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第一章 幼年期編:治癒魔術と結界魔術

<Side:アルト>


テレーゼによる治癒魔術と結界魔術の魔術講座が始まってから

およそ二ヶ月が経った。


この二ヶ月でわかったのはテレーゼは…かなり不器用だということだ。


作ってくれていた手書きの教材用資料が

お世辞にも綺麗とは言い難い出来栄えだったことから

薄々は感じていたものの、

これまで一緒に暮らしてきた中では、

少しもそんな素振りは見えなかったので、

アルトは驚いたのだが、

人ってのはやっぱり見かけによらない。


テレーゼは教えること自体が不慣れで感覚派なのだろう。

「グイってやってピュー」だとか擬音で説明されてもわかるわけがない。

いかんせん要領を得ないことも多く、

思っていたよりも習得に時間がかかった。


「(まあ、資料が解読不能でなければもう少し違ったのかもしれないが。)」


テレーゼの手書きの資料…もとい暗号を解読する。

たったそれだけで一ヶ月以上かかった。


ただでさえ字や図が汚…読めないのに、

この資料にも擬音混じりで書いてあって、

文字通りの意味で怪文書だった。


それでも、解読の末にどちらの魔術も超級まで習得できた。

正直、アルト的には魔術を学んでいたというより…

暗号解読をしていた気分だったが。


「(まあでも、一生懸命教えてくれたし…感謝しないとな…)」


ステラの授業の後だから相対的にひどく見えただけかもしれない。

…いや、そんなこともないかもしれないが。


ともかくそれでもわざわざ手書きで資料を用意してまで一生懸命教えてくれたのだ。

そこは感謝せねば。



治癒魔術と結界魔術について情報を整理しよう。


どちらの魔術も七大魔術とは異なる部分が多く、

各属性・各位階で一つの固有の魔術しか存在しない。


まず、治癒魔術。

その名の通り、傷を癒す魔術だ。


この魔術は魔法陣の六項目…属性・出力・造形・速度・軌道・時間のこの六つのうち、

造形の項目が存在しない魔術となっていた。

七大属性の各属性の初級魔術でも造形の項目は存在しなかったが、

治癒魔術は全ての位階で共通して造形の項目が存在しなかった。


治癒魔術の各位階の魔術はそれぞれ以下の通りだ。


初級:【治癒(ヒーリング)】…打撲など軽微な傷を治せる。

中級:【広域(エリア)治癒(ヒーリング)】…【治癒(ヒーリング)】の広範囲版。

上級:【上位(ハイ)治癒(ヒーリング)】…骨折など重篤な傷も治せる。

超級:【広域(エリア)上位(ハイ)治癒(ヒーリング)】…【上位(ハイ)治癒(ヒーリング)】の広範囲版。


治癒魔術は位階が上がるごとに、

出力もしくは規模が上がる。

簡単に言えば、初級はホ○ミで超級はベホ○ラーだ。

超級までの魔術では部位の欠損ほどになると治せず、

治そうとすると聖級以上の魔術が必要になるらしい。


次に、結界魔術。

これは障壁を作る魔術だ。


こちらは治癒魔術とは異なり、属性の項目が存在しない魔術だ。


初級:【結界(バリア)】…一方向(自身を中心とした四分の一周・九十度)の障壁。

中級:【二面(ハーフサークル)結界(バリア)】…二方向(自身を中心とした半周・百八十度)の障壁。

上級:【四面(サークル)結界(バリア)】…四方向(自身を中心とした全周・三百六十度)の障壁。

超級:【六面(ラウンド)結界(バリア)】…六方向(四方向+上下)の障壁。


結界魔術は位階が上がるごとに

魔法陣が分裂…つまりは七大属性の超級でやっていたようなことを何回も行い、

硬さは変わらないものの…障壁の面が増え、防げる範囲が広がっていた。

初級では正方形状の障壁で一方向しか防げないが、

超級では立方体状の障壁で上下も含めた全方向を防げる。


これは治癒魔術・結界魔術どちらにも言えることだが…

七大属性の位階区分とは全く異なっていた。


「(うーん、そのへんは魔術によって違うのか?…

魔術については比較的傾向がつかめてきていると思ってたんだけど…

ちょっと微妙になってきたか?…

もしかしたら、魔術には七大属性のような複数の魔術があるパターンと

治癒魔術のような固有の魔術しかないパターンの二種類があるのかもしれないけど…)」


