第1話「ウォーリアー」
世界はAIで溢れている。
会社でもあらゆる所にAIが搭載され、学校、そして家庭でも……
人々の生活には、もう欠かせないものになっている。
ここに家庭用AI、会社用AI、その他AIロボット、様々なAIを生み出している世界的な会社がある。
名前はテトラ社。
今や世界シェア70%を超える、巨大会社である。
AIには当然、エネルギーが必要となる。
そこで、テトラ社はエネルギーの採掘も行っている。
現在世界は一つのエネルギーで動いており、そのエネルギーの採掘技術は難しく、それをAIは可能にしてくれる。
そしてテトラ社のもう一つの事業は、あらゆる場所に出現し、危害を及ぼす、モンスターの駆除、モンスターの抹消、街の警備の為のコマンド部隊養成。
コマンドは一般の者から養成するが、了解を得て、手や足をアンドロイド化して強化し、コマンドにする。
アンドロイド化された手足は強く、日常生活にも役立ち、コマンドになれば通常の給与の3倍は支給される。
応募者は後を絶たなかった。
しかし、アンドロイド化は確かに強くなるし、メンテナンスもきくので、衰えはないが、これ以上の進化はない。
コマンドの上層部になるのは“ウォーリアー”。
これは身体能力、潜在的な戦闘能力がAIでは測りがたく、進化がどこまでも望めるので、どこもアンドロイド化しない戦士で、全体の10%にも満たない特別な存在だ。
★ーーー★ーーー★
地方出身のリュウ・ランロックは、モンスターを次々に倒し、人々から称賛されるウォーリアーに憧れ、テトラ社へやって来た。
「やっぱヒーローだったらウォーリアーだろ」
リュウはコマンドには全く興味を示さず、何としてでもウォーリアーになろうと思ってやって来た。
都会は人間だらけで、車だらけで、ビルが林立してるし、ちょっと勝手が違いすぎるけど、そんなことは構わない。
テトラ社も最新のビルで、バカでかくて、AI管理が多くて、どこの部所へ移動するにもチェックが厳しいが、そんなことは構わない。
とにかくウォーリアーになるんだ!
意気込みだけでやってきた。
コマンド志望者だけでも数が多く、全員がなれるわけではない。
やはり、身体能力、適応性が見られる。
コマンドに選ばれた者はもう自慢げだ。
面接の時、リュウは堂々と言った。
「オレはコマンドには絶対にならない。オレが目指すのはウォーリアーだけだ」
面接官は「ほう」とだけ言った。
それからたくさんの試験がされた。
リュウは身長187㎝、黒髪、グリーンの瞳、理想的な筋肉がついた美しい体つきで、病歴もなく、健康で、身体的には何の問題もない。
基本的な検査が終わると、まずは身体能力。
走る速度、フォーム、身体の柔軟さ、敏捷性、筋力、etc.etc.……
あらゆる角度から分析される。
そして戦闘能力。
襲ってくる敵に対し、どう敏捷に対処し、敵の急所をついて仕留めるか。
初級は急所を教えてくれるが、中級からは自分で見極めなければならない。
シミュレーターを使用するが、怪我人も続出だ。
シミュレーターであろうと敵は本気で襲ってくるし、敵に合わせ、レーザーなども放たれる。
殺されることはないが、本気でかからないと簡単に病院行きだろう。
リュウは難なく上級までこなし、ウォーリアーにはまだまだだが、コマンド決定は免れた。
これから、あらゆる訓練と実戦をこなし、コマンドに落とされるか、ウォーリアーに上り詰めるか試される。
リュウはテトラ社で一応、ウォーリアーの準候補生として雇われた。
毎日、朝から晩まで、倒れるほど訓練をさせられた。
身体能力を上げ、精神を鍛え上げる。
準候補生達は数人ずつ各部屋に分かれさせ、基本的に団体生活をさせられる。
リュウは、ウォーリアーはひとりひとりが一人前の戦士だが、戦場ともなれば団体戦だ、仲間の絆が大切だと思っていた。
リュウはフレンドリーな明るい性格で、皆から好かれた。普段から「オレ達全員で絶対、ウォーリアーになろうな」と声をかけ、落ち込んだりしている仲間がいると、励ました。
中々、自分から打ち解けにくい者がいると、声をかけて皆の仲間にした。
皆もリュウには何でも話しやすく、時には悩みを相談したりもした。
候補生の一人、ケビンは
「もう、オレさ……シミュレーション怖いよ。怪我ばっかりするしさ。もう諦めようかな」
と打ち明けた。
リュウは
「ウォーリアーには怪我はつきもんだろ。オレも苦手なモンスターはいるぜ。ケビンは必ず最後は時間内に仕留めてるし、向いてるよ。がんばろうぜ」
と励ました。
