伝承
俺は…誰だ…
ここは…何処だ…
俺は何故生きている…
生きるとはなんだ…
眠い…
◆◇◆◇◆
暗闇の中、そこは地底の奥深く。
そこで一体の生物が鎮座している。
そいつは動かない。否、動けない。
封印されているからだ。
何故ならそいつは最凶最悪の龍。
世界の調停者であるはずの龍がある時精神に異常をきたし、全てを喰らう暴食の権化と化した者。
暴食の龍は数多を喰らった。
父親である憤怒の炎龍、母親である嫉妬の氷龍に始まり、
怠惰、色欲、強欲を喰らい、果てに始祖の龍である傲慢の龍
さえも喰らった。
調停者の消失は直ぐに世界中に知れ渡り、そして名付けられる。
破壊者、暴食の龍と。
龍とは本来人間の敵う存在ではない。
世界の王、絶対者である。
しかし、人間は長い年月を掛けて最精鋭の討伐隊を組み、討伐しようとした。
結果は凄惨、生き残りは勇者と呼ばれる人間ただ一人。
それ以外の討伐隊は全て暴食龍に喰われた。
その上、討伐は叶わなかった。
聖女と呼ばれる特別な生まれの人間がその命、いや魂までもを犠牲にして尚封印するまでにしか至らなかった。
勇者は最後まで戦い続けた果てに意識を失い、気づいた時には暴食龍だけでなく討伐隊の仲間達も婚約者であった聖女さえも消え去った地で一人取り残されていた。
覚えているのは気を失う直前、聖女が封印の儀を行っていたこと。
そして、圧倒的な暴食龍の力。
勇者の剣技も聖なる力も圧倒的な暴力の前には無に等しかった。
何者をも切り裂く勇者の剣技は暴食龍の鱗に傷つけるだけに留められ、神々に祝福され得た力は、放てど放てど暴食龍に喰われるだけだった。
勇者は失意のままに国へ帰り脅威が去った事と自ら以外の討伐隊の全滅を伝えた。
それから人間は封印の管理を始めた。
何世代にも渡り封印は確かに管理されていた。
しかし、歴史は廃るもの、三千年も過ぎれば世界の脅威は過去のものとなる。
今や封印は誰の管理もされず、暴食龍から溢れる妖気によって封印を核に迷宮が形成されていた。
生まれ出る怪物は外界の比ではなく、その上長年そんな蠱毒のような場所で生き残った奴らには意思さえも宿っているとか。
産みの親である暴食龍の復活を今か今かと待ち望み、今日も新しく生まれ出る兄弟と殺し合いをしている。
復活の日は近い…