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14話 一歩踏み出す2

 木崎先生との電話を切って再び帰路についた。

栄田高校かあ。うちは住所的には神奈川県ではあるけど、立地的にはほとんど東京といってもいいレベルだ。

男の時は神奈川県の東中央高校に通っていたが、家からの近さで言えば栄田高校の方が近い。

東中央高校は最寄駅から4駅のところにあるが、栄田高校は最寄駅から2駅の場所にある。

だからまあ通学は楽になるよなーとは思う。

 この体だと少し歩くのにも結構体力を使うし、体力がつくまではすごく助かる。

実際今歩いていても、男の時の歩行スピードには到底及ばず、地元を歩くだけでももどかしさを感じてしまう。

スカートは、スースーはするけどそれさえ気にならなくなれば普通に可動域も広いし実際腰回りに布を巻いているだけなわけだから、歩いていてストレスにはならない。

これがOLさんとかが履いてるタイトスカートなんかだとストレスが凄そうだなと思う。

毎日浴衣着てるみたいになるなんて俺なら耐えられない。

 気持ち悪いと思われるかもしれないが、割とスカートを好きになってしまっている自分がいる。

単純に可愛いというのもあるが、男の時も部活の着替えで外でパンツ一丁になるなどはよくあったからスースーするのが気にならなくなってきているということもある。

むしろピチピチしているズボンの方が縛り付けられているみたいで気持ち悪いと感じてしまうタチだ。

 今度お姉ちゃんにおすすめのコーディネートでもしてもらおうかな。今は恥ずかしくて勇気が出ないけど、あと1週間くらいしたらいけるかもという謎の自信が湧いてきた。

そんなことを考えているうちに家に着いた。母さんはいるかな。

 リビングに行くと、母さんがテレビを見ながら洗い物を畳んでいた。


「あら、おかえりなさい。髪も切ってスカートも履いてずいぶん可愛くなったじゃない」

「い、いや可愛くなんて…」


 可愛いという褒め方はまだまだ慣れない。慣れてはいないけど、嬉しくないのかと言われればそりゃあ嬉しいけどさ。

そうだ。母さんに栄田高校の話をしよう。


「母さん、学校のことで話があるんだけどいい?」

「学校ね…。いいわよ」

「さっき木崎先生から電話があって、栄田高校を見学してみないかって言われたんだ」

「そうなの。それで岬は行きたいの?」

「うん、俺栄田に行ってみたい。何かがわかると思うんだ」

「わかったわ。あなたがそう言うならそうしましょ」

「いいの母さん?」

「失礼ね。子供を応援しない親はいないわよ」

「ありがとう母さん…」


 母さんはこちらを見て少し微笑んでからホッとしたような顔をして洗い物を畳むのを再開した。

いつもは手伝ったりとかはしてなかったけど、こういう時って娘なら手伝うのかな?

それなら…。


「母さん。俺手伝うよ」

「え?じゃあこっちをお願い」

「うん」


 俺はリビングの絨毯にあぐらをかいて黙々と母さんの真似をして洗い物をたたみ始めた。

なんか母さんが俺の足元をすごい見てくる気がする。


「岬、パンツ見えてるわよ。もう女の子なんだからスカートであぐらなんてかいちゃだめよ」

「えー家なんだしいいじゃん別に」

「全く岬は…」


 そう言いつつも不機嫌そうな顔ではなく、どこか嬉しそうな顔をしている母さんがいた。

手伝って良かった。これからはどんどん母さんを手伝えたらいいな。

というか洗濯物多いな。これって絶対1日でやる量じゃないだろ。

もしかして俺の退院とかお姉ちゃんの帰国とかもあって手が回ってなかったのかな?

