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11話 お姉ちゃんと俺3

 ダイニングにやってくると、美味しそうなお肉の匂いが鼻腔を満たすのを感じる。

正面にダイニング、左手には誰もいないリビング、右手のキッチンでは母さんが料理をしていた。


「あら2人でお風呂入ってたの?」

「い、いや。時間差で」

「岬なんでうそつくのー!一緒に入って洗ってあげたじゃん!」

「ちょっ言わないでよ!」


 なんでこんな平然と一緒に入ったって言えるんだー!

体はもちろん下半身まで洗われたなんて母さん知られたら流石に恥ずかしい。


「そうなの。仲がいいわね。今日は岬の退院祝いであなたが好きなハンバーグよ」

「ハンバーグ!?やったー!」


 ハンバーグは俺の一番の大好物だ。

周りからは小学生っぽいと何度も言われるが、それでもハンバーグが一番なのだ。

 ガチャリ

玄関の扉が開くのが聞こえた。

これは父さんだな。

父さんはダイニングの扉を開けて入ってきた。


「ただいま」

「あなた、おかえり」

「おかえり〜」

「おかえり父さん」


 俺たちが返事をすると満足そうに頷き、ダイニングを出て自分の部屋に入っていった。

父さんは無口とは言わないけど、あまり多くを語らない人だ。

正直俺が女の子になったこともどんな風に受け止めているかわからない。

せっかく男に育ててやったのにと持っているかもしれないし、意外にも順応しているかもしれない。

 いや、後者は父さんの性格的になさそうだ。

父さんと今後がかなり不安ではあるけども、もう戻れないのも事実なわけで。

俺から話しかけにいくべきなのか、むしろ時間を置いて慣れてもらうべきなのか。


「春澄、岬。ご飯運んでくれる?」

「いいよ〜」

「うん」


 俺はお姉ちゃんと共にキッチンに入る。

目の前には大きなハンバーグがあり、母さんはお米をお茶碗によそっている。


「ハンバーグとスープ運んじゃって」


 俺たちは言われた通りにハンバーグとスープをそれぞれ取ってダイニングに運ぶ。

お姉ちゃんは座ってしまったが、俺はもう一度キッチンに戻ってお米をよそいに行った。

そこ父さんがもう一度ダイニングに入ってきた。

ワイシャツだけ脱いで中のTシャツ一枚とズボンだけの状態になっている。

俺はお米をテーブルに置くと、お姉ちゃんの隣に座った。

母さんと父さんも俺たちの正面に並んで座る。


「「いただきます」」


 全員で手を合わせてからご飯に手をつける。

待った、このハンバーグかなりでかくないか?

お姉ちゃんのより一回りでかくて、父さんと同じサイズだ。

病院で食べた昼ごはんの量でも食べきれなかったのに、このサイズは絶対食べきれない。

 でも食べきれないとせっかく作ってくれた母さんに申し訳ない。

とりあえず食べれるところまで食べて、休憩しながら完食を目指そう。


「そうだ春澄、留学はどうだった?楽しかったか?」

「いや、岬もあんな状態だったから楽しいことはしてないよ。元々向こうの大学の人たちとの共同研究で行っただけだし」

「そうか」


 お姉ちゃんが素っ気なく返すと、父さんもそれ以上は何も言わなかった。

なんでそういう返事するの!?もっと仲良くしようよ!

ほら父さん下向いちゃったよ!?

留学行かせてもらったんだし。

 いや違うか。お姉ちゃんは大学で首席合格を果たし、学費はもちろん月ごとに支援金ももらっているためバイトもしてないのに結構お金を持っている。

留学も研究がうんたらで無料で行けるって言ってたな。

 うーんでももうちょっと仲良くして欲しいなあ。

俺がいない間に喧嘩でもしたのかな…。

俺が女の子になる前はご飯の時間は家族団欒の時間で、普段多くを語らない父さんも、この時間だけは楽しそうな顔をして話していたのを覚えている。

もしかして俺が女の子になったから?俺が家族の団欒を引き裂いているのかな?


