転
僕はまた、あの砂漠にいた。いつもと違うところがあるとすれば、オアシスがあるところだ。意識がはっきりとしない。めまいがする。まだはっきりしない視界の中に誰かがいる。その人はネウとは違って白いワンピースに水色の長い髪、金色の瞳をしていた。
「誰ですか...?」
「私は命をつかさどる神レイル。あなた、降魔ライに話があってきましたの 」
聞いたことのない名前の神様だ。
「レイル様」
「様付けはやめて。気軽にレイルでいいわ」
「じゃあ...レイル、僕はどうなったの?」
「身を投げたあと、地面に落ちる前に死んだわ」
「ショック死ってこと?地面にぶつかってじゃなく?」
「ええ、そうよ。というか、身を投げた人は大体死への恐怖心が原因で死ぬわ。あなただけじゃないのよ」
妙に詳しい。そういうことの専門なのだうか。正直今の状況があまり理解出来ていない。
「それでね、ライ。
あなたはこれからの人生について選べるわ」
「選べる...?」
「ええ。このまま死ぬか、あなたの人生のどこかからやり直すかの二択ではあるけどね。自殺や不毛な死に方をしてしまうのは、この理不尽な世界を作った私たちのせいでもある。神だって責任は取るわ」
「そうなんだ...」
神も案外人と変わらないのかもしれない。
「レイル、ひとつ聞かせて」
「何かしら?」
「僕だけ生き返った場合、ネウはどうなるの?」
「ネウ?...ああ、あなたの双子ね」
固唾を飲む。
「あなたが願うならあの子はあなたの脳内じゃなく、あの子の体を持つことも出来るわよ」
「...!!」
これ以上ない喜びだった。なぜこんなに優しくしてくれるのかは理解出来なかったが、ネウと目の前で話し、ネウと目の前で違う食事を食べ、ネウの温もりを感じることが叶うのだ。
選択肢はひとつしかない。
「レイル、お願い。
僕とネウにもう少しだけ息をさせて。」
「ええ、わかったわ。
それじゃ、行くわよ」
レイルの手元が光る。初めに感じためまいなどはもう感じなかった。だって、ネウにまた会えるのだから。
糸状の光が形を作り、しだいにそれはネウになった。
「また会えたね、ライ!」
「ネウ!」
僕はネウを抱きしめた。
「ちょっと、痛いよ、ライ」
「急にいなくなったネウが悪いんだぞ、もう」
あまりの嬉しさに僕は泣いていた。
ネウも泣いていた。
「レイル、本当にありがとう」
「別にいいのよ、お礼なんて。
これが私たちの仕事よ」
僕達はその場を去った。
「おはよう、ライ」
ネウが僕の前で言う。
夢の中で話をした、かつては僕だったネウが今目の前にいる。
「おはよう、ネウ」
僕は笑顔で言った。
ネウは転校生として僕のクラスに入ってきた。双子が同じクラスにいるのはなんだか不思議な気分だった。
ネウは僕よりも出来がいいので、クラスで早くも人気者になっていた。ちょっと嫉妬した。
4時限目が終わり、昼休みになった。
「ライ、お昼食べよー」
「うん」
僕はお弁当がいつもと違うことに気づいた。
「この弁当、もしかして」
「ああ、それ私が作ったんだよ。
どう?」
卵焼きをほおばる。
「めちゃくちゃ美味い...!!」
「よかった!まずいって言われたらどうしようかと思っちゃった。えへへ」
僕は大切に、味わいながら弁当を食べた。
帰りはネウと一緒に帰った。
「いやー今日も疲れたなー」
「そうね、私は1日中いろんな人から色々聞かれてちょっと怖かったわ」
「あはは、それは転校生だからねぇ、色々も聞かれるさ」
実際ネウはクラスで目立つタイプの存在だ。色々聞かれないわけがないのである。
「ねえ、ライ」
「うん?」
「これからもよろしくね」
「うん、よろしく」
夕焼けの空の下、僕達は手を繋いで帰った。
これからはネウがいる。
家族がいない僕にとって、これ以上ない喜びだった。