魔皇、復讐の時間
オーブの効果が発揮されることもなく、逃げることも許さない。後で「操言」を使って話を聞くとして、まずはこの魔道士だ。
「お前に聞きたいことがいくつもある。魔法使たら一発やさかい後で使うけど、その前に痛い目見てもらうで」
「ふっ・・・魔皇が来ることは想定外だが、まぁ良い。俺の仕事はここまでだ。戦っても勝てぬのは目に見えているからな。ここは退かせてもらう」
ペルーノが自身の指輪を外した瞬間、指輪が粉々に砕け散った。砕けた直後、奴の姿が捻れていく。異空間を渡って逃げるつもりだろう。
こいつは俺の言うことを聞いていなかったんだろうか?
指輪を壊せば、緊急退避用として、「空間避程『ワラ・ウェイ』」の魔法が発動する。
これを使って、用意された異空間に飛べる。そこは魔力が至る所に渦巻いている危険な場所だが、魔力で足場を造り、予め繋がっている出口に逃げることが出来るのだ。一歩踏み外せば、どこかわからない次元や空間に飛ばされるから注意が必要だが。
魔皇が来るということは、魔界の王達も動き出すだろう。そんなことになれば、我々の計画が全て台無しになってしまう。それだけは避けねば。
すぐにあの方達に連絡を・・・
既に異空間に逃げている。後は魔力で足場を造り、進むだけだ。なのに、何故か足が動かない。
足元を見ると、禍々しい漆黒の悪魔のような腕が己の足を掴んでいる。
『言うたやろ。逃がさんて』
空間全体に響くような重い声が聞こえた瞬間、身体がガクンと後ろに下がる。
黒い穴から出てきたその腕が、自身の身体を引き込もうとしている。
「な!?何故だ!?何故ここに干渉出来・・・」
ドサッ!
瞬く間に穴に引き込まれると、そこは先程まで立っていた王子の部屋だ。
「カスが」
奴の身体からとんでもない魔力が溢れてきた。
目視出来る程、強力で重厚な魔力。
魔力に触れられているだけで身体が押し潰されそうになる。
何故こうなった?ここで王と王子を操り、魔族を殺せば良かった。目的はほぼ達成された。
なのに何故こんなとこで・・・
「何でか教えたろか?」
ビクッとペルーノの身体が震える。まぁ、確かに空間の狭間から連れ戻されたのだ。普通驚くだろう。
「どんな魔法でも、使た後に少量の魔力の跡が残る。空間移動魔法を使たら、その道のヒントとして残ってまうや。道への異空間を見つけて、そこを無理やりこじ開けただけや」
次元の狭間でも、空間の狭間でも同じ。残り香があればヒントがある。仮に残り香が無くても、無理矢理こじ開けて魔力で探知した後に引っ張り出すが。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
「黒炎蛇」
呪いの炎がペルーノを焼き尽くす。それは蛇のようにまとわりつき、獲物を逃がさない。
「ぐああああああああああ!!!!!や、やめろ!!やめてくれぇぇぇぇ!!!!」
さっきまでの威勢はどこへやら。魔族に喧嘩を売って、無事でいれるはずがないというのに。
俺は奴の首を掴み、真っ直ぐ見つめる。
「俺の質問に答えたら消したるわ。一つ、オーブはどっから持ってきた?二つ、ヴァンパイアと王達に何をした?三つ、親玉はどこや」
「ぐ、ぁぁ!!は、話せる訳、な、ないだろう!!!ころ、すなら、殺せえ!!!」
「黒炎は死ぬまで消えへんけど、こいつはいたぶるんが好きやからな。そうそう死ねへんで?」
黒炎は、対象の皮膚をゆっくり焼いていく。全身を一気に焼き尽くさず、巻きついたところから少しずつ、対象の皮膚の表層から焼いていく。
「熱いぃぃい!!!わ、わかった!!話すから!!消してくれぇぇぇぇ!!!!」
黒炎を奴の身体から離す。ローブは燃え尽き、全身の至る所が黒く焦げている。生きているのも不思議な程だ。だが。
「お前が殺してきた奴らに、お前は慈悲をやったんか?」
左手の指をパチンと鳴らすと、黒炎は再度奴に猛威をふるう。
「ぐあぁぁぁ!!熱い!!!やめてくれぇぇぇ!!!なんでぇぇぇぇ!!!!」
「死んでった奴は、皆そう言うてたやろ」
「う、うぁ・・・た、たすけ・・・」
その言葉を最後に、奴は灰になった。
「反身」
これは対象の身体のみを元に戻す魔法。魂も戻す「反魂」もあるが、これには時間がかかるし、今は必要ない。何より、これは反魂を願った者にも願われた者にも、悲しい運命を辿らせてしまう為、あまり使わない。どちらも禁術でもあるが、俺は反身はよく使う。人を勝手な都合で殺めた奴には、そんな気を使う必要はないと思うから。
身体の構築そのものを戻すので、もちろん脳も再生する。その脳から必要な情報だけ取り出し、術を解除すればまた灰に戻る。
「操言」
奴の身体がビクンと跳ねるように動き、立ち上がる。術が効いた証拠だ。
「このオーブは何や?どうやって手に入れた?ヴァンパイアや王に何をした?親玉はどこや?」
「・・・オーブは我々が作ったものだ。ヴァンパイアと王達には、このオーブを使った。魔力を奪い、汚染することでこちらの思い通りに動く。我らがリーダーは、ここにはいない。アイセン王国に居られる」
「皆はどうやって治す?」
「オーブを壊せば、魔力内の汚染が止まる。破壊した後、数日もすれば治る」
「リーダーの名は?」
「アシャド様だ」
「ここにお前以外のメンバーはおるか?」
「私だけだ」
「王子がヴァンパイアを殺したことを笑てたのは、お前が指示したからか?」
「そうだ。」
「最後に、何の為にこんなことしたんや?」
「我らのリーダーだけが知ることだ。しかし、言えるとすれば、あの方は魔族を憎んでいる」
「ほうか」
直後、彼の身体は灰に戻った。聞きたいことは聞けた。俺はすぐにオーブを握りつぶした。これで皆、元に戻るだろう。
ドサッと後ろから聞こえた。見ると、王子が倒れていた。オーブの効果が切れたからだろう。
「イザベラ。すまん、お前が殺すべきやったんは魔道士やったらしいわ。王子はあいつからの指示でお前を挑発した。多分お前を傷つける為に、人間を憎ます為にわざと言わせたんやろ」
魔族が憎いだけなら、魔族だけを虐殺すれば良い
。しかし、人間を使ったということは、人間を使えば俺との約束がある為、魔族は簡単に人間を殺めないことを知っていたから。より効率良く消せると踏んだんだろう。また、怨みを持たせることで自分達から目を逸らすことも出来る。
馬鹿ではないらしい。
「いえ、タナトス様の勇姿を見せられました。それだけで、十分でございます。本当に、ありがとうございます」
「・・・俺の友達に、ちょっとでも報いてやれたやろか」
「はい、彼らも喜んでいることでしょう。我らの皇は強く、偉大な方であることをこんな近くで感じる事が出来たのですから。何より、彼らの為に
こんなにも想い、怒って下さったのですから。」
「そうか。せやったらええなぁ」
復讐を一つ果たす。




