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9話 お姉ちゃんと俺

「はーい。何―?」

「岬…」

「お姉…ちゃん…」


 扉を開けると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたお姉ちゃんが立っていた。

相当泣いていたのだろう、目元は少し腫れ上がり袖には滲みができていた。


「お姉ちゃん?」

「ごめん…なさい…。私、あんなこと言うつもりじゃなくて。本当にごめんなさい」


 泣きながら謝ると、お姉ちゃんは急に抱き締めてきた。

以前から抱きしめられることはあったが、お姉ちゃんの顔が俺の胸あたりにくるというのが普通だった。

しかし、女の子になって身長が縮んだ今では、逆に俺の顔がお姉ちゃんの胸に埋まってしまっている。


「お姉ちゃん、俺は大丈夫だから泣かないで」

「ごめんなさい。岬が女の子になったって聞いて、岬がどこか遠く行ってしまったような気持ちになちゃってそれで…。一番大変なのは岬なのに。本当は岬が生きていてくれてすごく嬉しかったの。それなのにあんなに酷いことを言うなんて私...」

「大丈夫だよ。その言葉が聞けて俺は嬉しいよ」

「本当は入院したって聞いてすぐに帰りたかったんだけど、留学先の手続きの関係で中々帰れなくて…。この3ヶ月間ずっと辛かった」


 お姉ちゃんのことを誤解していた自分に少し嫌悪する。

こんなに泣き腫らして。

お姉ちゃんはずっと俺のことを思ってくれていたんだな。

女の子になってからかなりネガティブになっているのもあるけど、もう少しお姉ちゃんを信じるべきだったな。


「お姉ちゃん、ありがとう」

「え?私ひどいこと言ったんだよ?」

「まあ確かにあれは結構傷ついたね。ちょっとトラウマものだった」

「うう…。ごめん…なさい…」

「ああー!待って泣かないで!でもお姉ちゃんの本音を聞けてすごく安心したし、嬉しかったんだよ」

「本当…?」

「うん。本当」


 もらい泣きしそうだけど、自分以外が泣いているのを見ると案外頭は冷静になって涙は出ないもんだな。

今日は泣きすぎて自己嫌悪がすごいからその方が助かる。

こんなに泣いているお姉ちゃんを見ると、少しいじわるしたくなる気持ちが出てきたが、流石にやめておく。

 お姉ちゃんは俺の目を見つめると、再び口を開いた。


「ありがとう。岬は女の子になっても岬だね。でもこんなに可愛くなっちゃうとは」

「ああっちょっと!」


 お姉ちゃんが俺を抱きしめる強さがさらに強くなり、頭を撫でてくる。

力は確かに強いけど、苦しいのはそこじゃない。

俺は今おっぱいに挟まれているのだ。

こんなアニメみたいなことが本当にあるのかと思っていたが、ここにあった。


「お姉ちゃん苦しいよ!」

「あっごめんね、つい。本当に可愛いなあ。よしよし」

「この身長差で撫でられると子供扱いされてるみたいなんだけど…」

「前は岬が座ってる時とかじゃないと出来なかったからね〜」


 そう言うとお姉ちゃんは撫で続けてきた。

まあでも悪い気はしないし、こうやって前みたいに接してくれるのは素直に嬉しい。

 ひとしきり撫でたお姉ちゃんをベッドに誘導し、2人で端っこに腰掛ける。

俺はいつものようにサメのぬいぐるみを抱く。


「その姿でぬいぐるみ抱いてると本当にかわいいね岬ちゃん」

「か、かわいくないし!ちゃんは恥ずかしい...」


 俺はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

まだ面と向かってかわいいと言われるとかなり恥ずかしくなってしまう。

 俺が恥ずかしがっていると、お姉ちゃんは少し真面目そうな顔をした。


「そうだ、岬は体の調子悪かったりしない?」

「うん。まだ違和感は色々あるけど普通に歩けるし、さっきもゲームしてたくらいには健康だよ」

「良かった。それにしても岬、おっぱい大きいね」


 お姉ちゃん!?真面目そうな顔はどこへやら。

母さんに続きお姉ちゃんまで同じようなこと言ってくるなんて...。

それほど目を引くということなんだろうか。

恥ずかしいけど、なぜか少し誇らしい気持ちになる。

母さんにも言ったのと同じように、ホルモンバランスがうんたらかんたーらという説明をした。

その辺の話は大学で生物の研究をしているお姉ちゃんの方が詳しいだろう。


「ホルモンバランスかあ…。TS病はまだわからないことが多いからね。私と同じくらいかな?えいっ」

「わひゃあっ!」

「おお!柔らかい!」

「ちょ、お姉ちゃん揉まないでよっ」


 お姉ちゃんがいきなり胸を後ろから鷲掴みにしてきたため、変な声を出してしまった。

俺の抵抗虚しくもみもみされてしまう。

なんか変な気分になっちゃいそうなので、体をよじって抜け出す。


「もうだめっ!」

「あれれー岬ちゃん顔が赤いですよー?」


 そう言ってお姉ちゃんはからかうよな表情をする。

むむむ。さっきまでずっと泣いてたくせにー。

俺だってまだ自分の胸を思いっきり揉みしだいていないのに!

