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第一章 幼年期編:夢

いつもより文字数多めです…

<Side:アルト>


ステラは魔術の講師ではあるが、

魔術に関すること以外もアルトにたくさん教えてくれていた。


例えば、この国のことや世界のことなどだ。


この国の名は…サザーランド王国。

その中でもアルトたちが暮らすこの地方は

王国南部に位置し、ゲルナンド領と呼ばれている。


ゲルナンド領はゲルナンド伯爵と呼ばれる貴族が治める領地で、

伯爵が住む都市とその付近のいくつかの町と村などが含まれている。


その中の一つであるリオス村というのがこの村の名前である。

(三年も暮らしているのにアルトは知らなかったが。)


ゲルナンド領は比較的温暖な気候の地域で、

都市部以外は良くも悪くもまあ、長閑な地域であった。


そしてサザーランド王国は、

世界に七つある大陸のうちのひとつである中央大陸に

存在する国家の一つである。


この世界に存在する大陸は…


世界の北東に位置する、魔大陸

世界の北西に位置する、ガルシア大陸

世界の中央に位置する、中央大陸

世界の南東に位置する、ゴース大陸

世界の南西に位置する、クライン大陸

世界の南に位置する、南大陸


そして世界の北に位置する、未開の地 北大陸である。


その他にも、大小さまざまな島国などが存在するが、

大陸はこの七つのみとなっており、

ステラはこのうちの半分の四つの大陸には行ったことがあるらしい。


「(俺も一回くらいは行ってみたいんだよな…

前世でも旅行はほとんど行ったことないし。)」


アルト自身も機会があれば行ってみたいな。と、そう考えていた。


「(なにより…この世界にはいろんな種族がいるらしいし、

一度は会ってみたいんだよな…)」


この世界には森人(エルフ)炭鉱人(ドワーフ)獣人(ビースト)巨人(ジャイアント)小人(ホビット)…などなど

多種多様な種族が存在するらしい。


空想の中の産物でしかなかった者たちに実際に会える。

そう思うと、図らずとも心が躍る。


なんなら、ステラもそのうちの一人で、

ギルバート達には魔族と呼ばれていたが…

正確には魔人族という種族だ。


「(冒険者かあ…)」


時間は少し遡る。



「先生!そういえば…『魔族』ってなんですか?」


ステラは微妙な顔をしながら答えた。


「…アル君。

もし、いきなり人族ってなんですか?…

って聞かれたらどう思いますか?」


「…反応に困りますね。すみません。」


そう問い返されて、アルトは自分の悪手に気づいた。


当たり前だが、自分が言われて嫌なことは言っちゃいけないし、

されちゃ嫌なことはしちゃいけない。


「そうでしょう?

でも、まあそこまで気にしないでください。」


そう言って、ステラは手を振って笑った。


「ええと、それで…魔族のことでしたね?

そうですね…魔族…正確には魔人族なのですが…」


そこまで言って、ステラは何かを思い出したかのような

表情をし、アルトに尋ねた。


「…そもそもアル君はこの世界の歴史について、

どの程度知っていますか?」


「ええと…ほとんどわからないので…教えてくれると助かるます(?)」


いつかは知りたいと思っていたのだが、

この家にはそういった書物…というか本全般がない。

唯一あるのが、誕生日にもらった『魔導教典』だけだ。

もしかすると、印刷技術や製紙技術が発達していないのかもしれないが、

ともかく調べられる機会もなく、断念していたのだ。


「いえ…私の方こそ失念していました…

よく考えたら、まだ学校に通える年齢でもないですしね…

知らなくても当然です。」


ステラは一人、納得した様子を見せる。


「(そうか…学校…

普通に頭から抜けてたけど、

この世界にもそれくらいあるわな…)」


この時のアルトの頭からはすっかり抜け落ちていたが、

もちろん、この世界にも学校というものは存在する。


だが、前世での学校との大きな違いはいくつかあり、

その中の一つが幼児教育だ。


前世ではある程度の年齢になれば、

幼稚園や保育所、小学校などで教育を受けることになったが、

この世界ではそうではない。


ある程度の年齢…人族で言えば、およそ十歳ごろ。

多少の思慮や分別が付き始めたころに通い始めるものなのであり、

それゆえにアルトは学校というものには今世はまだ通っていない。


(学校によっては、初等部を設置し、

幼児教育に力を入れている教育機関もあったりするが、

そういったものの大半は貴族や豪商などの富裕層向けであり、

一般的な庶民が通うことはほとんどない。)


