8話 ゲームでの出会い
Bpexは最近流行りのバトルロワイヤルゲームで、3人でチームを組み30チームの中から1位を目指すのが目的のゲームだ。
キャラを選択してマッチングボタンを押す。
俺のお気に入りはスキルを使ったワープができるキャラクターで、防御力は低いがキャラクター自体が小さいため弾が当たりにくいのが長所だ。
3人揃うとゲームが始まった。
しばらくすると、ゲーム内のボイスチャットから声が聞こえた。
「よろしくお願いしまーす!」
「よろです」
1人はお調子者のキャラを使っていて本人もテンション高く挨拶をしてきた”パイナップル8”さんという人で、もう1人はチームの盾役になるキャラを使っている”ハルマキ”さんという人だった。
このゲームではゲーム内で知らない人ともコミュニケーションが取れる。
あまり多くはないが、今回のように始まった瞬間に挨拶をしてくる人もいる。
「久しぶりなのでミスが多くなっちゃうかもしれませんが、よろしくお願いします」
俺はボイスチャットをオンにしてイヤホンマイクに向かって挨拶をした。
「うぇー!?めっちゃ声可愛い!”超ロリコンおじさん”ちゃんって女の子なの!?やばい名前のおっさん入ってきたと思ったのに!」
あっやば。
クラスの奴らとやった1対1勝負の罰ゲームで変な名前にさせられてたんだった。
そっか俺もう女の子なんだよな。
確かにこんな名前で女の子だったらびっくりだわ。
男でもびっくりだが…。
「あ、えっと、友達との罰ゲームで…すみません…」
「罰ゲームなんだ!いいのいいの!じゃあ”ロリ”ちゃんって呼んでいい!?」
ロ、ロリちゃん!?!?
なんでそこだけとった?
でも本名言うのは嫌だし、どうせこの試合終わったらもう会わないだろうからいいか….?
そもそもロリじゃないし今年の9月で17歳のHカップぞ?
断じてロリではない!
「パイナップル氏それは犯罪ですぞ。だが僕も呼ばせてもらう!」
「もうなんでもいいです」
なんでハルマキさんも乗り気なの!?
俺は諦めてロリちゃん呼びを受け入れることにした。
「やった!じゃあここ降りよっか!」
パイナップルさんがマップ上の建物に旗マークのアイコンを置くと、そこに向かって飛んでいった。
このゲームは開始すると輸送機のようなものに乗せられて、好きな場所にジャンプして降りる。
そして随所にある武器や物資を拾って最後の生き残りになるまで戦い続けるのだ。
「いやーしっかし名前の破壊力強いよなあ」
パイナップルさんが笑いながら言った。
「確かに危ない臭いのする名前ですな」
「お二人も面白い名前だと思いますけどね。パイナップルさん長いんでパイさんにします」
「パイさんってなんだよ!まあでもこんなに声が可愛い子にあだ名をつけてもらえるなら本望!」
えーなんか喜んじゃったよ。
適当に変な名前にしてやろうと思っただけなのに。
輸送機から降りて目的地についた俺たちはパラシュートを広げて地面に着地した。
うおおおEキー連打だー!!
このゲームでは最初に武器を持っているかでかなり生存率が変わるため、降りた直後は連打して武器を拾うのが基本だ。
「2人とも回復ある?」
「僕は4つあるから大丈夫ですな」
「俺は1つしかないです」
「俺?ロリちゃん名前すごいし一人称”俺”だしインパクト強いね!」
やばっ!まだ練習不足だから咄嗟に”私”が出てこない…。
どうしよう何かい言い訳しないと!
「ち、違います!さ、さっきお父さんとずっと話してて移っただけです!”私”は回復1つだけです!」
「お父さんから移るものなのか…?まあいいや!ロリちゃん回復あげるからこっちおいで〜」
危なかった…。
この人があんまり詮索しない人でよかった。
まあ別に知らない人だから変に思われてもいいし、TS病自体なかなかいない病気だからばれることはないだろうけどさ。
俺はキーボードを操作してパイさんの元に向かう。
「ありがとうございます」
「いいよいいよ!俺、人と話すのが好きでいつもBpexでボイチャ使ってるけど女の子ってレアだよね。最近増えてるとはいえまだまだ男の方が多いもん」
「確かに少ないかもですね。でも最近だと女の人のゲーム実況者とかも増えてますよね」
そもそも俺がこのゲームを始めたのが現役のゲーム実況者であるお姉ちゃんの影響なので、俺の中で実況者というのがかなり身近な存在になっている。
「僕が始めたのもvtuberの影響でござるから増えてきてはいるのであろうなあ」
ハルマキさん喋り方ブレブレすぎだろ。
これはあれか?話に聞く古のオタクというやつか?