アルトは若干困惑しつつも…

治癒魔術と結界魔術。

その二つの魔術を学んだことでアルトは一つの発想を得ていた。


これまでにNC魔法陣を活用し、

いくつかの魔術を自作していたが、

これまでに作った魔術は効果は試せていないものの、

全て七大属性の魔術だった。


アルトは魔術を作るのに、

魔法陣を構成する六つの要素。

属性・出力・造形・速度・軌道・時間。

このうちのどれもが欠けちゃいけない。とそう思っていた。


だが、治癒魔術は造形の項目が、結界魔術は属性の項目がそれぞれ欠けた魔術だ。


ということはつまり、この要素全てが必ずしも必要ではなく、

別に欠けてもいいのだ。


よくよく考えてみれば、NC魔法陣の一番初めの魔法陣を描いてみた時も、

現象は確認できなかったが、何かが起こった感覚だけはあった。

きっと魔術として成立していたということなのだろう。


「(今度はそういう路線でも魔術開発してみるか…あ。)」


外出禁止の今の状況でも出来ることを…と考えていたが、

アルトはあることに気づいた。



「今の俺は前までの俺とは違うぜ…!」


アルトは未だ懲りずに…屋敷からの脱走を企てていた。


これまでは魔術を脱走に利用したくても、

非殺傷系魔術かつ、屋敷への影響がない魔術。

(前回の水を撒いたやつは床がビショビショになって、

後でテレーゼにこっぴどく叱られた。)

この条件に適した魔術で足止めに使える魔術となるとほとんど存在しなかった。


だが、今回に関しては…

自分でも口にしていた通り、これまでとは違う。

結界魔術。これを習得していた。


本来は攻撃などを防ぐため…つまりは身を守るための魔術なのだが、

今回は別の用法で使う。


超級結界魔術:【六面結界】は前後左右、そして上下も含めた全方向を覆う結界だ。


この結界内に対象…つまりはギルバートを閉じ込め、足止めするという

本来の用法とはかけ離れた一風変わった用法だ。


魔術は通常、数秒~数十秒は持続する。

つまりはこの時間分は足止めが出来るということだ。

ある程度の時間さえ稼げれば、その間に脱走出来る。


「ふっふっふ…見てやがれ!…吠えづらかかせてやる!」


微妙に三下感が漂っていたが、

アルトの何度目かの脱走計画はこうして…実行に移されたのであった。



「ちくしょう…」


いつも通りアルトはギルバートに自分の部屋まで連れ戻されていた。


「アイツ絶対、執事なんかじゃねえだろ…」


そうぼやくアルトの気持ちも無理はない。


今回も屋敷の玄関でいつも通りにギルバートは待ち構えていた。


だが、日頃の努力でアルトの魔術の構築速度が上がっていたこともあり、

不意を突いて閉じ込めるところまでは成功した。


これで多少は足止めできると踏んでいたのだが…

ギルバートは素手で事も無げに結界を破壊した。


「ありえねえだろ…マジで…」


自分でも一度試しに中に入ってみたが、

かなりの硬さはあった。


とても素手で壊せるような代物ではないとアルトは思っていたのだが…


「(今度は出力上げて閉じ込めてみるか?…

いや、検証できていない魔術を人に向けるのはさすがに…)」


NC魔法陣の活用で魔法陣の情報上は出力を上げることはできる。

だが、実際に発動し検証できていないのだ。

別にこれまで培ってきた自分の知識を疑っているわけではないが、

もし、仮に情報通りに魔術が発動しなければ…

想定していない魔術が発動したりすればシャレにならない。


安全第一。いのちだいじに。がモットーだ。

だからこそ周りに影響のない平野での検証が必要なのだ。


「(こりゃ八方塞がりか?…

にしても…執事がめちゃくちゃ強いなんてのはフィクションだけで十分だろ…)」


正直、このままだとあのバケモノ執事を攻略できる気が全くしない。

おとなしくちょっとの間は我慢するしかないか…とアルトは思い始めていた。


「でもそれじゃなんか負けた気がするんだよな!」


そもそもギルバートは勝負すらしていないし、

実際のところは連敗どころの騒ぎではないのだが、

そこは気にしない。


この日以降も打倒ギルバートを目標に掲げ、

脱走を企て続けるアルトであった。

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