「岬?どうしたの?」

「え?あーいやなんでもない」


 俺が考えを巡らせていると、お姉ちゃんがこちらを覗いてそう言ってきた。

そういえばダイニングのテーブルは少し高めでちょうど胸の高さにあるため、病院みたいにご飯粒がつくような事態には陥っていない。

お姉ちゃんも胸は大きいが、慣れているためかスープをこぼしたりはしていない。


「岬、髪切るって言ってたけどどのくらい切るの?結構短くする感じ?」

「うーん特に決めてなかったなあ。でもこの長さだと勉強とか運動する時とか邪魔そう」

「せっかく伸びたんだから勿体無いよ〜。邪魔なのは結べば全然気にならなくなるし、あとで結び方教えてあげるよ」

「ありがとうお姉ちゃん。お願いするね」


 そうか縛るっていう方法もあるのか。

ふと父さんの方を見ると、今の会話を聞いていたからなのか俺の方を難しい顔をして見ていた。

俺と目が合うと逸らしてしまったが、今のは明らかに怒っていた。

やっぱり父さんは認めてくれないんだな。

 でも俺は俺だ。もう二度と男に戻ることもできないし、女の子らしく振る舞わなくちゃいけないこともこの先必ず出てくる。

今日買った服を父さんの前で着たら家追い出されそうだな。


「岬、もう食べられないのか?」

「えっと…」


 俺がお腹いっぱいになってハンバーグを食べるのを躊躇していたら、父さんがこちらを見てそう言ってきた。


「ごめんなさい、昔と同じ大きさで作っちゃったけど、今の岬にはきついわよね」

「ううん、俺こそごめん…」

「食べられないのか」


 母さんは悪くもないのに謝ってくれたが、父さんはこちらを黙って見つめてそう言った。

これはかなり怒っている。食べるしかないか。

ふとお姉ちゃんを見ると、父さんをめっちゃ睨んでいた。

幸い父さんは気づかず俺の方を見たままだ。

俺のためにそうやって怒ってくれるのは嬉しいけど、怖いよお姉ちゃん…。


「岬、父さんが食べるからよこしなさい」

「えっ」


 父さんはそう言うと、俺の食べかけのハンバーグを自分の箸で掴み、美味しそうに平らげてしまった。

以前なら食べ残しをしようものなら、母さんに失礼だろ!って言ってすごい剣幕で怒っていたのに。

どういう事なんだろう。

これにはお姉ちゃんも睨むのをやめてびっくりした顔をしている。


「あ、ありがとう」

「ああ」


 父さんからの返事は短いものではあったが、食べてくれたのは本当に助かった。

病院食ですら全部食べれなかった俺に特大ハンバーグはキツすぎた。



「岬、お姉ちゃんの部屋行こ」

「うん。ちょっと待ってコーラだけ持ってく。お姉ちゃんは何飲む?」

「私はほら酔い持ったから大丈夫」


 お酒か。母さんがコーラを買って冷蔵庫の中に入れてくれていたようで助かった。

食器を片付けてコーラを持った俺は、お姉ちゃんに言われるままに一緒に階段を登る。

 お姉ちゃんの部屋に入ると、右側にPCが置いてある机があり、左側にはベッド、そしてドレッサーなどがある。

実に女の子っぽい部屋だ。俺の部屋とは大違い。

全体的に薄ピンク色で整えられており、ドレッサーには化粧品がずらりと並んでいる。

机にはPCのモニターや高そうなゲーミングキーボードに高そうなマイクが置かれているのを見ると、さすが実況者だなと思う。

俺もまたお金を貯めて良い環境を作りたい。

 お姉ちゃんが机にお酒を置いてドレッサーの前に座ってごそごそと何かを探しているため、俺も机にコーラを置いて。ドレッサーに近づいた。


「それじゃあお姉ちゃんが髪の結び方を教えてあげよう!」

「おぉ〜!」

「と言っても普通に結ぶだけならめっちゃ簡単だから安心して」


 意外と簡単なんだ。

俺はかなり手先が不器用な方だと自負しているため、それはかなり助かる。

料理もしたことがないし、作れるのはカップラーメンくらいだ。

お姉ちゃんは俺をドレッサーの前にある小さな椅子に座らせると、俺の髪を後ろから掬い上げ、後ろのほうに集めていく。


「まずはこうやって髪を前から持ってきまず。って岬本当に髪サラサラだね〜。何もしてないのに羨ましい」


 お姉ちゃんは俺の髪の毛をいじりながらそう言う。

確かに何もしてないのにすごいサラサラだ。

でもこういうのってちゃんと手入れをしてあげないとすぐガサガサになっちゃいそうだからちゃんとしないと。


「この時前髪は少し残してあげます。今の岬の髪は伸びっぱなしの状態で、切り揃えられてるわけじゃないから綺麗にはいかないけど我慢してね。そして後ろの束をこのゴムで結んだら完成!」

「おぉ!これがポニーテールってやつか」

「いやポニテって程じゃないよ。岬の髪の長さじゃ厳しいしね。とりあえず毛先結んだだけだよ」


 ポニーテールじゃなかったのか。

期待していた自分がいることが少し恥ずかしい。

ショートカットのバスケ部の女子とかが、部活の時だけ結んでいるような感じにも見える。

 顔を左右に振ってみる。

前髪が少し長いのが邪魔だが、後ろの方の髪は結ばれているため一切邪魔をしてこない。

これはいいぞ!明日か明後日あたりにボールでも触りに行こう。


これで一応お姉ちゃん編は終わりです。

この後もお姉ちゃんが出てくる回はありますが、入学までは余り出番はなくなります。


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[良い点] 学校編楽しみにしてます!!
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