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第一章 幼年期編:目が覚めたら…身体が縮んでしまっていた(事実)

<Side:???>


巨人に襲撃されるという…

一大事件からしばらく経った。


最初のうちは夢か何かだと思っていたが、

何度寝ても覚めても景色は変わらず…

男は次第にあることを悟った。


「(…俺はどうやら転生ってやつをしたらしい。)」


転生…それは死して一つの命が終わり、

また別の命に生まれ変わること。


理解するのに時間はかかったが、

男はあの時、水底に沈んだ後、

そのまま命を落とし…

そして、赤子として再び生を受けたのだ。


何がどうなってこうなっているのか…

わからないことだらけではあるが、

今ある情報を整理した結果、

男はそんな答えにたどり着いた。


命を落とした…その事実に気が付いた時、

男はあまりのショックに震えたが、

ま、しょうがねえか。なんて今では割り切っている。


…嘘である。

正直に言えば、全く割り切れちゃいない。


結局、なにも成し遂げられずに、

何者にもなれずに終わってしまった。

その後悔は大きい。

簡単に納得なんてできるわけないのだ。


だが、どれだけ悔やもうが、

失った命は戻らないし、無くした夢は戻らない。


仕方ない。と、

男は半ば無理矢理、自分に言い聞かせるしかなかった。



「(暇だ…)」


今の男は赤ん坊。

赤ん坊にできることはほとんどなく、

一日のほとんどの時間を

ゆりかごの中で過ごしていた。


「(赤ちゃんってのは…こんなに退屈なんだなぁ…)」


まさか、自分が赤ん坊になるとは思いもせず…

赤ん坊目線で考えたことなどなかったが、

男はあまりの退屈さに嫌気がさしていた。


「(まあ、いつ食われるか

ビクビクしなくて済むようになっただけ…

マシなんだけどさ…)」


赤子に転生していると気づくまでは…

巨人にいつ食われるかと怯えながら過ごしていた。


だが、あの巨人たち(正確には巨人ではなく、男のほうが小さくなっていただけなのだが。)は

聞いたこともない言葉を使っていたが、

敵意は感じられなかった(…まあ、赤子に敵意を向けるやつも大概ではあるが。)

男はとりあえず、安心して過ごせるようになっていた。


まあ…だからといって、

退屈な状況には何ら変わりはないのだが。


「(天井、高えなぁ…)」


男はあまりに暇で…

天井に手を伸ばしてみたが…当然、届くわけもなく。


男の短く…そして、柔らかくなった小さな腕は虚しくも空を切る。


「(十一、十二…って、あのシミは数えたっけ?…

まあ、いいや…)」


暇つぶしに天井のシミを数えるのもそろそろ飽きてきていた。

何回数えようが…数が変わるわけもない。


「ふぁ…」


男はつい最近まで時間に追われ続けていた。

だが、それが今では嘘かのように…

欠伸が出るほど、退屈な時間を過ごしていた。


「(…そうこうしているうちに、なんだかもよおしてきたな。)」


だが、今の男は赤ん坊。

トイレになんて行けはしない。


男は始めのうちこそ恥ずかしがっていたものの、

今ではもうオムツの中にぶっ放すのにもう抵抗はなくなりつつあった。


生理現象はしょうがない。と、

一種の諦め…ある種の悟りの境地に至っていた。


オムツの中にぶっ放し、

そして、出し終わったら…大声で人を呼ぶ。

これが男の最近のルーティーンだった。


「おぎゃあああ!…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そんな生活を繰り返し、一年ほどが経った。