「…先生。

学校ってどんなのなんですか?」


アルトはステラにそう尋ねる。


アルトは前世の学校についての知識はあるが、

この世界の学校についての知識はほとんど持ち合わせていない。


そのため少しでも情報が欲しかったのだが…


「…実を言うと、私も一般的な学校というものに通ったことはなくてですね…」


ステラは申し訳なさそうにそう言った。


「(ステラ先生は学校行ってなかったのか…

ん?…て待てよ。

じゃあ、魔術とかの知識は独学で習得したってことか…?

いや、別に学校に通わなくとも、

俺みたいに親とか誰かに教えてもらったのかもしれないか…)」


色々と気になったところはあったが、

前世でも学校に行っていない者は一定数いたし、

この世界にも一定数いるのだろう。

そう考えたアルトは必要以上に詮索しなかった。


「まあでもそうですね…

アル君なら普通の学校ではなく『学園』とかに行ってみるのも悪くないかもしれませんね。」


「(学園?…なんとか学園とかじゃなくて、

学園って名前の学校なのか?…

学校的ななにかなのはわかるが…それしかわかんねえな…)」


「ええと…学園って?…」


「学園は通称で…正式名称が…」


「正式名称が?…」


「…すみません、忘れました。」


アルトはズッコけた。


「ここまで出かかってるんですけど…パッと思い出せないんですよね。

年でしょうか?」


「いやいや何を言ってるんですか。

先生は若いじゃないですか。」


「そうですか?…

まあ、私よりよっぽど若いアル君に言われるのもよくわかりませんけど…」


たしかに三歳の子供に若いと言われるのもよくわからない状況ではある。


「今のやり取りでわかったように学園については

私もそこまで詳しくはないんですが、

学園は学ぶことにおいては最高峰の環境だと聞きますので、

頭の片隅にでも置いておいてください。」


そうステラは締めくくった。



「元々何の話してたんでしたっけ?」


「たしか魔人族の話から派生して…歴史の話でしたね。

アル君は知らないようなので、

この世界の始まりについての話からしましょうか。」


アルトは気になることがあればなんでも質問するので、

話が脱線し、話の本筋を忘れるなんてのはよくある。

それにステラも最近は慣れてきていた。


「むかしむかし、気の遠くなるほどずーっと昔のことです。」


「(なんか…昔話の導入みたいだな。

いやまあ、昔話ではあるんだが。)」


なんてアルトがしょうもないことを考えている間に

ステラはこの世界の歴史について語り始めた。


「元々、今ある七つの大陸は一つの巨大な大陸で、

そこには一つの種族が…たくさんの人々が暮らしていました。

今の人類は全て…名前すら残ってはいないこの種族が元となり、

そこから枝分かれし誕生したといわれています。」


前世でも超大陸というのや進化の過程というものはあったが、

おそらくそれと似たようなものなのだろう

アルトにとってはどこか聞き覚えのある情報だった。


「人が集まると、争いはつきもので、

その大陸は争いや天変地異などで徐々に分かれていき、

長い年月をかけて、今の大陸の形になったとされています。」


争いで?…とアルトは思ったものの、

魔術や魔法なんてものが存在する世界だ。

地形が変わることもよくあることらしい。


「そして、それぞれに分かれた大陸で

