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7/19 イチジクの彼


悲しい。悲しい日曜日だ。

やっぱり幸福な後には不幸が来る。

逃げキレない不幸だ、私以外に降り注ぐ絶望だ。

何故彼が死ななければならなかったのだろうか。


昨日は自分の不幸に対する強さを愚かにも顕示した。

今日は他人の不幸を見せつけられた。

正確には彼の死は昨日だったらしいが、今日知った。


私は自分の傷は笑い飛ばせる。

どんな辛いことでも、辛い時ほど間抜けな笑みを浮かべられる。

けれど、他人の痛みを笑うことはできない。


そして、彼の死が次の幸福につながることもない。

皆が悲しみ、友が歌うことをしても慰めることはできなかったかもしれないのだから。


私は昨日、土曜日のことを安息の土曜日などと書いたかもしれない。ポジティブなイメージの死とのたまったかもしれない。


今否定しよう。

そうではない、どんな死も悲しまれ、尊まれなくてはならない。


誰かの希望となった彼は、誰かの言葉で絶望した。私たちは彼に返すことができなかった。

それを後悔するべきなんだ。


私たちは。
















ここからは違う私だ。

時間帯が違うな。

小説だと切り替えの早い情なし人間に見えるが、ここに至るまでに20時間ほど過ぎている。現実と記録の乖離がこの気持ち悪さを産んでると思ってくれ。


今日は不幸な日曜日といったが、それも違った。


人生決めつけてかかるとろくなことはない。これも決めつけかもしれないが。


確かに彼の死は悲しく寂しい出来事以外の何物でもなかった。

けれど、それだけで一日が終わるほど私の人生はモノトーンではなかったらしい。


友人に出かけないかと誘われた。

私はもちろん二つ返事で返したとも。断る理由なんてない。

私は某G駅の傍で1時頃に彼らの到着を待った。前回か前々回くらいに記したMとYではなく、かなり付き合いの長い所謂幼馴染という奴らだ。

今日は私含めて四人も集まったよ。


歌を歌った、サイケデリック、サイバー、クラシック。

色んな歌をみんなで焚火を囲むように歌い合った。そこに悲しみはなくて、全てを夢に変えるような麻酔のような優しさがあった。


大分歌って喉がガラガラ、汗ばんできたころに夕日とともに凪ぐ冷夏の風が心地よかった。


夕食は皆で近くのファミレスに言った。

私が頼んだのはピザだったな。400円程度の物凄く安いピザ。

一人で食べる分には味わっても過ぎ去るうまさしかなかっただろう、でも彼らと一緒に歓談しながら食べたそれはどんな調味料や食材を使っても作れない永遠に残る味となった。


もし最後の晩餐があるとするなら、私は今日とまったく同じピザを頼むことだろう。


その後はふらりふらりと太陽の沈んだ夜の街を探索した。

ゆっくりと路地から現れだす帰宅途中や飲み屋を探すサラリーマンたち。

お疲れ様です、と目で追って私達は線路沿いを歩く。


昔のことを話した。

想いでは美しかった。夜空にかかる夢天の川の如く、朧気であるからこそ美しい。

今は醜い。細部まで見えてしまうから。

それでも私たちは笑顔だった。この今が決して悪いものではないから、思い出に焼けばこの辛ささえも、醜ささえもいずれは棘あるバラのように美しく咲いてくれると信じているから。


私達四人は帰る道がばらばらだ。

夜道に1人1人と別れていく。まるで昨日あった卒業式のように。


最後の一人とは無理をしてまで長くいた。

彼はいつも朗らかで、高笑いはしなくとも一緒に微笑んでくれるいい人だ。

そんな彼でさえも現実はうまくいかないという。私は彼を憐れむことはできなかった。

ただ私も不幸話をした、対人関係がうまくいかないという話、未来の不安や家庭の不安。


私に残っているのは比較した時に相手に安心感をもたらす不幸話だけだから。

私は彼を元気つけたかった。努力が嫌いな私が元気づけたいと思うのはおこがましいかもしれないが、彼がろうそくの火のように簡単に消えてしまうのではないかと不安になった。


今朝見たニュース、彼の訃報。


脳裏の片隅にあったそれが私に衝動を与えたのだろう。


私の無意識の行動が結局彼を元気づけれたのかは分からない。

けど、彼の話は私に生きる活力をくれた。

プラスではなく、マイナスを増やして、私達は不条理のパレードで大合唱だ。


それでもいい。私はまだ明日を生きようと思えたのだから。

最後に彼らに最大の感謝と敬意を。

現実では言えない分ここに書かせてくれ。


親愛なる友よ、君たちのことを良き隣人として心のそこから何にも代えがたいものだと思っている。



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