4話 変化4
扉は空いていたので乗り込んで7階を押すと、エレベーターが1階分下降して止まった。
確かすぐ右手がリフレッシュエリアだなと思いエレベーターを出てすぐ右に目を向けると、全てが白で統一されていた8階とは違い、リフレッシュエリアのあるところだけオレンジ色の暖かい感じの壁に柔らかそうなソファや椅子がいくつも置いてあった。
コーラ発見!同じくオレンジ色に塗られた自販機が目に入ると一目散に駆け出したい気持ちを抑えゆっくりとだが確実に自販機に向かって歩き出した。
正直さっき転びそうになったのが怖くて早歩きできないと言うのが一番の理由だ。
なんとも情けない話だが…。
俺は自販機の前に立って仁村さんからもらった硬貨を投入口に入れ、コーラのボタンを押した。
身長が小さくなっていたため、届かないほどではないが腕を少し伸ばす必要がありちょっとだけ苦労した。
今までは腕を前に出すだけで良かったのになあ。
そう考えるとよくここまで縮んだな。
人間の体って本当にすごいもんだ。
俺はでてきたコーラを取ると近くの空いているソファに座った。
横には白髪のおじいさんが杖を横に置いて座っており、本を読んでいた。
本を読むのが昔から好きで最近では警察物にハマっていた俺はコーラを飲みながらおじいさんの読む本をチラチラ見てしまう。
「お嬢さんはこの本が気になるのかな?」
おじいさんはすごく優しい顔をしてこちらを向いて聞いてきた。
お、お嬢さん!?いや今の俺はそとから見たら確かにお嬢さんかもしれないけどさ!
そう言われるとなんとも言えない気持ちになってしまう。
しかしチラチラ見ていた失礼な奴は俺のため、素直に謝ってから聞いてみた。
「す、すみません。何を読んでいるのかなーと」
「これは『動物農場』という海外の小説だよ。お嬢さんはこういうのはあんまり好きじゃないかな?」
まさかのジョージ・オーウェル!?失礼だけどこの年の人とかってもっと時代劇みたいなの読んでるのかと思ってた…。
まあそりゃあ人それぞれだよなあ。
「俺、あっいや私も昔オーウェルさんの『1984年』を読んだことあって、いつか『動物農場』も読んでみたいなと思ってました!」
危ない危ない普通に”俺”と言ってしまった。
でもこれからはどんな時でも”私”って言えるようにならないといけないんだよなあ。
ついつい”俺”なんて言ったもんなら「は?」みたいな顔されちゃいそうだし。
「ほうほう。お嬢さんもこういう小説読むんだねえ。SF小説好きなのかな?」
「割と雑食なんですけど、少し前にSFにかなりハマっていて最近はミステリー小説に挑戦してますね」
「若いのにたくさん本を読んですごいねえ。僕が子供の頃は漫画ばかり読んでいたよ」
「いやいや俺、あっいや私も漫画とかも読みますよ!うちのお姉ちゃんが漫画好きで部屋中漫画だらけなのでよくよませてもらってます」
お姉ちゃんの部屋はまじで漫画喫茶か?と思うほどに大量の漫画が置いてある。
漫画ばっか読んでるくせに成績良くて大学も主席合格だし本当にいつ勉強してるんだってくらいだ。
お姉ちゃんまた漫画読ませてくれるかな…。
「お姉さんと仲がいいんだね」
おじいさんがそう言うと後ろから同じくらいの歳の女性の声がかかりおじいさんはまた優しそうな顔をして手を振りながらリフレッシュエリアから出ていった。
さっきの男子高校生たちとの出会いは嫌だったけど、今のおじいさんとの出会いはなかなか新鮮で良かったなあ。
「お姉さんと仲がいいんだね」かあ…。
お姉ちゃんが海外の大学に留学に行く前まではすごく仲が良かったけど今日再開した時はあんなこと言われちゃったし、もう仲良くなんてできなのかな…。
おっといけないいけない。
また悲しくなってこんなところで泣いてしまっては流石に恥ずかしすぎる。
この体になったからなのか妙に涙もろいところがあるから気をつけないと。
俺は外を見ながらコーラを飲み干すとエレベーターに乗って病室に戻ろうとリフレッシュエリアを出た。
この体になってもコーラは飲み干せて良かった。
コーラ飲めないとか拷問すぎるし、飲み干せないなんてコーラに失礼だからな。
