第8話 変化と疑問と覚醒者。
第2章スタートです!
ここまで目を通していただきありがとうございます!
初めての収穫祭から1週間が経っていた。
収穫祭から大きく変わった事が3つ。
1つ目。
村を1〜10の区に分けた。
そして区ごとに育てる作物をわけ、様々な種類を作れるようにした。
『じゃがいも』
『玉ねぎ』
『人参』
『そら豆』
『きゃべつ』
現在はこの5種類をそれぞれ2区ずつに割り当て、育てている。
全て春に育てることの出来る野菜だ。
ちなみに『きゃべつ』は宴の際、スキルを行使し大量生産した事で覚えていた。
これからは連作障害対策として、区ごとにどの作物を育てるか役割を決めて、季節や年単位でローテーションしていく事にする。
今はやることが多いので5種類しか育てていないが、余裕ができたら畑を広げる予定である。
2つ目。
フィアとすごく仲良くなった。
『収穫祭』の夜以来、『チサノ』と呼ぶようになり、よく屋敷に遊びにくるようになった。
話し方も彼女本来のものだろうか、かなり砕けている。
まあ元々俺は領主でもなんでもないからむしろタメ語で話してくれた方が楽であった。
そして3つ目。
なぜかシルも俺の事を名前で呼ぶようになった。
……といっても『チサノ様』と言う具合でだが。
『収穫祭』の次の日2人で屋敷に来たのだが、フィアが『チサノ−−』と呼んでいることに気づき、「ずるい! わたしも!!」と言い始めたのだ。
フィアは「シルはだめ!」って言ってたけど、シルが泣きそうになってたので許可を出した。もともと断る理由はないし。
結果、2人と仲良くなったのである。
そして今日も2人は遊びにきている。
「−−そういえばフィア。お前『玉ねぎ』食べて平気なのか?」
「え? なんで?」
「いや、俺の国では犬−−もちろん動物としてのだ−−が玉ねぎ食べると病気になっちゃうんだ」
「へー。私は平気だよ。他の子達もみんな平気みたい」
なるほど。犬と犬人の身体の作りは、どうやら人間のそれに近いのだろうか。
本来、犬が玉ねぎを食べてはいけないというのは『貧血』を起こしてしまうからだ。
簡単にいうと、『玉ねぎ』に含まれている成分が血液の『赤血球』を破壊してしまうのだ。それにより『貧血』を引き起こす、と。
もちろん個体差はあるし、大丈夫な犬もいるらしいが。
俺はこの世界に詳しくないから、獣人たちの生態もよくわかっていない。
色々と気になるところがある。
例えば、犬人の嗅覚は人間よりも良いのか?だ。
だから聞いてみた。
「フィアって嗅覚はどうなんだ?」
「なんかみんな犬ってだけで鼻が利くって思ってるけど、実はそんなでもないの。私に感じ取る事ができるのはせいぜい1mくらいかな。その中で食べ物とか匂いのあるものがいくつかあっても嗅ぎ分けられるくらい」
「ほー」
なるほど。でも十分凄いだろう。俺ら人族は至近距離で嗅ぐ必要があるから。ちなみに本家のお犬様でも嗅ぎ取れるのは2,3mくらいの距離らしい。意外だ。
気になる事はまだある。
「フィアって何の犬の種類なの?」
そう。いわゆるラノベやアニメに出てくる獣人達は大まかな『種類』は分かっているけど、例えば『秋田犬』なのか『コーギー』なのかそこのところが分からない。
まあこの世界と犬の種類が共通か分からないが。
「な、なんなのさっきから? 質問しすぎ」
「ご、ごめんごめん。嫌ならいいんだ……」
「い、嫌じゃないけど……。私たちは遠いご先祖様の血を受け継いでいるんだけど、私の始祖様がどんな種類だったかまでは伝わってないの。だからわからないの。ごめんね?」
なんで謝るんだ。俺が質問しすぎてたのに。ああ上目遣い。これはわざとなのか。どっちでもいいけど近いし可愛いしマーラ様よどうか沈まりたまえ……。
「ねえチサノ様! あれやりたい! 一緒にやろう!」
「ああ、またあれか。シルは好きだなー」
あれというのは『五目並べ』のことだ。
なんであるのかって?