種族が独自に進化していき、

様々な種族が生まれることとなったのです。」


やはり、アルトが知っている前世での進化の歴史と似たようなもので、

このへんの情報にも聞き覚えはある。

まあ、種族間の違いがかなり大きいという違いはあるのだが。


「そして、魔人族の話でしたね…

そうですね…あえて言うのであれば、千年前の大戦で

魔神側についていた種族というのが正しいでしょうか…」


「(急にやけに具体的だな…)」


さっきまではかなりざっくりしていたのに、

千年前なんていうやけに具体的な数字が急に出てきた。


まあ、この世界には森人(エルフ)などの長命の種族もいるらしいので、

実際にその歴史の生き証人がいるのかもしれない。


「(てか、大戦?…魔神?…

なんだそれ?…)」


アルトは思わず口に出していたのか、

ステラが答える。


「…その大戦の名前は天魔大戦。

神と神の戦争で、

代理戦争としてそれぞれの信奉者同士がぶつかりあった

血を血で洗うような悍ましい戦争です。」


いきなり話の規模が大きくなり、

あまりついていけていないアルトを置いて、

ステラは続ける。


「最終的に敗れた神は『魔神』と呼ばれ、

その敗れた神の側について戦っていた種族をまとめて魔人族と呼ぶのです。」


敗れた種族たちは数が減っていたというのもあり、

みんな一纏めに一つの大陸に押し込められ、

戦争により荒れ果てた大地で暮らすこととなった。


そのまとめられた種族の総称こそが『魔人族』なのだ。


「だから、一口に魔人族といっても…

同じ種族とも限らないのです。

かくいう私も自分自身の正確な種族名すらわかりません。

魔人族…魔族とも呼ばれるこの種族はそれくらい雑多なのですよ。」


魔人族というのは…

たとえ同じ種族であっても、

全く異なる姿形をしていたりと、

人族以上に大きな個人差がある種族なのだ。

(ステラ自身は見た目だけで言えば、そこまで人族と大きな違いはないが。)


魔人族の種族の特性としては、

比較的人族に比べ宿しているマナの量が多い傾向にあるらしい。

(全体比のため、もちろん個人差はある。)


そのため、みんながみんな持っているわけではないが、

『魔眼』と呼ばれる特殊な目を持っていることも多いらしい。


「(…そういえば、ギルバートも前になんか言ってたような気がするな…)」


ギルバートは「魔族の特徴だ」的なことを言っていた気がするが、

魔人族でも持っていない者もいるし、

他の種族でも持っている者もいるものらしい。


「(…そういや…ステラ先生も…)」


今は修理から戻ってきたメガネをかけているので、

両眼とも銀色になっているが、

あのメガネは魔導具で認識阻害の魔法がかかっている。


ステラの瞳は本来は片眼が金色のオッドアイ。

つまり…『魔眼』なのだ。


「ステラ先生の…その…魔眼ってどんな能力があるんです?…

その眼で見つめたら石になるとか死ぬとかですか?」


魔眼には様々な種類や色があり、それぞれが異なる能力を持っているらしい。

アルトはステラの魔眼がどんな能力なのか気になり尋ねる。


「え!?なんです?

その物騒な能力!

だいたいそうなるのだとしたら、

もうとっくの前にみんな石になってるか死んでるじゃないですか!」


ステラはアルトが例に挙げた能力に

素っ頓狂な声を上げる。


「(あれ?

