魔皇、父の顔を見せる
剣聖を倒した後も、膨大な魔力が辺りを覆う。
魔皇の怒りが収まっていないのだ。
「魔皇様!!もう剣聖はおりません!!このままでは魔界が崩壊してしまいます!!!どうかお気をお鎮めください!!!」
魔十狼達が全力で魔皇を宥めている時、それは起きた。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!タナタナが怒ったぁぁぁぁぁぁ!!!もう怒らんといてよぅぅぅ!!!うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
魔皇が放つ無尽蔵な魔力が、彼女に恐怖を与えてしまい、ティティアが泣き出してしまったのだ。
その瞬間、魔界全体を覆っていた魔力がピタリと止んだ。
「あぁ!!!ティティア!!!堪忍な!!ほんまに堪忍!!泣かんといてぇなぁ!!もう僕怒ってないから!!なっ?ほんまに!!ごめんなさい!!」
泣きじゃくるティティアを優しく抱きしめ、必死によしよしと頭を撫でる魔皇。
娘同然に可愛がっている子を泣かしてしまったのだ。
魔皇と言えど、娘には勝てないらしい。
「はぁ...魔皇様がやっと落ち着いて下さった」
魔十狼の一人、重界の王 アギダスがほっと胸を撫で下ろした。
彼は魔十狼の序列二位であり、また、魔十狼をまとめる重鎮である。老人のように見えるが、タキシードを纏い、その身にはとてつもない魔力を宿している。場合によってはアイラをも打ち倒す程の実力者である。アイラは魔皇しか見ていない為、他の魔十狼の管理が疎かになるおそれがある為、代わりに司令塔としている。
「魔皇様。我らのためにお怒り下さるのは、大変光栄に存じますが、少々やりすぎでございますよ。大切な貴方様の配下が、友が、世界中におられるのです。御自身の力が、世界を崩壊させることをもっと理解するべきでございます。」
唯一魔皇に口を出せるアギダスが、ここまで言うのだ。タナトスと言えど、反省せざるおえない。
「ごめんなぁ、アギダス。ちょっと怒り過ぎたわ...皆もごめんな、怖がらせてしもて。ティティア、僕反省するから、許してくれへんか?」
ティティアを優しく撫でながら、タナトスが恐る恐る尋ねる。
「うぅ・・・ほんまに?・・・ぐすっ・・・」
「勿論や!!ほんまに反省するから!!!この通りや!!!」
タナトスがティティアに頭を下げた。魔皇ともある彼は、自分の不手際があった際には配下と言えども頭を下げて詫びる。
この性格が、彼は皆から慕われている理由の一つだ。
配下の為に怒り、配下以外にも優しく穏やかに接する。
そんなタナトスを見て、やっとティティアが落ち着いた。
「ぐすっ・・・わかったよ・・・だっきだっきして」
タナトスはそれを聞くと、すぐにティティアを抱き上げた。
「よっしゃ!!可愛い可愛いティティア!!大好きやでぇ!」
タナトスがティティアの頬に自身の頬をすりすりさせる。
タナトスとティティアが仲直りした所を見て、配下は胸をなで下ろしながらも、優しく微笑んでいた。
「タナトス様、先程は我らのためにお怒り下さり、ありがとうございます!!わ、私めを、お、お、俺の、俺の女と言って頂き、わ、わたくしは・・・!!!」
顔を真っ赤にしながらタナトスの目の前で膝から崩れ落ちたアイラ。
「こ、今晩こそ!!!私を!!!だ、だ、抱い」
「はいストップ!!!」
「痛い!!!!」
突然アイラの頭に制裁のチョップが下された。
魔十狼が一人、鮮水の王 アナだ。
彼女は魔十狼の中で、アギダスの次に年上で皆の姉のような存在である。
序列は4位だが、キレた時はアイラでさえも止められないと言われている、優しくも怖いお姉さんである。
その容姿は、黒髪ロングのストレート、碧のドレスを身に纏う美しい長身の女性だ。
アイラも黒髪であり、周りからすれば、姉妹のように思えるだろう。
事実、アイラもアナのことを姉のように慕っている。
「ティティちゃんの前で何を言おうとしてるの!!」
「アナ姉さん、ご、ごめんなさい。タナトス様への愛が暴走してしまい・・・」
「気持ちはわかるけど、子どもの前で言っていいことと悪いことがあるでしょう?」
「・・・面目ない」
「それに、何故あなただけがタナトス様を独り占めしようとしているの?タナトス様は皆のタナトス様よ?自惚れるにも程があるでしょう?」
少しずつ、アナの目が鋭く、言葉に包まれた圧が重くなっていく。
ガクガクと震えるアイラが、必死に頷いている。
とてつもなく怖いのだろう。昔、なにがあったんだろうか。
「さて、あいつらはどうしましょうか」
アギダスが勇者の残りのパーティーに目を向ける。四人共、気を失っている。
「そんなん決まってるやん!」
魔皇タナトスが微笑みながら言った。
「事情聴取ってやつやね」
そして、魔皇直々の聴取が始まる・・・
アナさんは僕の姉をイメージしてます。ちなみに、もっと怖いです。