男は他にやることもなかったので、

巨人…もとい、大人たちの会話に聞き耳を立て続けて、

少しづつではあるが、

だんだんと言葉がわかるようになってきていた。


そして、言葉が多少なりわかるようになったことで…いくつかの事実が判明した。


まず、両親の名前。


父の名は、バルト・パトライアス。

威圧感のある恐ろしい風貌の男だ。


顔立ちや容姿は整っているのだが、

鋭い目つきやくすんだ暗めの茶髪、

隆起した筋肉なども相まって、

とてもじゃないが、近づき難い見た目になっている。


母の名は、テレーゼ・パトライアス。

亜麻色の優し気な髪色の美女だ。


おっとり系の美人で、

いまだに美少女と言って、

差し支えないほどに若々しい。


とてもじゃないが、大の男を吹き飛ばす

荒っぽい人物には見えない。

見えないったら見えないのだ。


「(まあ…なにより、驚いたのは…)」


二人の名前だけなら割と早期に判明していたのだが、

姓は判明するまでに結構な時間がかかった。


なぜか?…

名前と比べると、話題に上がりづらいのもあるが…

男は二人が夫婦だとは思ってもみなかったのだ。


「(いや…まさか、あの恐ろしい風貌の男があんな美女と結婚しているとは…

さすがに誰も思うまい。って…)」


まさしく、美女と○獣か!?…なんて、

男は思いはしたものの、

ちょっと顔が怖いだけでバルトもまあ…

かなりのイケメンではあるのだが。


「(あれ?野○も元の姿はイケメンだったっけ?

まあ、なんでもいいけど。)」


男は窓の外の景色(…周りに建物もなにもなくて、空以外はなにも見えないが。)を眺めながら、

この時はまだそんなことを考えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そしてさらに半年ほどが経った。


これくらいの頃になって、

ようやく自分自身の名前も判明した。


「(今世での俺の名はアルト。

アルト・パトライアスというらしい。)」


父親の名前はバルトで息子の名前はアルト。

一文字違いであることもあり、

おそらく父親の名前から付けられたのだろうが…

いかんせんややこしく、

初めのうちは自分の名前だとは気づかなかったのだ。


両親の容姿や部屋の内装、それに窓の外に見える景色(まあ、空しか見えてはいないのだが。)

などからうすうす感じてはいたが…

両親や自分の名前を知って初めて、

男…もといアルトはここが日本ではないと確信した。


「(それにしてもここはどこの国なんだろうか?

西洋系なのは間違いないだろうけど…

海外は行ったことないしなぁ…)」


今世での自分自身や両親の名前を知ったことや、

ここが日本ではないことに気づけたのも大きいが…

アルト的にはそれよりも大きなことがひとつあった。


「(…よし!

だいぶ、身体の感覚をつかめてきた…)」


アルト自身はあまり感じていなかったが、

日に日に身体は成長していた。

それに伴って少しずつではあるが、

ある程度なら身体を動かせるようになっていた。


「(さすがにずっとベッドの上ってのは、

あまりにも退屈だからな…)」


まだそこまで激しい動きはできないが…

それでも、ハイハイと捕まり歩きを駆使して部屋から脱出することには何度か成功している。


しかし、脱出に成功はしているものの、

しばらく廊下を移動したところで…

メイドさん(萌えのほうではない)や、

執事さん(羊ではない)らしき人たちに捕まって部屋に連れ戻されたので、

建物内の探索自体はそんなに進んでいない。


そして何故か毎度毎度、捕まるたびに捕まえた側の…

使用人たちの方が驚いた顔や奇妙な顔をしていた。


「(驚いてるのは捕まったこっちの方なんだが…

そんなにおかしいことしたつもりはないし…

一体、なんでなんだろ?…)」


不思議に思いつつも…

アルトはその後も脱走と探索を繰り返した。



探索を始めて数日が経ったある日。


脱走と連れ戻されるのを何度も繰り返し、

アルトはようやく廊下の端までたどり着いた。


廊下の端には下の階へ繋がる階段があった。


「(多分、構造的におそらく…

反対側の廊下の端にも階段があるのかな?

