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序章:モノガタリノハジマリ

初めまして。Sumiと申します。

小説の執筆は初めてですので、

読みづらいところもあるかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。

<Side:???>


昔、誰かが言った。


夢なき者は理想なし。

理想なき者は信念なし。

信念なき者は計画なし。

計画なき者は実行なし。

実行なき者は成果なし。

成果なき者は幸福なし。

故に幸福を求むる者は夢なかるべからず。


誰が言った言葉かは覚えてはいないが、

要するに、幸せになりたければ夢を持ちなさい。

そういった意味の言葉だ。


それ故に人は夢を見る。


叶えたい願いや果たしたい野望、

夢の姿形はそれぞれだけど、みんな一度は夢を見る。


「(俺にも夢があった…

今となっては思い出せもしないけれど、

どうしても叶えたい。

そんな夢が、俺にもあったんだ。)」


だが、夢は必ずしも叶うとは限らない。

むしろ、叶わないことのほうが多いだろう。


夢を追い続けるということは

そう簡単なことではないのだ。

現実という壁はそう甘くはなく、

身体的、精神的、金銭的、さまざまな事情で、

諦めることを余儀なくされる。


この男も立ちはだかる壁の

あまりの大きさに夢を阻まれ、

いつの間にか諦めてしまった一人だった。


「(もちろん、精一杯の努力はしたつもりだった…

でも、努力だけではどうにもならなかった。)」


努力は報われるなんて誰かは言うけれど、

報われるのはほんの一握りだけで、

現実は報われないことのほうがほとんどだ。


報われない努力ってのは虚しいだけだ。

だから、男は諦めた。

…諦めてしまった。


気力をなくし、全てを捨てた。

それでも、胸に残るのは後悔。


幾度となく繰り返される苦悩と葛藤。

求めたものは…欲したものは…

何一つとして手に入らない。

なのに、苦しみだけはいつまでも残り続けた。


「どこで…間違えた?…

いや…『どこで』じゃないな。

俺の人生…間違いだらけだし。

ホント…どうしたらよかったんだろうなぁ…」


男は呆れと苦笑が混じった奇妙な表情をしつつ、

そんな言葉をふと零す。


どんなに頑張ったって報われない。

希望なんてどこにもない。


一体、いつからだろうか…

未来に希望を見出せなくなったのは。

あの日、思い描いていたはずの未来は、

あんなにも光り輝いていたというのに。


そんな絶望感を抱えたまま、

男はあてもなく雨の降る街を彷徨い歩いていた。


目的を見失い、闇の中へと進んでいく。

その姿はまるで迷子の子供のようであった。



鳴り響く雷鳴。

そして、吹き荒ぶ風と雨。


全ては等しく闇へと飲み込まれていく。


「ん?…!?…」


あてもなく彷徨いながらも、

男はその異変に気づいた。


水かさが増し、

大人であっても、

流されてしまうような激流となった川。


そんな状態となった川に、

小さな影が浮き沈みしている。


何かが…いや、子供が流されていた。


気づかなければ、

放っておくこともできたかもしれない。

だが、男は気づいてしまった。


薄っぺらい正義感かもしれないが、

それでも、男は善性の人間であった。


小さな命が消えてしまうのを

見て見ぬふりすることなど、

到底できはせず…

いつの間にか、男は駆け出していた。


「間に合ってくれよ!…」


駆けだした勢いのまま、

男は橋の欄干から飛びおりた。


平時であれば、大怪我は必至。

それくらいの高さではあったのだが、

水かさが増していたこともあり、

動けなくなるほどの大きな怪我を

負うことはなかった。


それでも、それなりの高さから

飛びおりたためであろう。

ズキズキと鈍い痛みが男の全身を苛む。


「(ッ!…痛え!…)」


しかし、動きを止めている時間はない。

この間にも、小さな影はどんどんと

流されていってしまっている。


「(思ってたよりも流れが速え!…

動きづれえし…追いつけるか!?…)」


元々、男はそれほど泳ぎが得意というわけではない。

にもかかわらず服が水を吸い重くなり、

動きが鈍くなった状態ともなれば、

それはより一層である。


だが、それでも男は懸命に泳いだ。

火事場の馬鹿力とでもいうのであろうか、

己の限界を越えた泳ぎを見せた。


相手は見ず知らずの子供かもしれない…。

だが、『失われかけている小さな命を救いたい。』

ただその一心で、

男は自らの限界を越えた。


「追い…ついた!」


小さな影に手を伸ばした…

その時、異変は起こった。


「は?…」


突如、小さな影は消え失せた。

まるで霧のように。

最初から存在すらしていなかったかのように。


男は思わず呆気にとられた。

…とられてしまった。


そしてそのまま、

流されてきた看板に気づかず、激突した。


濁流に飲み込まれ、

薄れゆく意識の中で、

男は思った。


「(あーあ…止めときゃ良かった…

…俺の人生…間違い…だらけ…だ…な…)」


意識は暗転した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


差し込む朝日と小鳥たちの囀り。

そこに誰かの笑い声が木霊する。


「(ん… うう、眩しい…)」


差し込む光のあまりの眩さに目が眩む。

