《2》
「アベル。もう一度よく考えるんだ」
ライル兄さんは、厳しい目で僕を見つめて言った。
「これが僕の答えです。覆ることは、もうありません」
自分の意思は、ずっと前から決まっていた。
どれだけ、父さんや、兄さん、姉さんが僕に何を言ったって、変わることはない。
「アベル!」
咎めるような口調と視線を僕に向けるライル兄さんは、きっと僕を、途方もなく愛してくれている。兄さんの隣にいる父さんも。父さんは考える様に目を伏せ、さっきから一言も話していない。
みんな、僕を心配している。
「⋯⋯陸は、確かに危険かもしれない。でも、それは何処だって一緒だと、僕は思うんです。⋯⋯僕は、⋯⋯自分の瞳を信じたい。この瞳で見たものを信じたいんです。お願いです。父さん、ライル兄さん。僕を止めないで下さい」
我儘だと、分かってはいる。
「僕の意思は、変わりません」
こんなに愛してくれてる人達に心配をかけてしまうのだから、僕はいつか、きっと罰を受けることだろう。それでも、僕はただじっと、二人を見つめた。
そんな強情な僕を、父さんは静かに見つめ返す。
ゆっくりと、その口が開いた。
「もう、お前を助けてやることは出来ない」
その言葉の意味を、僕は推し量る事が出来るのだろうか。
「父上‼」
父さんの言葉に、一番に反応したのは僕ではなく、ライル兄さんだった。
驚きと戸惑い、そして少しの怒りの様な、絡み合う複雑な心情を表情に浮かべ、父さんを呼んだライル兄さんは何処か泣きそうにも見えた。
「ライル」
父さんは、そんなライル兄さんを咎める様に、兄の名を呼んだ。
「父上⋯⋯」
納得しきれないまま、けれど兄さんは、それでも父さんの意思を尊重した。
「父さん、僕を許さないで下さい」
何か言いたげな父さんとライル兄さんを残して、僕はそう告げ、ウンディーネを連れてその場から立ち去った。
「アベル⋯⋯」
父さんがどんな気持ちで僕の名を呼んだのか、僕には知る由もなかった。