魔皇、カロン召喚
タナトス達が王子の元に向かい出した。
一方、牢獄にてタナトス達を捉えようとした衛兵達は、別の空間に放り出された。
「な、なんだここは・・・」
辺りを見回すと、動物、人間、魔物、それらの骨が一面に広がっており、空には紫の雲、空自体も毒沼のようなおぞましい色に塗り替えられている。
目の前には川があった。そこには、小舟にのった様々な種族の者達がいた。
皆、俯いている。
ここはどこだ?・・・?
彼らからすれば、何が何だかわからない。
つい先程まで侵入者の前にいたのに、瞬きをした瞬間に訳の分からない場所に連れてこられているのだから無理もない。
呆然としていると、彼らの目の前に、焦茶色のローブを羽織った骸が現われた。
侵入者が呼んだらしい魔物のような者。
その手には歪な形をした鎌を持っていた。
「こ、こいつは!?さっき侵入者が出した奴だ!
皆、戦闘準備!!」
各々が剣や槍を構え、大盾を持った者は前衛で盾をもって身構えている。タンク役だ。
カロンはそんな彼らを冷たく見下ろしている。
その目は彼らを敵と見なし、いつでも狩る準備が出来ている。
カロンは鎌を大きく振りかぶり、横薙をしようとしている。
しかし、その鎌は衛兵達に到底当たる距離ではなく、宙を切るだけだ。
衛兵達は理解している。そんな無駄なことをする奴などいないことを。彼らはカロンの構えを見た瞬間、散開した。
なかなかのチームワークだ。各々がそれぞれに適した場所取りをしている。
剣や槍を持った者は盾持ちの衛兵の少し後ろの左右に立つ。全員で扇状に散開し、四角を出来るだけ減らすよう心掛けているのがわかる。
ただ、弓を持つ者がいない為、カロンに攻撃を加えることが出来ない。その為、カロンをおびき寄せることが大前提になってしまっている。
剣士が大声で威嚇したりしているが、カロンは全く動く気配がない。
カロンからしてみれば、敵兵がいる場所にわざわざ降りてやる必要もないから、当然である。
そうこうしているうちに、カロンはその鎌で宙を切った。その鎌は何も捉えていない。自分達にも、特に攻撃を加えられた訳でもない。警戒しながら仲間に目をやるが、特に異常はないようだ。
再度カロンに目を向けた時、突然衛兵の1人の胴体が二つに別れた。切られる際の音もなかった為、彼らに聞こえたのは別れた胴体が地面にグシャリと落ちる音。
その音を聞いて、彼らは初めて気付いた。
目の前にいる奴に、全滅させられる可能性があることを。
音も無く死んだ仲間を見つめた後、彼らは呆然とする。
その時間が、彼らに残された最後の生きる時間だった。
カロンは何度も宙を切り、その都度彼らの頭、首、胴体、足が切断されていく。
最後に立っていたのは、タナトスを捕まえようとした衛兵。
真ん中にポツンと残された彼は、手にしていた剣を落としてしまった。もはや握る力はおろか、立ち向かう勇気も覚悟も、彼は失ってしまった。そして理解する。
己の命がここで潰えるという現実を。
男がカロンを見つめた時、彼はあることに気付いた。
カロンの周りを、青くボーッと光る球体が漂っている。それはただ、フワフワとカロンの周りを飛んでいる。その数は八。
・・・なんだ?何故急にあんなものが出てきた。そもそもいつからだ?
彼は仲間の死体を見回す。その死体の数は八。
奇しくも死体と球体の数が一緒だ。偶然な訳がない。死体が出来て、あの球体が出てきた。
あれは、まさか・・・
その答えを見つけてしまった。しかし、今となってはもう遅い。彼らはカロンの作り出す世界におり、死以外逃げ道はない。
そんな彼は、顔に風を感じた。まるで顔を撫でるように局所的な風が己の顔を撫でる。
「・・・・あぁ、そうか」
彼の顔は、横に真っ二つに切断された。
カロンの鎌で切られたものは、運び手たるカロンの命令に従う。風を切れば風が、水を切れば水がうねるように動く。カロンは中空に漂う風を切り、その風を使って彼らを切り裂いた。魔力に包まれたそれらは、敵を傷つける瞬間強烈な斬撃と化す。
水や炎を使えば対象を包み込み、溺れさせたり、焼き尽くすことも可能だ。
彼らは彼らの周りのもの全てを操る、導き手なのだ。
しばらくすると、彼の体から青い球体が浮き出る。その球体は引き寄せられるようにカロンの元へ飛ぶ。
カロンはその球体を、中空で一纏めにした。
ほんの一瞬光った後、それらは激しく燃え上がった。そしてその炎の中から、鎌を持った者が現われる。
焦茶色のローブを纏った骸。
その姿はカロンそのものだった。
カロンに成り果てた彼らに転生という道はない。彼らの魂は、一生カロンとして生き続け、魂を運ぶ任を全うするだけ。
絶望、希望、恐怖など何もなく、ただただ無で有り続ける。
そして、また新たなカロンを作り出す。
カロンには二つ名があった。誰が付けたかも、いつから付けられたかも不明だが、カロンのことを知っている者が、皆口を揃えて言うのだ。
「魂狩人」と。




