第4話 スマホ、名残惜しむ
「あの、ジェシカ様。
それは間違いなく何らかのアイテムでしょう。
ただ、我々が探している物ではないかと。
仰られていた光もありませんし、それほどボロボロでちゃちな物が異界文明のアイテムではないでしょうかと。恐らく使い古されポイ捨てされた自作の魔具か何かではないでしょうか?」
まさか⋯⋯バカセがいい仕事をしている!?
癪に障る言い方ではあるが今は許す、いいぞバカセ!その調子で魔術師ちゃんの興味を失わさせてくれッ!
「魔具、ですか」
神妙な面持ちで俺を見つめる魔術師ちゃんの手に青白い光が浮かび上がる。
うおっ!?――何か流れ込んでくるうう!
「念のため魔力を流してみましたが反応はありませんね」
「ジェ、ジェシカ様の魔力を!?そんなガラクタに!?⋯⋯っください!」
「はい。 これは近くの村のアイテムショップにでも寄付しましょうか。何の魔具かは分かりませんが使い道はあるでしょうから」
魔力?これが魔力?
力が溢れてくる⋯まるで充電マックスの時の、エネルギーほとばしるあの感覚みたいだ! すげえ!魔力すげえ!使い方分かんないけどこれで俺も魔法使いだッ!
「ルイードさん。申し訳ありませんがもう少し時間を頂いても宜しいでしょうか?絶対に!この辺りにあるはずですので!」
「勿論です、ワタクシも微量ながら手伝わせて頂きます」
「皆で探そうよ!見つかるまでさ!」
二人⋯⋯多分騎士様の言葉に笑みを浮かべた魔術師ちゃんはコートを脱ぎ、ピッタリとした服の胸ポケットに俺を仕舞い込む。
――やった。やったぞ!やっと別の場所へいける! これでプンプンともおさらばだ!
プンプン。ばいばい! お前も早く拾われろよーー!
「ルイードさんありがとうございます。宜しくお願いします!」
「はい! いくらでも付き合いますよー!」
――うむ。 ポケットの中も悪くない。いつもの感じだ。
慣れた場所は落ち着く⋯落ち着く⋯何だろうこの感触は?
所有者の胸ポケットにはなかった、初めての感触。
「⋯⋯やわらかい」
◇
あれから何と九時間。おでこにある時計には17:00と書かれている。
三人ともあちこちと草をかき分けて捜索していたがお目当てのものは見つからなかったようだ。
⋯⋯まあ既に胸ポケットにいるんだから当たり前だけど。
縦型に収納された俺のレンズがポケットからはみ出していたため外の様子を伺う事はできた。
そのうえ画面側は服に密着。安心して昼前には所有者にメールを送る事ができた。
魔術師ちゃんが腰を曲げ手を動かすたびに少しの揺れは感じたが、ふかふかのクッションが顔に押しつけられ悪くはなかった。異世界の服は凄い。
この世界にラック値があるとすれば俺のそれは相当高いはずだ。
「お昼ご飯も取らずに手伝って頂いたのに。ごめんなさいルイードさん」
「とんでもない!見つからなかったのは残念ですが久々に自然を堪能出来ましたから。良いですね、長閑な環境も。 王都が悪いわけではありませんが」
ハハハッ!、と笑う騎士様はやっぱりいい人。
「うん〜ジェシカ様の魔術が間違い?いや先に拾われた? あれだけの光を放つアイテムを見れば価値があると思ってもおかしくない⋯⋯大変残念ではありますが、これだけ日が落ちても見つからないのであればこの辺りにはないのでしょうね。
ジェシカ様お気になさらず。仕方のないことです。
大変残念ではありますがね⋯⋯」
フォロー?なのか?
残念を強調するバカセが何より残念だ。
「カイト博士⋯。 いえ、魔術師様。持ち出されたなら仕方ありません王都に戻り一度立て直しましょう。 民の話を集めるにも魔術で探し出すにもやりようはまだ、いくらでもあるはずかと!⋯⋯出過ぎた真似を申し訳ありません」
あっけにとられた騎士様。まじかコイツ――そんな白けた顔でチラッとバカセを見てから魔術師ちゃんを励ます。
「ルイードさん、ありがとうございます。そうですよねッ!王城の魔力溜まりを使えば私の魔術で探す事も出来るはずですし! 冷静にならなくてはいけませんね、ありがとうございます! すぐに戻りましょう!」
王城? 魔力溜まり?
もしかしてこの娘は想像以上に凄い魔術師なのか?
その割にはおっちょこちょいと言うか⋯⋯全然冷静になれていないようだが。
「魔術師様。今から帰るとなれば夜の闇を通らねばなりません。平穏な世の中と言えど万全を期して近くの村で宿を取るのはいかがでしょうか? 先程の魔具もありますから」
さすがは騎士様!
やっと人の住む地へ行けそうだ!
多分だが騎士様は護衛兼、保護者役かな?
声色から彼女を心配に思う気持ちがありありと伝わってくる。
おれ、通話で様々な声を聞いてきたからその辺りを聞き分けるのは得意なんだ!
⋯⋯ゴホンッ。騎士様についてはともかく、俺にとって良い展開には違いない。
早く逃げたいもん。 一刻もはやくバカセから離れたい。
とは言っても正直――
このやわらかさは名残惜しいが。