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翼あるもの ~透明な翼~  作者: こはる ここはる
第一章 空に焦がれるもの
6/6

第6話「透きとおった翼」


リュウとアッシュは話ながら森を抜けていた。


「テトラ社は何を掘っていたんだろう?」


「ん~、そうだなぁ、わからないよな。人、殺してまで何が欲しいんだよ」


リュウは木々をよけながら大股で歩いている。


「エネルギー源か、魔力に関わることかな?」


アッシュは地上に飛び出した木の根を飛び越えて、言った。


もうすぐ森を抜けようとする時、リュウがアッシュを見た。


「何か……聞こえないか?」


「うん……聞こえる。マシンの音だ」


遠くでウィ~ウィ~、ギギ、ギギと、マシンの動く音が聞こえる。

ドシンドシンと地面を叩くような音、アームのきしむ音も聞こえる。


リュウは走り出した。


だんだん大きくなる音。

もう耳を貫くようだ。


それにまじって、人の叫ぶ声……悲鳴……。


街の方だ。

マシンが街を襲っているのだろうか。


近くまで行くと、大きな戦闘マシンが次々に街に入り、襲っている。


そして、探索ロボットが街を掘り起こしている。

人々の叫ぶ声が聞こえる。


街を見渡すと、その街には塔があった。


二人は顔を見合わせた。


「物見の塔だ」


リュウは街の人達を助けたいと思った。


自殺行為なのは、わかっている。


街で戦闘が行われる際、必ず、偵察ロボットも送り込まれる。


偵察ロボットはデータを直ちに本部へ送信する。


テトラ社に追われているのに、街で戦ったら、自分の所在を本部に送るようなものだ。


でも……見捨てておけない。

リュウはアッシュの肩に手をおいて言った。


「アッシュ……ごめん、オレ、見捨てておけない。お前、隠れてろよ」


アッシュは笑った。


「リュウ、何言ってるんだ。オレだってコマンドだ。ウォーリアーほどじゃないけど、戦えるさ。助けたい気持ちは同じだ」


「ありがとう。アッシュ」


二人は、戦闘マシーンの暴れている街の中心地へ走り出した。


マシーンは土煙をあげて、突き進み、建物を砲撃し、破壊している。


逃げまどう街の人々。


リュウはマシンを数十台、剣で叩き壊した。


と、倒れた子どもに戦闘マシーンが狙いを定めて、銃口を向けた。


アッシュは銃口をつかみ、発弾をそらし、剣でAI部を攻撃し、マシンを破壊した。


リュウは倒れて動けないでいる子どもを、片手で抱え、戦いながら皆を誘導した。


「塔まで走れ。中へ入って、身を守るんだ!」


追ってくるマシン達から住人を守り、二人は戦った。


塔まで走ると、まわりで人々があふれている。


「どうした? 中へ入れ」


リュウが言うと


「それが……カギがかかっていて、中へ入れないんだ」


「ずっと使ってないからなぁ」


皆、困っている。


マシンも、もうすぐ、そこまで追ってきている。

時間がない。


リュウは「どいてろ」と言って、扉をしめている鎖の(かぎ)部分を剣でたたき切った。


住人達は、どっと扉にかけよったが、扉は何年も閉めきりになっていて、()びついていて、男達が力任せに押しても、ビクともしない。


「アッシュ、開けられるか?」


アッシュは「たぶんね」と言い、扉を力いっぱい押した。ギ……ギ……ギ……

扉は古い時間から解き放たれたように、開いた。


「さあ、中へ」


アッシュが声をかけると、皆は急いで塔の中へ逃げ込んでいった。


皆を中へ入れると、その扉を閉め、リュウとアッシュは扉の前に立ち、その道を塞いだ。


「さあ、これで、世界で一番かたいカギがかかったぜ」


戦闘マシンが塔に向かって続々と襲いくる中、二人は堂々とそれを迎え撃った。


雨のような砲撃をよけ、銃口を切り裂き、AI頭脳部を破壊する。


二人に向かって総攻撃してくるマシン。

飛び退き、はねのけ、建物の影に隠れしながら、ほんの一瞬を見逃さず、攻撃を続けた。


