第6話「透きとおった翼」
リュウとアッシュは話ながら森を抜けていた。
「テトラ社は何を掘っていたんだろう?」
「ん~、そうだなぁ、わからないよな。人、殺してまで何が欲しいんだよ」
リュウは木々をよけながら大股で歩いている。
「エネルギー源か、魔力に関わることかな?」
アッシュは地上に飛び出した木の根を飛び越えて、言った。
もうすぐ森を抜けようとする時、リュウがアッシュを見た。
「何か……聞こえないか?」
「うん……聞こえる。マシンの音だ」
遠くでウィ~ウィ~、ギギ、ギギと、マシンの動く音が聞こえる。
ドシンドシンと地面を叩くような音、アームのきしむ音も聞こえる。
リュウは走り出した。
だんだん大きくなる音。
もう耳を貫くようだ。
それにまじって、人の叫ぶ声……悲鳴……。
街の方だ。
マシンが街を襲っているのだろうか。
近くまで行くと、大きな戦闘マシンが次々に街に入り、襲っている。
そして、探索ロボットが街を掘り起こしている。
人々の叫ぶ声が聞こえる。
街を見渡すと、その街には塔があった。
二人は顔を見合わせた。
「物見の塔だ」
リュウは街の人達を助けたいと思った。
自殺行為なのは、わかっている。
街で戦闘が行われる際、必ず、偵察ロボットも送り込まれる。
偵察ロボットはデータを直ちに本部へ送信する。
テトラ社に追われているのに、街で戦ったら、自分の所在を本部に送るようなものだ。
でも……見捨てておけない。
リュウはアッシュの肩に手をおいて言った。
「アッシュ……ごめん、オレ、見捨てておけない。お前、隠れてろよ」
アッシュは笑った。
「リュウ、何言ってるんだ。オレだってコマンドだ。ウォーリアーほどじゃないけど、戦えるさ。助けたい気持ちは同じだ」
「ありがとう。アッシュ」
二人は、戦闘マシーンの暴れている街の中心地へ走り出した。
マシーンは土煙をあげて、突き進み、建物を砲撃し、破壊している。
逃げまどう街の人々。
リュウはマシンを数十台、剣で叩き壊した。
と、倒れた子どもに戦闘マシーンが狙いを定めて、銃口を向けた。
アッシュは銃口をつかみ、発弾をそらし、剣でAI部を攻撃し、マシンを破壊した。
リュウは倒れて動けないでいる子どもを、片手で抱え、戦いながら皆を誘導した。
「塔まで走れ。中へ入って、身を守るんだ!」
追ってくるマシン達から住人を守り、二人は戦った。
塔まで走ると、まわりで人々があふれている。
「どうした? 中へ入れ」
リュウが言うと
「それが……カギがかかっていて、中へ入れないんだ」
「ずっと使ってないからなぁ」
皆、困っている。
マシンも、もうすぐ、そこまで追ってきている。
時間がない。
リュウは「どいてろ」と言って、扉をしめている鎖の鍵部分を剣でたたき切った。
住人達は、どっと扉にかけよったが、扉は何年も閉めきりになっていて、錆びついていて、男達が力任せに押しても、ビクともしない。
「アッシュ、開けられるか?」
アッシュは「たぶんね」と言い、扉を力いっぱい押した。ギ……ギ……ギ……
扉は古い時間から解き放たれたように、開いた。
「さあ、中へ」
アッシュが声をかけると、皆は急いで塔の中へ逃げ込んでいった。
皆を中へ入れると、その扉を閉め、リュウとアッシュは扉の前に立ち、その道を塞いだ。
「さあ、これで、世界で一番かたいカギがかかったぜ」
戦闘マシンが塔に向かって続々と襲いくる中、二人は堂々とそれを迎え撃った。
雨のような砲撃をよけ、銃口を切り裂き、AI頭脳部を破壊する。
二人に向かって総攻撃してくるマシン。
飛び退き、はねのけ、建物の影に隠れしながら、ほんの一瞬を見逃さず、攻撃を続けた。
必死に戦い続ける二人。