途中でお風呂を洗いに行ったというのもあるが、やっと畳み終わったという頃には17時になってしまっていた。

 ガタンッ

玄関の扉が開く音がして、人の足音がリビングに近づいてくる。

父さんだ。珍しく早く帰ってきた父さんはリビングに入ると荷物を置いてネクタイを緩めた。


「ただ…いま」

「あらおかえり」

「おかえり父さん」


 父さんは何故だか不機嫌そうな顔をしてこちらを凝視している。

どうしたんだろう。俺は視線の先を見る。

あ、そうだ俺今スカート履いてた。しかもさっき母さんが女の子座りしてみてって言うから慣れるために女の子座りしてる…。

これは父さん的にはアウトだろう。

 すぐに着替えないと!俺は父さんの横を小走りで通り抜けて階段を登り、自分の部屋に入る。

父さんにこんな姿見られてしまった。

きっと今は、男のくせにとか、スカートなんて履いて気持ち悪いと思っているに違いない。

俺はスカートの裾を思い切りつかんでその場で立ち尽くした。

新しいスカートを履いて、可愛く髪を切ってもらって喜んでいた自分が恥ずかしく思えてくる。

俺がスカート履いたり女の子座りするってそんなに悪いことなのかな?

確かに昔の俺を知っている人からしたら認めづらいよな。そう考えると父さんみたいな反応が普通なのかな。

はあ、またネガティブになってしまっている。Bpexでもしようかな。

でもそろそろお風呂入ってご飯食べないとだもんな。

夜やろう。とりあえず今はお風呂入っちゃうか。

 クローゼットから着替えを取り出してお風呂場へと向かう。

今日はお姉ちゃんが高校の時に使っていた体育着のズボンをパジャマとして使わせてもらうことにした。

女の子生活2日目のお風呂。さっきの出来事のせいで少し気分が滅入っているためか、体を見ても少ししか興奮しなかった。

まあこの状況で少しでも興奮できる自分の性欲はすごいと思う。


「ははっ…」


 乾いた笑いがお風呂場に広がった。

体を教えてもらった通りに丁寧に洗って少しだけ浴槽に浸かってから脱衣所に出る。

あたりに目を向けると、父さんが棚で何かを探していた。


「岬っ!?す、すまん」


 俺の体を一瞥した後にそれだけ言い残した父さんは足早に脱衣所から出ていった。

父さん何か探してたのかな。まあ元男とは言え女の子の体見たらそりゃあこうなるか。

でも胸を見られたのは正直恥ずかしい。これがもう少しつつましやかな胸ならまだ気持ち的に楽だったかもしれないが、こんだけ主張しているものが体に付いているのは恥ずかしい。

 うう…。特に父さんにはあんまり女の子の部分を見られたくなかったんだけどなあ。

俺はまた父さんに見られないようにササっと体を拭くと、ナイトブラを付けてパジャマを着た。

髪だけここでそのまま乾かしちゃおうかな。

 俺は美容院でもらったヘアオイルを少し手に出して髪につけると、全体に伸ばしていく。

これで乾かすのかな?使用方法が容器に書いてあって良かった。

あとは乾かせば終わりだな。

 俺は髪を適当に乾かすと、少し整えたい衝動に駆られ、棚からお姉ちゃんの櫛を取り出して髪をとかしていく。

今まで櫛すら使ったことなかった俺がこんなに髪を気にしだすなんてなあ。

よし!いい感じに整えられた。

 ガタンッ

玄関の扉が開く音がした。お姉ちゃんだ!

