凡
冬になり寒くなってきた。
吐く息は白く淀んで昇っていく。
早朝の川からは温度の差のせいで霧が立ち込めていた。
「ふう。寒くなってきたね、ライ」
「うん、寒いね」
当たり前のことを当たり前に話しただけだが、その一言でも少し体が温まる気がした。
学校までは歩きで5分ほどで着く。
そのあいだの会話の場面だった。
「そういえばさ、ライは私が死んだあとどうしたの?」
「え?ああ 、うーんと...」
なんと説明すればいいのだろうか。自殺したなんて言うのは恥でしかない。
「えと...ちょっと交通事故で死んじゃった感じかな」
「あ、そうなんだ。それは運がなかったね」
いや、違う。僕は真実を述べるべきだ。
たとえ時間遅れでも、言わなければならない。嘘を言ってからでも、言い直さなければならない。
その何にも負けない思い、つまり決意で口を動かした。
「...ごめん、さっきのは嘘だよ」
「え?...ああ、そうなんだ...じゃあ、言いづらいだろうけど、本当は?」
「...自殺した」
ネウは、ああ、やっぱりなという顔をしていた。彼女は怒りもしなかったし、泣きもしなかった。
僕はそれから、夕方までネウに口を聞けなかった。
いろんな思いが交錯した。それは家に帰ってからも続いた。
話してよかったのか、嘘を貫けばよかったのか。
僕が悪いのか、彼女が悪くないのか。
もしかしたら、もっといい選択肢があったんじゃないか。
考えるだけ無駄だなんてわかっていた。しかし、考えるのを止めることが出来ない。
「あのさ!」
「うぇ!?」
いきなりネウが話しかけてきたので、変な声が出た。でも今まで押し黙っていたネウは笑ってくれた。
笑いが収まったようで、話を続ける。
「私はね、別に自殺したことは悪いことじゃないと思う」
「なんで?だって自殺だよ?
命を捨てる恥ずべき行為だよ」
「違うよ。それだけあなたが私を大切に思ってくれてたってことでしょ。その私への思いが少し負の方向に傾いちゃっただけだよ」
「そうなのかな」
「そうだったんだよ」
「違うんだ...僕は...僕は...」
僕はその場で泣き崩れた。
僕は「いきたかった」んだ
怒り。不満。怠惰。憧れ。後悔。虚無。
僕はすべてをぶちまけた。
泣いているというよりは叫んでいたかもしれない。自殺したときの吐き気、めまい、頭痛の感覚がぶり返し僕を狂わせた。
もう何もかもわけがわからなくなっても、僕は泣き叫んだ。ネウは何も言わずに僕を抱きしめ、一緒に泣いてくれた。
現実ほど非情なものを、僕は知らない。
僕は、月に狼が吠えるように、空虚に向かって泣いた。