何が英雄よ!
アルバレス領の領都は廃墟が立ち並んでいた。 どれも七歳のころと変わっていない。 七歳の時に見ていた燃え盛る街と何一つ変わらない。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
「そう」
アリシアさんは興味なさそうにしているけど、私の声と表情で大丈夫なのを確認していた。
ここを見ているとあの炎に燃える街並みをどうしても思い出してしまうけど今の私にはなぜか懐かしい思い出のように感じられてしまう。
「こっちよ」
アリシアさんは、馬車を手ごろな空き地に止めて、ちょうど未踏破領域が生まれた場所の裏手に当たる場所へと歩き始めた。 迷宮となった未踏破領域ではモンスピートがおこることはない。 だから、舗装もされていない迷宮の横を通り過ぎて少し登る丘の上には一本の大きな木があった。 ここは、子どもの時近づいたらダメと言われた場所だった。 そこに、墓石のような石が二つ、そして、その石の上に乗るフードを被った男が一人空見上げていた。
「何者!」
アリシアさんが自身の剣に手を当てていつでも抜刀できるようになっていた。
その声でこちらに気付いた男は石から降りて道化じみたお辞儀をした。
「初めまして、僕は魔王軍幹部ガビュード、そちらのお二方はいつぞや以来ですね」
ニコニコと気味の悪い笑みを浮かべながらそう言った。 確かに私とアオイは学園で出会った。 だから知っている。
「おやおやぁ! あなたは! 『剣姫』アリシア・シーカー・アテナ様ではございませんか!」
そう、英雄好き。 コンちゃんの時も……ってあれ? なんでこの人コンちゃんが『賢者』グレンだとわかったの?
もう、半年ほど経った今、たった一つの疑問が一つ生まれた。 そして、私がその言葉を紡ぐ前にアリシアさんが一歩で相手の目の前まで踏み込んでいた。
「セイッ!」
「おっと」
気合の入った声と気の抜けた声が交差した。
勢いの乗った一撃がガビュードののど元を切り裂くはずだった。 だが、ガビュードは首元にきた刃を人差し指と親指で刃を掴んでいた。 それはどこか幻想的で信じられないものだった。
誰かが夢だと笑ってくれればよかった。 でも、誰もそう言わない事から嫌でも現実なのだと理解できた。
「何者だ! 魔王幹部なのか!? 何故! お前は、カルディ以上に強い!」
アリシアさんもどこか慌てているように感じられるほどに早口でまくし立てていた。 それでも、アリシアさんは剣を引こうとするが剣はピクリとも動くことはなかった。
「ええ! 僕は魔王幹部ですよ! 僕は、あなたたちのような英雄に会うために幹部になったのですから!」
ふざけているように言っているけど、アリシアさんとガビュードの間には入ることができないほどに高度な戦いを繰り広げている。
アオイは目で追い切れているみたいだけど、ユイさんとユウキ様は追い切れていない。 私はギリギリ目で追えるぐらいだった。
「何が、何が英雄よ! あいつにとってはただの戒めに過ぎないのよ!」
「ええ、知っていますよ」
今何と言ったか、声が聞こえはしていたけれども意味を持って聞こえはしなかった。
私はその言葉をアリシアさんとの会話として処理した。
アリシアさんとガビュードの戦いはあっけない幕切れだった。
ガビュードがアリシアさんの刺突をかわした時に墓石のような石にぶつかってしまいアリシアさんのに二撃目をかわすことが出来ずにアリシアさんの横薙ぎが左わき腹から右の肩口までを両断した。 切られた身体は宙をクルクルと舞い丘の下へと落ちた。 宙を舞っているときガビュードがとても楽しそうといった笑みから驚愕に変わっていくのが見て分かった。
「は、はははは!! ああ、まさか! あなたに殺されることになるとは!」
ガビュードは自身の血を吐き出しながら豪快に笑った。
「君たちはまだ舞台に立ったばかりだ! これからが楽しい、楽しい幕劇が始まる! アハハハハ!」
そう笑いながらガビュードは死んだ。 誰が見ても死んでいると分かるほどだった。 そこに、ビュッとひときわ強い風が吹き、ガビュードの素顔があらわになった。 そこには病的なまでに白い肌にプラチナブロンドの髪、瞳はもう死んでいるため開いてはいなかった。
アリシアさんはガビュードを一度だけ見ると鼻をフンっと鳴らして踵を返した。
アリシアさんは自身の剣についた血糊を振り払い馬車に向かって歩き出した。 私もアオイもあの石が何なのか知りたかったが、ガビュードの血で何が書いてあったのかわからなくなっていた。
「あ、アリシアさん。 あの石はなんだったのですか?」
私は丘をゆっくり下っていくアリシアさんにそう聞いた。
「あれは、哲哉とその奥さんの墓よ。 あんたたちに見てもらおうと思ってたけどとんだ邪魔が入ったものね」
そう言ったアリシアさんは少し苛立っているようにも見えた。 だけど、その場にいた四人全員が黙り込んでしまった。 アリシアさんから湧き上がっている殺気に当てられて。
それからは静かなものだった。 馬車に乗っても誰一人としてしゃべることなく黙々と目的地に着くことを願っていた。 私とアオイは己の力不足に押し黙ってしまっていた。




