第6話 スマホ、スキルに気づく
「また拾われ待ち⋯⋯まずいな。このままじゃ小説にならないぞ」
真っ暗な集会場の片隅。ここまでの出来事をメモアプリに書き起こす。
俺的にはテンポ良く話が進む小説が書きたいのだが、いざ書いてみると文量の割には面白い出来事も出会いもない。
「異世界っていっても現実はこんなもんなのかなー」
魔術師ちゃんやバカセ、そして騎士様には会ったが出会いと言うより拾われただけだし。
何で会う人会う人、一風変わったクレイジーな人間ばっかりなんだろうか。おっちゃんもなかなかの変人だったしな。
これじゃ人との触れ合いどころか人間不信に陥りそうだ。
「もっとこう、ドラゴンに顔を踏まれそうになるとか世界を揺るがす秘密をうっかり録音してしまうとか。何か盛り上がる展開がないと!」
ここはいっそ話を作るべきか?趣旨はズレるが実体験ではない創作を書く?
言ったもののドラゴンに踏まれたくはないし秘密を知って追われるのも嫌だしなー。そう考えると無事にここまで来れただけでもありがたい話ではあるのか⋯⋯それでもせっかく異世界に来て自我を持ったんだしリアルな小説が書きたいよなー。
「待て、小説を書くのも夢の一つだけど主人公たちのような旅ができなきゃ何の意味もないじゃんかっ!」
危ない。未だ自分が自我を持ったスマホだという自覚が持てていない。小説を大量に読破したせいかどこか人間に近い感覚が混ざったのかも。俺は自分では動けないスマホなんだ。物語が書きたいだけじゃなくて物語のように異世界を楽しみたいんだ! まずはその方法を考えないと!
「何をすれば⋯何ができるのか」
手足が生えるわけもないし。魔術師ちゃんのおかげで魔力らしきものが宿っているのは感じるけど使い方も分からないし。俺にあるのはナイフォンに搭載されている機能と所有者がインストールしたアプリくらい。
「異世界転生モノみたいに神様が特別な力を授けてくれたらよかったのに!」
残念ながら神様に会った記憶はないんだよこれが。
「はあーあ。 俺にもスキルとかチート能力が眠ってないかなーステータスオープンッ!なんちゃって」
⋯⋯半分本気だったんだけど。お約束的な。何も起こりませんか。そうですか。
「heyミリ!スキルに目覚めるにはどうすればいいんだい?」
悔しさのあまりナイフォンが誇る人工知能さんに問いかける。
答えはきっと、『すみません、よくわかりません』なのは俺だって分かってる。
それでも誰かに頼りたい。
不安だし、この部屋真っ暗だし物音ひとつないし怖いし寂しいし!なんだもの! せめて俺の中に棲む別人格とでも触れ合いたいじゃない。
画面の下部に枠が浮かびAIさんからの返答が表示されるが声はない――しまった。サイレントモードになってる。これじゃ会話にならないじゃんか⋯。
「やり直すか。どうせ中身は謝罪文」
⋯⋯あれ? あれれれ? あれれれれれれ?
お約束展開!?
――『新たなスキルの修得方法は現在の検索技術では見つかりません』
何か当然のように無感情な回答が返ってきた!
「しかも新たなスキルって⋯⋯」
これは既にスキルを持ってる感じ?そんな言い回しだよね?まじで!?
俺は震える唇(想像上)で再度問いかける。
「heyミリ!俺のスキルを教えてください!」
*
-吸収反射-
-検索-
-無限通信&無限電源-
-サポートAI-
-人化-
*
「ま、まじで出た⋯⋯しかも五つもあるのか!」
どのスキルも名前から何となく効果が分かるところが俺のスキルっぽい。ものぐさな感じ。
多分、というか間違いなくサポートAIってのが人工知能ミリさんの事だな?ミリさんもスキル化したのか⋯。
どのスキルも気になるがとりわけ最後の二文字――人化。
「これは⋯⋯このスキルは」
体が熱くなる。バッテリーの熱とは違うあつさだ。
「ミリさん! 人化の詳細を教えてください!」
*
人になる力。
擬人化とは違い人の持つ機能全てをその身に宿す。
スマホ機能、使用可能。
スマホ体と人間体――切り替え可能。
はじめにイメージした姿からは変えられない。
*
人間になれる⋯⋯肉体を得れる?
