12話 初めての朝
髪を結んでもらった後、お姉ちゃんが留学でどんなことをして、どんなものを見たかなどを詳しく話してくれた。
俺は海外に行ったことがないため、その話は新鮮で、その上羨ましくも思えた。
俺もいつかは海外旅行や留学に行きたいと思っている。
高校でしっかり英語教育を受けていたことに加え、オンラインゲームで仲良くなった海外の人たちともボイスチャットをしていたため、多少は英語を話すことができる。
お姉ちゃんは中学の頃から英語が話せて、高校に入る頃にはフランス語やドイツ語も習得していたらしいが…。
そんなお姉ちゃんを持つ俺は何かと比べられがちで、お姉ちゃんが通っていた東中央高校に通うためにどれだけ努力したことか。
大学に入った今でもさまざまな学会で論文を発表したり、その上現役で登録者100万人越えの実況者なのだから、多芸にもほどがある。
俺はそんなことを考えながらベッドに寝転がる。
今は夜の23:30。お姉ちゃんと話したりした後に一緒にゲームもしたため寝るのがこの時間になってしまった。
いつもは次の日の朝練のことを考えて22:00には寝ていたが、こういう日もありだろう。
俺はふと自分がすべきことを思い出し、ズボンを脱いで下半身をあらわにする。
これから自分がしようとしていることに対する背徳感と羞恥心で、心臓がドクドクと波打っているのがわかる。
俺は自分の下半身に手を当てると、好奇心と欲望に身を任せた。
◇
目が覚める。眠い。今何時だ?
俺は状態を起こし、枕元の時計を見やる。
もう11:30!?俺そんなに寝てたのか。
そもそも何時まで起きていたんだっけ。
あまりにもその快楽に溺れてしまったため、気絶するように寝たのだった。
コンコン
「入るよ〜!まだ寝てるのー?って…」
「ああ、お姉ちゃんおはよう」
お姉ちゃんは俺の返事が聞こえていないかのように、ニヤニヤしながらある一点を見つめている。
そこには何も身につけていない俺の下半身と、たくさんのティッシュが転がっていたのだ。
あ、終わった。
「そっかあ。岬ちゃんそれで寝坊したんだ。えっちな女の子だなあ全く〜」
「ち、ちが!これは!違くないけど!ああ、なんで俺はうそがつけない!?」
「まあ岬の体だしとやかくは言わないけど、それで寝不足になるのは流石にやめなね~」
「もう!お姉ちゃん!」
あまりにも焦って墓穴を掘ってしまった。
昨日気絶するように寝たため、当然ズボンも履いておらず、周りも片付けてはいなかった。
茶化されるのはともかく心配なんてされてしまうと逆に恥ずかしさがこみ上げる。
今は話を逸らさなくては…!
「そ、そういえばお姉ちゃんは大学ないの?」
「露骨に話逸らしたね岬。お姉ちゃんはもう4年であとは研究するだけだから行きたいときに行けばいいの。お昼のパスタもうできたから早く下に来なさいってお母さん言ってるよ」
「わかった。今すぐ行く」
「朝から昨日の続きとかしちゃだめだよ〜」
「わ、わかってるよ!」
くそう。完全に遊ばれている…。
弱みを握られてしまったな。これからは気をつけよう。
パンツどこだっけ。床に脱ぎっぱなしだ。
俺は床に落ちているパンツを履いてからショートパンツを履く。
しかし女物のパンツは履き慣れなくてムズムズする。
男の頃は開放感のあるトランクスを履いていたため、ぴっちりしているパンツは慣れていないのだ。
軽く顔だけ洗うと1階のダイニングに行き、パスタが用意されているテーブルの前に座る。
「岬遅いわよ」
「ごめん昨日寝たの遅くて」
俺がそう言うとお姉ちゃんはニヤニヤしながら何か言いたそうに母さんと俺を交互に見てくる。
流石にあのことは絶対に言わないで欲しい。という主張を目で訴えるも、お姉ちゃんはニヤニヤしたままだ。
ぐぬぬ。何か弱みを握ってやりたい…。
まだ眠気は取れないが、腹は空いているためパスタを頬張る。
お姉ちゃんはパスタを食べ終わるとスマホをいじり始めた。
男の時は食べるのが家族の中で一番早かった俺も、今では家族の中で一番遅くなってしまった。
口も小さいし、胃も受け付けないのだから仕方ない。
俺はキッチンに食器を片付けてダイニングに戻と、お姉ちゃんがスマホを見せてきた。
「岬、ここ私がいつも行ってる美容院なんだけど、ここはどう?」
「うーん、俺はよくわからないけどお姉ちゃんが行ってるところなら安心かな」
「じゃあここ岬の名前で予約しておくね。お、偶然にも1時間後空いてる」
「ありがとう。1時間後で大丈夫だからお願い。そこって遠いの?」
「はーい。駅前だから歩いて10分くらいだよ~」
お姉ちゃんにお礼を言った俺は歯を磨いてから部屋に戻って出かける準備を始める。
クローゼットの前に立つ。
昨日はバタバタしていて全身をまじまじ見る機会はなかったけど、こうして見るとかなり身長が小さいな。
女子の中でも小さいほうなんじゃないか?今度学校の保健室にでも行って測ってもらおう。
さてさて、今日は何着ようかな。
昨日は退院してそのままの流れとその場の感情に流されて女性ものの服を買ってしまったが、今になってよくよく考えるとこれを人前で着るのはかなり恥ずかしい。
い、一応着るだけ着てみて嫌ならズボンとTシャツにしてしまおう。
俺は無地の黒いひざ丈のスカートに、マットな緑色のパーカー、そして外用のブラを手に取る。
スカートはひざ丈かそれより短いやつしか買ってもらっていない。
短いのは恥ずかしいが、長いと階段でひっかけて転んでしまうと思ったからだ。
よし、ブラちゃんとつけられた。
両手でちょっとだけ胸を揉む。うん、今日も柔らかい!