道中は何事もなく、またゆさゆさと揺れる胸に動揺しながら病室の前に到着することができた。
正直もう一回揉みたい気持ちがかなりあるが誰が入ってくるかわからない病室で自分の胸を揉むのはかなりリスクが大きい。
病室に入るとベッドの横でトートバッグを漁るお母さんが目に入った。
母さんは足音に気づいたのかこちらを振り向いた。
「あら、どこにいってたの?」
「飲み物買いに行ってただけだよ」
「そう。着替えを持ってきたからこれに着替えて」
「ありがとう母さん。俺ってもう今すぐ退院できるの?」
「そうね、あとは私が手続きすればすぐにでも退院できるそうよ。ただ、あなたの服とか下着とか買わなきゃいけないからこのあとモールに寄らないとね」
下着か…。
そうだよな。
今は政府の資金で病院に提供されたこの一着しかないけど、下着一着でもつわけないからもっとたくさん買わないとだもんな。
あと服も昔のは大きさ的に入らないから買わないと。
意外にも母さんが適応していることに驚きつつも、この後待ち受けているショッピングがめんどくさいなと思ってしまった。
そりゃあせっかく美少女になったんだから可愛い服を着てみるのもアリかもしれないけど、母さんの前で可愛い服を着るのは流石に恥ずかしすぎて失神してしまいそうだ。
買うときはなるべく男っぽいものを買おう。
「じゃあ私は先生のところに行ってくるからこれに着替えるのよ。お姉ちゃんの中学の時のお古だけど多分着れるから」
そう言って母さんは病室から出ていき、また一人になった。
トートバッグを開けると母さんが気を遣ってくれたのか、元息子に女っぽい服装をさせたくなかったのかわからないが普通のスキニーっぽいのズボンとプルオーバータイプの白色のパーカーが入っていた。
今は4月中旬なので、この薄手のパーカー1枚で十分そうだ。
これなら着方もわかるし恥ずかしさも全くない。
パーカーは無地でなんのプリントもない普通のものだった。
最近の流行に乗るためいつもどおりパーカーの紐を軽くしばると、今度は病院服の下を脱いでスキニーに足を通した。
ベルトが入っていないのが残念だったがサイズもちょうど良く下がることもないので特に問題はない。
スキニーを取ったことで奥にあったサンダルが見えたのでそれも取り出した。
このサンダルお姉ちゃんが今でも履いてるやつじゃないか?
サンダルはよくあるマジックテープがついた紐が2箇所についているタイプで履き心地も良い。
母さんは本当に準備がいいから助かる。
「はーい。どうぞ」
扉をノックする音が聞こえたため返事をする。
木崎先生と母さんが病室に入ってくる。
「岬くん。午前ぶりだね、体調はどうかな?」
「はい。体調も良いですし、少し散歩もして歩くのにも慣れてきました」
「それは良かった。お母さまが退院の手続きをしたからもう退院できるよ。退院してからも定期検診やサポートはしっかりと続けていくから安心してね。朝話した編入するかどうかというのもまた相談しにきてくれて大丈夫だよ」
「わかりました。何から何までありがとうございました」
俺が深く礼をすると母も「息子の命を救ってくれてありがとうございました」と言って深々と礼をした。
まあもう息子ではないんだけれども。
木崎先生も深く礼をした後、病室から出ていった。
「それじゃあ行こうか、岬」
「うん、行こう母さん」
俺はそう言うと母さんが持ってきてくれたトートバッグを持って母さんについていくが、トートバッグが思ったより重くてバランスが取れずに転倒しそうになってしまう。
それに気づいたのか母さんは俺に駆け寄って代わりにトートバッグを持ってくれた。
「私が持つわよ」
「うう...。ありがとう」
昔は母さんが重いと言っていたからいつもは俺が荷物を持ってあげてたんだけどな。
筋肉、つけないと…。
次回からお買い物回が始まります。
TSモノのお約束ですよね。
小説のチョイスが完全に個人的な趣味ですみません...。
なろう小説を読む前はお堅い感じの小説をよく読んでいたので、表現が固くなりすぎないように気をつけるのが大変なんですよね。
誤字や脱字、変な表現などがありましたら教えていただけると大変助かります。