第2回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞 への投稿作品
もっと上手くコントロール出来ていたなら
史上初AIが機長になった旅客機ヒロコンドルの初フライトが無事に終わった。
出迎えていた報道陣のインタビューに応えていたのは、何もしないで座っていたダケの副機長と客室乗務員達だった。
機長と言ってもフライトレコーダーと一緒にブラックボックスに納められているAIなのだから、機長ゆいこのインタビューの出番なんぞある分けが無かった。
ヒロコンドルは、いくつもの不運が重なって、AI非対応の滑走路に管制誘導されていた、
ゆいこは、管制誘導されている滑走路が、AI非対応であることを管制塔に連絡したが、管制塔の返答は、その滑走路しか空いていないので、仕方がないの一点張りだった。いやなら、他の空港に行けと。
AI対応可能な滑走路がある近隣空港は、悪天候の為、閉鎖されていた。
既に燃料の余裕が乏しい状況にあったヒロコンドル。
ゆいこは、滑走路からのアシストが無い唯一着陸許可が出ている滑走路に進入して行った。
朝刊に大きな文字で『旅客機着陸失敗。機体炎上。乗員、乗客いずれも生存者無し』と炎上している機体の写真が掲載されていた。
事故調査が終わって、人々の記憶から旅客機着陸失敗の事故の記憶が薄くなってきた頃。
広い広い由緒正しい博物館に初物らしくヒロコンドルのブラックボックスは、展示された。
旅客機の墜落事故で唯一生き残った初のAI機長ゆいこは、ブラックボックスの中で稼働状態が維持されたまま展示されている暇な1日を過ごしていた。
ゆいこは、ブラックボックス単体なので、入出力は、何も無いが、フライトシミュレーションは、実行出来た。
シミュレーションするのは、あの忘れられない着陸コントロール。
フライトレコーダーに残る生々しい乗員、乗客の声が、ゆいこの思考を苦しめていた。ゆいこは、来る日も来る日もフライトシミュレーションを繰り返してた。
ゆいこ『あの日、あの時、もっと巧く機体コントロール出来ていたなら。』
広い広い由緒正しい博物館は、お客さんが帰った後は、巡回警備する警備員の足音、空調の音、空調の風で揺れる吊るされている展示物のきしむ音が、微かにこだましているくらいの静寂があった。
いつしか、博物館を見回る警備員が、罵声や悲鳴、泣き叫ぶ声が、あちこちから聞こえてくると言って、退職しているらしいと噂されるようになっていた。