あとはスカートを履く、これ生地が結構薄いんだよなあ。下半身が足元が心もとない。
まあ涼しそうでいいけど
今日は4月後半にしては少しは肌寒い気がするためパーカーで大丈夫そうだ。
パーカーも着てフル装備になった俺は鏡の前に立つ。
お、おお。絵になるなあ。
俺はクルクルと回りながら鏡に映る自分の姿を見る。
「かわいいじゃん岬」
「えっ!なんでお姉ちゃん俺が女になってから勝手に入ってくるんだよ!」
「いいじゃんいいじゃん同性なんだからさ~」
「心は男だし…」
見た目が女の子だというのは分かっているが、こんな風にスカートを履いていたり女の子っぽい恰好をしているのを見られると流石に恥ずかしい。
お姉ちゃんはロングスカートにボーダーシャツ、その上に薄手のデニムジャケットを着ている。
「本当は車で一緒に行くつもりだったんだけど、今日研究室のミーティングなの忘れててさ」
「そうなんだ。俺は大丈夫だから頑張ってね」
「はあ~可愛い!なんて健気なの!」
わあ!お姉ちゃんが抱きしめてくる。
身長が低いから顔が胸にうずまる。なんか傍から見たら姉妹に見えそうだ。
今は姉妹なのか?いや、考えるのはよそう…。
俺はお姉ちゃんの元から離れて部屋の壁にかかっているショルダーバッグを取る。
これは俺が男の時から使っているよくあるスポーツブランドのものだ。
中に財布とティッシュ、それにタオルを入れる。スマホはポケットでいいだろう。
「岬、こっち向いて動かないで」
「え?」
そう言ったお姉ちゃんのほうを向くと白い液体を顔に塗りたくってきた。
「日焼け止めだよ。長袖だから首から上と足だけ塗っておくね」
「ありがとう、女の子って大変だね」
「日焼けしたらお肌荒れちゃうからね~」
男の時は日焼け止めなんてしたことなかった。
サッカー部では日焼けは勲章みたいなもんだったし、そもそも肌の黒さなんて気にしていなかったからだ。
でも今はせっかくこんなに肌が白いんだし、あと元の肌が白すぎて焼けた時痛そうだからちゃんと自分でも日焼け止めしようかな。
「よし完成!」
「ありがとう、じゃあ行ってくるね」
「うん!気を付けてね。行ってらっしゃい」
俺はお姉ちゃんに送り出されて部屋をでて階段を下りる。
なんか股間がスースーする。
あ、試しで履いただけなのにそのままスカートで来ちゃったじゃん。
でも行ってきますと言った手前もう戻りづらいし…。
もうなるようになれ!どうせどこの高校に行くにしたっていつかはスカート履かなきゃいけないんだし!
そう考えると中高生ってこんなスースーするのを毎日履いてすごいなあ。
一歩踏み出すだけで風がスカートの中に入り、太ももをくすぐってくる。
うーん慣れない。
俺は何とか玄関にたどり着き、お姉ちゃんが使っていいと言っていたスニーカーを履く。
足のサイズが同じなのが幸いだったな。それにしても結構身長違うのに足のサイズ同じってなんか面白いな。
そういえばこの体になって初めて一人行動か。緊張というかなんか不安だな。
まあでも風が気持ちいし、女の子生活二日目頑張ろう。
更新が遅くなって申し訳ないです。
書き溜めがなくなったのとリアルの都合でこれから少し更新が遅くなるかもしれませんが、必ず書ききりたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
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