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ある日女の子になった私(俺)のこれから  作者: 詩野
2章 高校2年生編
21/22

19話 転校1日目4

「そういえば教室に1人で残ってたけど何か用事があったんじゃないの?」

「いや、大丈夫」

「勉強してたの?」

「あ、ああ。少しだけな」


 そう言うと蓮は恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。あれか、テスト前にでてくる俺勉強してない〜って言っていい点数とる感じの奴なのか蓮。

いや、流石にそれは失礼すぎるな。でも教室に残って勉強してるなんて普通にすごいと思うし、頑張り屋さんなんだな。


「そっか。邪魔してごめんね」

「いいんだ。どうせ意味ないし」

「え?意味ないって?」

「なんでもない」


 蓮は少し悲しそうな顔をしてそう言ったあと、下駄箱で靴を脱いで足早に校門から出ていく。

俺はそれに置いていかれないように後から追いかけていく。この体になってから歩幅も小さいから、足も遅くて追いつくだけでも一苦労だ。


「そういえば蓮は部活は入ってないのー?」

「っ!」


 俺がそう聞くと、蓮は怖い顔をしてこちらに凄んできた。

驚いた俺は少し後ろに下がってしまう。


「す、すまん」

「い、いや、こちらこそごめんね」

「部活の話はしたくない」


 やってしまった。蓮にも何か事情があるんだろうな。

これからは部活の話題はこいつの前では避けておこう。何の話をしよう。気まずい…。

元々あまり自分から話す方ではないのだろうか、蓮から話題を振ってくることはない。

 あーあー。考えれば考えるほどどの話題なら地雷を踏まずに会話できるかがわからなくなってくる…。


「谷村は転校してきたばかりですぐテストだけど大丈夫なのか? 」


 おお!蓮から話しかけてくれた!

でも苗字呼びは嫌なんだけど。


「岬でいいよ」

「い、いやそれだと勘違いされて…」


 蓮はゴニョゴニョと言い訳を並べ始めた。

まだってなんだよまだって。ああ、でも高校とかの文化によって名前呼びとか違うもんな。

郷に入っては郷に従うってことで蓮のペースを待とうか。

俺は話を元に戻すことにする。


「えーと、テストの話だっけ。まだ今日の科目しか受けてないからわからないけど、今のところは知ってる範囲だったから大丈夫そうだね」

「すごいな。転校してきたばっかなのに」

「通ってた高校が進んでたのと、教科書で勉強する派だからね」

「谷村、実はすごいやつだったんだな」


 真面目な顔でそんなことを言われると素直に照れてしまう。

蓮はすぐにそっぽ向いてしまうため、その表情はよくわからない。

 俺たちは電車に揺られて最寄駅へと帰っていく。

俺の中にある記憶では学校に通わなかったのは2週間とちょっとだけだけど、こうして新しく出会った人と一緒にいると、ものすごく時間が経ったように感じてしまう。

電車を降りて淵野辺駅のホームに着いた俺たちは改札を出て広場に出る。


「お前の家どっち?」

「こっち」

「一緒だな」


 俺が家の方向を指さすと、蓮は同じ方向だと言ってついてきてくれた。


「本当にありがとね。一人で帰ろうとしてた私が言うのもなんだけどあのままだったら駅までたどり着けなかったかも」

「谷村は結構お転婆な奴なんだな」

「あのくらい持てると思ったんだけどなー」

「いやお前の細腕じゃきついだろ」

「うるせーよ!」


 お前に俺の気持ちがわかるかよ!

そう叫びそうになったところで自分の失敗に気づく。

蓮は別に悪気があって言ったわけじゃないし、昔の俺を知らない蓮からしたらただ事実を言っただけだ。

でも、それでも。

男だった時のプライドというか、非力みたいに言われると嫌な気持ちになってしまう俺はおかしいのだろうか。


「ごめん。今のは忘れて」

「…」


 蓮はびっくりした顔をしてこちらを見てくるだけだ。


「あれ?岬?」

「お姉ちゃん?」


 呼ばれた方を振り向くと、車の運転席側の窓から顔を出しているお姉ちゃんの姿があった。

買い物にでも行ってたのかな。もしかして今のやり取りも聞かれた?


「学校お疲れ様。乗ってく?」

「うん。蓮、ごめんリュックここまで載せられる?」

「あ、ああ」


 蓮はお姉ちゃんが運転する車まで歩み寄ると、俺が開けたドアから後部座席の上にリュックを丁寧に置いてくれた。


「蓮くんって言うの?リュック持ってくれてたんだ。ありがとね」

「うっす」


 蓮はそう言って一礼だけすると走って行ってしまった。

やっぱりさっきので嫌われちゃったかな…。

そりゃあ善意で荷物持ってる相手にいきなり意味わからないところで怒鳴られたりなんかしたら嫌いにもなるよな。

はあ…。初日で仲良くなれそうな友達が出来たと思ったんだけどな。

 明日学校で真っ先に謝ろう。そうだ、それがいい。


「岬、さっきの彼氏?」

「え?」

「彼氏?」

「なわけないだろ!」

「えー」


 車に乗った途端、お姉ちゃんが俺の方を見てそんなことを言ってきた。

俺は今でも女の子が好きだし、蓮はあくまでも友達だ。


「私が教科書一気に持って帰ろうとしたの見て危なっかしいからって手伝ってくれただけだよ」

「ちぇー彼氏じゃないのかあ。というか岬が外ではちゃんと”私”って言ってて安心した」

「え?あー。お姉ちゃんの前じゃ”私”なんて使いたくなかったんだけどな」


 学校で意識して一人称を変えていたため、短期間のことではあったが”私”を言い慣れてしまったようだ。

外では流石に”私”と言わざるを得ないけど、家族の前では”俺”じゃないと女の子に染まってしまったみたいでなんとなく嫌だし恥ずかしい。

それに父さんに聞かれでもしたら怒られそうだし。


「えーお姉ちゃんも岬が”私”っていうの聞きたいよ?それにそんな可愛い顔して”俺”なんて違和感ありすぎるし」

「もういいからちゃんと前見て!」

「はいはい」


 必殺ちゃんと前見て攻撃!運転している人はこれを言われたらなにも出来まい!

