第7話 収穫祭。そして、変化。
「−−そうだなフィア、まずそこの『男爵芋』を水洗いして、鍋で茹でてくれるか?」
「うん! 任せて!」
「ありがとう」
いつも尻尾をパタパタさせているけど−−可愛いけども−−料理する時とか毛は抜けないのだろうか、と思い聞いてみた。
そしたら少しだけ「むっ」って顔で、「ちょっとは抜けるけど料理にはつけないようにできるのっ!」って怒られた。めんご。
「じゃあちょっと材料を作っ……取ってくるから、ここで待っててくれるか」
「つく……?……うん。分かった!」
厨房を後にし、屋敷の裏手へと急ぐ。
危ない危ない……。この事はまだ内緒だ。いつか言えるといいんだけど……。
隠し事って結構堪えるよなぁ。誠実に生きたいもんだ。
「よし! さて作るとしますかっ!」
−−ここしばらくの間にスキル【園芸品創造】で色々と材料を出し、簡易的な小屋を作り出した。
実はこの【園芸品創造】は以外と利便性が高く、キッチン用品と……なんか酒類も出せるらしい……。
最初見た時は「ばんなそかな……」と呟いてしまったほどだ。こんな古めの言葉を放ってしまうほどに驚きを隠せなかった。
しかし品揃えを見て−−まだ種類は多くはないが−−閃いた。
これはもしや以前頻繁に使用していた、園芸用品を扱う国内最大級のネットスーパー『国◯園』……なのではとないかと……。
知ってる人は知っている。良い子の皆、調べてみてな!
という冗談はおいといて、もし仮説が本当ならとてつもなく凄い事だ。
本来の『国◯園』ならお酒はもちろん、お菓子、お茶、ジュースやらも引っ張ってこれてしまうだろう。
確か中にはなぜかドローンとかもあったはずだ……さすが異世界、さすが神様……ってとこだった。
ただ、『種』や『苗』、『野菜』や『果物』を創り出すことはできないようだし、創り出せるものは著しく限定されているようだけど。
なぜなら《一覧》に全く表示されていないのだ。本来は調味料などもいくつか取り扱いがあるはずだけど、それらも出せないようだ。
まあかなり超限定的な『ネットスーパー』と言ったところだろうか……。まあじゃないと【種創造】の意義がなくなってしまうし。
それでも俺は楽しくなってきていた——。
「オープンステータス!」
「スキル【種創造】! 『大豆』! 『きゅうり』! 『トマト』! 『とうもろこし』! 『茄子』! 『玉ねぎ』! そして……『いちご』!!」
今『創造』できる『種』を全て出す。
「よし、これだけあれば足りるだろう」
「スキル【種植え】! 【促進】! 【収穫】!」
見る見るうちに作物が育っていく。
初めての頃よりレベルが上がっているからかほんとすぐできるな……。
しかも『連作障害』−−同じ土壌で同じ野菜等を続けて栽培すると野菜等が病気にかかりやすくなる−−のことを考えて『輪作』−−連作障害を避ける為に、例えば芋→玉ねぎ→芋のように育てる順番を変える−−をしなくても
なにも問題ないのが素晴らしい。まさにチートだ。
しかしながら屋敷裏の畑はあまり広げていないから、この作業を何度もしなければならないのがちょい辛いな……。
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「−−スキル【種植え】………………っし、これで終わりっと−−」
「よーし、あとはこれを運んで冷やしたり茹でたり炒めたりスープにしたりするだけだな。うん結構大変!」
膨大な作業量に頭を痛くする。
そしてすぐさまフィアを呼びにいく——。
「——おーいフィアー」
「はーいー?」
「野菜達を運ぶの手伝ってくれー。めちゃめちゃ多くてなー」
「うん! こっちも全部茹で終わったから大丈夫!」
さきほどまで土の付いたじゃがいも達が鍋の中でホクホクと湯気を立てている。
うん。うまそうだ。
「じゃあついてきてくれ」
「うん!」
トコトコと少し後ろをついてくる。
敷地裏へと向かっていると、横に並んでくる。
「あの、サカモト様の、な、名前はなんて……いうの?」
「あれ、言った事なかったっけ? チサノだよ」
「チサノ……チサノ……チサノ……」
「名前がどうかした? って聞いてるか?」
「え、あ、うん! 聞いてる聞いてる! 何の為にこのおっきな耳がついてると思ってるの!」
なんか逆切れされた。うんごめん。でもな、こういうのは耳が大きいとか関係ないと思うぞ。
まいいか。あんまり突っ込むと嫌われるし。初対面の時もただでさえ印象良くなかったんだし……自分で言ってて悲しい。
『茹でイモ』を食べさせて、村を良くするって言ってからは少し仲良くなった気はするけど、多分村の為だろうし……。
とか話しているうちに畑に到着する。
「ちょっと量が多いから、何回かにわけて持っていこう」
「なにこれ……これ全部……?」
茶色の四角い『箱』にパンパンに入っているそれらを見て驚愕の表情を浮かべている。
先ほど【園芸用品創造】で『段ボール』を大量にだし、そこに詰めたのだ。
「見た事無い野菜が一杯!」
と驚きもするし、
「あっ、いちごもある!」
と嬉々としている様子が伺える。
「こんなにたくさん……いつの間に……?」
この質問にはあまり答えたくないので忍の如き素早さで段ボールを抱え歩き出す。
「さーいくぞー!」
「あっ、待って」
フィアも段ボールを持ってついてくる−−
「−−はーー! 疲れたー! フィアも疲れたろ?」
「だ、大丈夫! 私これでも結構力持ちなんだから!」
そういいながら肩で息をしているけどな。
「こんな重たいもの持たせちゃってごめんな。ご苦労だった」