反射的に手をかざそうとして…男は違和感に気づいた。


「(んん… あれ?…)」


意思に反して、手がうまく上がらない。

それどころか、全身に力が入らず、

身体がほとんど動かない。


そのことを知覚した途端、

意識は急激に覚めていった。


「(身体がほとんど動かない?… なんでだ!?…)」


男はひどく混乱した。


何度も何度も、言うことを聞かない身体を動かそうと

試行錯誤するが、帰ってくる反応は乏しい。


そうこうしているうちに、

だんだんとあたりの眩しさに目も慣れていき…

男はあたりを見回した。


「(ここは?…どこなんだ?…

病院…っていうわけでもなさそうだけど…)」


見慣れない天井に、思わず困惑する。

だが、状況が状況なだけに、

あまり落ち着いてもいられない。


「う、うあー(す、すいませーん)」


自分一人ではどうにもできず、

誰かに助けを求めようと声を出したが、

上手く言葉にならない。


「(言葉も喋れなくなっている!?…)」


そう気づいた時、

男は急激に不安感に駆られ始めた。

言葉も喋れなくなり、体の自由も効かない。

だが、そんな状況から抜け出すことも出来ないのだ。

今更ながら、途轍もなく恐ろしくなった。


「(一体、何が…)」


男は…直前の記憶が抜け落ちていた。


自身の置かれている現状もその原因もわからず、

ただひたすらに混乱していた…そんな時。


いつの間にか、巨人が側に立っていた。


軽くちびりそうなくらい

(実のところ、男はちょっとちびっちゃったのだが…)

恐ろしい風貌をした大男がすぐ側に立っていた。


「(!?…で、でけえ!…

いつの間に入ってきたんだ?…)」


そして、大男の口が三日月形に裂けた。


「(!?…絶対、ヤバい…

く、喰われる!…だ、だれか…助けて…)」


身動きのできない恐怖も相まって、

男はこれまでに感じたことのないほどの

恐怖を感じていた。


「XXXXXXXXXXXXXXXXXXX」


上手く聞き取れないものの、

巨人が聞き覚えの無い言葉で何か言っている。


「(??…わ、わからん…何語だ?…

とりあえずトイレに行きた…)」


何を言っているのかはわからないものの、

なんとか巨人の意図を

読み取ろうとしていた…その時。

巨人が手を伸ばした。

身動きの取れない男に向かって。


「(…!!!!!!!!!!)」


男はもう限界だった。

いろんな意味で。


「おぎゃああぁぁー…おぎゃああぁぁー!!!…」


男はいつの間にか声をあげて泣いていた。

その様相はまるで赤子のごとく。


ついでに、限界を迎えた膀胱は決壊した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:???>


「おぎゃああぁぁー…おぎゃああぁぁー!!!…」


赤子の泣き叫ぶ声があたりに響きわたる。


そして、ものすごい勢いで近づく足音。


バンッ!…という音と共に、

すさまじい勢いで扉が開け放たれた。

そして細身の女がそのままの勢いで

室内に駆け込んでくる。


「アルトッ!!…どうしたのッ!?

…って…また、アナタね…そんな顔で抱いたら…

「ま、待ってくれ…俺はなにもしt…」

アルトが怖がるでしょうがッ!…」


男は問答無用で吹き飛ばされた。


細身の女に男が吹き飛ばされるなどという

通常ではありえないことが起きていたが、

そのことにツッコミを入れる人間は、

この場にはいなかった。


そして、男が吹き飛ばされたことで…

男に抱えられていた赤子は宙を舞う。


だが…女は一切の衝撃を殺し、

赤子を器用に受け止めた。


女は男を吹き飛ばした時とは打って変わって、

優しい手つきで赤子の頭を撫でる。


「ふう…よしよし…」


しばらくして、

安心したのか赤子はすやすやと眠りについた。


「いてて…ひどいな…

いきなり殴り飛ばすことはないだろ…」


男はぶつけたのか頭を摩りながら、女に声をかける。


「…?

アナタ…どうして、そんな怖い顔をしているの…?

そんな顔で子供を抱いたら、怖がるでしょう…?」


女は男の表情を見て不思議がる。


「まったく…誰のせいだと思ってんだ…

…そんなに顔怖かったかな?」


男は悪態をつきながらも、女に問いかける。


男は年齢的にはまだまだ若いものの、

その年齢に見合わぬ鋭い眼力をしていた。

もしかするとそれが怖い顔に見える

原因なのかもしれない。


「しぃー…声が大きいわ。

アルトが起きちゃうじゃない。」


「ひどくないか!?…

そういうテレーゼも大概、声が大きいんだが…」


「なにを言っているのかわからないわ。」


軽口を言いながら、

女はすやすやと寝息を立てている

赤子をベッドに寝かしつけた。


女の名はテレーゼ・パトライアス。

まだ美少女…と言っていいほどのうら若き美女だ。


「ええ?…まあ、いいか…」


困惑を隠しきれていないものの、

男は無理矢理、自分を納得させた。


男の名はバルト・パトライアス。

威圧感のある風貌はしているが、心優しき男だ。


この二人は夫婦である。


そして、寝息を立てている赤子はアルト。

アルト・パトライアス。

それがこの赤子の名前であった。


「「おやすみ…アルト…」」


二人は優しい手つきでアルトの頭を撫でた。


アルトは変わらず、すやすやと寝息を立てていた。


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