外の言葉に…アルトも苦笑いを浮かべる。


妹たちが産まれた直後、

アルトはバルトとお互いに接し方が分からなくなり、

若干、ギクシャクしていたのだが…今では無事、和解している。


そのあたりからか、

バルトのアルトへの接し方はだいぶフランクになったのだが…

それが何故なのかはアルトにもイマイチわからない。


「(ていうか、そもそも俺は外出禁止…じゃない!?

五歳になったからもう屋敷の外に行ってもいいんだ!?)」


アルトは屋敷の中でも出来ることが増えたのもあってか、

ここ最近は全く気にしすらしておらず…

外出禁止が解除されることすら頭になかった。


あれだけ脱走しようとしてたのに、

いざ外出許可が下りる五歳になったら、この始末…


「(カリギュラ効果ってやつ…かな?)」


人間というのは禁止されると余計にやりたくなるが、

いざ許可が下りると、

別にいいやとなってしまうのである。


「はは…

じゃあ、明日以降はちょっと遊びに行ってみようと思います。」


バルトもこう言ってくれていることもあり、

ここ最近はずっと家にいてばかりだったので、

アルトはたまにはいいか…と、

外に遊びに出かけることにした。


「おう!

まあ、アルは賢いから言わなくてもわかってるだろうが、

遊びに行く時はくれぐれも気を付けろ。

それ以外は大いに遊び、大いに楽しめ!」


そう言いながら、バルトはアルトの頭をわしゃわしゃ撫でた。


「では…アルト様。

僭越ながら、私たちからも…」


プレゼントはもう終わりだと思っていたのだが、

最後に使用人一同からのプレゼントがあるらしい。


「(五歳の節目だからなのかな…?)」


代表して執事長であるギルバートから箱が手渡された。


アルトは了承を取り、箱を開ける。

中から出てきたのは…小さな箱だった。


「(?…

箱の中から箱って…

マトリョーシカか?)」


そう思いつつ、

出てきた箱も開けてみたものの、

中には何も入っていなかった。


「(うん?…

ということはこの小さな箱がプレゼントってことなのか?

箱の中に変な模様は付いてるけど…なんだこりゃ?)」


アルトは箱をクルクルと回しながら、

いろんな角度から眺める。


「(でも、この模様…なんか見たことがある気がするんだよな…)」


アルトが不思議そうにしているのを見て、

ギルバートが解説する。


「それは魔力を込めると音がなる魔導具です。

アルト様は魔術がお好きなようですので、これを選ばせていただきました。」


「(あ!?

なるほど…道理で見覚えあるわけだ。

立体のものに魔法陣が刻まれてるから、

歪んで見えていて、わからなかったのか…

でも…魔導具っていうのにも興味があったし、

これはこれで嬉しいかな?)」


どうやら仕組みはアルトの知っているオルゴールとは全然違うようで、

ただの箱に見えたものがオルゴールだったのには驚いたが、

魔導具にも興味があったアルトは喜んでいた。


「父様、母様、皆!

ありがとう!

大切にします!

今日は本当にありがとう!」


アルトが感謝を伝えると、

拍手と祝いの言葉が惜しみなく贈られる。


パーティーはその後も続き、夜は更けていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アルトの五歳の誕生日の翌日。


せっかく屋敷の外に出れるようになったし、

検証したい魔術もあるので、

しばらくぶりにいつもの平原に行ってみようと

アルトは考えていた。


外出禁止が解かれても結局、魔術のことばかりで…

少々、呆れるが…本人が楽しんでいるのならまあそれは別に構わないだろう。


「近くの平原でちょっと魔術の練習をしてきます。」


アルトは近くにいたニナにそう声を掛ける。


「リオス平原ですね…いってらっしゃいませ。

あ…供は必要ですか?」


アルトが魔術の練習に使っていたあの平原は、

村と同じ名前で…リオス平原というらしい。


リオス村に近い平原だからリオス平原なのだろうか?

それとも、リオス平原に近い村だからリオス村なのだろうか?

