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異世界からのメール 2

『件名:思ったより長くなったので一旦ここで送らせて貰います。


 本文:――――――――』


 来た! やっと来た!

 通知のバーを押してメールを開く。

 おー!たっぷりと書いてくれてる!

 これが、リアル異世界体験談――ゴクリッ。

 一旦、落ち着こう。深呼吸をして⋯ソファーへ座り込みナイパッドと向き合う。

 さあ、読むぞ!


――『俺は今、道端に落ちている』


 ⋯⋯どんなスタートだよ。

 何か小説みたいな書き方だし。


 画面をスクロールして読み進める。


 ⋯⋯えっ?本当に小説だったの!?

 確かにあのスマホ⋯アイツには小説も漫画も山ほどダウンロードしてあったけど⋯⋯まさか小説家を目指すとは。ペットは飼い主に、いや、子は親に似るとはよく言ったもんだ。

 これは――真剣に読んでみるか。


 俺は異世界のスマホから届いた小説メールを驚きながら。笑いながら。そして、羨ましく思いながら読んだ。


           ◇


「よし、これで送信っと」


 最後まで読み終え、感想を書いたメールを返す。

 気づけば小説と同じくらい長い文章になっていた返信メール。

 確認も兼ね読み直した後、そっと保存ボタンを押して新しく書き直した。


 短く。

『面白かった。本当に面白かった。早く続きが読みたい!』

 とだけ書いたメールを異世界へと送信した。


 今のアイツ⋯スマホには時間もないだろーからな。

 それに異世界を謳歌している、生まれたばかりのアイツの邪魔をしたくない。

 長々と書いた感想はアイツが小説を書き終わった時にでも纏めて送ろうかな。


「それにしても小説か⋯」


 切ない記憶を思い出す。

 アイツは覚えているのだろうか。

 俺が――アイツ(・・・)で小説を書いていた事を。

 何話も書いてサイトに投稿して。

 読者数が一向に増えないからと書き溜めた話すら投稿せずに諦めた事を。


「小説、か」


 十年前、事故で首の神経がいかれ歩く事もままならなかった時もファンタジー小説をひたすら読んでいたな。

 リハビリの合間に小説を書いたっけ。


 面白くもない記憶だからこれ以上思い出すのはやめよう。だが、寝たきりと言われ、車椅子生活と言われ、つけろと言われたサポート装具を外して、2本杖、1本杖。そして今、杖がなくても10km程度は歩けるようになった。

 まあ、まだまだ体の皮膚感覚は戻ってないんだが。特に左半身。


 それはともかく。というか、そんなのどうでもいいか。

 今も俺はリハビリのためひたすら歩く日々。

 つまり⋯⋯時間ならいくらでもある。


「俺ももういっかい、小説を書いてみるか!」


 書きたい。アイツの熱に当てられたのか、小説が書きたくて仕方がない。


 心が病みそうだった俺を笑わしてくれたバカな小説。

 残酷な描写や重く悲しい物語のない、のんびりと楽しめる小説。

 昔、書くと決めた時、自分に誓ったルールを思い出す。


「書けるかな⋯⋯でも、書きたいな」

 

 そして今度は途中で諦めずに投稿してみよう。

 それでダメなら⋯ダメならじゃないだろ俺!

 やる前からネガティブじゃアイツに笑われちまう。


「よし!書くぞ!そうと決まれば⋯」


 服を着替え玄関に座りクツヒモをほどく。

 カカトがひっかかる左足に、両手で無理やりクツを突っ込みヒモを縛り上げる。


「歩く! そして書く!」


 ドラドラウォークのレベル上げは一旦中止だ。

 玄関を開け空を見る。

 アイツも同じ、違う空を見上げてるのだろうか。


「まずはどんな小説にするかだな〜」


 決まっているのはファンタジー、異世界、ギャグ。

 それだけだ。

 

「まっ歩きながら考えるかッ!」


 いつもと同じ道を歩く。

 不思議と足取りは軽い。

 俺の頭の中は今。

 異世界で大暴れする主人公達でいっぱいだ。


「ああ。異世界ファンタジーっていいなあ」


 今日も俺は歩く。

 

 違う明日に辿り着くため。


 俺は今日を歩く。













「⋯⋯あっ、そういや昔書いた小説、メモアプリに残したまんまじゃん! やっべえーーーーアイツが見つけたらどうしようかっ!」




       ――第一章◇完――

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