そう考えると…この家、かなり広いな。)」


アルトの体感で…

正確な広さまではわからないが、

かなりこの建物は広く…

なにかの部屋らしき扉もたくさんある。


まあ、扉には基本的に鍵がかかっていてるし、

ドアノブにも手が届かないので、

入れないからアルトには関係はないのだが。


「(身長が足りない…切実に。)」


それがアルトの目下一番の悩みだった。

おかげで自分の部屋から出るだけでも一苦労だったのだ。


「(にしても…この家…

広さといい…メイドさんや執事さんもいるし、

置いてあるインテリアなんかもかなり高そうだ…

もしかして、両親はかなりのお金持ちなんじゃないか?…)」


アルトは実際に両親がお金を持っているのを見たわけではないが…


普通の一般家庭としては部屋数も多く、広すぎる家。

普通の一般家庭にはいるわけもない使用人。

普通の一般家庭にあるわけもない豪著なインテリア。


前世では小市民であったアルトがお金持ち認定するには十分すぎた。


「(両親は何者なんだ?…

資産家かなにかか?…)」


アルトには両親が忙しそうということだけはわかっていたが、

明確に何をしているのかまではわからない。


「(まあ、そのへんのことはそのうちわかるだろうし…

それより、今はこっちだな。

連れ戻される前に探索♪探索♪…っと。)」


両親が何者か気にはなるものの、

今はそれどころではない。


タイムリミットが訪れるまでに、

どこまで探索できるか。

時間との勝負であった。


「(うーん…入れるところもなさそうだし、

他の階に行ってみるか…)」


この階になくとも…

他の階になら、

もしかしたらなにか面白いものがあるかもしれない。


そう考えたアルトは…

階段を使い、他の階に行くことにした。


「(にしても、一段一段が大きいな…)」


アルトは階段一段一段がこんなにも大きく感じたのは…

生まれて初めてだった。

(まあ、生まれてそんなに経っていないのだが。)


「(ひょえぇ…たっけえぇ…)」


試しに下のほうを覗いてみたものの、

この階段は一段一段が大きいうえに何十段もある。


幼児のアルトには…

凄まじい高さのように感じられた。


「(俺、高所恐怖症なんだよなぁ…忘れてたけど。)」


自分のことの割に…

いや、むしろ自分のことであるが故か、

まあまあなテキトー具合である。


「(まあ、行くっきゃねえよな!…)」


落ちたら大怪我は必至だ。

慎重に行動しなければならないが…

タイムリミットがいつ訪れるかわからない状況で、

あまり悠長なことはしていられない。


そう考えたアルトは即判断・即行動とばかりに…

階段に足をかけた。


「(一段下りただけなのに、

なかなかしんどいな…

運動不足なのかなぁ?…)」


ゆっくりと一段下りた。

ただ、それだけであったが、

体力の無さが如実に現れていた。


しかし、時間に余裕はない。

疲労は感じつつも…

アルトはそのまま続けて何段か下りていく。


「(ふう…ちょっと休憩…)」


さすがに疲労がたまってきたのか…

アルトが動きを止めた…その時。


どこかの扉が開いたのか、一陣の風が吹き込んだ。

そこまで強い風ではなかった。

…アルト以外にとっては。


「(あっぶねええ…落ちるとこだったぁ…)」


突然の風にバランスを崩し、

危うく大怪我をするところではあったが、

ギリギリで踏みとどまった。


「(ひやっとしたけど、ギリギリセー…)」


だが、アルトに近づく危機は…

それで終わりではなかった。


コツコツ…という誰かの足音が聞こえ、

その足音は…だんだんと大きくなっていた。


誰かが…アルトの方に向かって、

少しづつ近づいてきていた。


「(やっべ…見つか…)」


アルトは焦ってしまった。

緊急事態の時ほど冷静であるべきであったのに…だ。


全てがスローモーションで流れていく。


大怪我をするくらいなら、

まだ見つかるほうがマシだったが、

こうなってはもう後の祭り。

アフターフェスティバルだ。


「(なるべく…大怪我にはなりませんように…)」


最後の悪あがきで頭だけは守りつつ…

アルトは階段を転げ落ちていった。

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