必死に戦い続ける二人。


と……塔の上から砲弾が飛び、マシンを破壊した。


リュウ達が上を見ると、街の人達が協力して、旧式の大砲で砲弾を打ち込んでいる。


「オッ! やるな。ありがとう」


リュウが手を振った。


「兄ちゃん達、こっちこそだ! バンバン打ち込むから、兄ちゃん達も暴れてくれ」


「まかせとけ!」


リュウは飛び出した。


「了解」


アッシュも剣を片手に、残ったマシンに向かっていった。


街に人々の協力もあって、とうとうマシン達を全て倒した。


扉を開けると、中にいた住人達は、歓声を上げて出てきた。


「ありがとう」


次々に感謝の言葉を述べた。


「オイ! 兄さん達、何かお礼をさせてくれ」


などと声をかけてくれる街の人達に対し


「いや、オレ達はもう行かなきゃ」


と言って、リュウは手を振った。


アッシュもそれは分かっている。

この後、テトラ社はこぞって二人を追いかけてくるだろう。


歩き始めると、一人の男の子がアッシュの手を握り「ありがと」と言い、袋に入ったパンを渡した。


よく見ると、さっき、撃たれそうになっていた子だ。


アッシュはにっこり笑うと


「ありがとう。一番嬉しいよ」


と言って、そのパンを受け取った。


★ーーー★ーーー★



グリーンフォレストの街を出て、しばらく歩くと、砂漠地帯に出た。

砂漠地帯に入ると、休めそうなオアシスは当分、望めそうにない。

二人は、最後の木陰で少し休むことにした。


リュウが


「アッシュ、大丈夫か?」


と声をかけると


アッシュは


「ぜんぜん大丈夫だよ。心配するなよ、リュウ」


と言って、いつもの笑顔で笑っている。


でも、リュウは気がついていた。

無理な戦いが続き、メンテナンスも受けていないアッシュの腕は、疲労し、右手の小指、薬指、両方ともまがりにくくなっている。


剣も持ちにくいだろう……。


リュウがいくら「ヒール」魔法をかけて()やしても、肉体ではないアンドロイド部分は癒やせない。


砂漠へ出るなら、何とか少しでも、休める所を探さないと……


リュウは


「アッシュ、少し待ってろ。様子を見てくるから」


と立ち上がった。


砂漠はずっと続いているように見えるが、よく見ると、はるか向こうに木々が見える。


(よし、あそこまで歩こう。アッシュが疲れたら、オレがかついでいくさ)


急いでアッシュの所へ戻ると、アッシュの腕や肩に、小鳥がたくさんとまっている。

少年からもらったパンを細かくちぎり、鳥にあげていた。優しい笑顔だ。


リュウはハッとした。


(アッシュは本当に優しいんだ。オレはアッシュに絶対ウォーリアーになれと言って、ここまで引っ張ってきちまった。でも、もしかしたら、アッシュにはアッシュの生き方が、あったのかもしれない)


そんなことを思い、アッシュを見ていると、アッシュが気づいてリュウを見た。


(ん?)上目づかいにリュウを見て、何か感じたようだが、アッシュは何も言わなかった。


ただ「リュウ……オレ達もこの子達みたいに、飛べたらよかったな」と言った。


リュウはアッシュのそばに座りながら


「飛べるさ。運命にあらがい続け、闘い続けるものは翼あるものだ。オレ達は、翼あるものだろう」


と話した。


「うん。そうだな。オレもリュウとなら、この空も飛べる気がする」


二人で顔を見合わせた時、鳥達がいっせいに飛び立った。


車の音、空のプロペラ音、機械音、マシンの振動。


戦闘部隊が来たようだ。


一瞬で囲まれてしまった。


事態を理解すると、二人は背中合わせに、お互いを守るように立ち上がった。


背中にお互いの温もりと、生命(いのち)の鼓動を感じる。


アッシュはリュウに言った。


「リュウ。オレ、ぜんぜん後悔してないよ」


リュウは笑った。


「アッシュ。オレもだ」


二人は生きぬく為に、空に向け、羽ばたくように剣を抜き放った。






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