鶏が先か卵が先かの問題のようにどっちが先なのかはわからないが、

そこはまあいい。


しかし…

供は必要なくとも、この世界は魔物とかいう生物もいるらしいし、

なにかあっても困るので、

アルトは念のために詳細を伝えておくことにした。


「供は大丈夫です。

村から一番近い大きい木の下で練習してますので、

お昼ごろには一度戻ってきますが、

日が暮れても、もし戻らなければ捜索をお願いします。」


「かしこまりました。

まあでも、この辺りにはほとんど魔物もいませんし、

もし仮に出たとしても、アルト様の魔術の腕なら大丈夫ですよ。」


随分、あっさりしてるなと思ったが、

どうやらそういうことらしい。


「(でも、もしかしたら人攫いとかもいるかもしれないじゃん?)」


まあ、アルトもこんな田舎にいるとも思っていないが、

気を付けるのは大事なことだろう。


「ハハッ…じゃあ、とりあえずいってきます。」



屋敷から平原のいつも使っていた大きな木の場所までは馬を使って十分ほどだったが、

徒歩だと五歳児の身体ということもあってか三十分近くかかってしまった。


「(思ってたより遠いのな…)」


意外と遠い上に、結構疲れる。

魔術のことばっかりでアルトは体力が足りていないのかもしれない。


「(外にも出れるようになったし、トレーニングとかもしようかな?

やることは多くなるけど…ま、頑張ろう。)」


アルトはそんなことも考えつつ、

魔法陣を構築し始めた。



「(ちょっとお腹減ってきたな…)」


しばらく、室内で出来ない魔術の検証や練習を続けたアルトだったが…

お昼も近くなってきたので、

一旦、屋敷に戻ることにした。


「(うーん、いちいち屋敷と平原を行ったり来たりするのも面倒だな…)」


屋敷と平原を往復するとそれだけで一時間はかかる。

はっきり言って、手間だ。


「(フレディさんに頼めばお弁当とか作ってくれるかな?…)」


アルトは料理長のフレディとはわりと良好な関係を築けている。


この世界では香辛料などの調味料系が貴重だ。

せいぜい塩ぐらいしかないし、

それも少量ずつしか使われないので、

この世界の料理の味は薄く、

調理方法も焼く・煮るくらいであまり種類はないので、

はっきり言うと、あまり美味しくない。


だが、どうしても美味しいごはんを食べたかったアルトが

前世であった簡単な料理のレシピをいくつか教えたら、

思ったよりもアルトは料理長に気にいられることになったのだ。


「(あの人なら多分、頼んだら作ってくれそうな気もするし…

今度、頼んでみよう。)」


アルトがそんなことを考えながら歩いていると、

村の入り口が見えてきた。


「(…ん?)」


アルトはここまで来てようやく…

村の入り口の近くで子供たちが何かをしているのに気づいた。


遠目にしかわからないが…どうやら何かを投げているようだった。


「(泥でも投げ合ってんのかな…子供の頃、よくやったなぁ…)」


微笑ましいなあ…と、

今は一応、アルトも子供なのだが、よくわからない感傷に浸っていた。


だが、だんだんと近づくにつれ…

アルトはなにやら様子がおかしいことに気づいた。


確かに投げているのは泥のようなのだが、

投げ合っているのではなく、

一人が複数に一方的に投げつけられているのだ。


「(はぁ…イジメか?

どこの世界でも変わらんなあ…

てか、なんでやられっぱなしなんだ?)」


正直、アルトにはなんの関係もなかったのだが…

寄って集って一人をいたぶっているのは気にいらなかった。


「というわけで…相手のゴール(顔面)に…シュート!」


「ぶべっ!」


泥を投げつけるやつには泥を投げつけてやろうと思ったが、

手元に泥なんてあるわけないので…作った。魔術(・・)の方を。


自作した水・土属性の混成魔術:【泥球(マッドボール)】。

通常、一つの魔法陣には一つの属性しか付与できず、

二つ以上の属性を付与することは出来ない。


それを複数の魔法陣を組み合わせることで、

可能にしているアルトのオリジナル魔術だ。


もちろん、怪我をされても困るので、出力などは下げてある安心仕様だ。


「超!…エキサイ…」


「な、なんだてめえ!」

「お前、その魔族の仲間か!?」

「いきなり卑怯だぞ!」

「そうだそうだ!」


いきなり現れたアルトに驚きながら、

投げつけていた子供たちの方が一斉に喋り始めた。


「(いっぺんに喋るな…

俺は聖徳太子じゃねえっての…

いや、聖徳太子って今は聖徳太子って呼ばれてないんだったっけ?)」


アルトは心の中でぼやきつつ、

両者の間に割って入る。


「聞き取り切れませんでしたが…卑怯なのは貴方たちの方でしょう?」


何を言っているのかはアルトにはイマイチわからなかったが、

さすがに四対一は卑怯だろう。


「うるせえ!」

「何様だ!」

「やかましい!」

「そうだそうだ!」


「(だからいっぺんに喋んなって!