俺は先ほど出来事の悲しさからか、子供のようにお姉ちゃんの元に駆け寄っていってします。


「お姉ちゃんおかえり!」

「岬~!髪型可愛いね!お迎え出来てえらい!」

「うぅ…」


 お姉ちゃんは俺のことを抱きしめると子供のようにあやしてきた。

お姉ちゃんが帰ってきて嬉しいから駆け寄ったのは俺だけど、だからってこういう扱いは恥ずかしい…。


「ちょっとやめてよっ」

「妹が可愛くてついね~」

「妹じゃないし!」

「えっ…。家族の縁を切るの…?」

「いや違うってばもー!」

「あははっ、岬はからかいがいがある」


 そう言って笑いながら自分の部屋に行ってしまう。

俺は後ろからついていき今日のことを話す。


「色々教えてもらえてよかったじゃん。ヘアアイロンは私の部屋にあるから使いたいとき勝手に使っていいよ」

「ありがとう。あと栄田高校に見学しに行くことになった」

「あー木崎先生に勧められたってところね。確かに岬のためにも転校のほうがいいと思う」

「うん…。まだ決心はつかないけど、とりあえず見学してくるよ」

「それがいいね。私は岬の味方だからいつでもなんでも相談するんだよ?」

「お姉ちゃんありがとう」


 俺はそう言ってくれるのが嬉しくて恥ずかしくて、ほおが緩んでしまう。

ぐぅ~

2人のお腹が鳴った。2人して顔を見合わせる。


「お腹すいちゃったね」

「私も大学で疲れてお腹ペコペコだよ~。ご飯食べよ!」


 そう言って2人で階段を下りてリビングに行くと、ちょうど夜ご飯が出来上がったところだったため、家族4人で食べる。

俺はお姉ちゃんと2人でゲームや髪の毛のケアの方法どの話をして盛り上がっていたが、父さんとは一度も話していない。


「そうだ岬、栄田高校の見学の件早くて2日後らしいんだけどどう?」

「あれ、そっちに連絡いってたんだ。俺は早いほうがいいから2日後がいいな」

「やっぱり親御さんにも話しておくべきってことで私にも電話が来たのよ。じゃあそう言っておくはね」

「うん、ありがとう」


 父さんが何の話かわからないという顔をして俺と母さんを交互に見やっていた。

正直父さんとの距離感は今だに掴めてないし、拒絶されるのが怖くて相談もできない。

 でも家族が俺のせいでどんどん離れていくことになったら嫌だ。

せめて高校2年生中には認めてもらいたい。最初は高校に復帰するまでには、と思ったけどさっきの感じからして流石に無理そうだったため断念した。

夜ご飯を食べ終わった俺は自分の部屋に行きベッドに寝転がった。

お姉ちゃんはお風呂に入ったためしばらくは戻ってこないだろう。

 ピコンッ

Bpexのトークアプリからの通知が来た。


パイナップル8 : 『今からBpexやれる~?』

ハルマキ : 『できるでござるよ』


 パイさんとハルマキさん、そして俺だけが入っているグループチャットルームだ。

どっちにしろ寝る前にやるつもりだったため、俺は喜んで返事をする。


ミサキ : 『いいですよ!やりましょう!今PC起動します!』

パイナップル8 : 『じゃあ俺誘うね~』


 流石にあの名前は恥ずかしいしロリちゃんなんて呼ばれたくなかったから下の名前をカタカナにした名前にすることにした。

今になって思うけど俺の名前が割と中性的で良かったな。これが○○太郎とかだったら結構厳しかったかもしれない。

変えた時にはロリちゃんは実はミサキちゃんだったとは…!なんて言われたな。俺にも名前くらいあるわ!

 俺はPCを起動してBpexにログインすると、さっそパイさんの誘いを受けた。


「やっほーミサキちゃん、ハルマキさ~ん」

「こんばんはでござるミサキ氏、パイ氏」

「パイさんハルマキさんこんばんは~」


 自分で聞こえる声と実際の声って結構違うから、今の俺の声がどう聞こえてるか気になるな。

今度録音して聞いてみよう。歌とか歌ってみてもいいかもしれない。

男の時はカラオケとかもよく言っていて、歌がうまい自信はそれなりにあった。

女の子になったから高音域も出るようになるんじゃないか?これは結構楽しみだ。

お姉ちゃんでも誘ってカラオケ行ってみよう。

 俺はこれからやってみたいことや行ってみたい場所を考えニヤニヤするのを抑えつつ、マウスを握って戦闘モードに入った。


次はいよいよ学校見学です!

物語の進行速度が遅くて申し訳ありませんが、もう少しお付き合いください。


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