フィアは大丈夫と言わんばかりに、ぶんぶんと首を横に振る。
「一休みしよう。フィア、『いちご』食べ−−」
「食べる!!」
言い切らないうちに答えるなんて、いつの間に成長したのこの子。
「じゃあそこからいくつか食べて良いよ」
「あ、ありがとう!」
お礼を言うと、『いちご』を食べ始める。
いつも美味しそうに食べるから、ついついあげたくっちゃうんだよな。
犬みたい。って犬なのか。
「食べ過ぎると、『祭り』で食べられなくなるからね」
「あっ! そうだった。こ、これで辞めようかな」
「また食べさせてあげるから大丈夫だよ」
何個食べたかは分からないがまだまだ物足りないようだ。
しかしここは我慢してもらうしか無い。準備も残ってるしな。
「よし、じゃあ料理始めるか!」
「うん!」
——ここからはめちゃくちゃ頑張った。
ヤン爺からあらかじめ貰っていた魚や肉の下ごしらえをし、簡単な作業——茹でたり、皮むき——はフィアに任せ、俺は炒め物や味付け等を担当した。
品数は決して多くないが、
『茹でイモ』
『「猪肉」と「玉ねぎ」「茄子」の炒め物』
『冷やしトマト』
『「きゅうり」「とまと」「玉ねぎ」のサラダ』
『「じゃがいも」と「なす」のスープ』
『ゆでとうもろこし』
『枝豆』
『焼き魚』
そしてデザートの『いちご』
これらを手元の材料全てを使い、大量に量産した。
正直、2人でこれは死ぬ。今度はもっと手伝ってもらわないと……。
ちなみに意外と知らない人も多いが『枝豆』は『大豆』を成長過程の未熟な時に収穫したものである。
『枝豆』の状態で収穫せずにしっかり成長させれば皆の良く知る『大豆』になるのだ。
「は〜、どれもこれも美味しそう……」
フィアは作りながらも恍惚な顔で料理を見ていた。
「フィア、これは皆で食べるんだからな。まだだめだぞ」
「わ、わかってる……」
その様は完全に、ご飯の前に『待て』をされている犬だ。
※※※
とにかくでかい鍋に料理を入れ、村の開けた所へ運ぶ。
途中村人に遭遇したので一緒に運んでもらった。
『男爵芋』の収穫を終えた村人達が続々と集まってくる。
ちらほらと「良い香り……」やら料理の香りに当てられている村人を見かけるが、気持ちはわかる。俺も食べたい。
日も暮れ、だいぶ暗くなってきたので、広場の真ん中には薪を集め、所謂『キャンプファイヤー』を作る。
−−よし。
「皆お疲れ! 今日は俺がここに来てから初めての収穫だったと思う! 朝は早いし、疲労も溜まっただろう! 今日はもう満身創痍だろう! これからこんな日々が続くかもしれない! でも、その労力を上回る見返りが返ってくる! 絶対だ! だから今日は約束した通り、みんなの食べた事のないものもたくさん作ってきた! 大変だけどまた皆で作って、皆でごはんを食べよう! 俺たちはみんな家族だ!!!」
歓声や唸り声、指笛の音も聞こえる。
そろそろ良いだろう。
「じゃあみんないいか!! いただきますっ!!——」
『『『『『『いただきます!!!!!!』』』』』』
——皆、両の手のひらを合わせ、声を揃える。
大切な事なので事前に教えておいて良かった。
——ある人は勢いよくかぶりつき。
——ある人は大切に大切に噛み締める。
——ある人は家族や友達と談笑しながら。
今はこれが精一杯。
皆最初の一歩は辛かっただろう。
でもこれからたくさんの『食』に出会い『家族』や『友』と分かち合い生きていくだろう。
その手助けしか出来ないけれど、よそ者の俺だけど、この村の家族になりたい。
誰も死なせたくない。
だから、共に生きていく事をここで誓おう——
ーーーーー
ーーーー
ーー
俺は出来るだけみんなと話をした。
正確に全員回れたかどうかはわからないが話をした。
そして俺は広場の端で1人『枝豆』を貪っていた。
「隣、いい?」
犬人の少女が声をかけてきた。
「サカモト……様。今日は本当にありがとう。こんなに楽しそうな皆を見るのは初めてだった」
「そうか」
「うん……これからもずっとこの村にいてくれるんだよね?」
「ああ」
「もっともっと野菜とか果物の作り方教えてくれる?」
「ああ」
「料理も教えてくれる?」
「ああ」
「それじゃあ、チサノって呼んで良い?」
「ああ」
……。
………。
…………?
「え?」
「だからっ、チサノ、って呼んでもいいですか?」
…………な、何を言ってるんだ……。
そんな……まるで俺の事を好きみたいな……。
「だ、だめ?」
なんだなんだ。上目遣い? 近い近い。やべえ。心臓ばくばくする。死ぬ? 俺死ぬ? 約束守れなくなっちゃう!
「い、いや構わないけど」
「ほんと! やった! ありがとう!」
な、なんか一気に距離が近くなった——心の——気がするけども!!
「じゃあ私シルのとこに戻るね!」
「あ、ああ……」
なにがなんだか分からない。
どういう事だ。
思考停止。
——
「オープンウィンドウ」
「【園芸用品創造】」
ウィンドウを操作する。
その中でも端の方にある『飲料』をタッチし−−
『−−カシュッ!』
今となっては懐かしい、プルタブを押す音が鳴る。
「っぷっはぁ!! あー! ビールうめーーーー!!」
その後横たわるサカモトチサノの周りに、円柱の奇妙な容器が大量に転がっていることを想像するのは難くないだろう−−。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
これで第1章が終わりです。
次から2章に突入しますが、皆々様、これからも是非よろしくお願い致します!