てか…さっきから「そうだそうだ!」しか言ってねえやついねえか?)」


だんだん…問答もめんどくさくなってきた

アルトがしばらく黙っていると、

今度はアルトに向けて泥を投げつけてくる。


「(うぉ!?…今度は俺かよ!?

…よろしい。ならば、戦争だ!)」


奇妙なポーズをとった後、

アルトは応戦するかのように魔術で泥球を連射し始めた。


「あいつ…どこから泥団子取り出してんだよ!?」

「あぶ!?…」

「ひとまず逃げよう!」

「そうだそうだ!」


泥球の弾幕に恐れをなしたのか、

そう言って子供たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。


「正義は必ず勝つ!…なんてね。」


アルトはそう嘯く。

そもそも、別にアルトはこの行動を正義だなんて思ってはいない。


気に食わなかったので介入しただけで…

ただのエゴだというのは理解していた。


「(っと…忘れてた。)

ええと…君…大丈夫?…」


一方的に泥を投げつけられていた子供にアルトは話しかける。

その子は何故だかはわからないが、

亀のように丸くなって一方的にやられていたのだ。


さしずめ、気分はいじめられている亀を助ける浦○太郎だった。


「(じゃあ…竜○城にでもいくか?

玉○箱はいらねーけど。)」


なんて、アルトがしょうもないことを考えていると、

その子がゆっくりと立ち上がった。


その子は何か籠のようなものを抱えており…

どうやらそれを守るためにうずくまっていたようだった。


「…ぁ…」


何かを言っているのはわかったが…

声が小さくてイマイチ聞き取れない。


「ごめん…えっと、なんて?」


「…ぁ、ありが…とう…」


アルトは上手く聞き取れなかったものの、

どうやらお礼を言っていたようだ。


「あ、ああ…なるほど。別に気にしなくていいよ。

俺が勝手にやっただけだし。

とりあえず…汚れてるし、それ脱ぎなよ。

綺麗にしてあげるから…」


籠を守るのに丸まっていたからか外套の前面はそれほどではないにしろ、

背中の方が泥まみれになっていた。


それを綺麗にしてあげようと思ったゆえの言葉だったのだが…


「い、嫌!」


その子ははっきりと拒絶した。


「(急に大きな声を出すからびっくりした…

さっきはあんなに小声だったのに…)」


アルトは驚きつつも、再度声をかける。


「嫌なのはわかったけど、

そのままじゃ、中に着てる服も汚れちゃうし、

なにより、濡れたまんまじゃ風邪ひいちゃうよ。」


今は春先とはいえ、まだ肌寒い。

さすがにそんな状態じゃ風邪をひいてしまう。


しかし…


「嫌!」


その子は意外と強情だった。


「(脱いだら寒いのか?…)」


なぜそんなにも脱ぎたがらないのかはわからないが、

脱ぎたがらない理由はそれぐらいしか思いつかない。


「寒いなら、これ貸してあげるから…

それ着ときなよ。」


そう言って、アルトは着ていた上着を脱ぎ、手渡した。


本当はステラからもらったローブを着たかったのだが、

背丈が足りず、今も部屋でもらった杖と一緒に眠っているので、普通の外套だ。


アルトはアルトで強情だったからか

その子は渋々…といった様子でようやく折れた。


外套を脱いだ時…ようやく、なぜイジメられていたのか。

アルトは合点がいった。


フード付きの外套を目深にかぶっていたからわからなかったが、

髪色は明るめの緑…ライトグリーン。


さすがファンタジーな異世界って感じだが、

この世界には割といろんな髪色の人がいる。

さっきの子供たちの中にも青や赤とかいろんな髪色のやつがいたし、

それ自体は特段おかしいことじゃない。


だが…外套を脱いだその子の瞳は片眼がライトグリーン。

もう片方の眼が水色のオッドアイだった。

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