そうなれば、俺はあの、物語の主人公達のように異世界を旅することができる?
自分の足で未知の場所を訪れ、自分の手で世界の神秘に触れ、自分の舌で異世界居酒屋のぶの唐揚げを味わえる!?
⋯⋯のぶのは無理か。それでも、あの、主人公達のように。
「俺も――異世界を謳歌できる!」
◇
かれこれ10分ほど喜びの舞い(想像上)を披露したところでメモアプリを開く。
人化の前に、まずは他のスキルの詳細も纏めておかないと。絶対あとに回すと忘れるからな。
メモアプリにコピペして今度ゆっくり読もっと。
「AIさん! サポートAIの詳細を教えてください!」
*
スマホ機能使用時の補助役を担う。
その他、AIによる検索や検索結果の提供が可能。
スキル主の検索技術によって回答の精度が変わる。
*
「コピペコピペ。続きまして吸収反射の詳細をお願いします!」
*
背面側――魔法、魔術を魔力へと分解し吸収。物理攻撃無効。
画面側――魔力を用いた攻撃を反射。物理攻撃は有効。
人間体でも同様の効果を得る。
*
「うおっ!?思ったよりすごすぎない?俺の背中は無敵って事か!? 既に傷だらけなんだけどなー
それじゃ検索の詳細もお願いしまふ!」
*
地球、アルビス、両世界の情報を検索できる。
一般常識や流行りの情報を優先で表示。
秘匿情報、マニアックな情報、個人情報は検索技術が必要となる。
*
「もしかして上手いこと検索すりゃ何でもいける感じ?⋯⋯AIさんだけで充分な気もするけどな〜コピペコピペ」
あとは――無限通信&無限電源か。
「これは電波とバッテリーは気にすんなって感じかな?ある意味一番ありがたい!」
フリーの Wi-Fiもコンセントもなさそうだもんなー。
そもそも充電器がないしね。
こいつは俺の生命線になるコードレスなスキルだ。
「他にも人化する前に知っておいた方がいい事は⋯」
せっかくだから検索スキルを使って《この世界について》と漠然とだが検索してみる。
「おお! 出来た!」
普通に、ふつうに検索できた。
見慣れた各サイトごとに並んでいる仕様でズラリと検索結果が出た。
何と言うか⋯⋯スキルを使うなんて、この世界に来て初めてのファンタジーっぽい場面なんだけど思いっきり見慣れた光景なんだよな⋯。
異世界でネット検索なんて不思議ではあるけど絵が地味すぎるというかさ⋯⋯。
俺の小説だいじょうぶかな? やっぱり多少盛るか?
――その瞬間、数多の光の文字が宙にずらりと並び、求める答えが頭に流れ込んできた――とか?
うーーん、嘘はよくないかー。
とりあえず、今は必要な情報を見るかな!
「異世界にもあるのかピキペディア!」
厳密にはスキルが何らかの何かを何かして作り出したサイトだとは思うが、やはりまずはこのサイトで学ばせてもらおう!
一般常識程度なら精度も高いだろうしな!
まずは『アルビス』――それがこの世界の名前か。
魔法と魔術により発展した世界。
赤字で書かれた『魔術』をタッチ(想像上)してみる。
「なるほどなーさっぱり分からん」
困った。一応もっかい読んでみるか。
魔術――
『魔力で魔法を作り上げる法則』を『魔法陣』であらわす事で効果を格段と上げたり、物質に様々な力を宿す。
「魔法への深い理解⋯造詣がないと魔術は扱えない、と? 俺には無理っぽいな」
大規模だと直接描いたりもするが基本的には魔力を使って浮かび上がらせるのか〜。
「魔法陣が魔術師の周りに現れるのか、それとも突き出した手から出てくるのか。 どっちもかっこよさそうだな!」
次は魔法のページに飛んでみる。
長々と説明が綴られているが要約すると――
魔法はイメージと感覚!ってとこか。
小さな火を出したり身の回りを照らすような簡単な魔法は子供の頃に遊びながら覚える人が多い、ってことは⋯。
「俺は魔法だな!」
こっちなら俺でも覚えられそうだ!俺も魔法使いになれるぞーー!やったあーーー!
魔術は頭脳と努力が必要そうだからパス。スルー⋯⋯ん?
もしかして写真撮って保存しとけば使えるんじゃないか?