車は住宅街を進んで我が家が見えてきた。


「そういえば何で車で外にいたの?」

「部屋の椅子がかなりくたびれてきたからわざわざ秋葉原まで行って新しいの買ってきたんだ。岬のもあるよ」

「え!?俺のも!?」

「うん。岬の椅子、前から使ってて金具が取れかけてるの知ってるよ。危ないからもうあれは使っちゃダメ」

「知ってたんだ。ありがとう。でも高かったでしょ?」

「いいのいいの。私が実況者として結構稼いでるの知ってるでしょ?」


 俺の姉はゲーム実況者としてそれなりに有名な方で、生配信中のスペシャルチャット──いわゆるスぺチャでお金をもらっているのに加えて、その生配信のアーカイブの広告費でもかなり稼いでいるようだ。

恥ずかしいから本人には言っていないが、俺は生配信は大体見ているし、見れなかった日などは後日アーカイブでしっかりと見ている。

 昨日の放送もちゃんと見たが、妹がいる発言をしていた…。

誰が妹だ!って言ってやろうかと思ったけど俺が生放送を見ていることがバレてしまうため、指を咥えて見ているしかなかった。


「よし、ついた」


 姉が車を止めると、一緒にトランクを開ける。

そこには有名なゲーミングチェアメーカーのロゴと、椅子の写真がプリントされた大きなダンボールが入っていた。


「え!これゲーミングチェアじゃん!」

「もちろん!私も岬もゲーマーだからね。必需品だよ!」


 すごい、家電量販店でしか本物を見たことなかったけど、それが俺のものになるなんて。

待った。これ俺運べるのか?

少し持ち上げてみる。1ミリも持ち上がらなかった…。


「買った時はお店の人が運んでくれたけど、部屋まで持っていく時のことは考えてなかった…。お母さん呼んでこようか」

「うん…」


 俺はまた鍛えようと思った。

まだダンベルは早いからとりあえず自重トレーニングでも始めてみようかな。

母さんと姉が二人で椅子を持ち上げる。しかし中々維持するのが厳しいようで、またトランクの中に置いた。


「うーん。流石にこれは女2人じゃ厳しいわね」

「俺は?」

「岬は戦力外よ」

「うぐぅぅ…」


 俺は戦力の数にすら含まれていなかったようだ。

父さんってそういえばいつ帰ってくるんだろう。

数日前から出張に行ってるのはわかってるけど、いつ帰ってくるかは教えられていなかった。


「お父さんもう少しで帰ってくるらしいからその時に頼みましょ」

「あ、お父さん帰ってきたよ」


 姉が見ている方向に視線を向けると、スーツケースを転がしながら歩いている父さんの姿があった。

まずい、学校帰りで制服着たまんまじゃん。

でも学校に通ってるんだからしょうがないだろとは思う。動揺してないで堂々としてようかな...。


「おかえりなさい。出張で疲れてるところ悪いんだけど、お父さんこの椅子運んでくれない?」

「ただいま、わかった。これを頼む」


 そう言って母さんにスーツケースを渡した父さんは、車のトランクの前に立った。


「二つも買ったのか」

「一つは私ので、もう一つは岬の分買ってきたんだよ。椅子が壊れかけてたからさ」

「そうか。言ってくれれば買ったんだがな」

「いやいや、その椅子高すぎて頼めるような値段じゃないから」

「そうなのか?まあいい。じゃあ俺が一つ持つから、岬はもう一つを持ってくれ」

「あ、えっと…」


 父さんは俺がまだこの重い荷物を運べると思っているのだろうか。

まあ確かに俺自身、自分の筋力を見誤って重い荷物を持とうとしちゃうのは結構あったけどさ。

椅子を持たない俺を不審に思ったのか、父さんが振り返る。

俺の顔を見た後に俺の全身を見回した父さんは気まずい顔をして口を開いた。


「ああ、そうか。すまん。俺が往復するから最後はトランク閉めてくれ」

「ごめん…」


 父さんは、楽々とまではいかないが平気で家の中まで運び込んでいった。

前だったらこういう時も手伝えたんだけどなあ。

玄関に並べられた椅子をさらに2階へと持っていく。ていうかこれ成人男性でも普通にきついだろ。

流石に父さんには申し訳ない。

 俺はできるだけのことをしようと、2階に先回りして椅子を置けるスペースを確保する。


「父さんここスペース空けたからここにお願い」

「ああ」


 父さんは少し苦しそうな声を出して地面にゆっくりと椅子を置いた。

結構つらそうだ。


「父さん」

「なんだ?」

「俺が非力でごめん…。また鍛えるからさ」

「いや、大丈夫だ」


 それだけ言うと父さんは玄関に戻り、2個目の椅子を上に運びに行ってしまった。

相変わらずなにを考えているのかわからない…。でもいつかは向き合わないとな。

 家族なんだから。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

筆者のリアル都合により、次回更新は9月以降になってしまいます。

楽しみにしていた方々には大変申し訳ありませんが、再開までお待ちください。

2022/07/18

連載を再開しました!


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