ケビンは「そうか。お前でも苦手なのいるんだな。オレ、もう少しがんばるわ」と思い直した。
アランという割に何でもこなす候補生は、ウォーリアーに対して熱はなく、単なる選別されただけ……と思っていた。
しかし、リュウのウォーリアーへの熱い情熱を見ていると、自分もウォーリアーの候補生であることが誇らしく思えてきた。
★ーーー★ーーー★
初めての実戦の日。
『街郊外で野犬型モンスターが暴れ回っている。これを抹消せよ』という指令だった。
リュウは「さあ、おいでなすった」とやる気満々だ。
住民は叫びを上げ、建物の中へ隠れた。
剣をスラリと抜き、リュウは、一度、切り込んだ。
野犬モンスターはとてつもなく敏捷だ。
候補生達は剣があたらず、体力だけ消耗していく。
リュウは野犬モンスターの動きを、風の動き、息づかいで読み取り、ダメージを与え、動きを防ぎ、急所を貫いた。
仕留め方が分かると、リュウは皆に声をかけた。
「諦めるな! 動き回って騒ぐ風で、動きを呼んで、足でも何でもダメージを与えて、動きを鈍らせろ。そこで仕留めるぞ!」
皆を鼓舞し、励ました。
そうして自分は誰よりも戦い、モンスターを仕留めていった。
モンスターを絶滅させると、候補生はテトラ社へ帰っていった。
それからは訓練はもちろんのこと、実戦も同じくらいプログラムに入ってきた。
★ーーー★ーーー★
仲間の中にアッシュ・ダグラスという、一番年少の17歳の青年がいる。
髪は明るい金色、青い瞳の優しげな青年である。
リュウは18歳なので、1歳違いだ。
年が近いこともあって、リュウはアッシュとすぐに仲良くなった。
アッシュはギリギリで合格したタイプで、何のテストでも成績は最下位。
このままではウォーリアーになれそうもなかった。
リュウは実戦の時はアッシュを庇い、アッシュの成績を上げさせるよう、がんばった。
シミュレーションでは、アッシュの戦いの時の剣の構えの弱さや、クセを直し、何とか合格させてきた。
二人は本当に仲良しで、部屋でも夜遅くまで夢を語り合った。
リュウはウォーリアーになり、皆を助けるヒーローになりたった。
アッシュは、元はひ弱な少年だったが、努力してここまできたので、何とかウォーリアーになり、故郷の皆にも喜んでもらいたい……と言った。
しかし、ある時、リュウとアッシュは2チームに分かれての実戦となり、アッシュのチームはアッシュの失敗により、全滅の危機にまで陥ってしまった。
ウォーリアーが救援に入り、何とか落ち着かせたが、アッシュはその責任を負い、コマンドに落ちることになった。
アッシュはリュウに「オレ……コマンドになるんだ……」と報告し、涙を流した。
リュウは驚いて
「何だって? オレが上にかけあってやるよ! 待ってろ!」と言った。
アッシュは
「待って……リュウ……。これだって、ずいぶん上はまけてくれてるんだ。オレ……オレのせいで、みんなを殺すところだったんだ……」
「お前……それでいいのかよ。そんなわけないだろ。ウォーリアーになるんだろ。絶対になれ。諦めるなよ!」
リュウは必死だった。
アッシュは首を横に振って
「いいんだ……リュウ。オレ、コマンドになる」
と言った。
リュウは
「分かってんのか? アッシュ、お前、手足改造されちまうぞ! アンドロイドだぞ……。もし嫌なら、故郷に帰れよ。オレ……いつでも会いに行ってやるよ。友達だろ」
と言った。
アッシュは
「オレ……コマンドになる。もう決めたんだ。みんなを守れることは変わらないし……ここにいられるよ。リュウと一緒だ」
リュウはその言葉を聞いて、たまらなくなり泣いた。
「オレ達は友達だ。これからもな!」
アッシュは黙ってうなずいた。
★ーーー★ーーー★
アッシュはコマンドとなり、初の実戦の日が来た。
リュウはアッシュを励ましに来ていた。
そこへ、科学技術担当の博士、関が姿を現した。
「ほう……新しいコマンドだな」
アッシュを見た。
アッシュは
「アッシュです! よろしくお願いします」
と挨拶した。
リュウは
「お前、今度こそ、指示通りがんばれよ」
と励ました。
アッシュは「うん」とうなずいたが、関はクックックッと笑い出した。
「指示通り? コマンドだぞ。指示通り動くだろう」
そう言って、親指と人差し指を頭の所でひねり
「いじられてっから」と言った。
アッシュもリュウも何だ? と思ったが、関はそのまますぐに引っ込んでしまった。
アッシュは出陣し、任務を終え、無事帰還した。
段々慣れてきて
「オレ、何とかなりそうだ」
と言うので、リュウは安心した。