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時間泥棒

作者: 架禍志

若干実話に近かったり……

 皆さんは時間泥棒というものを聞いたことがあるでしょうか? その名の通り時間を盗んでいく泥棒なのですが、少し変わった特徴があるんです。というのも時間泥棒は、盗んだ時間を気に入った際には、そのお礼に金銀財宝を残していってくれるのです。対価を払うならもはや泥棒ではないのでは? という気もしなくはありませんが、一方的に盗んでいくのでやはり泥棒と呼んでも間違いないでしょう。

 と、そんな時間泥棒なのですが、実は私の友人がよく襲われるというのです。

 襲われる(盗まれる)タイミングは決まって同じ、お風呂に入っているときのことです。

 友人はまず全身をシャワーで流した後、髪→体→顔の順に洗ってから湯船に入るそうなのですが、何でも髪と体を洗っている際の時間を奪われるとか。

 お風呂場に入りシャワーを浴びた後、気付けば十分以上の時間が経過しておりその間の記憶が残っていないそうなのです。

 その話を聞いた際、私は友人に、「単にぼんやりしてただけなのでは?」と言ったのですが、友人は「時間泥棒に時間を盗まれたんだ」と言いはりました。その理由を尋ねると、友人は「時間を盗まれた後はいつも、玄関ドアの前にお金が置いてあるんだ」と言うのです。

 おいてあるお金は安いときは百円、高いときは一万円札が数枚にも及ぶそうです。

 今はまだ怖くて手を付けていませんが、これからも続くようなら一体どうしたらいいのか。怪異が相手では警察に相談もできないし、そもそも被害と言うほどの被害も今のところないので、どうすべきか分からない、と友人は嘆きます。

 しかし当然ですが、私は妖怪退治の専門家などではないため、うまいアドバイスもできません。監視カメラを設置してみるのはどうかと提案をしてみたのですが、突然そんなことをしては隣人に変な目で見られそうだからと、断られてしまいました。

 結局これと言った解決法は思い浮かばずその日は解散に。私はただ、友人に何か不幸が訪れないことを祈ることしかできませんでした。




 それから数か月後。私はその友人と再び二人でお茶をする機会に恵まれました。

 「時間泥棒」からの被害が強まり、日常に影響は出てはいないか。話を聞いた日からずっと気にかけていたのですが、幸いにも再開した友人に、特に変わった様子はありませんでした。

 私はそのことに安堵して、軽い雑談の後に「そう言えば、時間泥棒の件は解決したの?」と何気なく尋ねてみました。

 すると友人は、急に顔を真っ赤にして俯いてしまいました。

 これは何かあったのだと直感するも、もし怖い目に遭ったのなら顔を青ざめさせるはず。一体何が起きたのかと尋ねたところ、友人は顔を真っ赤にしたまま、ぽつぽつと話し始めました。




 私に「時間泥棒」の相談をしてから数週間後のこと。久しぶりに早い時間に帰宅できた友人は、帰宅後早々お風呂に入りました。もはや慣れてきてしまったことですが、いつも通り時間を盗まれ、玄関前を見ればお金が置いてありました。

 友人は取り敢えずお金を回収した後、ふとアイスを食べたくなり最寄りのコンビニまで歩いていきました。

 そして、その帰りのことです。

 アイスを片手に玄関のカギを開けていたところ、隣室の扉が開き、腰の曲がったおばあさんが出てきました。

 あまりご近所づきあいをしていなかった友人は、軽く頭を下げてやり過ごそうとします。けれどおばあさんは笑顔でこちらに近寄ってくると、友人の手をぎゅっと握りしめました。

 一体何事かと身体を固くする友人に向け、おばあさんは優しい声でこう言いました。

「いつも素敵な歌声有難うね。これからも楽しみにしていますよ」



 ――その日以降、友人の元に「時間泥棒」が訪れることはなくなったそうです。そしてまた、その話を聞いた私も、「時間泥棒」が訪れることのないようお風呂場では静かにすることを決めました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 懐かしい雰囲気の怪異。意味が解ると怖いきもするけど、いいえ、ほのぼのします。ホラーでありながら、コメデー要素が含まれるような。ミステリーと同じくらいホラ好きなので、こういうの読むとほっとし…
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