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~第一時間目~

 ああもう。

思い出すだけで夢と現実がわからなくなる。


 その日の夜。

強いて言うならゲームをやっていて眠ってしまった日の夜の事。

起こされて僕は夕食の席についたのだが。

母と妹はまだ僕と兄貴を巻き込むことを目論んで居るらしかった。


 その夕食。

まったくのどを通らなかった。当たり前だろうと思う。

ゲームだとはいえ生々しかった。

夢だと思いたいのに触れた体温は本物で。

夢じゃないと実感せざるを得ない。

タバコの味。シャンプーの匂い。

どれもこれもが鮮明に体に残っている。

「領鴉?どうかしたのか?」

兄貴に聞かれて少し困惑する。

「ん…何でもねぇよ…。」

そう答えるしかできない。

寧ろ忘れたい。

男とキスをしたなんて死んだって言うものか。

ゲームの世界いってましたなんて言える訳も無いし言ったとしても笑われて終わるだろう。

それこそあの兄貴の事だ。

『お前そんな非科学的な事起こる訳ねーだろ?』

そんな風に言われて終わるだろう。


 でも…分かって貰いたい。

兄さんがなんと言おうと現実なのだ。

体に触れたぬくもり、血の匂い・化粧品の匂い。

全てが本物で全てが現実だった。

クレィルと名乗った男の声が離れなかった。

まるで意識まで攫っていこうとしているようで・・・

ただの夢だ。

そう思おうと頑張っては見るものの。

無駄で・・・。

無理で。

偽りの少女。

あの子は眠っているのだろうか。

そんな事ばかり頭では考えていて。

「領鴉?聴いてるか?」

兄貴に呼ばれるまで気がつかないのだった。

「あ…ごめん。聴いてなかった・・・。」

「大丈夫か?体調でも悪いのか?」

「んーん。平気。大丈夫だよ。」

ニコッと笑うとまあ良いかと兄貴は苦笑はしつつも許してくれたようだった。

「とにかく。俺は芸能界には入らない!領鴉も入れない!母さんも夢莉も諦めろ!父さんが許さないよ?まず。」

気づかないうちに昨日の話が再開されたようだった。

「そうそう。兄貴の言うとおりだ!」

何十回話をすれば折れるのだろうか。

「だってもう履歴書送っちゃったもーん。」

知らないところでこういうことをする母さんなのだった。

にこりと艶やかに母さんは笑った。

「・・・はぁ?!何勝手な事やってんだよ!!」

「はぁ?!何勝手な事やってるの母さん?!」

二人そろって声を上げて異議を唱えて。

当たり前だろう。

愛ゆえだといわれればそれまでだが。

僕たちからしたら迷惑だ。

嫌・・・迷惑・・・ではないにしてもずるいだろう。


 そんな夕飯が終わってから。

僕と兄貴は自室に篭る事にした。

僕の部屋に二人で居る事にしたのだ。

多分これから父さんにこのことを母さんは伝えるだろう。

事後報告だから受け入れるしかないのだ。

たまったもんじゃない。


 「兄貴…僕もうなんだか自信がなくなってきたよ。このまま母さん達の思惑通りに進みそうな気がするんだ・・・。」

「領鴉…俺が守るからな。絶対お前だけは守ってやるから。だから心配するな。お前だけは…格闘家もしくは自衛官になってくれ…。俺はどうなろうと構わないけど…お前だけはなんとしても守る。」

ニコッと笑って兄貴は僕の頬を撫でる。

くすぐったいけれど不思議と嫌じゃない。

顔が近づいてこつんとおでこをくっつける。

少し勢いあまったのかひりひりと当たったおでこは痛む。

「だから隠し事はなしだ。良いな?」

くすくすと兄貴はそのままで笑う。

顔が近い。

息が肌に触れる。

兄弟間でこういうことはきっと人によっては興奮するだろうが。

僕達にとってはただのスキンシップだ。

近親相姦とか言う事は無いから安心してほしい。

忘れないでほしい。

僕達はノン気でありそういう感情はあいにく持ち合わせては居ない。

でも。

今の僕はなぜかその兄貴の行動にドキドキしてしまった。

それは昼間『あんな事』があったからだと思いたい。

間違いなく。

それについてはまた別の話だ。

機会があれば話そうと思う。


 軽く触れるキスをした。

間違いなくいつもの事で。

僕達にとっては普通の行為。

ただのスキンシップ。

にっと笑う兄貴にくすくす笑い。

僕は布団にもぐりこむ。

いつもと同じだ。

何もかもが。

同じだ。

違うのは兄貴は諦めて芸能界に入る事を決めたという事で。

僕はまだそれを知らないのだった。

知る事になるのはもっと先のこと。

あちらとこちらの行き来が終わったころ。




きっと忘れたころに災難やら厄災とかいうやつは来るのだろう。

守られる事より守りたい。

そう思うたびに現実はいつも無情で。

世界はいつどこに居ても回るものなのだと気付かされたのだった。

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