某○死の魔眼みたいなのはともかく、

石化の魔眼はあると思ってたんだけどな…

魔眼と言えばそれみたいなとこあるし。)」


アルトの中では魔眼といえば、

石化とかそういうイメージが強かったが、

言われてみれば、確かにすごく物騒だった。


「(じゃあ、千里眼的なやつで遠くが見えたりだとか

透視的なやつで透けて見えたりってことなのかな?)」


アルトは改めてステラの魔眼の能力を予想するが…


「まあ…教えてあげたいのはやまやまなんですが、

残念ながら私自身にもわからないんですよ。

制御出来ていないと、視界がぼやけたりするんですが…

私の場合、普通に見えていますし…。

もしかしたら、特に何の能力もないのかもしれませんね。」


ちょっと残念そうにステラはそう言った。


「(ほえー…でもまあ、ちょっと残念だなあ…

魔眼の能力っての見てみたかったし。)」


せっかく魔眼の持ち主に出会えたのだから、

その能力とやらを実際に見てみたかったが、

そうそう上手くはいかないようだった。


「(でも、そっか…考えてもみなかったけど、

魔眼ってのは制御できないこともあるのか…)」


アルトはてっきり魔術なんかと同じでコツさえつかめば、

制御できると思っていたが、

どうやら魔眼というのは発現しても制御できない人も多いものらしく、

そういった人は一生片方の眼を眼帯などで隠して生活するような代物らしい。


「…何の能力もなくてもステラ先生の瞳は綺麗ですよ。」


アルトは余計なことを聞いてしまった…と、

若干、気落ちしているステラをはげまそうとしてそう口にする。


「!?…い、いきなり…なに言ってるんですか…

いきなりなのはいつものことですけど…」


ステラは急に褒められて、顔を赤くしていた。


「(前から思ってはいたが、

スゲーギャップなんだよな…)」


ステラは見た目だけで言えば…綺麗系のクールビューティだが、

中身はどちらかと言えば、かわいい系でかなりのギャップがある。


これがギャップ萌えなのか…なんてアルトが考えていると…


「ゴホン…ええと…なんの話をしていましたっけ?…」


ステラは気を取り直して話を戻そうとするも、

何の話をしていたか忘れてしまっていた。


「ええと…魔人族の歴史について…だったと思います。」


アルト自身も『魔眼』や違うことに気を取られたせいか

何の話をしていたのか一瞬忘れていた。


「…ああ!…そうでしたそうでした…

天魔大戦の話ぐらいまでしたんでしたね。

ええと…天魔大戦の前にも後にも、

世界では規模の大小はあれど、種族に関係なく同族同士でも戦争が続いていました。

その中でも、人族と魔人族は衝突することが多かったのです。

魔人族側は枯れた大地に追いやられた屈辱と復讐心、

人族側は奪われた命の復讐と自分たちが信じる神への信仰のため、

理由はなんであれ、何度も何度も…何年も何年も…争い続けていました。」


「…それは…」


アルトが言おうとした言葉。

それは発さなくとも、ステラにも伝わっていた。


「ええ…理由はそれだけではないものの、

お互いがそれぞれ復讐のためにぶつかっていた。

とても惨たらしい歴史です。

命が奪われているのはどちらも同じだというのに…」


そう言ったステラは悲しげで…苦しげな顔をしていた。


「(心を…痛めているんだな…)」


どの世界でも戦争の歴史なんてのは変わらない。

復讐が復讐を生む。

呪われた宿命なのだ。


綺麗事だけではない。

それをアルトは理解していた。


「…優しいんですね…ステラ先生は。」


「へ?…」


そんな言葉を想定していなかったのかステラは素っ頓狂な声を上げた。


「いえ…何も…

察するにその遺恨が今でも残り続けているといったところでしょうか。」


「…そうです。

百年以上前の戦争で人魔協定が結ばれたのを最後に、

大々的な戦争は起きていませんが、

未だに人族と魔人族の間には根深い遺恨が残っています。

アル君やバルトさんのような人ははっきり言って少数派です。

執事長さんやメイドさんの反応が大多数なのです。」


ギルバートやニナの反応を見て、

薄々は感じていたことだ。


「おそらくそれはこれからも…」


変わらない。

そう言おうとしたステラの言葉をアルトが遮った。


「ステラ先生。

過去は変えられない。だけどね…

現在は…未来は…いくらでも変えられるんですよ。」


アルトは力強く言った。


まるで自分自身にも言い聞かせるかのように。


「…!」


「僕たちは人族と魔人族で異なる種族。

でもね…想いは…心は…変わらないんです。

その心があるなら…きっと分かり合える。」


難しいのはわかっている。

それでも、アルトはそう信じていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Sideステラ>


その言葉を聞いた時、

ステラは自身のことを恥じていた。


アルトはステラの想像以上に聡く、強かった。


「(誰かが導いてあげる必要なんてなかった…)」


ましてや自分なんかに導くことなどできはしないだろう。


「(それでも彼は私なんかのことを

先生などと呼び、慕ってくれている…

私は…彼の師であるに足りうる人間ではないというのに。)」


「…生!…先生!…ステラ先生!」


アルトがステラの名を呼んでいた。