話をしていると、遠くの方で人影が動くのが見えた。
「東の建物に1人います!まだこっちには気づいてないっぽいです」
「あー見えた。他とやり合ってるね」
持っている武器のスコープで覗くと、人影が見えた建物の近くで複数人が銃で撃ち合っているのが見えた。
パイさんも自分の武器のスコープでそちらを覗いているようだ。
「これは漁夫っちゃおうか」
「じゃあ俺、あっいや私は左から回りますね。パイさんとハルマキさんは正面から引きつけてもらえますか?」
「うほーっ!美少女指揮官キタコレー!パイナップル氏いくでござるよ!」
「おう!」
「いや、顔見たことないでしょ….」
まあ外見は美少女ではあるけどもさ。
しかしハルマキさんの口調が古のオタクすぎてアニメでも見てる気分になってくる。
パイさんが言った漁夫るとは漁夫の利の略で、バトルロワイヤルゲームでは複数の敵が攻撃しあって弱ったところを一方的に攻撃することを指す。
正面から突撃してくれた2人の動きを見つつ、俺は宣言通り左から回り込んで後ろをとる。
前方に2人いる。
1チーム3人なのでもう1人のいる居場所を探す。
いた。
扉の前で倒れている。
2人しかいない今がチャンスだと思い、敵の後ろから突撃する。
「残り2人だけです!挟んじゃいましょう!」
俺が声をかけると2人も反対側から突撃し、敵2人を挟み込む。
俺は左の敵をアサルトライフルで倒すと、スナイパーライフルに切り替えて右の敵に1発打ち込む。
このスナイパーライフルは近距離でも当てやすいため、個人的に近接戦闘ではショットガンみたいに使っている。
さらにパイさんとハルマキさんがアサルトライフルでめったうちにして最後の1人も倒れた。
「やった!」
「いやーロリちゃんうますぎ!?これで久しぶりかよー!俺らなんもしてないじゃーん」
「近距離でスナイパーを使うとは…。美少女指揮官はやはりちがうな」
いやべつに指揮官ではないし、指揮官ならスナイパー持って前線で戦闘とかしないだろ。
なんて思いつつ倒した敵から武器や弾薬を奪っていく。
ふと気分を現実世界に戻すと、廊下を歩く音が聞こえた。
お姉ちゃんか。今は会いたくないなあ。
なんて考えていると扉が開閉する音が聞こえたため、どうやら部屋に戻っていったようだ。
再びゲーム画面に意識を集中させる。
「そろそろ動かないとヤバそうだな」
「そうですね。出来れば中央の塔に行きたいですね」
このゲームは参加者が戦わずに終始隠れているということを防ぐために、戦場が時間経過で小さくなっていくというシステムを採用している。
俺はマップ上の塔の場所に旗アイコンを設定した。
「あれれ、俺らが武器集めてる間にもう3チームになってる!?」
「えっ流石に減るの早すぎますね」
「かなりの人数が同じ場所に集まったのでしょうな」
経過時間的にまだ10チームはいてもおかしくない。
ただ、敵が少ないのはそれだけ勝利も近いということなので気を引き締める。
◇
「おつかれー!1位いただきましたー!」
「やりましたね!」
「これは美少女指揮官のおかげですなあ!」
まさか1位で勝ってしまうとは。
俺もかなり敵にダメージは与えていたが、この2人の動きも無駄がなく、良いチームと言えるだろう。
ロリちゃんとか美少女指揮官とか言われることを除けばいい人たちだし。
「2人とも何かの縁ってことでフレンド登録いいっすかー?」
「拙者は大関係でござるよ」
「私もいいですよ」
おお!今自然に”私”って言えたぞ!
手放しで喜んでいいのかは微妙だけども。
画面右上にフレンド申請が届き、俺はそれを承認した。
このゲームはフレンド登録をすると、招待を送って同じチームでプレイすることができるだけでなく、専用のスマホアプリを入れることでLIMEのようなメッセージ機能まで使えたりする。
時計を見ると午後6時を回っていた。
そろそろお風呂に入るか。
「お疲れ様でした。今日はここで落ちます」
「お疲れー!また一緒に遊ぼうね!」
「指揮官殿!お疲れ様でした!」
まったく。賑やかな人たちだな。
でも、後ろ向きになっていた俺の心には十分すぎるくらいに暖かく感じた。
PCからログアウトして席を立つ。
コンコン
ん?誰だろう。父さんが帰ってきたのかな。
今回はゲームしてるだけです(笑)
キャラの濃い2人は今後も登場するので、覚えてやってください。
思ったより進行が遅いため、学校編は15、6話くらいからとなりそうです。
学園生活を期待していた方は申し訳ありませんが、もう少しお待ちください。
家での日常より学校を優先して欲しいなど、他にも何か要望がありましたらお気軽にお知らせください。
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