火力不足か!
『蒼立て! 立って湖まで走れ!』
「む、むりぃ……あ、足が動いてくれない……」
クソ! これが初めての恐怖ってか。 圧倒的強者の前に跪くのが限界ってか? 許さねぇよ、俺の目の前で死ぬのはよ!
『ロゼ! 精神的負荷が大きいがとある魔術をお前に使う! それで、蒼を抱えて走ってくれ!』
「わかった!」
俺の指示に従って、蒼の近くに駆け寄った。
『付加術身体強化! 走れ! 湖まで!』
ロゼは一瞬悲痛の表情を浮かべたが、すぐに蒼を抱き抱え、湖まで走り出した。
『湖まで逃げ切れよ……。 殿は俺の務める。 来いよ、魔牛。 丸焼きにしてやるから』
「ヴゥゥモォォォ!!」
『うっさ。 『水鏡』と『付加術』は意味がない。 俺に巨魔獣兵器の攻撃を反射させるほどの魔力は今はないからな』
こういう時は、この地形を生かして戦わないと、絶対に勝てない。
俺は、周囲に目を走らせ、どう戦うかの戦術を立てた。
『来い! 魔牛!』
「ヴゥモォォォ!」
電磁砲を使わないただの突進。 されど突進。 防ぐすべを持たない俺は、ただの的。 多少すばしっこいだけの的である。
俺は、とある魔法を使って、あるものを作り出して左の木に回避した。
『ほれほれ! こっちだ、こっち!』
「ヴゥゥゥ!」
少しずつだが、巨魔獣兵器はイラついてきている。 すぐに仕留めきれるはずだった的が、ちょこまかちょこまかと木々の間を抜けながら避けられているのだから、イラついてもしょうがないだろう。
『ハァハァ、おいおい。 どうした? もう終わりか?』
「ブモォ?」
『何故当たらない、って感じか? 魔物考えていることなんて分からねぇがお前の考えていることは手に取るようにわかるよ、単純だからな……』
「ヴゥゥモォォォ!!!」
単純だが、先ほどよりも早い突進がこちらに襲いかかってくるが、もう回避する必要はない。 準備が全て整ったのだから。
「ヴゥ?」
ビタッと、俺の目の前で止まった巨魔獣兵器は、何故止まったか不思議そうに声を上げた。
『俺がただ単にお前の突進を躱していただけだとでも思ってたのかよ。 俺はお前の攻撃を躱しながら罠を張ってたのさ。 この瞬間のために』
俺は、クイッと、口に咥えている一本の細い線を引いた。
『引っ張れば、お前の体を締め付ける。 動かない方が得策だぜ。 自分の体が木っ端微塵になりたくなかったらな』
そう言って、俺は口から線を離した。
『すまんロゼ。 お前の魔力を使わせてもらう』
何と無くだが、この時俺は、ロゼがいいよ。 と言ってくれたように感じた。
『燃えろ! 燃えろ! 火は原初の始まりを示すもの! その火が炎に変わるとき、炎が全てを覆い尽くすだろう!』
ガラにもない詠唱を使って俺はとある魔法を発動した。
『焔魔法!『原初の灯火』!』
ゴオォ! と、知性を持った生き物のような炎が巨魔獣兵器の巨体を包み込んで燃え上がった。
『その焔は、お前を燃やし尽くすまで消えねぇよ。 多分。 うん、多分……』
自身のない言葉で言ったが、事実。 巨魔獣兵器の巨体を縛っていた線だけを燃やして消えてしまった。
『クソ! 火力不足か! 本来の力の半分も出ていない『焔魔法』じゃあ、この程度が限界か』
そもそも、『焔魔法』は火属性の上位でもなんでもなく。 単純に俺が創った固有魔法だ。 この姿になる前であれば、詠唱など必要はなかったが、今は妖狐で魔力も乏しい状態。 今のことも納得できる節は山ほどあった。
『えーっと、こういう時は……逃げるが勝ちだな!』
ささっと、後ろに振り向いて全力で湖に向かって走り出した。
「ヴゥモ〜」
それをあざ笑うかのように、巨魔獣兵器は、そう鳴いた。
『クーソ! なんで、線を焼くだけで終わるんだよ。 カッコつけて詠唱なんてした俺がバカみたいじゃねぇかよ! 湖までかなり距離がある。 それを逃げきれるか?』
そこまで来て、ブルリと悪寒がしとっさに回避行動をとった。
回避を取る前にいた場所を高圧電力が通り過ぎて行った。
『ッブネ! ここで電磁砲を使ってきやがったのか。 めんどくせえな』
ここに来て巨魔獣兵器が電磁砲を連射で放ってきて回避するだけで精一杯になってきた。
「ヴゥゥモォ!」
『クソが! もうそこまで来ていやがんのかよ! 本気が出せるのならば勝てるのに……』
歯嚙みをしながら、一歩一歩と湖へと向かっている。 湖までつくことが出来ればまだ大丈夫だが、ここで戦うことがあるのならば『焔魔法』が通じない以上勝てない。
「ヴゥゥゥゥ!」
俺を見つけた巨魔獣兵器が、唸りながら威嚇をしてきた。
『通じないのはわかっているが、もう一回! 燃えろ! 燃えろ! 火は原初の始まりを示すもの! その火が炎に変わるとき、炎が全てを覆い尽くすだろう!』
先ほどより、気持ち多めに魔力を込めた。
『焔魔法!『原初の灯火』!』
火力不足ではあったが、先ほどよりも若干長めに燃えて消化された。
少しだけ燃えていた? これなら、いけるかもしれないが、一か八かの勝負になるからあまり大きいことは出来ない。
俺は、巨魔獣兵器の攻撃を躱しながら着実に湖に近づいていた。