と……塔の上から砲弾が飛び、マシンを破壊した。
リュウ達が上を見ると、街の人達が協力して、旧式の大砲で砲弾を打ち込んでいる。
「オッ! やるな。ありがとう」
リュウが手を振った。
「兄ちゃん達、こっちこそだ! バンバン打ち込むから、兄ちゃん達も暴れてくれ」
「まかせとけ!」
リュウは飛び出した。
「了解」
アッシュも剣を片手に、残ったマシンに向かっていった。
街に人々の協力もあって、とうとうマシン達を全て倒した。
扉を開けると、中にいた住人達は、歓声を上げて出てきた。
「ありがとう」
次々に感謝の言葉を述べた。
「オイ! 兄さん達、何かお礼をさせてくれ」
などと声をかけてくれる街の人達に対し
「いや、オレ達はもう行かなきゃ」
と言って、リュウは手を振った。
アッシュもそれは分かっている。
この後、テトラ社はこぞって二人を追いかけてくるだろう。
歩き始めると、一人の男の子がアッシュの手を握り「ありがと」と言い、袋に入ったパンを渡した。
よく見ると、さっき、撃たれそうになっていた子だ。
アッシュはにっこり笑うと
「ありがとう。一番嬉しいよ」
と言って、そのパンを受け取った。
★ーーー★ーーー★
グリーンフォレストの街を出て、しばらく歩くと、砂漠地帯に出た。
砂漠地帯に入ると、休めそうなオアシスは当分、望めそうにない。
二人は、最後の木陰で少し休むことにした。
リュウが
「アッシュ、大丈夫か?」
と声をかけると
アッシュは
「ぜんぜん大丈夫だよ。心配するなよ、リュウ」
と言って、いつもの笑顔で笑っている。
でも、リュウは気がついていた。
無理な戦いが続き、メンテナンスも受けていないアッシュの腕は、疲労し、右手の小指、薬指、両方ともまがりにくくなっている。
剣も持ちにくいだろう……。
リュウがいくら「ヒール」魔法をかけて癒やしても、肉体ではないアンドロイド部分は癒やせない。
砂漠へ出るなら、何とか少しでも、休める所を探さないと……
リュウは
「アッシュ、少し待ってろ。様子を見てくるから」
と立ち上がった。
砂漠はずっと続いているように見えるが、よく見ると、はるか向こうに木々が見える。
(よし、あそこまで歩こう。アッシュが疲れたら、オレがかついでいくさ)
急いでアッシュの所へ戻ると、アッシュの腕や肩に、小鳥がたくさんとまっている。
少年からもらったパンを細かくちぎり、鳥にあげていた。優しい笑顔だ。
リュウはハッとした。
(アッシュは本当に優しいんだ。オレはアッシュに絶対ウォーリアーになれと言って、ここまで引っ張ってきちまった。でも、もしかしたら、アッシュにはアッシュの生き方が、あったのかもしれない)
そんなことを思い、アッシュを見ていると、アッシュが気づいてリュウを見た。
(ん?)上目づかいにリュウを見て、何か感じたようだが、アッシュは何も言わなかった。
ただ「リュウ……オレ達もこの子達みたいに、飛べたらよかったな」と言った。
リュウはアッシュのそばに座りながら
「飛べるさ。運命にあらがい続け、闘い続けるものは翼あるものだ。オレ達は、翼あるものだろう」
と話した。
「うん。そうだな。オレもリュウとなら、この空も飛べる気がする」
二人で顔を見合わせた時、鳥達がいっせいに飛び立った。
車の音、空のプロペラ音、機械音、マシンの振動。
戦闘部隊が来たようだ。
一瞬で囲まれてしまった。
事態を理解すると、二人は背中合わせに、お互いを守るように立ち上がった。
背中にお互いの温もりと、生命の鼓動を感じる。
アッシュはリュウに言った。
「リュウ。オレ、ぜんぜん後悔してないよ」
リュウは笑った。
「アッシュ。オレもだ」
二人は生きぬく為に、空に向け、羽ばたくように剣を抜き放った。