どうやら何度も何度も呼んでくれていたようだが、

ステラは呆けてしまっていた。


「…アル君は強いですね。」


「…!?…よかった…返事がないから、

体調でも悪くなったのかと…大丈夫ですか…?」


返事がなかったことで

必要以上に心配をかけてしまったようで、

申し訳ないことをしたな…とステラは思う。


「ええ…大丈夫です…」


ステラはこれ以上の心配をかけまいと

なんとか言葉を絞り出した。


「…先生。僕は強くなんかないですよ。」


「…」


ステラの独り言のような呟きは

どうやら聞こえていたらしい。


「(…そんなことはない。

自分では気づいていないのかもしれないが、

彼はとても強い子だ。

私なんかとは違って…)」


魔法の練度も聡明さもなにもかも並の大人を優に超えている。

それなのに、増長するわけでもない。

アルトは随分と自己評価が低い。はっきり言って異常なまでに。


ステラには知る由もないことだが、

それにはアルトの前世でのことが起因していた。

失敗続きの人生の中で、

自分ごときに出来ることは誰にでも出来る。

そんな劣等感を抱き続けていた。

それが…それこそが彼の自己評価の低さに繋がっていた。


「僕は…弱い人間ですよ。

…買い被りすぎです。」


「…そんなことはありません。

強さにも種類はあるんです…

君が想像している強さとは違ったとしても、

君は聡く…そして優しい子です。

それは明確に君の強さ…君にしか持ちえない君自身の強さなのです。」


ステラはそう言い切った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:アルト>


その言葉はアルトにとって…衝撃だった。


間違い続け…夢も希望も何もかもを失い…

弱くて何も持たざる自分に生きる価値などありはしない。と

自分自身をも否定し続けていた人生を…肯定する言葉だった。


転生したことで割り切っていたつもりではあったが、

心のどこかには残り続けていた。


そして…縛られ続けていたのだ。

…前世に…過去に。

後悔に縛られ続けていた。

自分自身でも気付かないうちに。


「アル君…アル君には…夢はありますか?」


「夢…ですか?…」


「こんなことがしたい。こんなふうになりたい。

何だってかまいません。」


「…」


返答に窮したのかアルトは押し黙る。


「夢は今はわからなくても構いません。

国に仕える魔術士になってもいいですし、

…これは私が好きなだけですが、

冒険者になって旅をしてみるのも悪くはないかもしれません。」


冒険者…それはこの世界の職業の一つで、

まだアルトは見たことも行ったこともないが、

この世界には魔物という生物や迷宮といったものがあり、

魔物の討伐や迷宮の攻略などで生計を立てている人たちのことをさす。


ステラはその冒険者というものをしており、

依頼の一環として、この屋敷に魔術講師として来てくれている。


冒険者として生活する中で、

これまでに世界中を旅してきたらしい。


「私たちが思っているよりも世界というのは広いんです。

私もそれなりに生きてきましたが、

それでも知らないことだってたくさんあります。

広い世界を知ることで、なにかを見つけられるかもしれません。」


小さな…狭い世界に囚われることも

悪いわけではないが、

必ずしもそれが全てではないのだ。


「それでいえば…私は先生にもなってみたかったんです。

種族的な問題とかもありますけど…

こうやって、アル君に教えることが出来て…

アル君が…先…生…と呼んで…くれて…嬉しかったんです…」


いつの間にかステラの双眸から涙が零れていた。


「…ええ!?

先生!どうしたんですか!?

どこかぶつけたんですか!?」


「いえ…違います。

私のことどんな風に思ってるんですか…」


「え…ドジっk…いえ、敬愛する師匠です。」


アルトは思わず口から零れそうになるのを抑え、

そう口にする。


どちらもまごうことなき本心だ。


「そう言ってくれるのは嬉しいですが…

ん?…何かちょっと失礼なことを言おうとしてませんでしたか?…」


「気のせいです。」


「いや…でも確かに…」


「気のせいです。」


アルトは頑なになかったことにしようとするので、

最終的にはステラが折れた。


「そこまで言うなら

そういうことにしておきますが…

私は断じてドジっ子なんかじゃないですからね!?

たまーに失敗しちゃうだけで!」


ステラは意地でも自分をドジっ子とは認めないらしい。


「ゴホン…気を取り直して…

アル君は魔術が上手ですが、

だからといって、魔術に拘らなくてもいいんです。

君はまだ若い。いや…ちょっと若すぎるかもしれませんが…。

ともかく…君は何だってできる。何にだってなれるんです。

大事なのは君自身がどうしたいか。それだけなんです。」


「(自分がどうしたいか…か)」


改めて見つめなおすことで、

渦巻いていた感情が整理されていく。


「…僕は…俺は……」


アルトの中で停滞していた何かが変わり始めていた。


この時…本当の意味で初めて…

アルトの…アルトとしての人生は始まったのであった。

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