写像
iには昨日の記憶がない。
眠るとその日あったすべての記憶が消えてしまう。
人はその珍しい体質に興味を持ってiに近寄るが、やがてiから離れていく。
いくら仲良くなっても、いくら親切にしてもそのすべてを忘れてしまう。
iから離れる奴らは善人だ。
悪人はiを利用する。
iに金を貸したと嘘をつき、金を返せというものもいる。
iの恋人だと嘘をつき、体を奪うものもいる。
すべてを忘れてしまうから嘘かほんとか分からない。
分からないのをいいことに、あることないことでっちあげる。
でっちあげても分からない。
iをいくら罵倒しても次の日には“温厚でいい人”になっている。
iにいくら乱暴しても次の日には“そこから救った恩人”になっている。
iの認識によってその人が何者であるかが決定される。
明日はどんな俺になろうかな。