ファーストおっぱいを奪われた…。

 まあ自分のなんだから誰もいない時にばれないように揉めばいいや。

ニヤニヤししたお姉ちゃんが俺の体をまじまじ見てくる。


「ふむふむ。身長は私の方が高いけど私の服はオーバーサイズで着ればいけそうだね」

「女の子のことは服も含めて全然わからないから色々教えてくれると嬉しいな」

「そうだよね。それじゃあ女の子の大先輩であるお姉ちゃんに任せなさい!」

「おぉ〜。頼もしいです先輩!」


 良かった。

病院はすぐに退院したせいであんまり説明もなかったから、色々教えてもらえるのはかなり助かる。

お姉ちゃんはおもむろに立ち上がり、開けっ放しのクローゼットの前に立った。


「服買ったって言ってたけど、スカートこの掛け方はなくない!?伸びちゃうよ!?」

「えーいや分からなかったんだよー」


 お姉ちゃんは三角形のハンガーに無理矢理被せるように掛けてあるスカートを指さしてそう言う。

まあ確かに見た感じ違和感ありまくりの掛け方ではあるけどもさ。

お姉ちゃんは俺の部屋の扉を開けてこちらを振り返る。


「私のハンガーあげるから岬はこの変な掛け方したスカート外してて」


 変な掛け方って…。

俺は泣く泣くスカートを外していく。

 今気づいたけどお姉ちゃんにスカート買ったのばれちゃったの恥ずかしい…。

でもお姉ちゃんならそれでも受け入れてくれそうだ。

服も共有したいって言ってたしそこは大丈夫か。


「はいこれ!これでスカートの端を留めて」

「なにこれお店にあるズボンかけるやつみたい」


 お姉ちゃんが俺に渡してきたハンガーは、棒のようなハンガーの両サイドにクリップが付いたものだった。

俺はスカートを再びクローゼットにかけた。


「岬ー。こっちの袋は開けないのー?」

「待ってそれは開けないで!ってもう開けてるし!」

「なーんだ下着ね。ふむふむ。岬ちゃんはこういうのが好みなんだ〜」

「ち、違うよ!恥ずかしくなさそうなやつをお母さんと店員さんが選んでくれただけ!」


俺の静止も聞かずにどんどん袋から下着を出していく。

あとでしまおうとは思ってたけど、まさかお姉ちゃんに見つかってしまうとは。

まあいいやタンスに入れちゃおう。


「ナイトブラも買ったんだ」

「あー母さんが寝る時それつけなさいって2枚だけ買ってくれたやつだ」

「さすがお母さんだね。普通のはこういう風にワイヤーが入ってて寝る時は苦しいから、ワイヤーの入ってないナイトブラで寝るんだよ」

「そういう理由でだったんだ。女の子は大変だなあ」

「まあ寝る時はつけない子とか、普通のブラつけたままで寝る子も結構いるんだけどね。でも岬は大きいから付けないっていうのは絶対ダメだからね!」

「わ、わかってるよ。垂れるのは俺も嫌だし」


お風呂入る時はこのナイトブラっていうのを持っていかないとだな。

そういえばお風呂入るところだったんだ。


「お姉ちゃんお風呂入った?今入らないなら先入っちゃうけど」

「まだだよ。ちょうどいいし一緒に入ろっか!」

「いやいや!お姉ちゃん俺に見られてもいいの!?」

「私は気にしないよー?岬が小学生のときは一緒に入ってたじゃーん」

「あれは小学生だからだよ!今一緒に入ったら問題だよ!」


 小学生の時は俺もよくわかってなかったし、お姉ちゃんが入ろうっていつも言ってくるから何も考えず入っていた。

でも今は俺も高校生で、お姉ちゃんに至っては大学生だ。

流石にこの年の、それも恋人同士でもない男女が一緒にお風呂に入るというのはだめだろう。

 それに裸のお姉ちゃんを見た時に俺が平常心でいられるわけない。

うん。自分の制欲は自分がよくわかっている。


「女の子同士なんだから何も問題はないよ!」

「い、いやまあ見た目的にはそうだけどさ」

「それに真面目な話、下とかは丁寧にしっかり洗わないと炎症になったり、感染症になったりもするから大変だよ?1人でできるの?」


 下…。感染症…。

怖い怖すぎる。

女の子大変すぎやしないかい??

一緒に入るのは恥ずかしいしけど、お姉ちゃんがいいって言ってるし…。

むーー。


「わ、わかったよ。一緒に入るよ」

「そうこなくっちゃ!じゃあ着替え持ってお風呂集合ね!」


 お姉ちゃんはそう言うと足早に部屋に向かってしまった。

恥ずかしいけど、お姉ちゃんの裸が見れるのか…。

いやだめだ!流石にこの感情は不純すぎる!

自分を律しろ岬!欲に惑わされるな!!

………。

………。

 まあでもどうせ視界に入っちゃうだろうし、見れるなら見れるだけ…ね?


今回はお姉ちゃんとの仲直り回でしたね。

次回は内容の都合上、2話連続での投稿となります。


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