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《8》


中に入ってしまえば一瞬で、そこには壁のいたる所から生えている宝石の原石達が、僅かに光を宿し幻想的な風景を彩っている。種類は様々な原石達。しかし、グラデーションを作るように種類は違っても、色は同系色で纏まっている。


僕の腕の中に居るウンディーネはその原石達をキラキラとした瞳で見つめていた。


「アベル?」


ふと、更に奥から声をかけられる。徐々に近づくその人影はおそらくシエル兄さんであろう。


「兄さん」


こちらからも声をかけると、シエル兄さんは嬉しそうな声色で答える。口元も笑っていた。


「待ってたよ~。その子は、、ウンディーネ?」


「ああ。先日生まれたばかりなんだ」


問いかけられた言葉にそう答えるとシエル兄さんは満足そうに頷いた。ウンディーネは不思議そうにシエル兄さんを見つめる。


「どうして見えているのか気になる?」


そうウンディーネに問いかけたシエル兄さんに、ウンディーネは驚いたように目を丸くして僕にしがみついた。可愛らしくて思わず笑ってしまう。僕らのその姿を見て、シエル兄さんも笑ったように思えた。


「そんなに驚かれると、なんだか喜ばしいねぇ」


そうして笑うシエル兄さんの瞳は相変わらず " 見えない " 。

それは兄さんが、ではなく、僕らが、だ。顔の鼻から上に巻かれた包帯。それがシエル兄さんの

" 特別な " 瞳を隠していた。けれど隠しているからと言ってシエル兄さんには見えている。兄さんにとって、その包帯は気休めでしかないのだ。余計なものを見ないようにと、僕らの叔父さんが思いを込めてシエル兄さんに渡したもの。それは包帯だけではなく、この洞窟もだ。


「ユリアナ姉さんから聞いたんだ。シエル兄さんが僕に会いたがってるって」


兄さんはじっと僕を見つめる。不思議だ。瞳は僕には見えないのに。しっかりと感じる、兄さんの意思。シエル兄さんの口元にはもう既に笑みは浮かんでいなかった。


「⋯⋯選択だよ、アベル」


「え?」


「人生の選択。どちらか一方しか選択できない。両方を手に入れようなんてことは無理だ。だから、選択。選んでよアベル」


「兄さん、僕は、」


「アベル。忘れるな。自分の立場を」


「⋯⋯⋯」


シエル兄さんの真剣な声色を聞いたのは、一体何年ぶりだろう。いつもの少し軽薄そうな喋りは、すっかり鳴りを潜めてしまっている。兄さんの言葉は僕の心に深く刺さってしまった。シエル兄さんに隠し事なんてできない。兄さんには全てわかってしまう。僕の考えの甘さも兄さんには透けてしまったのだろう。


「⋯⋯蒼き静寂の魔女は何処に居る⋯⋯?」


僕の口から出たその問いかけは、少し震えていたように感じた。


「⋯⋯おいで、アベル」


シエル兄さんは問いかけには答えず僕を呼び、奥へと歩いて行く。僅かに間を開けて僕は一歩を踏み出した。



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