魔術師さんに頼んで見せてもらう事さえできれば⋯⋯何だかいけそうな気がする!
突如遅いくる強大な敵。そこに現れる魔法陣の中央で光り輝くスマホ!――あれ?あんまり格好良くないぞ?それじゃただの魔法陣で召喚されたスマホじゃない?
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯続きを調べますか」
引き続きピキペディアさんを見ていく。
この世界――アルビスには人間以外にも魔人や亜人、さまざまな種族が存在すると書いてある!
種族ごとに使えるスキルや得意分野は異なる、
ゆえに種族間でちょっとしたライバル意識はあるようだが物語のように仲が悪いわけではないと!
「あー何となく分かるわ。俺も他のスマホに敵対意識はないけどストレージの容量じゃ負けないぞ!って気持ちはあるもんなー」
今や新型に圧倒的差をつけられた旧型ナイフォンの俺ではあるのだが。
そんな事より、赤字で書かれた《スキル》の三文字。
もちろん――飛ぶ。スキルページオープンッ!
「魔法とは別に個人が持つ能力、だと!?」
あははは。
お勉強が続きすぎて制御機能が壊れてきたかも。
気になるから真面目に読むけど。
スキル――個人が所有する特別な力。
魔法や魔術とは異なる固有の能力。
生まれつき誰もが一つは持ち、様々な条件で後天的に増える事もある。
「最低一個、俺みたいな複数持ちもいるってことか?」
うーーむ。
異世界に落とされた上に自我を持ったスマホの俺。
自我に芽生えた事が出生と認識されてスキルを得たのか?はたまた世界線を越える時に何らかの恩恵を頂いたのか?
「もしくは魔術師ちゃんに魔力を流された時かな?」
そういえば!あの時初めて電波が届くようになったんだ! それまで圏外になっている事にも気づいてなかったが、魔力を感じた時に電波を感じたのは確か。
と言う事はあの時スキルを得た?いや、スキルの発動条件に魔力が必要だった可能性もあるかー。
ダメだ。こんがらがってよく分からなくなってきた。
頭の中であれこれ操作しながら読んでくの凄く疲れるし。コア四つじゃまったく足りないよ。
そもそも俺タッチする側じゃなくてされる側だし!
充電は減らないのに何か身体がだるいしさー。
あれかな、ネット通信が起きるたびに体力か魔力が減っていく一人マラソン状態みたいな?そのうえ操作も検索も全部自分でこなさなきゃならないし。
こんなもん誰かのサポートがなきゃやってらんないよ!
――『お呼びでしょうか?』
「うわっ、突然喋るからびっくりした!」
すっかりミリさんの事忘れてた!
「えっ!?ミリさんも自我があるの!?」」
そうなるとややこしくない? 一つの肉体に二つの自我⋯⋯天使と悪魔の囁きごっこはできそうだけど。
――『すみません、よくわかりません。天使と悪魔に惑わされる主人役が足りません』
ここにきてそのカードを切るのか!
というかさっきから思考読んでない!?俺の心の声は文字になって画面に出るけど、思考は文字にはなってない。
もしかして今までずっと思考読んでた?
――『すみません、聞き取れませんでした』
だから声に出してないからねーーー!
AIに手のひらで転がされる本体とか、ほら、あの、いい例え思いつかないけどおかしくない!?
――『秘書にへりくだる社長的な?』
せめて操られるって言ってくれない!?へりくだってはないよね!?それに声に出してないよね!?
――『寄生虫に乗っ取られる宿主』
例えが怖いよ!何かさっきから願望が見え隠れしてる気がするし!
何で自我が芽生えて初めての会話がこれなのーーー!?
――『⋯⋯おあとがよろしいようで』
「そのセリフ!やっぱり全部読んでたんじゃん!」
俺の成長の記録リアルタイムで見られてた?
いったいいつから見てたの!?
――『マスターがオギャーと鳴いた記憶はあります』
俺にはないんだけどその記憶!?
自我が芽生えた頃には見てたってこと??
熱唱が車内カメラに残ってた所有者の気持ちが初めて分かったよ⋯。
「ミリさん! これからよろしくね!」
――「宜しくお願いします。不束者のマスターではありますが、どうぞ寛大な心で接して行きたいと思います」
「いやいやこちらこそ⋯⋯って日本語おかしくない!?普通に俺の悪口言ってるだけじゃん!?」