チートスキルで取り寄せたのサッ。
将棋より五目並べの方が覚えやすいと思い造り出したのだが、思いのほかシルがハマってしまった。
ここ最近屋敷にきたらずっとやっている。
「よーし、今日も手加減しないからな!」
−−5分後。
「な、なんで勝てないんだ……俺が持ち出したってのに……」
「チサノ様、もう一度!」
「望むところだ!!」
−−5分後。
「オ、オカシイナー」
「また私の勝ちですね!」
どうやらシアは考える事が得意らしく、最初の1日目以外俺はほぼほぼ負けている。
これだったら将棋とか教えたらかなりの腕になるかもな……。
ちなみにフィアはそこまで好きではないようで、あまり興味を示さなかった。
「そうだ、シル新しいやつを持ってくる。ちょっと待っててくれ。フィアにも何か持ってくるよ」
2人は目をキラキラと輝かせ返事をした。
俺は一応見られないように自室へと戻り『将棋盤』と『駒』を創る。
その足ですぐ屋敷裏へと歩め、畑より少し離れたところで足を止める。
「【種創造】」
手の中には『種』が一つ。
【種植え】
【促進】
まで済ませる。
少し時間がかかったが問題ない。
もともとこれは収穫まで2〜3年かかるのだ。
目の前にそびえる立つ『樹』からいくつか『それ』を取り、部屋へと足を運ぶ。
「2人ともお待たせ」
中に入り、テーブルの上に手持ちの品を置く。
先ほど創り出した『将棋盤』と『駒』。それに紫の小さい粒が密集しているものをだ。
「チサノ、これは何?」
「よくぞ聞いてくれた。これは『ぶどう』という果物だ」
「「ぶどー?」」
次は2人が声を揃える。
「そうだ。この一粒一粒が食べられる」
そういって目の前で食べてみせる。
房から実を一粒ちぎり、口に押し当て実だけを中に放り込む。
「うん! うまい!」
「私も食べて良い?」
「もちろんだ。全部食べていいぞ」
フィアが聞いてくるので促した。
2人とも『ぶどう』に手を伸ばした。
器用に実だけを口に入れ、咀嚼する。
「んっ! 酸っぱい! あ、でも甘い!」
とフィア。
「濃厚な酸味と甘みが口のなかではじけるッ……」
とシル。
コメントはシルの方が上手だな。でも無邪気に食べるフィアも可愛いよ。
その後は2人とも一心不乱にちぎっては食べ、ちぎっては食べている。
『ぶどう』を創ったのは初めてだが、今日のは『デラウェア』という品種だ。
スーパーに行くと小振りの実をたくさん実らせた紫色の『ぶどう』がよく陳列されている。
巨峰も美味しいけど、個人的には『デラウェア』をちまちま食べるのが好きだったな。
ま、創れるの、まだ『デラウェア』しか無かったんだけどね。
ある程度味に慣れたところで次は『将棋』を教える事にする。
「これは、『将棋』という。さっきの『五目並べ』よりもルールが複雑で、打てる手も無限に等しい。かなり難しいがやってみるか?」
「やる!」
シルが即答する。
フィアは興味ないのかひたすら『ぶどう』を食べ続けている。
「じゃあルールを教える」
一通り教え、一局打ってみた。
「うー、これ難しいです……」
さすがにシルでも1局目では難しかったようだ。
今日は何局か打ったが結局俺が全勝だったな。
さすがにまだ負けるわけにはいかない。
この日俺とシルはひたすら対局してたが、フィアは黙ってそれを見ながらずっと『ぶどう』をもきゅもきゅしているだけだった。
帰り際にシルが「『将棋』、しばらく貸してくれませんか!」と頼み込んできたから貸してあげた。
ーーーーーー
ーーーー
ーーー
−−そして1週間後には俺はシルに頭を垂れる事になった……。
−−そしてそれはそう遠くない未来、将棋王と呼ばれる少女の誕生した日であった。
今までは主人公と女の子達に距離がありましたが、収穫祭を経てかなり打ち解けました!
私的に、この子達にはもっと自由に動いてほしいと思ってます(笑)
次話も早めにUP心掛けます!